表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

死、そして……

文字数を増やしてみました。

長ければ教えて下さい。

ブックマーク増えました! ありがとうございますありがとうございますありがとうございます

 視界を潰す程の光が急激に収束していく。

 そこからは起きた事はまさに一瞬の出来事だった。

 もう死んでいるようなもんだろうけど……この光景は記憶の追体験のようなものだろうか?


 委員長が席を立って何やら喋っている、光が収まったと同時にズシン、と空気が大きく揺れ、小刻みな振動を鳴らしながらトンネルが崩落を始めた。

 前方を走っていたミニバンが落ちてきた瓦礫で圧壊する。

 バスが回避運動を取り車体が大きく傾く。

 クラスメイトの悲鳴が響き渡り、通路に立っていた委員長が反対の窓ガラスまで飛ばされて首の骨が折れるのが見えた。

 俺は無駄な事と知りつつ必死で座席にしがみつき祈る。

 すなわち『早く、終われ』と。

 狭いトンネル、尚且つ崩落を続ける中で回避運動を取ればどうなるか想像に容易い。

 避けた先にあった潰れたトラックへ猛烈な勢いで突っ込んでバスの前面部が圧壊、横転、追い討ちをかけるように前半分は瓦礫と土砂に潰され、クラスメイトの半数もそれに巻き込まれた。

 必死にしがみついていた俺も衝撃で座席から引き剥がされ、後頭部を強かに打ちつける。


土砂とさっきまで笑っていたクラスメイト達の血と臓物が身体にまとわりつく。

 猛烈な痛みにより朦朧とする意識が強制的に覚醒される中、トンネルの天井が塊となって落ちてくるのが見えた、その刹那、ゴシャッという音が鳴る。

 それがこの世界と俺を繋ぐ意識が切れる瞬間だった。



***

 


「はろーはろー本日は晴天なり、私は聖天なり。聞こえますかどーぞ」

「先程ぶりだな、朱沢龍斗。調子はどうだ?」


 朦朧とした意識の中、厳かだが軽い声と涼やかだが重みのある声が聞こえてくる。

 晴天の下に聖なる天神で聖天てか?

 人が死ぬ思いしたっていうのに不謹慎な。

 あ、いや死んだのか。

 ならばここは何処だ?

 三途の川か?


「あぁ、聞こえてる……胸糞悪い光景を見せられて目覚めは良くないけどな、女神(ホルン)魔女神(カーラ)。ここは何処なんだ?」

「む、健やかで何よりよ。これからの事もあるのでな、不憫かとは思ったが自分の最後を理解出来ぬまま死ぬのも良くないだろうとな、覚醒体験をしてもらった次第よ」

「エゲツない事するよな、神のくせに」

「ここはね、世界と世界の狭間なの。無の世界とかディラックの海とか呼ばれる所だよ。時間も概念も何も無いの、不思議な所だよね」

「無の、世界……」


 全体的にグレーな風景なのだが所々灯火のような球体状の光が点々と広がっている。

 俺と女神二人以外何にも無い、どこまでも灰色で地平線のような物も無く奥行きが全く把握出来ない。


「……さっき最後に言っていた言葉の意味と俺のこれからの人生が知りたい」

「どこから説明しようかなぁ。どこがいい? カーラちゃん」

「む。私に振るのか。まぁ良い、では一気に説明するので不明な点は後に聞き直すが良い」


 魔女神(カーラ)女神(ホルン)はどっこいしょ、っとおっさん臭いセリフを吐くとその場に座り込んだ。

 トントン、と床を指差し俺も座るよう促されたので彼女らに習い座り込む。


「まずは……そうだな、ホルンが言っていた事から話そう。魂の状態というのは生前の行いにより決まってくる。例えば親族、身近な友人、通りすがりの人々に酷い行いをすれば魂は少しづつ汚れていく。さらに不特定多数の異性と淫らな行いを重なれば不誠実となり魂の汚れは溜まっていく」


 難しい話だな。

 クラスの奴らのプライベートがどうなのかは興味が無かったが、こう言われると奴らがどんな事をしていたのか少々気になる。

 気になると言えばもう一つ最後に言った言葉、それってつまり——


「童貞万歳って事だねー」

「どっどどど童貞ちゃうわ! 俺だって付き合った事あるしー? そりゃ公衆の面前でのイチャイチャは倫理に反するから? やらなかったけど?でもそれは童貞とは関係無い訳で? 不特定多数の女子とはそういう事した事ないけど? ほら、俺の彼女って恥ずかしがり屋だからあんま外出ないっていうか?」

「龍斗よ」

「はい、なんでしょうか」

「もう良い。全て把握しておる故、な。そう意地を張るでない、男ならドンとあれ」

「へい……」

「そうそう! 童貞だからって男の価値が決まるわけじゃないよ! 童貞だからこその優しさだったり童貞だからこその距離感だったり童貞だからこその誠実さなんてのも良いもんだよ!」

「ホルンよ」

「 はい、なんでしょうか」

「少し黙れ」

「ひゃい……」

「童貞だからって……馬鹿にしやがって……」


 特に気にした事はないが、俺に彼女など出来た試しは無い。

 欲しいとは思うけれど自分から動いた事は今まで一度も無い。

 いや、たった一度あるかな……俺がまだ何も知らないウブなネンネの幼稚園児だった頃、同じ組の女の子が好きだった。

 泥だんごを作り、死んだカエルやダンゴムシ、蟻等その年齢の男の子なら大喜びするであろう宝物を集めた袋をプレゼントと謳い告白したのだが……。

 結果、彼女には大泣きの上ビンタされ保母さんに通報され、彼女のジェネラルであるご両親が召喚された。

 おまけに俺の両親もついでに召喚され父母からのビッグなダブルビンタも頂いた。

 恐らくそれからだろうな、好きな子にどう接していいか分からない。

 嫌われるのが怖くて動けない、嫌われて悲しむならその行為をしなければいいのだ、と思っているんだろう。

 我ながら情けない話だと思う。

 俺の根幹にその事実があり、好きな人どころか他人とすら上手く打ち解けられなくなってしまった。

 男ならドンとあれ……か。

 つーかクラスで未経験なの俺だけだったのかよ……。

 それもそれでキッツイわぁ……。

 

「と言う訳でお主が選ばれたという訳なのだ。続いて託す、というのはそのままの意味なのだよ。つまり鉄車の中にいた人間全ての魂をお主に委ねる、何人いたかは把握しきれておらぬが……そこそこいたハズなのだ。捨て置いても良いのだがお主がどうせ『魂だけでも助けてくれれば良かったのにッ』とか言い出しそうだったのでな。あらかじめこちらに移動しておいたよ、尚このまま放置してもこの無の牢獄に捉えられ輪廻の輪から弾かれる。消滅と同意義よ」

「周りをよくみてー? なんとなく分かるハズだよ」


 ホルンに促され半信半疑で辺りをもう一度見渡す、がやはり何も無い。


「何も無……」


 いじゃないか、と続けようとしたがそれは叶わなかった。

 俺の頭上には灯火のような光がふわふわと揺らめいており、よく見ると一つ一つ独立した色を持つ魂だと分かったからだった。


「まさか……あれが……そうなのか?」

「魚のように口をパクパクしている場合では無いぞ? 今からお主の魂と融合するのだ、多少なりとも衝撃がある。心せよ」

「し、衝撃と言うとどの程度……」

「おほん! ここは私が説明したげる! そんなに痛いもんじゃないよ? ちょっとばかし全身細かく裂傷が出てそこに塩を塗りたくられて、尚且つ爪を一枚一枚剥がされて骨が一本一本螺子切れるようなほんの些細な衝撃だから安心して?」

「ぬ。ぬははは! これこれホルン脅すのは止めるのだ。怯えて見るからに小さくなってしまったではないか」

「え、どっち……なんですか?」

「どっちだろーね! 試してガッテン! 天に彷徨う迷える有象無象共よ! 私の呼びかけに応じ彼の者へ集いなさい!」


 ふよふよと揺らぐ魂達にピン、と人差し指を向け、何処かおかしい適当な事を呪文のように吐く女神。

 まるでこの指止まれだ。

 いやいや、そんな悠長な事を考えてる場合では……


「待って! どっちどっちどっちぎゃああああ来るなぁぁぁ!」


 ホルンの人差し指が輝きを発し、所在無くふわふわとしていた魂群がフルフルと小刻みに揺れたと思った刹那、俺の方に向かって来たのだ!


「まだ心の準備が! 来るな来るなー!」


 全速でその場から駆け出す俺だったが、目の前にフッと影が現れがっしりと両肩を掴まれた。


「龍斗よ」

「ひぃ」

「男ならばドンとあれ」


 はは……あばよとっつぁん……。

 また、あの川べりで一杯やりたかった、なぁ……。

 

 俺は女神ホルンの恐ろしい別れの言葉に、いもしない存在とっつぁんと別れを告げ、三度閃光に包まれたのだった。

投稿時間を10時か17時にしようと思っています。

皆様にはどの時間帯がいいのでしょうか?

教えて頂けるとにやけます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ