激情の果て
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蟷螂擬きの雷撃が収まり、幾筋もの赤熱した爪痕が僅かに残った雷をバチバチと放出している。
とっさに目を閉じたものの、激しい雷光の眩しさに目がまだチカチカする。
雷撃の攻撃範囲は50mといった所か。
扉に張り付いているベリーニは確認するまでも無く無事だろう。
そうだ! ミモザは?!
「ミモザッ!」
名を呼び咄嗟に周囲を見渡すも彼女の姿は無く、代わりに彼女が居た場所には赤熱し僅かに溶けた大剣が転がっているだけだった。
そんな……。
間に合わなかった……。
あの時、カーディフの最後の一つが反応しミモザと俺を隔てるようにシールドが展開、そのおかげで俺は無事に雷撃を免れた。
だが。
間に合わなかった。
ボスが愉快そうに笑っている。
その声が耳の中で反響し、脳髄をザラザラと撫で回す。
「何が面白いんだテメェ……!」
2度も失ってしまった。
許さない、許せない、絶対に。
沸き上がる激情に意識が歪む。
喉から這い上がる慟哭を押し潰し、ゲラゲラと嗤う蟷螂擬きを睨み付ける。
頭がズキズキと鈍く痛む。
その度にドクドクと身体の血管が鼓動する。
激情は黒く染まり、心を闇へと塗りつぶし、猟奇的な思考が頭を満たす。
すなわち——。
「テメェはぶっ殺す……!」
奥歯を強く噛み締め、眼前の敵を屠る事だけが頭を満たし、視界が赤く染まる。
殺せ、殺してしまえ、大事な者を奪った元凶を叩き潰せ、その為ならば、力を貸してやろう。
そんな声が聞こえた気がした。
「呻け、紫闇宝珠」
俺の呼び掛けでショルダーガードに嵌め込まれた紫色の宝珠が羽虫のような音を立てながら淡く輝き出す。
溜め込んだ魔力を還元するのでは無く放出を選択、淡い紫光が俺の身体を覆ってゆく。
ボスがそれを察知し、反射的に鎌を振り下ろして俺を頭から両断する。
「残念、ハズレだ」
俺の身体を斬り裂いた鎌は勢い良く地面を穿つが、両断した筈の俺の身体は霧のように大気に溶けて消えた。
レヴィンズコアの能力、デルードシャドウ。
蓄積された魔力を周囲に放出、装備者の姿を転写する。
転写された存在は自律的に稼働し、敵を惑わす影となる。
そして頭に浮かんできたある言葉を無意識的に紡ぎ出す。
「大いなる存在よ、全てを与え奪う混沌よ、我の力を吸い、我の力となれ。“グローリーエンチャント”」
言葉を紡いだ瞬間、身体の内側から
外へと衝撃が貫いた。
その衝撃はボスにも到達したらしく、奇怪な笑い声を止め、ギュウ、と小さく鳴いて蟷螂独特の瞳を窄める。
さっきとは違うだろ?
そりゃそうだ、お前はミモザを殺したんだ。
殺意全開だよ。
もっと警戒するべきだと思うぞ?
虫如きが人間舐めんな。
「アアアアアアア!」
魔剣を薙刀形態へ移行させ、刃を地面と平行に滑らせてボスの懐へと走り出す。
先程と同じように両鎌を縦横無尽に振り回し、刃を俺に振り下ろしてくるが、引き裂くのは宝珠の作り出した幻影。
例え俺に刃が肉迫してもその刃はカーディフにより遮られる。
俺はただ貴様を切り刻むだけでいいんだ。
出来るだけ苦痛を味合わせてやるよ。
貴様がした事の重さをその身をもって味わえ。
先ずはテメェのご自慢をへし折ってやる。
左から飛来した刃が強固なカーディフのシールドにより阻まれる。
ガチン! と刃が目前で止まるのと同時に跳躍し、下から滑せた薙刀の刃で逆袈裟に切り上げる。
ヴィラは途中で止まる事無く、ボスの鎌をスッパリと分割した。
蟷螂擬きの鎌はとても柔らかく、豆腐のように切れてしまう。
宙に浮いた俺を仕留めんと残った鎌が下から迫るが、無駄な事。
学習能力が無いのかコイツは、まぁ所詮虫ケラだからな。
俺は嘲るような笑みを浮かべ、落下の勢いと共に振りかぶる事無く鎌の根元から斜めに断ち切る。
断面から緑色の体液が噴き出し、側面に展開したカーディフのシールドをべたりと濡らす。
体液すらもシャットアウトするカーディフに感服しながら着地した。
蟷螂擬きは鎌を失った事が悔しいのか切口が痛むのか、怨嗟の咆哮を上げながら体を捩り激しく暴れていた。
これであの雷撃波も撃てないはず。
後は嬲り殺しにするだけだ。
ボスの鳴き声が響く度に頭がクリアになってゆき、猟奇的な思考が意識を満たしていく。
だが何度目かの咆哮が響いた刹那、先程体液が付着したシールド側から爆発音と煙が発生した。
「何だ?!」
突然の衝撃に戸惑いつつも立ち込める煙の中から抜け出すと、そこには身体の前面に3つの光球を漂わせ、短い鳴き声を上げるボスの姿があった。
よく見ると光球の周囲に青紫色の火花がパチパチと飛び散っている。
あれは魔法か?
どうやら奴は完全に雷属性らしいな。
湖底の遺跡に巣食う雷様って所か。
だがな、テメェが何をしようとどう足掻こうとテメェの死は確定してんだ。
「おらぁ!」
雷撃がシールドを揺らすのも御構い無しに、蟷螂擬きの側面へ走り込みつつそのまま芋虫のような3本の脚を纏めて切断する。
支えが無くなり、バランスを崩して倒れこむ蟷螂擬きの背に飛び乗り刃を思いきり突き立てる。
青白い刀身が弾力のある肉体にズブズブと飲み込まれ、鍔元で停止したのを見届けるとそのまま首元を目指してボスの背中を一文字に切り開いてゆく。
自らの流した血の海に倒れ、息も絶え絶えになった蟷螂擬きの頭に魔剣を突き付ける。
すると、蟷螂疑きは命乞いとも取れる小さな鳴き声をあげ、身を震えさせてこちらを見据える。
「出来るだけ苦痛を堪能させてやりたかったんだがイマイチ勝手分からなくてな。取り敢えずもういいや」
最後まで言い切る前に、刀形態へ戻したヴィラを無造作に振る。
首と頭を結ぶ体節が切り離され、コロコロと転がる頭を踏み潰して一方的な蹂躙は幕を閉じた。
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