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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
第2章  今日から俺は
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黎明を翔るオルトロス

 広場に集まった100名のハンター達。

 その顔ぶれの大半は未だ青い顔をしており、体調は万全余裕綽々というわけでは無かった。


「あ~その……なんだ……」

 

 その面々を見渡し、ヤクザゴリラであるダグラスが頭を指でポリポリ掻きながらバツの悪そうな声を出している。

 

「とりあえず……すまなかった。ここまで砂漠用高速騎乗獣シロッコに乗り慣れていないハンターが多いとは思わなんだ」


 話を聞くと、どうやらダグラスがこの100人隊のリーダーで、ついいつもの様にシロッコをかっとばしてしまったのだと言う。

 メンバー管理もきちんとしていたのだが、「乗っているうちに風が俺を呼んでな」などと意味の分からない事を言っており傍らに控える剣士らしき女性ハンターにどつかれている。


 女性の名はミリオン、青みがかった髪は肩で切りそろえられ、体の線は細く、腰に挿している剣の形状から刺突を主体にしたスタイルである事が伺える。

 彼女はダグラスの補佐的な役割であり、長年パーティを組んでいるおせっかいオバサンなのだそうだ。


 もちろんオバサンの所でまたどつかれていたが。


 目的の風穴【打ち捨てられし暴虐の回廊】はここからもうしばらく進んだ場所にある。

 通り道である砂丘は比較的強い魔物が徘徊していたのだが、ここ最近魔物の目撃例は0に等しく安全に進めるそうだ。

 ちなみに何故魔物達が消えたのかは分かっていない。


 ダグラスの話が終わり、最終的なパーティ分けが行われる。

 100人のパーティは10人前後で10班の構成となる。

 分岐で少しずつ別れて進んでいくのだそうで、パーティリーダーの指示には絶対に従えとのお達しだ。

 やばくなったら逃げてもいいと言われていたが指揮系統はしっかりしておかないと駄目らしい。


 それぞれのリーダーにはAAダブルエーランカー、Aランカー、BBダブルビーランカーが配置されると言うのだから下手な事にはならないだろう。

 

 パーティを組み終わった面々が自己紹介や装備、魔法の有無、等をメンバーに申告している。

 さて、俺達は一体どんな人達と協力する事になるのだろうか。


「よし、次で最後だな。えー……闇に抱かれし黎明、鈍き迅雷のオルトロス、空を翔る天馬。以上だ」

 

 あれ、そういえば俺達のパーティ名ってなんだっけ。

 それにしても鈍き迅雷のオルトロスってどっかで聞いた事があるような。

 

「あ、はいはーい。闇に抱かれし黎明ですー」


 元気いっぱい、という言葉がぴったりの声をあげたのは我らがベリーニである。

 中二チックなのがファンタジーでは当たり前なのだが若干恥ずかしい。

 黎明って確か夜明けって意味だったよな。


「おう! 俺達が泣く子はさらに泣く鈍き迅雷のオルトロスだぜ!」

「我ら空を翔る天馬一行だ。よろしく頼む」


 集まった面子は俺達4人、オルトロス2人、天馬が4人の丁度10人か。


「ケッ! なんだよ、ガキばっかりじゃねぇか! 俺達の強さにビビッて足手まといになるんじゃねぇぞぉ?」

「ヒヒヒ! 言うなよ兄弟。萎縮しちまってるじゃ……ああ! てっテメェはあの時の!」


 ガタイのいい禿頭の2人が、集まった俺達を舐めまわすように見た後、舐めた事を言っていた時、坊主の1人が俺と目が合い敵意剥き出しで指差して来た。

 

「むー……ガキって言うな! リュートこの失礼なおじさん達知り合い?」


 子供扱いされたのがよほど頭に来たのだろう、ベリーニが唸りながら尋ねる。


 どっかで聞いた事がある名前だと思えば例の路地裏で戦ったチンピラ達じゃないか。


「あぁ、デザートサンドに来た日に少しな……」

「てめぇ! あれで少しとは言ってくれるじゃねぇか! 今すぐ続きだ! ぶっ殺してやる!」


 顔を真っ赤に染めて鼻息荒く言い放つ男だったがどうにも気迫に欠ける。

 周りを見れば恐怖に慄いているわけじゃなく、なんだこのチンピラのおっさんは、といった様子だ。

 

 そりゃそうだよな。

 ガキだなんだと馬鹿にしておきながら、その相手に激昂しているんだからどうしようも無い。

 それにこいつら……。


「まぁまぁ待てよ。そんなに血圧上げると血管切れちまうぜ? それにあんたらさ」

「ケツアツ? ワケわかんねぇ事言ってんじゃねぇぞてめぇ!」

「シロッコから降りた時、一番最初にゲロったヤツだよな」

 

 そう告げた瞬間、2人の顔色がサッと青くなる。


「な、何の事だか分からねえな」


 口でそう言っても態度が如実に自分です、と告げている。

 ここまで明らさまだと逆に笑えてしまう。


 他のメンバーはというと、皆一様に「お前達だったのか!」と侮蔑の視線を投げつけている。


「路地裏でアタシを襲った奴らじゃないさ、アンタ等のおかげで酷い目にあったじゃないの!」

「あ! 貴女は!」


 天馬のメンバーの中からまたしても聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声は冷ややかで軽蔑の色がありありと浮かんでいた。


「久しぶりだねぇ、元気してたかい? やっぱりまた会ったね、リュート」

 

 健康的な褐色の肌に、少し垂れ気味の瞳をした妙に艶っぽい女性、そう、オルトロス達に出会うきっかけとも言える人物、リオラがそこにいた。


「リュート、その人は?」


 少し疲れたような声を出しながらミモザが俺の肩に手をかける。


「あの二人組に絡まれてたからちょっと助けてあげただけさ」

 

 あくまでもクールに、そして爽やかさを加味してミモザの問いに答える。

 

「そう。私はミモザよ、ミモザ・グランシア、よろしくね」

「リオラだよ。リュートには世話になってねぇ……あなた、リュートのコレ?」


 リオラが親指を突き立てて探るような目でミモザを見る。


「ばっ! 馬鹿言わないで! 違うわよ!」

「へぇ、じゃあアタシにも望みはあるって事だね」

「す、好きにしたらいいわ! リュートとはただの仲間で後輩なだけよ」


 何の望みがあるのかは知らないが、顔を真っ赤にして全力で否定されると少し悲しい、対してリオラはニンマリと笑い、唇をペロリと舐める仕草がとても艶っぽい。

 いちいちエロイんだよな、この人。

 歩く15禁みたいな人だ。

 女性経験の無い俺には少し刺激が強く、意図せずして若干前かがみになってしまう。


 しかし何だこの状況。


 オルトロスの二人は目を泳がせて必死に弁解しているし、

 リオラは俺の腕に胸を押し付けながらミモザをからかっているし、

 天馬のメンバーは目が天馬…もとい目が点になっているし、

 ベリーニはオルトロスに「子供じゃないもん!」と食って掛かっているし、

 スコッチは幸せそうな満面の笑みでこっちを見てくるしで協調性の欠片もない。


 果たしてこんなパーティーで風穴を探索する事が出来るのだろうか。


「おら! 最後のパーティー! 顔合わせたらさっさと砂車そりに乗り込め! 出発だぞ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺達の背後からダグラスの怒号が飛んで来た。

 それだけで緩んでいた空気がピンと締まり、俺達はそそくさと指定された砂車そりに乗り込んで行った。




 ***




 砂海へと続く道なき道を12台の砂車そりが激走する。

 そのソリを引くのは運搬能力に優れた魔物であるムスタングだ。


 見た目は角を生やした大きな虎だが、目と足が6つある人間が繁殖に成功した魔畜である。


 たった1頭で約10人を乗せた荷台を軽々と引っ張る強靭な脚力と、ちょっとしたアクシデントでも動じない胆力、むしろ弱い魔物であれば単騎突入して蹴散らしてしまうというのだから驚きだ。

 それだけ聞くと獰猛な魔物では、と思う人々もいるのだが、そちらも万全。

 人間に対してはとてもおおらかで子供の遊び相手すら勤めるという。


 それなんて執事、と初めてムスタングの説明を聞いた俺は思った。

 スコッチ曰く主従関係を理解出来る高い知能があるのだろうという事だ。


 歩く百科事典それがスコッチだ。

 そのうち聞いてないのに「説明しよう!」とか言い出さないかな。


「ったくよぉ。なんで俺らがガキのお守りなんてしなくちゃならねーんだ」


 ムスタングの引く荷台の上で憮然と言い放ったのはオルトロスの片方、名前はダメリオというらしい。

 口を開けば上から目線のこいつのランクはCCダブルシー俺達より1つしか違わないのにこの態度である。


「そういうなよ兄弟。ここは俺達の威光を貸して上手い事使い潰してやろうぜ」


 ケケ、と独特な笑い方をしながらダメリオを諭しているのはダルイージ、本当の兄弟では無いのだが路頭に迷っていたダルイージをダメリオが安宿で一杯奢ったのがきっかけでコンビを組むようになったのだという。


 お知り合いになったきっかけは? と誰かが聞いたワケじゃない。

 自己紹介もかねてお互いの情報交換をしようとなっただけなのだが、こいつらはさっきからずっと2人で話している為、そういうありがたいお話が聞けたのだ。


「使い潰すと息巻くのは勝手だが、独断専行はご遠慮願いたいな」

「あぁ? んだと?」

「あなた方はまだこのパーティーのリーダーでは無い。そこを忘れては困る、と言いたいのだが」


 オルトロスの話を思い切りぶった切ったのは空翔る天馬の1人、燃えるような赤髪をオールバックで固めた三白眼の青年ドロテアだ。

 薄く開いた目から放たれる鋭い眼光、多分この人も目つきが悪くて相手に誤解を与える系の人種なのだろう、若干親近感を感じる。


「まぁまぁ! そんなカリカリしないでさ~仲良くやろうよ、ね?」

 

 ピンクが基調のフリルが付いたドレスっぽい服を着た女性が険悪なムードを和ませようと仲裁に入る。


「私はミランジェ。魔法使いよ、主に土系と火系が得意なの。ミーちゃんて呼んでね」


 つらつらと喋るミランジェは金髪碧眼の少女、見た感じ魔法使いというか魔法少女だな。

 ちなみにこの人も天馬のメンバーだ。


「シュート、弓だ」


 荷台の奥に座っていたねずみ色のローブを着た男性が簡潔に自己紹介をする。

 シュートの方が魔法使いっぽく見える。

 無口な人なんだろう、それ以上喋ろうとせず腕を組んで俯いている。

 この人寝る気か。


 あとは俺に胸元を強調してしなだれ掛かっている女性、リオラが空翔る天馬のメンバーである。

 そんなにぴったりくっついて暑くないのだろうかこの人は。


「ちょっと! そんなにくっつかないでよ!」

「いいじゃないのさ。別に減るもんじゃないんだし?」

「見ていて暑苦しいから言ってるの! ここは砂漠なのよ? 少しは考えたらどうなのよ!」


 キーキーと蝙蝠のようにリオラに食って掛かるミモザ。

 なんだかこの2人妙に敵対しているような感じがする。

 スコッチとベリーニはお互いに寄りかかり合いながら静かに寝息を立てている。


「じゃあ俺達がリーダーだ! 異論は無いな?」

「ある」

「んだと! じゃあ誰かいるのか?!」

「わからん」

「舐めてんのかテメェ!」

 

 ドロテアがオルトロスの言葉をことごとくぶった切っていく。

 確かにオルトロスがリーダーは不服だ、いらんトラブルまで持ち込んで来そうな気がするしな。


「リュート! あんたがやりなよ。そこのハゲにも勝ってるんだしさ」

「誰がハゲだ! これはスキンヘッド! 生えるけど剃ってんの!」

「ちょっ! おおおお俺か!? 無理無理むり! 絶対無理だって!」

「えーそこは男らしくドンと受けて欲しかったよ」

「んな事言ったって……」

 

 指導者的立場だなんて生まれてこの方経験したことが無い。

 リーダーになったら陣形とか連携とかフォーメーションとか、あれ陣形とフォーメーションて一緒か? 駄目だもう既にテンパってきている。

 

「やってもいいんじゃない? 私達よりかは強いし」

「ちょっと! 何言っちゃってんのミモザさん!?」

「おや、意外な所から推薦が出たじゃないか」

「ざけんな! どうして俺達がそんなガキに従わなくちゃならねぇんだ!」

「そんなガキにあっさりボコられたのはどこの誰だっけねぇ?」

「なっ……! ぐぬぬ……」

「それにさ、いざとなればスコッチもいるしさ」

「えぇー……」


 おいおい、完全に俺がリーダーをやる流れが出来上がってるじゃないか!

 天馬のメンバーも無言でこっちを見るなよ!

  

「ま、マジで……?」

「俺は認めねぇ!」

「俺だって認めねぇぞ!」

「くそ……異論無しかよ……」

「「聞けよ!!」」


 ダメリオとダルイージが何か言っているがとりあえず無視だ。

 場の空気を乱すヤツに一々構うのは時間の無駄だしな。


 ぐるりと見回すと、ミモザを含め天馬のメンバーはただ無言で頷いて異論が無い事を認める。

 若干1人と1匹寝ているがまぁいいだろう。


「はい……頑張ります……」


 こうして俺はなし崩し的に、空翔る天馬、オルトロス、黎明の混合パーティーのリーダーに任命されてしまったのであった。

 ホントにどうしたらいいの!

 助けて女神様!


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