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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
砂漠のトレジャーハンター
31/58

刹那の輪舞曲


「ああもう! 行き止まり! これで何回目?!」


 正直私は迷っていた。

 というより始めて来た場所なのだからすんなり行くわけが無いのだけれど。

 脇から飛び出て来たワイヤーラットを前足で潰しつつ、何度通ったかか分からない角を曲がる。


「カクカクカクカク曲がりすぎなんですよ!」


 行く手を阻むストーンゴーレムに身体を回転させ、肥大化させた尻尾で叩き割る。


「あった!」


 走り続ける事数十分、やっと階段を見つけた。

 転がり落ちるように階下へと降り、再び疾走する。


 道中飛び出てくるザコが鬱陶しくて堪らない。

 これだから狭い所は嫌いなのだ。

 壁をブチ抜きたい衝動に駆られるもそれを必死で抑え、右往左往する。


 なんとも情けない話だ。

 だがこの程度の敵しか出て来ないのならばご主人様達も問題無さそうに思えるが、不測の事態は万に一もあってはならない。

 急がなければ。




***




「開かない! 開かないんだよぉ!」

「落ち着け! こっちは大丈夫だから焦らずに!」


 半狂乱になりながら閉塞呪ロックを弄るベリーニを宥めつつ俺は敵の首を切断する。


 大丈夫だと言ったものの、魔物達の数は減らない。

 結構な量を始末しているハズなのだが減らないのだ。

 推測だが、減れば減った分補充されているんだろう。

 チカチカと明滅を繰り返す魔法陣がその推測を色濃くしている。


「ブォォォォ!」


 雄叫びを上げながらハンマーを振り下ろしてくるブルーオーケンの横っ腹をすれ違いざまに薙ぐ。


 その直後ブルーオーケンの死体を踏み越え、ドレッドフルカスが刃こぼれの激しい直剣を大上段に構え飛びかかって来る。


 少し反応が遅れるも、両手でしっかりと保持した魔剣(ヴィラ)の刃でがちりと受け止める。

 ガリガリと耳障りな音を立てて直剣と魔剣(ヴィラ)が押して引いてを繰り返す。


 刃こぼれした刃はまるでノコギリのように禍々しい。

 あれには擦りたくないな。


「“フロストヴァイン”!」


 真横からミモザの放った氷塊がドレッドフルカスの頭部に命中し、鈍い音を立てて粉砕する。


 次々に迫る魔物達とまともに切り結んでは押されるだけなので、俺は初撃必殺を念頭に剣を振り続ける。


 魔物達は総じてインファイトが主体らしく、屍を踏み越え時には屍越しに凶器を繰り出してくる。

 目の前にいた奴の首が飛ぼうが身体が真っ二つになろうが臆する事なく突撃を繰り返す敵に正直苛立ちを覚えていた。


 ああもう鬱陶しい!

 ジメジメと空気が纏わり付く真昼の梅雨みたいな、不快指数200%確定のそんな鬱陶しさ。

 この鬱陶しさを跳ね除けるには?

 除湿? 扇風機?

 ノンノン、これだ!


「荒ぶれ! 物干し竿!」


 俺の呼び掛けに魔剣(ヴィラ)がその姿を変えてゆく。

 柄の縛り糸がばらりとほどけ、音も無く俺の背丈ほどまで伸びて変化を終える。

 全然物干し竿じゃないがちょっと言ってみたかっただけである。

 なんか伸びそうだし。

 ちなみに物干し竿と言うのは洗濯物を干すアレでは無く、佐々木小次郎が愛刀、備前長船長光びぜんおさふねながみつの通称である。


 薙刀へと変化した魔剣(ヴィラ)をヒュンヒュンと回し、左手を腰部に右手は右耳の高さに、柄は軽く胸に添え自然に開き構える、これぞ八相(はっそう)の構え(なり)


 うろ覚えだが石突で敵を牽制、防御しながら攻撃に転じるような構えだった気がする。


 何でそんな事を知っているかと言うと、よく家で長い棒を見つけては棒術の真似事なんかをやっていて、動きをネットで調べたりとかしていた。


 男の子なら1度はやった事があるはずだ。

 そうだろ?


 女の子は……知らない。


俺が斬り倒した数はそれなりに多いのだがそれも気付いたら消えている不思議、どうなってんだ?


「どっせい!」


 金切り声を上げて飛び込む大きなトカゲに、魔剣(ヴィラ)を大きく振り胴を上下に分割する。


「ねぇ、気付いてる?」

「何がだ?」


 背中合わせに位置取っていたミモザが囁く。


「敵の質よ。段々強くなってる」

「そうか?」

「そうよ! 力で押されてまともに刃も合わせられないわ」

「そういえばそんな気も……せい!」


 ヴィラの間合いに入った大きなハチのような飛行体を正面から切断する。

 ミモザの言う事も確かかもしれない、飛行体なんて今まで1度も見なかった。


 ミモザは大剣を構えつつ魔法を交えて戦う方法に切り替えている。

 力で押し切られるというのも比喩じゃなくそのままの意味だったのか。


 ベリーニがあとどれくらいで扉を開けてくれるか分からないが長引くのは危険だと本能が告げている。


 俺は全長250cm程まで伸びた魔剣の柄を握り締め、再度敵の群れを睨みつける。

果たしてこのまま防戦一方でいいのだろうか?

 とある考えを思い付いたのだが果たして俺に実行可能なのか。


「ちょっと行ってくる」

「は? どこへ?! ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」


 俺は迷いを捨て深呼吸を一つし、ぎっ、と奥歯を食いしばって地面を蹴る。

 どうにかしてあの赤い魔法陣を潰せばもしかしたら。


 引き止めるミモザの声を振り切り、魔剣を斜め横に構えて俺は魔物の群れへ走り出した。


 およそ2mのリーチがことごとく敵を屠っていく。

 剣先で、刃全体で、峰で、石突で、柄で。

 切り払い、頭を潰し、首を飛ばし、胴を割り、手足を落とす。

 

 俺はスコッチとの稽古を思い出しながらヴィラを振る。

 対多数戦闘だとこっちの方がだいぶ楽だな。

離れているから動きも良く見えるし、焦る事も無い。

時折後方からミモザの援護魔法が飛び、群れの中へ落ち、火柱が上がる。


 これなら大丈夫じゃないか? 耐えられるかも知れない。


 少しばかり余裕が生まれてきた所でふと奥を見ると、明滅を繰り返す赤い魔法陣がどんどん輝きを増してゆき、周りの大気が渦巻きながら収束していく。


 そこで俺は更に魔物の数が増えていない事にも気が付いた。

 絶えず30〜40体を保持していたのが今ではざっと見ても15体程しか残っていない。


「どういう事だ……? 終ってくれるのか?」


 だがそんな淡い期待はアッサリと打ち砕かれる。


渦巻いていた大気が丸く形取りバチバチと火花を散らした風のドームの中から放たれた激しい雷撃の波が緑光に満たされた部屋を揺らした。


「ギャオオオオオオ!!!」


 遅れて聞こえてきた轟音とも取れる咆哮に沸き立つ粉塵。

 雷撃は俺の手前まで地面を抉りつつ一気に薙ぎ払い、残存していた魔物達を全て蒸発させてしまっていた。


「ギャオオオオオオ!」


 再び轟く咆哮。

 魔物を消し去ったのはただの偶然だろう。

 雷撃により抉られた地面は赤熱し、ドームから迸る殺意の波動が俺の肌をビシビシと叩く。


「味方、なわきゃねーよな……」

「私、リュートの事助けなきゃ良かったかも」

「なんで! そこはもう少し仲間意識をだな」

「だってあんたを助けてからトラブル続きじゃない!」

「んな事ねーだろ! スコッチに会って遺跡で落とし穴に嵌っただけだろ?!」

「そ、それもそうね! 何が出てくるか分からないけど2人で力を合わせましょう!」

「まったく……酷いこと言った責任取って終わったらウルル貝の串焼き奢れよな」

「冗談じゃないわ! 先に私の……私の体にした事を責任とりなさいな!」


 緊迫した場面だというのに呑気な会話を交わしていたが、それも咆哮により強制終了させられる。


「ギャオオオオオオ!」


 3度目の雄叫びが響き、風のドームが爆散する。

そこから姿を現したのは6つ足で地面を踏みしめ、芋虫のような体躯で体半ばから立ち上がり禍々しい2対の巨大な鎌をカチャカチャと鳴らす芋虫と蟷螂を合わせたような全身鱗の巨体だった。


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