魔装と君と
読んでくれてありがとうございます!
今回は龍斗の装備紹介のようなものです。
「陛下。そろそろ休まれては」
「構わん。この戦乱よ、我とていつ倒れてもおかしくは無い。なればこそ愛剣に魂魄を残す術を完成せねば眠りに眠れぬ」
「しかし……」
「くどい! それに我は見たのだよ。平和とまではいかぬが皆、諸手を取り戮力と大きな争いを拒んでいる、我が望んで止まぬ世界をな」
「夢、でございますか」
「いかにも。俄かに信じられぬ話である事は我とて理解しているのだ。
だがな……毎夜見ておれば希望も持つ……楽しいぞ? 我は様々な場所へ行くのだ。見た事も無い動植物、信じられぬ環境……ふふ、胸が踊るとはこの事よの」
「スコッチ様もご健在とあらば側近である私目もお供してみたいですな」
「おお! そちも行こうぞ! 我が軍最強のお主と共であれば俄然心強い!」
「ならば尚更、今はご療養なさって下さいませ」
「むぅ……そこまで食い下がられると我も揺らいでしまうぞ」
「お夜食にミルクシュガーサンドをお届け致します」
「ふ、ふん……甘い物で我が釣れるとでも? 片腹痛いわ! ……だ、だがウェストがどうしてもと言うのであるからして? 臣下の頼みも聞けぬであらば王としての器量が問題になるからして」
「それでは私もこれで失礼させて頂きます。御自愛下さいませ」
「あっ! そ、そうか。下がってよい、例の物ゆめゆめ忘れるで無いぞ?」
「御意に」
***
「ん……また、か……続編がある夢とは……いや。あいつの記憶が流れ込んでいるのかな……」
窓から見える空は若干白んでいるもののまだ薄暗く、村も家畜も静まり返っている。
あくびを噛み殺し、寝返りを打って枕元に立て掛けてある魔剣槍を見る。
「あんたは……優しい王だったんだな。魔王なんて響きだからもっと恐ろしい悪鬼羅刹のようなヤツかと思ってた。甘い物好きなんて女みたいなヤツだしな。あんたが見た景色は俺と見る景色になるのか? それとも俺意外のヤツなのか? 俺もこの世界は知らない事ばかりだ。一緒に見つけて楽しもうぜ、なぁ……相棒」
『そうだな……』
「っっ?!」
今、声が聞こえた……。
まさか覚醒した?
いやでもカーラは大量の魔力を喰わなければ覚醒しないと言っていた。
「寝言……か? ……まっさかぁ! 都合良すぎぃ! 起きてないよな? おーい、ヴィジャクラさんやー」
俺は少しビビりながら剣の柄をコンコンと叩く。
2度3度と叩くが反応は無い。
俺の妄想か?
はたまた寝ぼけているのだろうか。
「すっかり目が冴えてしまった……まだ時間はありそうだし、出来なかった武具の確認をしてみるか」
ベットから降り、1度伸びをしてから角灯の火を灯し、テーブルの上へ無造作に置かれた装備を手に取る。
明かりに照らされ鈍色に光るそれは3連の腕輪。
魔装輪カーディフ。
3連といっても通常は3重になっており、腕に嵌めて少し捻り伸ばす事で装着は完了する。
手甲と似ているが使用時にはそれぞれ独立するのだ。
防御に優れており、鹵獲用としても使える変わったアイテムである。
キーワードは防げ、弾け、守れ、捕らえろ、等防御系の言葉を発するか強く念じればこの腕輪は効果を発揮する。
「弾け!」
俺の言葉に腕輪が反応する。
肘付近の輪が光り、俺の前に飛び出すと、その輪を起点に縦横1m程のクリアブルーの障壁が展開される。
込める魔力により強度が増すらしいが、並大抵の攻撃では破れないのでそんなに考えなくていいそうだ。
装着している腕輪は6つ、同時展開や指定すれば離れた所にも飛んでゆきシールドを展開してくれるナウいやつ。
「捕らえろ!」
もう一つの使用方、鹵獲。
飛び出すのは先程と同じ、だが俺の指定した物は立て掛けてある魔剣である。
剣の上に飛翔した腕輪が広がり、剣鞘の半ばまで移動してキュッと縮み、鹵獲成功。
それを俺の前まで持って来る。
これはあまり使う機会が無さそうだがコントロール出来るようになっておけばいざという時に役立つかも知れない。
次にショルダーガード。
紫闇宝珠レヴィンズコア
これは魔力ブースターのようなもので、大気中に漂う微量な魔力を常に吸収しており、あるキーワードによって解放、所持者に還元される名品。
魔力を還元する事無く、外に放出すれば所持者の姿を2重3重に見せる効果を発揮する。
これは高濃度の魔力による陽炎のような物を応用した技術らしい。
次にピアス。
紫紅察 アンブロシュピアース
気配探知に特化、範囲は全方向に作用する。
隠れていても位置が解る、幸運と魔物を呼ぶ副次効果。
ちなみに砂漠でやたらと魔物に遭遇したのはこのピアスの副次効果とやらのせいだ。
スコッチもこの効果とヴィジャクラの気配を感じて俺達に接触してきたと言っていた。
ネックレスは女神がくれたらしいのでカーラには能力が分からない。
次に軽鎧。
蒼空鎧 ジャイアントキリング
これはただの鎧らしい。
特別な能力は無いが耐久力が物理・魔法共にすば抜けて高く、鎧の部分から見えない膜が発生し全身を保護しているのだとか。
はたから見たらただのブレストプレートにしか見えないだろうな。
ベルトに関しては教えてくれなかった。
知らぬ方が面白い、とかなんとか。
そしてメインの武器。
魔剣槍 ヴィラ
魔王ヴィジャクラの愛剣にして魂の柩。
スコッチの翻訳機。
鈍器にしてマイバット、そんな使い方を知ったらヴィジャクラがどんな反応をするのか想像すると恐ろしい。
そんな事を考えつつ、鍔と鞘を繋いでいる2箇所の留め金をパチリと外す。
左手に鞘を掴み親指で鍔を軽く押し上げ、右手でスラリと抜き放つ。
「これは……すごいな……」
思わず言葉が漏れる。
抜き放った刀身は長さ75cmといった所か。鍔から半身は方刃、刀身の中程から切っ先にかけて両刃になっており、反りは緩やかで波紋は先端に向け燃え盛る炎の如く。
火炎帽子の峰両刃造、いわゆる小烏丸造というやつに酷似している。
波紋は火炎帽子では無い筈だが小烏丸では無いし、ここは俺の世界でもない。
角灯に照らされ怪しげな輝きを放つ魔剣槍ヴィラ。
傾きを変えればまた違う波紋が浮かんでくる。
凄いな。
まるで芸術品だ。
これが過去に数多の血を啜ってきたとは思えない。
上段に構え、軽く振り下ろす。
ひゅう、と小気味好い風を切る音が鳴る。
軽い、殆ど重さを感じない。
さて、このままではただの刀だ、剣と呼ばれているがこれは刀としか思えない。
次に槍と呼ばれる由縁がこれ。
俺は片手で柄頭を握り、強く念じキーワードを口にする。
「荒ぶれ」
と。
瞬間、柄に巻かれた糸がばらりとほどけ、音も無く柄の長さが伸びてゆく。
やがて伸びきったそれは柄の長さだけで170cmはある俺の背丈と並び、そこから更にあの芸術品のような刃が伸びている。
「これは……薙刀なのか……」
先程と同じように軽く振ってみる。
フォン、と刀よりは重みを増した風鳴り。
だが、軽い。
1日振り回しても疲れないんじゃないかこれ。
存分に振り回してみたいがここでやったら部屋が細切れになりそうだ。
今度魔物と戦う事があれば試し斬りをしてみよう。
……うーん……
やはりこの世界に来てから思考回路というか倫理観というか、そういうのが緩くなって暴力的になってる気がする。
試し斬りしたいとか自分でびっくりだよ。
さて、お試し期間はこれで終了。
太陽も顔を出して来たしそろそろ支度を始めるか!
っとその前にこいつを……。
「静まれ」
戻さなきゃな。
剣を元の長さに戻し、鯉口に棟を滑らせ鞘に収める。
カキン、とはばきが鯉口と合わさる音が静かに響いた。
澄み切った夜明け。
古きドラゴンは何を思う。
胸に秘める古の記憶は砂塵の果てか。
次回
砂漠ネズミは人の夢を願うか