降臨
ブックマークして頂けた数がまた増えました!みなさんありがとうございますありがとうございますありがとうございます!
「うわーまた死体だよ。ったく何体目だか……」
栗色の髪を後ろで纏めた頭をポリポリと掻きつつ、うんざりとした口調で言う女性の背には大きな直剣、そして身体を覆うブレストプレート。見るからに女剣士という出で立ちである。
「仕方無いよ。ここはそういう遺跡だもん、だけどアレやけに綺麗に見えるような……」
腰まで伸びた黒髪をなびかせながら腰に二対の短剣を差した小柄な女性がそれに続く。
「ね、見てきてよ。突っついてゾンビでしたーなんて嫌だもん。ミモザはアンデッドの相手得意でしょ?」
「えぇえ!?」
「ね? お願い!」
「ったく……分かったわよ。あんたもトレジャーハンターの端くれならアンデッド如きに遅れをとるんじゃないわよ」
ミモザと呼ばれた女剣士が剣を構えながら摺り足で死体とおぼしきモノへと近寄って行く。
そこは朽ちた祭壇のような場所だった。
五芒星を象った床の紋様にその各点に置かれた半壊の柱、その紋様の中心に男はいた。
見慣れない装備に身を包んだ冒険者らしき体躯が赤子のように丸まって倒れていたのだ。
そんな男に、ミモザは警戒しながらも色々と不審な点を見出す。
「あれ……? この死体傷が一つも無いじゃない……装備もよく手入れされた状態で顔色も血色が良すぎる……このあ、遺跡の深部にこんな状態で存在出来るワケが無い! ベリーニ! ちょっと来て!」
遠目からミモザの様子を伺っているベリーニと呼ばれた女性はビクリと身体を強張らせる。
「あっアンデッドですか!? すいません、私今歩くと心臓が止まりかける持病が」
「うるさい早く来い」
「ぴゃい」
ミモザが低い声で静かに言うと、ベリーニも諦めたらしく、涙目になりながら近づいてくる。
腰は思い切り引けているが。
「あんたさぁ……そんなんでよくこの遺跡に来ようと思ったね……トレジャーハンターが聞いて呆れるわよ」
「だ、だって駆け出しのハンターが手っ取り早くお宝見つけて手柄を立てるならこの【囚われし堕天龍姫の懐】が一番いいってハンターの先輩から……」
「あー……あんたさぁ、それ完全に騙されてるわよ? ここまで来る間に中身のある宝箱が一つでもあった? 第一この祭壇なんてまだ第10層……トラップやら魔物やらで駆け出しの連中がここに来るだけでも難関なのよ? 最下層は100層オーバー超難関の遺跡に残る宝を得るまで駆け出しハンターが生きていられると? 運良くここまで来れたのはいいけど治療薬も回復剤も止血剤もゼロ。それでどうやって駆け出しハンターが手柄を立てるの?」
「そ、それはデカイ宝を見つけて……てゆーか駆け出し駆け出し言わないでよう……」
「大事な事だから3回言ったの! ここで見つけたのはこの不自然な男だけよ! こいつを突けばお宝が降って湧くとでも?!」
「ジャンプさせれば小銭くらいは!」
「それはただのカツアゲでしょうに……もういいわよ。どーすんのコレ、刺す? 殴る? 優しく揺する?」
「殴ろう! 見るからに怪しい奴! 魔物の類かもしれないもんね! いくよ! 覚悟しろおおおおお!」
ベリーニが拳を振り下ろし顔面を撃ち抜く瞬間、男の口が開く。
「ん、んん……そこは……ダメだって……」
「んっぴいい!」
彼女は振り下ろした拳の軌道を無理矢理捻じ曲げて海老の如く後ろに高速移動し、先ほどと同じ場所まで下がりカタカタと膝を笑わせていた。
「で、結局私なワケね」
やれやれ、と肩を竦め口を開いた男の頬をぺちぺちと叩く。
「ほれ、起きなさい。こんな所で寝てる理由を教えなさい、むしろ教えなきゃ逃がさないわよほら起きて早く起きろいつまで寝てんだスカタン」
ぺちぺちがベチベチに変わりベチベチがガクンガクンになっても男はちいとも起きやしない。
あまつさえ「童貞……ちゃうわ……」などと述べており彼の襟首を掴んでいたミモザの拳がプルプルと小刻みに振動を始めた。
「人をおちょくるのもいい加減にしろよこの腐れ童貞のインキンタムシのチ○カス野郎」
男を手前に引き寄せ、ガツン、と額同士が音を上げる。
唇まであと僅か、という所まで顔を近づけるミモザのコメカミには青筋が浮かび、もう限界など超えていた事がありありと解る。
「どっどどど童貞ちゃう……わ……って……え、えみり……なんでここに、いやそもそもここは何処なんだ……? うぅ……頭が痛い……」
「えみりー? 私はミモザよ、エミリーなんて貴族みたいな名前じゃないわ。それよりもやっと起きたわね、どんだけ寝起き悪いのよ」
ミモザは「はぁ」と小さく溜息をつき、男を解放する。
当の本人は状況の把握が出来ておらず記憶の混濁も予想される。
頭を強く打ったのかと首を傾げるミモザに男は告げた。
「俺は朱沢龍斗だ。ここは何処だ? アンタは誰だ? ついでにあそこにいる女の子も」
女神達が引き起こした何かしらの事態により命を散らした朱沢龍斗は、こうして異世界に降り立ったのだった。
ようやっと異世界に降臨せしめた我らが朱沢龍斗、どうなる朱沢、どうなる龍斗!