懺悔
やっとプロローグ的なのが終わります。
「あれ……ここは……」
三度目の光が薄れていくと、目の前には懐かしい光景が広がっていた。
ザワザワと騒がしい教室、古びた椅子や机、前の授業の内容が残った黒板。
「夢……オチ?」
なんだ、良かった。
誰も死んでいないじゃないか。
今は休み時間かな? 黒板に書かれた数式が日直の手によってするすると消されていくのが見える。
ならば俺のやる事はただ一つ。
大いなる懐である机に突っ伏して甘き眠りを享受するだけである、どうせ話しかけてくるヤツもいないだろ。
あ、勘違いする人も多いのだが別段デブでチビで顔面吹き出物だらけのキモオタだから、と言う訳じゃあ無い。
運動能力が高い俺は体格がゴツい。そして目付きも悪い、尚且つお喋りと言う訳では無い、寡黙でクールな俺カッケーとかでは断じて無いのだ。
まぁ、顔面偏差値はそこまで誇れる数字じゃないのは確かだ、そんな俺をだ。
どうしてクラス全員が見てるんだ?
チラ見どころの話ではない、正面を向いてガン見である。
俺が何かした記憶はまったくない、心当たりとすればあの夢の……。
まさか、な。
唖然とする俺に委員長が歩みより、そっと俺の肩に手を置く。
柔和な笑みを浮かべた彼女としばらく目が合った後、その姿は溶けるように光の粒となり俺の中へと吸い込まれてしまった。
そんな委員長の行動を皮切りに、クラスメイトの姿が一様に光の粒となり次々と吸い込まれては消えてゆく。
「夢じゃ、無かったんだな」
光の残滓がキラキラと舞う教室の姿がグニャリと歪み、次第に灰色の何も無い風景となり二人の女神が姿を現した。
「ぬ。ようやっと起きたか」
「長いようで短い。人生と同じだね」
「あ、あれ……そうか……そういう事か。上手いこと言ったつもりですか女神様」
「ふっふーん」
「ふっふーんでは無いぞ。大して上手く無いのだからあまり驕るでない」
しかしこの二人の関係性はなんなのだろうか、普通神と魔神は敵対しているのがセオリーだろうに。
はたから見ていると姉妹にしか見えない。
ぶつくさ言っている妹のホルンに姉のカーラが注意している、みたいな。
「ぬ。すまんな。話を戻そうか」
「私はまだ終わってないのにー」
「あ、はい。ホルン様少し黙ってくれませんか」
「あー! 龍斗までー!」
「いいのだ。ホルンは元々このような性格でな、話を進めるのが少々難儀な所がある。して見事魂の融合を遂げたようだな、では続ける。鉄車の中に居た人間の魂の龍斗の成長度合いや、元々のポテンシャルが軒並み上昇していると考えれば理解は容易い。なんせ龍斗の肉体もボロボロだったのでなぁ、あの中の肉塊で身体の再構築も行ったのだよ」
「なん……だと……」
「だからねー振り幅が凄い増えるんだよ!? 通常の人間にはありえないくらいにー! 良かったよね! 皆の犠牲の上に成り立つ奇跡……そう、これが戦争なのね……」
「どこで戦争してんだよ! うちのクラスは45人だから俺を含めて45人分伸びるって事かよ……はは……笑える……」
「まぁ身体的に秀でていてもそれを補佐するモノが無ければお主は上手く生きれまい。故に我らから色々と贈り物をしてやろうと思うてな」
「おお! そいつぁありがてぇや! で、えへへ。何を頂けるんでごぜぇやすか?」
「何やら口調が大層変わっているがまぁ良い。私からは武具だな、歴代の魔王や精霊王の武具を与えよう。なに、外面は普通の武具と遜色無い具合に弄ってあるので下手な心配は無用よ。プラスお主の成長度合いによって形状を変えるオマケ付きにしてある」
「それでねー私からはこれだよ! 異空間——異次元かな? いいや、ここにしよう! この空間の一部を君にあげる! もちろん任意で開け閉め出来るしこの場所の特性、時間の概念が無いから生物を入れても大丈夫! でもそのままだと不自然だからバックとかリュックとかそういう入れ物の口を起点に出来るようにしました! 凄いでしょーへへ」
「お、おぉ凄えや……でもそれだけ? 魔法やらなんやらは起きたら使えるとかそういう」
「それは無い。言ったろう? 今のお主は0なのだからいくらでも吸収出来る。魔法というのは概念も必然的についてくる術式、故に初歩から学べば後々応用が効くようになる。なに、記憶喪失でも演じていれば不審にも思われぬ。言ったかも知れぬが身体能力は並の人間比では無いので成長痛に頭を痛めるかも知れぬが……まぁよいか、ほんの少しオマケでオリジナルの魔法を付与しておこう。心に刻め、鍛錬を重ねねば発動する事も叶わん魔法だ、決して驕るなかれとな」
「はぁ……そういう、もんスカね……おい今後半不吉な事言ったろ」
「そういうものだ」
「でもオリジナルの魔法ってのも胸熱な展開だな!」
「ちなみにねー、私とお話ししたい時は町や村や都市部にある教会の祈りの場で念じればおーけーだからね! わからない事だったりアドバイスが欲しかったら教会を探してね!」
「私は結構色んな所でコンタクトが取れる。洞窟の深部であったり遺跡の祭壇だったり瘴気の濃い場所で念じれば対応しよう」
「スルーしやがった……放り出すにしては随分と良くしてくれるんだな。見返りでも」
「無い」
「無いよ」
「……」
随分と 早い返事だな、最後まで言い切る前に返しやがった。
二人揃ってともなれば余計に怪しい。
「なぁ。どうして目、合わせてくれないんだ?」
無い、と素晴らしい反応速度で言い切った割りには目がエライ泳いでいる。
ばっしゃばっしゃと活きのいい魚みたいにあちこちと動く。
「なぁ、こっち見てくれよ」
「あぁ! 大変だ! もう時間が無い! それでは旅立つが良い朱沢龍斗よ! なぁに困った時は我等を頼れ。悪いようにはせん」
「お話沢山聞かせてね! あぁ名残惜しい! 」
「おい! ちょっと! まだ聞きたい事が!」
逃げる様に言葉を濁し、突然時間切れを宣告された。
その言葉通り体の周りにキラキラと光の粒が舞い始める。
異世界に転移するにしてもタイミングが良すぎるだろ!
絶対なんかある! 絶対なんか企んでる! くっそおおおもう声すら出ねえええ!
っておい、何しゃがんでるんだ? え、待ってそれ、その格好ってさ、アレじゃね?
正座をして両の掌と額を地面につけて心からの謝罪の意を伝えるあれ。
ジャパニーズDo☆Ge☆Zaスタイルじゃね?
何で異世界の女神様達がんな事やってんの。
そして彼女等の口から衝撃的な言葉が発せられた。
「「この度は私共の重大な過失によりこの様な事態を引き起こしてしまい! 正直ほんっっっっっとうにすいませんでした!!」」
どっ!
どういう事だてめぇらあああぁぁぁ……
俺は声に成らない叫び声をあげ、その場から霧散していったのだった。
次作からはようやっと異世界参上でござるよ。