閑話 巡る思い
スコッチから忠誠の誓いを立てられたその日の夜。
俺は自室の窓際に置かれたテーブルに腰掛け、窓から見える軒並みと寒々しい夜の砂漠をぼんやり見ながら考え事をしていた。
あれから湖底の洞窟【清浄なる蒼白の巡礼地】を抜けた俺達はどこに寄る事も無く、デザートサンドへ帰還したのだった。
ちなみに気絶していたベリーニはと言うと……。
洞窟から地上へ繋がる湖水へ潜行した際、半ば溺れる形で意識を取り戻した。
取り戻したのは良いものの、パニックになり暴れた事で彼女は結構な水を飲み込んでいたのだが、急いで湖面へ上がった為事なきを得た。
そうなる前に起こせばいいじゃないかと思うだろうが、今回気絶した彼女は自発的な覚醒でないと目を覚まさないレベルまで精神的ダメージを受けたらしく、ビンタしようが瞼を引っ張ろうが起きる気配が無かったのだ。
まったくもってめんどくさい。
今回の探索に至っては貢献度0%に等しい彼女なのだが、街に着くなり率先して洞窟で得たアイテムを依頼書と共にハンター支部へと届けていた。
短時間で最下層まで到達したという事実と複数持ち帰ったアイテムによりランクが上がったと小躍りしていたのだがまぁ何とも他力本願と言うか楽天的と言うか。
お前何もしてないだろ! と突っ込むのは心の中だけに留めて置いた。
「はぁ~~……どうすっかなぁ……」
洞窟内で思った事が未だに頭の中で燻っていた。
豪華な家も金もある。
元の世界では考えられない生活だ。
このまま安穏と過ごすのも悪くないとは思う。
けど、何か違う気がする。
朝起きて、学校に行って、学校が終わったら家に帰ってラノベを読み、ネットに噛り付き、妄想に耽り、寝る。
それが今までの俺の人生だった。
それが生きる事なんだと無意識に思っていた。
けど、何かが違う気がする。
この世界は現実だ、現実に幻想世界だ。
15で成人を迎え、ある者は家督を継ぎ、ある者は未開の地を目指し、ある者は技を磨く。
それに比べ俺はもう18だ。
この世界の知識も無い、生きる術も知らない。
そんな俺に何が出来ると言うのか。
何も出来まい。
何も出来ないのなら出来るようになればいい。
情報弱者なら知識を集めろ。
技を磨け。
準備期間だと思えばいいんだ。
焦る必要は無いのだから。
新しく与えられた第2の人生を惰性で生きるのは止めよう。
俺がここにいる理由を明確にしたい。
燃え上がれ俺の妄想よ。
ふるえるぞ魂!
燃え尽きるほど情熱を!
「ゆ……ゆ……ユニバァァァァァアアアッス!!」
気が付けば俺は両拳を固く握り、プルプル震えながら部屋の中で全力で叫んでいた。
窓を全開にして。
犬らしき遠吠えが窓の外から聞こえてきた。
おそらく俺への返答なんだろう。
昔から言われている有名な言葉がある。
その思いに達するまで、どのような葛藤や苦難が訪れたのかは分からない。
だが今の俺にはその言葉が確実にしっくりくる。
あえて、口に出して宣誓しよう。
この大砂漠に。
この世界に。
そしておれ自身に。
多くの偉人たちが声を揃えて言った。
堅牢な己の砦を死守せんが為に。
それを守る兵の不退転の決意を。
すなわち――
「明日から絶対本気出す……!」
と。