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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
砂漠のトレジャーハンター
28/58

オーバーワーク

プレビュー2万越えしました!

ブックマークしてくれた方ありがとうございます!

相変わらず携帯投稿なので文頭が一画空きません。

やはりパソコンからで無いとダメなんでしょうか?

感想、誤字脱字、誤用、ご意見お待ちしております!

 ちゃぷちゃぷ、バシャバシャと水面が揺れる音が聞こえ、遅れて額にひんやりとした感触を覚える。


 あぁ、そういえば……。

 あれからどうなったんだろう。


 ビキ……。

 聞き覚えのある音がまだ微かに鳴っている。

 意識を失う前に感じたあの全身を襲った痛みの感覚はいったい何なんだ?

 だがどこか感じた事のある痛みに似ている。


「ねぇスコッチ。リュートはどうしちゃったの? 熱病?」

「思う所はあるのですが……まだ何とも。死に至るような事は無さそうなのでご安心下さい」


 遠くで2人の声が聞こえる。

 額に乗っていた冷感と同じ冷たさがゆっくりと身体の隅々まで広がってゆくのがとても心地良い。


 このまま身を任せておきたくなる堕情を押し退け、俺は静かに瞼を持ち上げる。

 するとそこにはやはり心配そうな表情で俺を覗き込むベリーニと、タオルを片手に慈しむような微笑みを浮かべたスコッチがいた。


「あ! 気が付いた! 大丈夫?」

「おぅ……多分な」


 上体を起こそうとした途端、筋肉の至る所が悲鳴を上げる。


「っつ! いててて……」

「稽古のお供をした際、変な所を打ってしまったかと危惧致しましたが……」


 スコッチはそこで言葉を切り、何を思ったか俺の腕に人差し指を乗せ、グリグリと押し込んできた。


「いっででで! 何すんだ!!」

「あぁやはり」

「だから何が!」

「筋肉の酷使による疲労痛ですよ」

「え?」


 つまりアレか?

 ただの筋肉痛って言いたいのか?

 確かに過去筋肉痛になった事はあるし、感覚も似ているがここまでの痛みは無かったし、普通は1日置いてから来るもんじゃないのか?


「ご主人様はとても代謝が優れていらっしゃるご様子。これならば数を重ねるまでも無く、超回復による増強効果により更に充実した内容へ変更出来ますね」

「んなっ……」


 絶句、まさに絶句。

 明日は無いにしてもこれが毎日続くなんて絶望以外無い。


 スコッチがやたらと嬉しそうに満面の笑みを浮かべているのが恐ろしく感じる。

 天使の皮を被った悪魔、いやドラゴンか……


「リュート凄いね! 化け物だね!」

「化け物とか言うな! 人よりちょっと敏感なだけだ!」

「敏感ねぇ」


 んふふ。と怪しげな表情をしているベリーニから、うんうんと何度も頷いているスコッチへ視線を移す。


 この先俺がどうなるのか不安で仕方無いが、先だって身体の痛みをどうにかして欲しい。


「なぁ、治癒魔法とか無いのか?」

「使えますが……それではご主人様の為になりませんよ?」

「どういう事だ?」


 痛みを取る事と俺に何の関係性があるのだろうか。

 もしや治癒魔法を使うと痛みだけでなくトレーニングの効果も無くなってしまうのか?

 だとしたらとても困る。

 体を酷使しただけで何の効果もありません、なんて洒落にならない。


「治癒魔法で痛みを取る事は可能ですけれど、その痛みからくる、ああ、自分はこれでまた強くなるのだ。という想いが得られないかと」

「そんなの大丈夫だから! 俺そこまで脳筋じゃないから!」


 予想とは違う答えが返って来たがそれはそれで納得いかない。

 なんなんだこいつは。

 絶対に傷を戦士の勲章だとか言うタイプだ。

 百歩譲って普通の筋肉痛なら我慢するさ、俺強くなってる! って思ってもいいさ、けどこの痛みは尋常じゃないわけで。


 例えばだ、腕を引っ張れば伸びきった所からは決して伸びない。

 だがそれを強引に引っ張れば痛いと思う。

 古代中世には四肢に縄をくくりつけ、それぞれの方向から牛に引かせて手足を引き千切る牛裂きの刑という拷問があったが今の俺はまさにその状態だと思う。


 幸い手足は無事だが、身体を走り回る激痛は如何ともし難い。

 気を抜けばまた失神してしまいそうなくらいだ。


「仕方ありませんね……。そこまで言うのであれば……“ロイヤルキュア”」

「えっ」


 スコッチが唱えたのは癒しの魔法だろう。

 俺の胸に向けられた掌に蒼白い光球が現れ、ゆっくりと体内へ沈んでゆく。

 光球が完全に沈みきると、身体の中を電光の如く走り回っていた激痛が緩やかに引いてゆく。

 おお、これだよコレ、ファンタスティックだ、いや、ファンタジスティックだよ。


 全身が暖かなオーラで包まれているような心地よさ、これは魔力の流れなのだろうか?

 少しくすぐったくてむず痒い。

 しばらくすると身体を蝕んでいたあの激痛が綺麗さっぱり消え失せ、以前よりも格段に身体の調子が良い。


「おぉ……おぉお!」


 素晴らしい!

 俺が思わず羨望の眼差しでスコッチを見つめていると、ふと目が合った。


「どうですか?」

「ん。全然痛くない。ありがとな!」

「いえ、大した事はしてませんから。痛みの他には?」

「うーん……」


 上体を起こし、腕や掌に力を込めて何度か動かしてみる。

 うん、頗る快調だ、心なしか腕も太くなった気がする。


「体格ちょっと変わった?」

「そうですね。先程より目に見えて変わられております」

「へ? 目に見えて?」

「何か不明な点でも?」

「……うそん」

 

 そこで俺は初めて上半身が裸に剥かれている事に気付いた。

 気付いていたのかも知れないが、激痛でそれどころでは無かったのだ。


 ふと腰から下に掛けられている薄いシーツが目に入り、恐る恐るそれをめくってみる。


 よかった。

 男の聖域(サンクチュアリ)は世に知られていない。

 下も裸に剥かれていたらどうしようと一瞬危惧したが、そんな事は無く、きちんと最後の砦パンツを残してくれていた。


「あ、あの〜……」


 俺の横に座っていたベリーニがおずおずと手を肩の位置まであげてスコッチを見ていた。

 その瞳を染めているのは驚愕と憧れが同調した色だった。


「どうかしましたか?」

「今の“ロイヤルヒール”って法術ではトップクラスの呪文だよね? それを無詠唱でやんなかった?」

「はい。必要ありませんので」

「なんという事ですの!」


 ベリーニが驚き過ぎて言葉使いがおかしくなってるぞ。

 ですのって。

 やはりこの世界でも詠唱はするのか。

 砂漠で水球を出した時は無詠唱だったのでさっぱり失念していた。


「私、ドラゴンですので」

「あ〜……?」


 スコッチよ、何でもかんでも私ドラゴンだからで済ませるのは良くないと思うぞ。

 ほら見ろ、ベリーニの頭に疑問符が沢山浮いてるじゃないか。


「ですから……私はドラゴンですよ? ぢゅぢゅちゅーって鳴くんですよ? そんな私が人の言葉で詠唱なんてすると思いますか?」

「なるほど! 確かにそーだね!」

「基本的にドラゴンや上級の魔物等はイメージと力の放出を無意識に行っておりますので。詠唱を必要とするのは魔素の薄い人間や獣人だけなのですよ」

「へえええ! じゃあさ! 私も練習したら難しい魔法も無詠唱出来るかな?!」

「無理だと思いますよ? あぁでもトレーニング次第で出来るかもしれませんね」

「トレーニングする! だから教えて!」

「ほぅ……いいですよ? ご教授させて頂きましょう」

 ベリーニがそう言った瞬間、スコッチの瞳が怪しく光ったように見えたたのは俺だけだろうか。

秘めたる想いを胸に。

向かうは一転湖底の遺跡。

不安と期待のアンビバレンス。

一行を出迎えるのは果たして。


次回

生命(いのち)を握る水壁

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