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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
砂漠のトレジャーハンター
26/58

依頼書と君と

「うーん……うーん……」

「どうしたんだ朝っぱらから頭抱えて」


 フェデリーニ家の広すぎるリビングの真ん中にある、これまた10人は座れるだろう大きなソファーの一画でベリーニが唸りながら書類と睨みあっていた。


 さりげなく覗きこむとどれも蜜蝋で印を押された書類で、何かしらの依頼書にも見えた。


「にゃー、これは発掘調査依頼書だよ。どれにしようか迷ってるんだー」


 ソファーの背もたれに身体を預け、書類を握りしめたまま両腕を天に伸ばすベリーニから1枚書類を抜き取りさらっと目を通す。


 それによると、アデーラ草原第4水源地区にて小規模な遺跡が発見されたらしい。


 確認されている入口は湖の底からの侵入経路しかない。

 発見されて日が浅く、まだ3層までしか探索が進んでおらずトラップや隠し通路の類も見つかっていないが、そこから下の階層の詳細が解らない。


「それさー……ランク的にギリギリ行けるんだー。あ、ランクってのは危険度って事ね」

「Dプラスって書いてあるけど……高いのか?」

「低いよ? 最低ランクから数えた方が早いぐらい低い」


 なんだよ。

 そこで悩むのならベリーニの実力もそれなりって事なんだろうなぁ。


「今失礼な事考えなかった?」

「とんでもございません」

「それかこっち」


 ベリーニがもう一枚の依頼書を指先で摘みぴらぴらと揺らす。

 それを受け取り、ざらっと目を通す。


 開拓が進んだ現代になって発見されたガルガン砂漠地帯、ようは俺が拾われた遺跡があった地帯だ。

 その遺跡を抜けた際に教えてもらった砂海はカルピシェク大砂海と呼ばれているのだ。

 依頼書には、エリアス大砂漠の奥の奥に存在するカルピシェク大砂海の湾岸沿いに位置する風穴が目的地であると記されていた。


 砂海の湾岸線を少し進んだ所に巨大な魔物の骨が打ち捨てられており、そこが風穴の入口となっているらしい。


 ランクは……。

 げ、Cプラスだと……。

 段階的にはどうなんだ?


「砂海の風穴とか凄い惹かれるんだよねー。けどランクがアデーラ草原より3つも上で行ける階層も限られる、もしかしたら2層にも辿り着けないかもなんだよねー」

「無理しない方がいいんじゃないか?」

「だよねー。死んだら元も子もないもんなぁ……でもでも砂海の風穴には何があるんだろーっていう憧れというかまだ見ぬ境地というか」

「身の程を弁えない人が真っ先に死にますよ。それを勇敢とは言いません、只の蛮勇です」

「そりゃー分かってるんだけどさー……」


 ベリーニがソファーの背もたれから首をぐでんと折り曲げて人の姿に変身したスコッチと目を合わせて呟いた後、しばしの沈黙がリビングに広がる。


「はぇ? えーと……失礼ですが……どちら様ですか?」


 硬直が解けたベリーニがソファーから立ち上がり、若干の警戒を含めた声色で問いかける。


「この姿では始めてお会いします。スコティッシュ・フォン・バルトフェルド改めスコッチでございます」

「は?」


 スコッチの堅苦しい自己紹介を聞き、ベリーニが気の抜けた声で疑問符を浮かべる。


 まぁそりゃそうだよ。

 あの砂漠のネズミが一転、美少女獣人冒険者に早変わりだもんな。


「うん。ベリーニの反応は至極真っ当だ」

「そうでしょうか? いささか疑問を抱いておられるようで私としては少々心外です」

「え? は? ほんとに? 下手なドッキリとかじゃ無いよね?」

「違う」

「リュートがそこらへんで引っ掛けた人?」

「違う。誰が引っ掛けるんだ誰が」

「ご主人様はすぐに理解、信用してくれました。ベリーニ様はあれほど私をめちゃくちゃに弄んだのにそれですか」


 スコッチが半目でやや不貞腐れ気味に言った。

 鮫肌の尻尾がだらりと垂れ下がり、あからさまに意気消沈しているのが分かる。


 代わりに俺が昨日受けた説明をベリーニに話してやると、目を白黒させてなんとか納得してくれた。


「いやー凄いなぁ、伊達にドラゴンやってないって感じだねー。完全に獣人じゃん」

「私としては完全な人型を目指したのですがね。そんな話はいいんです、湾岸沿い近辺はエレメントやボーリングワーム等強力な魔物も数多く存在します。生半可な実力では辿り着く事さえままならないかと」

「知ってるの? スコッチ」

「そりゃこの砂漠は長いですから」

「でも風穴が見つかったって事は普通に行けるんじゃないの?」

「そこを見付けた方は恐らく強力な冒険者なのでしょう。ランクがそこまで高くないのもその方が判断した基準なのでしょう? ならばそれなりに難しいと考えるのが妥当かと思いますが?」

「むぅ〜……」


 スコッチが言いたいのは、今の実力では無理だから強くなって挑戦しろと、そういう事だと思う。


 Dプラスでギリギリの実力ならば実質風穴は4ランク上と考えても差異は無いだろう。


 なんだかスコッチが指導役みたいなポジションに収まりそうな気がしないでもない。


「結局どうすんだ? 依頼書はもう一枚あるようだけど」

「これはボツ。ランクEの討伐依頼で報酬もダメダメ」

「そうか、ならアデーラ草原の依頼書にしたらどうだ? 力も磨けるだろうし宝もありそうだ」

「スコッチは……言わずもがなって感じだね」

「考えるまでもありませんからね」

「そっか。砂海の風穴はもっと強くなってから、だね。依頼受けてくる帰りにミモザにも伝えてくるー」


 ダラけていたベリーニはソファーから立ち上がり、早々と館から出て行ってしまった。


「なんだかな」

「時にご主人様」

「なんだ? あぁそれとご主人様っていうの何とかならないか?」

「ご主人様はご主人様ですので」

「わかりましたよ……で用件は何だ?」


 話を促しつつテーブルの上に置いてある水差しを取りコップに水を注ぎ入れる。


 俺とスコッチ2人分のコップがテーブルに置かれ、お互い向き合う形で座った。


「その……相対した際に感じたのですが、ご主人様は戦闘経験があまり無いのでは?」

「無いよ。からっきしだ。出来るとすれば魔剣で鞘ごと敵をぶっ飛ばすぐらいだ」

「やはりそうですか」

「何か問題でも?」

「大有りです。ご主人様の身体能力は通常の人間から大きく逸脱しています。それが悟られないようある程度練度を高めるべきかと」

「何故それがお前に分かるんだ?」

「そんなの見れば分かりますよ。体に流れる魔力の量からして尋常じゃありせんし、相手の力量を見抜けなければ死ぬだけですから」


 野生の勘みたいなヤツか?

 まぁスコッチは一応最上級の魔物だし、そういう能力を持っていても不思議では無いか。

 それとも身体能力を視覚化しているとでもいうのか?

 まさかな。


 それにスコッチの言い分は正論だ。

 だがどうする。

 この街に道場みたいな場所は無さそうだし。

 ミモザに稽古をつけてもらうか?


「俺はどうしたらいい?」

「そうですね……まずは素振りからじゃないですか?」

「素振りか型とか知らないけど平気なのか?」

「大丈夫です。まだその段階では無いですから、では時間もありますしさっそくやられては?」

「おう! そうだな!」


 幸いフェデリーニ家の庭は広い。

 端っこで素振りしていたとしても誰も文句は言うまい。


「あ。なぁ、スコッチ」

「なんですか?」

「お前、人間の姿で闘えるのか?」


 庭へと向かう最中、ふとした疑問をぶつけてみた。


「どうでしょう。戦えるには戦えるでしょうが本来の力の3割程度しか出ないんじゃないかと推測致します」

「3割か。もし出来るなら組手をやって欲しいと思ってさ」

「それくらいならお手伝い出来るかと思います」

「悪いな」


 庭へ続く扉を開けて外にでると、大量の熱気が身体に吹き付け、すぐに汗が額を濡らす。


「よし、やるか」

「待って下さい」


 俺は庭の一画へ陣取り、魔剣(ヴィラ)を抜こうとするがスコッチに止められてしまった。


「なんだ?」

「剣は抜かず素振りをした方がいいです。ご主人様の筋力アドバンテージならそれが効率的かと」

「マジか……」


 スコッチに言われた通りに剣を抜かず、上段に構え一気に振り下ろす。

 縦に両断された大気が渦を巻きサイドに散っていく気配を感じながらまた上段に戻す。


「そんな感じです。意外に様になっていますね」

「意外にとはなんだ意外にとは」

「そこは言葉のあやです。それをなるべく速く繰り返し、身体の軸がぶれ無いよう意識して下さい」

「わかった」


 これは素振りを舐めていたかもしれない。

 結構色んな所の筋肉が使われるのが分かる。


「柳生新陰流 斬釘截鉄(ざんていせってつ)!」

「なんですかそれは」

「特に意味は無い」


 俺が好きなのは何もファンタジー小説だけじゃない。

 剣術の流派や技の名前だって男の(ハート)を痺れさせる。

 今のはカウンター技なんだが、俺的に柳生新陰流や北辰一刀流などの響きが堪らない。


「ではご主人様。それをしばらく続けて下さいね、私もコレでお供致しますので」


 スコッチの手元からピュピュン! と鋭い風切り音が聞こえた。

 彼女の手にはいつの間に拾ったのか定かでは無いが、手首程の太さの枝が握られていた。

 もはや枝ではなく小ぶりの棍棒だろう。

 

 今の音はどう聞いても細い小枝を振り回した音だ。

 そんな棍棒を小枝扱いって言いたいんですか。

 お前の3割ってどんだけなんだ。


 俺は、その光景を見て果てし無く嫌な予感が胸をよぎり、そしてそれは確然たる現実を持って俺の前に現れてしまった。

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