堂々巡り
「あー! スコッチどこ行くのー!」
「試したい事があってな、ちょいと一仕事してもらいにいったんだ」
突然走り去ってしまったスコッチに戸惑いを見せるベリーニとメンバー達。
何の説明も無しだったのは申し訳ないが、シュートと馬鹿2人が気掛かりだった。
ぶっちゃけた話、オルトロスがどうなろうと知った事では無いがシュートは別だ。
「擬態苔っつーのは具体的にどんな魔物なんだ?」
「ん? そのままさね。周囲の物や他の動植物に似せて色や姿形を変えるんだよ」
「んで油断した所に襲いかかるのか?」
「んー……襲いかかるんじゃなくて侵食するって感じだよ、気付かない所からジワジワと神経を犯して麻痺させ溶かすように食らっていくのさ。痛覚も麻痺するのが唯一の救いかも知れないね」
「そ、それは怖いな……」
なら尚更急がなければならないだろう。
仲間の1人を失うかもしれない、と天馬のメンバーには不安の色が濃く浮かんでいる。
俺の予想が正しければもうすぐ――。
「あれは……一体どういう事だ……」
天井を見上げていたドロテアが驚嘆の声を上げる。
同じく上を向いていた面々も目を白黒させてその光景を見つめている。
「ど、どうしてスコッチが天井にいるの?!」
「おーいスコッチー聞こえるか?」
そう、来た道を戻っていったスコッチは何故か進行方向から走って来たのだ。
正確に言えば天井の横の壁、そこに立つ形でスコッチはキョロキョロと周りを見回していた。
何度か呼びかけるがこちらの声は届いていないらしい。
「これではっきりしたな」
「何がよ。私にはさっぱり分からないのだからちゃんと説明して欲しいわ」
腰に手を当てて憮然とした口調でミモザが詰め寄ってくる。
困惑しているのは分かるがちょっと顔が近い。
「簡単に言うとこの通路の空間が捩じれてるんだ、結界か幻覚か、はたまた全く別の原因なのか分からないけどな」
「どうしてそんな事が言えるのよ」
「どうしてもこうしても目の前でスコッチが重力を無視した格好で立ってるんだぞ? それにこっちの声も聞こえず恐らく姿も認識していない」
「じゃあこっちからスコッチが見えるのはどういう事なのよ」
「知らん」
「あのね……、自信満々に言い切っておいてそりゃ無いでしょうよ……」
「分からないがやる事はやるつもりだ」
詰め寄るミモザを手で制しつつ頭上のスコッチに視線を動かす。
俺の仮説はこうだ。
おそらくこの擬態苔はダミーで本命は別の所にある。
というよりこの擬態苔は恐らくリオラの知る魔物とは別物だと考えて推論する。
擬態苔(仮)を凍らせた事で苔が持つ能力を弱体化させていると見ていいだろう。
空間が捻じ曲がっているのは幻覚でもなんでも無い、そういう結界に俺達はいると仮定する。
よくRPGのダンジョンであるアレだ。
空間と空間がつぎはぎになっており、抜け出すには原因を見つけ出すか、一定の法則を見つけ出し正しいルートを辿るか、大体そのどちらかだ。
しかし正しいルート系はほぼ無いと思う。
何故ならばここまでほぼ直線であり、曲がった回数は10回未満、来た道を戻っても入口に戻る事が無かった為だ。
こういう系は正しい道を進まなければ入口に戻ってしまうという前提があってこそ成り立つはず。……あくまでゲームの中の話だが。
そうなるとこの結界を張っているのは何なのかを探り出す事が必要であり、それにピッタリな人物がスコッチだという事。
「彼女は何をやっているんだ?」
周囲の壁をしきりに叩き、苔を削ったりして何かを確かめているスコッチを見ながらドロテアが怪訝な顔をしている。
「まぁ、見ててくれよ」
これでいい結果に繋がるとは考えにくいが少なからず、現状から脱する事は出来ると思う。
しばらくしてスコッチは壁の一部に掌を当て、ぐっと押し込む動作を見せた。
そこは丁度、凍った苔の始点と今俺達のいる終点の境目ぐらいの場所だった。
「わっ! いきなり壁がへこみだしたよ!?」
「ふぇぇ! どういう事ですかぁ!」
ベリーニとミランジェの言葉通りゴリゴリ、と壁の一部が鈍い音を立てながら陥没していく。
頭上にいるスコッチが違う場所を押し込むとまたこちらでも壁が動く。
なんとも不気味な光景だがどうしてこうなっているのかは見当が付く。
スコッチがいるあの場所とこの場所は同じ場所なのだ。
ただ次元がずれておりお互いを認識出来ないだけだろう。
なぜ、と聞かれても俺にだってわかりゃしない、この世界のぶっとび具合にはもう慣れた。
現実こそ事実! 事実は小説よりも奇なりだ。
へこんだ場所は6つ。
それを辿ると綺麗な6芒星が出来上がり、最後に中心点である部分の壁がゆっくりと沈みこんでいった。
「「「おおおぉぉ~~!」」」
|お気楽3人組(ミランジェ、リオラ、ベリーニ)が声を揃えてゴリゴリと沈んでいく壁を食い入るように見つめている。
ふと、見上げるとスコッチが6芒星の中心を覗き込み、周りをあれこれいじっている姿が見えた。
なんとなく見つめていると、立ち上がって首をかしげたスコッチが拳をニギニギし始めた。
何をしているのだろう、と疑問に思った刹那、発破音にも似た轟音を立てて6芒星のあった壁がきれいさっぱり吹き飛んでしまっていた。
「「「「「壊すのかよ!」」」」
壁の破片がパラパラと舞い、突如空いた空間と同じくポカンと口を広げながら見つめていたメンバー全員が突っ込みを入れる。
スコッチはスコッチで、腕を組みうんうんと満足げに頷いている。
誰も壊せなんて言ってないぞ……せっかくの仕掛けが台無しじゃないか。
いやまぁ、道が出来たのだから結果オーライとしておこうか……。
「ねぇねぇ! 奥で何かが光ってるよ!」
「ん?」
「あれは……綺麗な宝玉じゃないのさ……虹色に輝いて素敵じゃないの」
土埃が収まり、空洞の奥が見通せるようになるとベリーニやリオラが言うように、三角形の台座に嵌め込まれた虹色の宝玉がキラキラと輝いているのが見えた。
どうやら6芒星を象った仕掛けはこの部屋を開ける為のスイッチだったらしい。
そしてスコッチは真ん中に空いた仕掛けの穴から中の様子を察し、破壊したといったところだろうな。
大体3m四方ぐらいだろうか、室内も宝玉の輝きで程よく照らされ、ぱっと見た感じ台座以外の設置物は無いようだ。
「ふむ……この部屋は外の空間と切り離されているようですね」
「うわっ! びっくりした! お前いつの間に!?」
「自分で開けた穴に入っただけですが何か?」
「あぁ、そうですか……」
唐突に現れたスコッチに驚きつつ、室内に目を光らせる。
もしかしたら罠があるかも知れない。
「ねーねー! この宝玉取ってもいいかなー?」
大層な獲物をぶら下げておいて、釣られた者が床を踏むとトラップ発動! なんて事もある。
用心するに越したことは無い。
「ちょっと、ドロテア見てよこの壁。ツルツルしていて見た事の無い鉱物で出来ているみたいね……」
「ほぅ、一部削って持って帰れば報酬の一部として貰えるかもしれないな……」
もしかしたらモンスタールームかもしれない。
中ほどまで進んで壁を調べていたら突然入口が消え去り、敵を全滅させなければ外に出られない最悪のトラップ。
某VRMMOの小説でもそんなような部屋があった、読んでいてあれは結構辛かった。
主人公の自惚れが招いたとは言えトラウマになるのも分かる気がする。
「一体どういう仕掛けなんだかねぇ……なんとなーくだけどその宝玉が鍵を握っている気がするよ? アタシの勘がそう言ってる」
「ふむ、興味深いですね。長年生きて来ましたがこういう類の物は初めて見ますね」
「ミラ決めた。この宝玉を砕いて皆のアクセサリーを作るの! こう見えて錬金術も嗜んでいるのだぁ!」
「錬金術ですか。ならそれも手かも知れませんね」
そう、不用意に近づいてはいけないのだ。
気安く触れば床がガパっと開いて奈落の底にまっさかさまかもしれないんだぞ?
そうなったらお終いだ、せっかくリーダーとして選ばれたのにそんな結末なんて俺はお断りだ。
慎重に、慎重にだ。
「ちょっと! リュート聞いてるの!?」
なのに。
「どうしてずっと突っ立ってるのー? お腹痛いの?」
なのにだよ。
「リュート、一体どうしたんだ」
「リュートさぁん?」
「ご主人様?」
「どうしてホイホイ歩き回ってんだよお前らはああああああ!! 危ないとか思わないの?! 罠とかトラップとか落とし穴とかモンスタールームとかさぁ! 何で警戒心0なわけ!? すっごい考えた! 俺、危険思った! なのに君達自由行動! なぜ! ホワイ!?」
柄にも無くつい大きな声で叫んでしまった。
ホントすっごい心配したんだからねっ!
あれ、どうして皆無言なの?
何故に皆で俺を凝視しているの?
もしかして俺変な事言った?
「う、迂闊でした……私とした事が……」
「うう、ごめんねリュート」
「何故だ……いつもはキチンと確認してから行動するのに……」
「心配しすぎさね。もし罠で死に掛けてもちゃんと治してあげるよ? 身も心もねぇ? ふふふ……」
「つい輝きに目が眩んじゃってぇ……ほら光物って女子力くすぐるじゃない? だからぁ……」
「悪かったわ」
はじめに口を開いたのはスコッチだった、
ベリーニもドロテアも信じられない、と目を開いている。
リオラはもう訳わかんないからほっとこう、治せるからってちょっとアブノーマルなんじゃないのこのお姉さん。
女子力ってなんだよ、どこの夜の蝶だよ、むしろ蛾だよ、電柱の明かりに群がるあれだよ。
ミモザなんてむくれちゃったよ、なんなんだよもう。
「いいよ……結局何も無かったんだし。で、どうなんだ? 何か分かったのか?」
「リュートは拗ねてもいい男だって事かねぇ? 涎出ちゃうじゃないのさフフフ……」
「そうじゃなくてだな……そればっかだなお前! 脳内ずっとピンク色かよ! ってベリーニなんで宝玉触ってんの」
「え? あ、ほんとだー……え、えへへ……」
その瞬間だった。
カシャン! というガラスの割れるような音が室内に響き俺は眩暈のような感覚に襲われた。
みろ……言わんこっちゃ無い。
メンバー全員が頭を抑え、よろよろとふらついている。
この眩暈らしきものは共通に起こっているらしい。
だが数秒後、グラグラとする視界は通常に戻り、先ほどとなんら変わらない光景が広がっていた。
「ん……なんなの……今の……」
「さぁ、な……、あれ、宝玉が……」
ベリーニの手が乗っていた宝玉は虹色の輝きを失い、今やただの透明な水晶と化していた。
「おい! 見ろ! 通路だ!」
ドロテアが俺達の背後を指差し、声を荒げる。
見れば俺達がくぐった壁の穴も消え去り、穴があった場所からは暗い通路が延びており、延長線上からは光が差している。
「どうやら、やっぱり宝玉が鍵だったみたいだねぇ? さすがアタシってとこかなぁ」
「ふん。たまたまだ。ラッキーガールめ」
「タマタマだって?!」
「ピンク系から離れろよお前は!」
「リオラもいい加減にしないか。遊んでないで進むぞ。シュートが心配だ」
「はいはい、わかりましたよーう」
「さすがお師匠様ですぅ言葉の節々からアダルティな会話に繋げるその手腕、一朝一夕では辿り着く事困難な事この上ありませんねぇ!」
「いつからアタシゃミラの師匠になったのさ!」
「た、タマタマ……リュートの……金の……」
「おいミモザ! 変な想像してんじゃねぇよ! さっさと来い!」
「あははー! ミモザ顔赤くなってるよー! ウブだねぇ!」
何故か下世話な話に流れ、光の差す場所を目指して輝きを失った宝玉の間を後にしたのだった。




