表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能者の非常識な日常  作者: とりもち
第一章・おまけ
13/14

2月19日 早朝


 ~side キョウカ~ 2027年 2月19日



 寒い。なんでこんなに寒いんだ。もう少し仕事をしろよ、太陽。


 ――と、まぁ、現実逃避をしてみたわけだが……そろそろ現実とも向き合わねばなるまい。




「……で? なんでこのクソ寒い早朝に揃いも揃って集合しているんだ?」


「アタシは集合時間を勘違いしてたからですよ?」


「まぁ、相川は分かる。……そっちの2人はなんで居るんだ?」


「そりゃあ御門に悪い印象を持たれたくないし。萌々ちゃんに負けたくなかったし? ……所長も同じことを考えていたとは思いませんでしたけどね(ニヤッ」


「はぁ……何を言っている。お前らがここに来てしまったから私も出てきたんだろうが」




 まだ7時前だ。集合時刻は8時に設定していたというのに、まったく……。


 私が偶然ベランダから外を見た時には3人とも集まっていたのだ。しかも皆月と一之瀬は同じ目的で、しかし互いに知らず、こんな早朝に出張って来てしまったらしい。




「……御門も大変だな」




 私が選んだメンバーとは言え、これはちょっとやり過ぎたかもしれない。

 実はこの3人は過去にある共通点がある。それは御門に救われたことがある、ということだ。御門に感謝、もしくはそれに近い感情を持っている人間がサポートに付いた方がやり易いだろうと思ったのだが……足を引っ張る予感しかしないな。



 相川は偶然だったらしい。暴走した超能力者に襲われかけたところを御門が助けたのだとか。その超能力者は薬物常習者で、危険人物表ブラックリストにも載っていた。それを御門が覚えていて、追跡したらその現場に鉢合わせたのが真相だ。


 皆月はちょっと特殊だ。別に誰かに襲われたわけでもなければ、事故にあったわけでもない。

 皆月自身の異能力が暴走した時に、それを抑えたのが御門だったのだ。皆月の異能が協力だったために御門も手加減できなかったとボヤいていたが、あれは仕方なかったと思う。まぁそんな経緯があって、皆月はどこか御門に心酔している節がある。


 最後の一之瀬は、これまた特殊な出会いをしていた。3年前にあった『成田空港立て籠もり事件』の当事者だったのだとか。それを言ったら御門もそうなのだが、それは置いておく。

 その事件は、公式では御門の両親と『蛇』の奴らが解決したことになっている。もちろんそれは“公式”であって“真相”ではなく、実際は幼馴染が殴られてキレた御門がテロリスト達の手足を切り落として終わったのだが。しかし御門はその時のことを覚えていないらしい。矛盾するようだが、御門は暴走する異能を制御していたのだろう。



 と、過去に色々あった娘達なのだ。もちろん御門に救われた男もたくさん居るのだが、如何せん今回の任務は年頃の女の護衛だ。あまり異性が多いと家族も本人も納得しないと思われる。




「というか皆月は御門のことが好きなのか?」


「うーん……私にとって御門はアイドルみたいなものなんですよね。だから恋愛感情よりも憧れとか、そういう気持ちの方が多いかなぁ……と思います」


「ふむ、そんなものか」


「萌々ちゃんは違うみたいだけどねぇ?」


「はぅあっ!? ち、違くないです!」


「本当にぃ? 昨日、入り口でガッチガチに緊張してたけど、あれはどうしてだったのかなぁ……?」


「へぅっ!? ななななんでそれを……!?」


「あぁ、済まん、私が監視カメラの映像を見せた」


「なにしてくれてるんですかっ!?」




 一之瀬がうるさい、近所迷惑だ。

 しかしそうか。一之瀬は憎からず想っているということか。……ふむ。




「所長? どしたんですか、難しい顔して」


「い、いや? 別になんでもないぞ?」


「? 何かあるならアタシに話してくださいね」


「あ、あぁ、その時は頼む」




 私だって御門のことは嫌いじゃない。だけどそれは恋愛感情ではない……はずだ。そもそも私とあいつでは年が離れ過ぎているだろう。片や15、片や30目前のおばさんだ。あいつから見ても私は恋愛対象ではないと思う。


 はぁ……どこかに良い男は居ないものだろうか。こんなガサツ女を拾ってくれる奇特な人間がそう居るわけではないと思うが……私が女らしい格好をしても壊滅的なまでに似合わないしな……。独り身に甘んじる他ないか。


 本当にどうでもいい蛇足だが、実は御門の母親、もみじさんに「家の息子とかどうですか?」と一度勧められたことがある。もちろん断らせてもらった。


 心の中で御門も大変だなと思ったのは秘密だ。椛さんを怒らせるのは私でも怖い。




「む! 私の方が知ってるよ!」


「さ、さすがにそれは譲れません……!」




 ふと顔を上げると、そこには睨み合う皆月と一之瀬が。おいおい、任務前に喧嘩とかやめてくれ。




「ちょっと待て。何を言い争っている?」


「どっちが御門のことを知っているか、です」


「は?」


「どっちが御門のことを知っているか、です」


「2回も言わなくていい」


「どっちが御門のことを知っているか、です」


「うん、そろそろ黙ろうか」




 大事な事だから3回言ったのだろうか。そこは2回で終わらせるべきだ。


 ……いやそうではなくて。




「そんなことで騒ぐな。比べても仕方のないことだろうに」


「第一回! 御門をどれだけ理解しているかっ!? 選手権!!」


「騒ぐなと今言ったよな!?」


「み、御門さんは、実は甘いモノが好きではありません」


「嘘でしょっ!?」


「なんだと!?」




 つい最近、とても甘いモノをあげた記憶があるのだが。


 ……いや、だからそうではなくて。なんで私まで参加しているんだ。




「ふ、ふふふ……皆さんは御門さんのことを何も分かっていなかったようですねぇ?」


「くっ……! まさか萌々ちゃんがここまでの強敵だったなんて!」


「もうやめろ。そろそろ本当に苦情が来るぞ」




 事務所があるマンションの低層階には一般住民も住んでいるのだ。マンションの前でこんなに騒いでいたら騒音の苦情が来てしまう。オーナーがうるさいとか私でも恥ずかし過ぎるぞ。




「アタシはカカオ90%のビターチョコだったから問題ないかな。その場で食べてくれたし」


「嘘でしょっ!?」


「なんだと!?」




 あいつはゆっくり食べたいと言って持ち帰るのが常だ。それは、まさか……




「食べてはいるだろうけど、相当難儀してるんじゃない? 毎年この時期になると御門からコーヒーの匂いがするようになるし……ブラックで流し込んでるとか?」




 捨ててはいないだろうという部分に喜びたかったが、相川の推測に落ち込む私と皆月。たしかに最近は御門からコーヒーの香りが微かに漂ってくるのだ。それが甘いモノ嫌いに繋がっていたとは考えもしなかった。




「うぅ……私なんか渡せもしなかったんですよ? 皆さんは渡せただけいいじゃないですか……」


「……? 一之瀬は14日に来なかったのか?」


「擦れ違ったんですぅ!!」


「それは、その……ご愁傷様?」




 そこからはナントカ選手権も忘れて、ただひたすらお互いを慰め合う憐れな女子会(?)になってしまった。……いや、相川が私達3人を慰める会だったかもしれない。




 ○ ● ○ ● ○





「知ってるよアホ!」




 その声で気が付いた。御門がかなり近くまで来ていたのだ。

 咄嗟に不毛な慰め合いを終わらせる私達。相川だけは安堵の溜息を吐く。その顔を見ると、まるで徹夜でもしたかのように疲れを滲ませていた。……済まん、相川。




「ん、来たか」


「俺が最後でしたか。なんかすいません」


「いいのいいの。むしろこっちが早すぎたくらいだからねぇ」


「……まだ時間の30分も前だしな」




 その通りだ。ぐうの音も出ない。

 3人を部屋に入れることが出来れば良かったのだが、事務所の入口は防犯のために10時以降でないと開かないようになっていて無理だった。もちろん私も、出ることは出来ても入ることは出来ない。




「なはは……まぁ、いいじゃないの。別に御門を除け者にした訳じゃないから、さ」


「そうなのか? …どちらにしろ、そこまで気にはしてないけどな」




 御門は確実に相川の様子を怪しんでいた。まぁ、それも仕方ない。言動は軽いがしっかりしているのが相川であり、体調管理くらい完璧なはずなのだ。


 その相川が疲れた表情をしている。……済まん、本当に済まん。



 その後、3人はバカなことを始めたので、御門と2人で待ち合わせ場所であるマンションへと向かった。ちょっと役得だと思ったのはここだけの秘密だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ