郷愁と孤独と
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「はぁ……私は何をしているのだろう」
光の一欠片も入り込まない闇の奥。
入り組んだ通路を淡々と進みながら私は長い長い過去を振り返っていた。
私の主は絶対的な存在だった。
陶酔していたと言っても過言では無い。
私がまだ100歳くらいの時だ。
とある事故がきっかけで瀕死の重傷を負い、偶然我が主の城の近くで意識を失った際、主自らが私を発見し、夜を徹して私の介抱をしてくれたのだ。
それからというもの、なし崩し的に城に居着いてしまった私を直属の者として配下に加えてくれた。
幾度の戦にも進んで参加した。
毎日が輝いていた。
だが時は経ち、ついに我が主が魔天へ登る時が来た。
そして我が主が崩御する際に最後の指示を受けてから今まで、永遠に思える長い時を過ごした。
正直諦めていた。
いくら長寿種だとしても時が与える脅威は平等だ。
ラットドラゴンは魔大陸に存在する黒砂漠の奥地に生息する種族であり、初めに魔王様から黄色い砂地を探せと言われた時は戸惑った。
砂漠と言えば黒砂、黄色い砂漠など聞いた事も無かった。
やっとの事であの地を探し出し、いつ現れるか分からない存在を待ち続ける為には定住地が必要だった。
砂漠に君臨するのにさして時間は掛からなかったが、異郷の魔物達からは忌み嫌われ、友と呼べる存在も居らずただただ寄り添う孤独と砂と共に待ち続ける日々。
自分自身よく壊れずにいたと思う。
そして運命のあの日、待ち侘びた懐かしい気配、思い出すだけで涙が溢れてくる。
何十年、何百年経とうがあの輝ける毎日は決して色褪せない。
気付いた時には脇目も振らず、全力で走り出していた。
私の主、私の魔王様、魔王様は剣に魂を封じると仰った。
その魂は目覚めているのだろうか?
仮に目覚めていなくとも、尽力せよとの命は果たしてみせよう。
その為に孤独すら食い破りここまで生きてきたのだ、もはやその命令が存在意義となっていた私に否定の二文字が浮かぶ筈も無かった。
だが実際魔王様を携えた存在は驚くべき事に、矮小な人間のオスだった。
私が少し突ついただけで命を散らしてしまう小さき存在が魔王様の命運を握っているとは思いたくなかった。
初めて心が揺れた。
こいつを殺して私が魔王様と共にあれば、と。
相反する心の葛藤を堪えながら矮小な人間へ頭を垂れる、やっと会えたという思いと人間如きに従うという屈辱感の二つを飼い慣らした結果、彼に従うと私は決めた。
人間のオスはリュート、メス2体はミモザとベリーニと呼ばれる3人を乗せて砂漠を駆ける。
背中に感じる重さ、魔王様やその配下程では無い、しかし永年連れ添った孤独を追い払うには充分な重さだった。
そういえばベリーニに滅茶苦茶撫で回されたっけ、あんなに激しく求められたのは魔王様の配下と別れる時が最後だったな。
リュート、新しい我が主は体格こそ人間だが戦闘センスや魔力量など内に秘めた才能は並外れて優れている。
随分と優男な気性だがそれもそれでいいとしよう。
ミモザは初対面の私へとても真摯に接してくれた、人間は私を見れば身の程をわきまえず襲い掛かるか脱兎の如く逃げ出すかの存在なのに。
多少恐れていた様子だったけれど。
「ふふ……」
あぁそうか。
忘れていた。
言葉を交わす相手がいる幸せを、忘れていた。
軽口を叩き合う事がどんなに楽しい事か、忘れていた。
思わずクソガキなんて口走ってしまったが、知らぬ内に心を許していたのかも知れない。
それを指摘され、不貞腐れてここまで勝手に来てしまったのは実に稚拙で愚かしい事だ。
だが実際の私は口が良い方では無く、それなりに毒を吐くと自覚している。
それでも新しい我が主は迎えてくれるだろうか?
考えるまでも無い。
なんせ優男だ。
稽古をつけてやった時も素直だったし、きっと大丈夫。
……ちょっと心配になってきた。
いや大丈夫!
ダメなら殺して……いやいやだめだめ!
「はぁ……ほんと何やってるんでしょうかね、私は」
そこまで呟いて、ふと自分の頬が緩んでいる事に気付く。
あぁ、幸せだ。
「ありがとうございます、ヴィジャクラ様。ありがとうございます、ご主人様」
こんな所でうじうじしている事自体今までの私には考えられない。
ならば戻ればいい。
あの頃には戻れないが、あの頃と同じような幸せがそこにあるのだ。
「さてと……頼りないご主人様は何処へ……」
暗闇の中、翡翠の瞳孔を最大まで開いていた私は静かに瞼を閉じ、ヴィジャクラ様とご主人様の気配を辿る。
「これは……!」
信じられない。
私のいる場所より下の階層に彼等はいる。
速すぎる、トラップにでも掛かってしまったのだろうか?
嫌な予感がする。
ドクドクと心臓の鼓動が早鐘のように鳴り響く。
「急がなければ。“グラン……」
地面を思いきりブチ抜こうと振り上げた拳と発動間近の土竜魔法をひたと止める。
ここは地下だ、下手にブチ抜けば遺跡ごと崩壊してしまう恐れをすんでの所で思い出したからだ。
「くっ……んもう!」
軽く歯軋りをした私は本来の姿、といっても小型化だが、に変化し、爪が地面を砕く程の全力でご主人様の元へと駆け出したのだった。
疾走する砂漠の王。
巻き上げるは砂塵か血飛沫か。
退路の無いリュート達に更なる敵が現れる。
次回
刹那の輪舞曲




