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キメラ勇者の異世界冒険譚  作者: 桑島 龍太郎
砂漠のトレジャーハンター
17/58

姿亡き豪王

遅くなってしまいました。


「その。だ、大丈夫か?」

「こんなの初めてよ……凄い、逞しいわ……大っきくて持久力もある……さすがね」

「何か言い方が卑猥なんですけど」

「そうやって捉える頭の方が卑猥だと思いますけど?」

「す、すいません」


 俺達は今、夜の砂漠を走っています。

 人力では無いですね。


 乗車位置から見える景色はとても砂漠で砂砂しております。

 只今の時速は測定不能、景色がコマ送りのようにカクカクと通り過ぎてゆく。


 スコッチの上に乗った俺達は広大な砂漠を【深淵にして黎明なる岩窟】に向けて移動している。


 砂塵を巻き上げながら爆走するスコッチは強靭なジープさながらでとても頼もしい。

 風圧や振動を微塵も感じないのは、どういった理屈なのか解りかねるけれど、そういうモノだと思う事にした。


「着いたわ、洞窟はあそこよ」

「あれがそうか。なんか、イメージと若干違うな……」

「あそこは昔に発見された洞窟で、少し人の手が入ってるから洞窟って感じはしないわね」


 今俺達は少し高めの砂丘に留まっており、目的地である【深淵にして黎明なる岩窟】を見下ろす形だ。

 個人的には俺がいた遺跡と同じように砂に埋れた何かだと思っていたのだが……。

 実際は集落と呼ぶべき場所なのでは、と思ってしまった。


 見える範囲には洞窟の洞の字も見当たらないオアシスが広がっており、その周囲を囲む様に家屋が存在し、さらにその周囲を囲む様に壁が構築されている。

 ゲートとおぼしき場所には

 〈ようこそ! 岩窟村へ!〉

 とか書いてあるし……


「村って書いてあるんだけど? アレで少しなの? 洞窟どこ?」

「ど、洞窟はあの村の中にあるオアシスに存在するのよ! 人口100人程度しかいないんだから少しって事でいいでしょ!」

「今村って言った! 人がいるならここからは徒歩で行くしかないか」

「そうね。一応この子ラットドラゴンだし、突然現れたらパニックになる事受け合いよ」

「でも小さくなれるんだから連れて行っても平気だろ。ベリーニだって気付かなかったわけだし」

「あー……それもそうか。ねぇスコッチちゃん、お姉さん達ここで降りるからさっきの大きさになってくれる?」

「ヂュイ!」


 未だ気を失っているベリーニと共に砂漠へ降りると、足元からむわりと熱気が纏わり付く。

 太陽はまだ登りきっていないが位置的に今は10時くらいだろう。


 中型犬サイズに形状を変えたスコッチを伴い、ベリーニを背負った俺とミモザは洞窟改め、岩窟村へと足を向けた。




***




「やぁ、見ない顔だな。岩窟で練習って感じでも無さそうだ、迷ったか?」


 ゲートの傍にある小屋から顔を出した中年男性が声をかけてきた。

 門番的な人なのだろう。

 頬に大きな傷跡があり少し強面だが話し方は柔らかで、ベリーニに目線がいき少し止まったがすぐに俺へと視線を戻す。


「迷ったんじゃないわ、ちょっと岩窟に用があって来たの。元気そうねブルックさん」

「ん? あんた……まさかミモザの嬢ちゃんかい? 随分と変わってたから分からなかったよ」

「2年ぶりくらいかしら? ブルックさんはお変わり無く精強なご様子で何よりです」

「知り合いなのか?」

「ええ、以前お世話になった事があるの」

「暑い中で足止めもなんだ。ゆっくりしてってくれ」

「ありがとうございます。それじゃ行きますね」


 ブルックと別れ村の中へ進んで行く。

 木材とレンガを組み合わせた小屋がまばらに建っており、村の中央部には道具屋、武具屋、青果店、肉屋等商店が並んでいる。

 こんな砂漠のど真ん中に魚屋があるのは驚いたがオアシスで結構な種類の魚が生息しているんだとか。


 商店を突っ切りオアシスの中へ踏み入ると森や草花独自のあの青くさい香りが鼻腔を撫でる。

 舗装された道では無いが、幾度も踏み締められ固められた道が真っ直ぐ続く、ここを辿れば晴れて洞窟だ。


「なぁミモザ、お前はここに来た事があるって言ってたけど」

「ん? あぁ、ここはある意味遺跡の練習場みたいな所があるのよ。出てくる魔物も弱く命に関わるような危険なトラップも無い、宝は殆ど無いけれどたまに掘り出し物が出たりするわ。と言っても鉱石を掘りに来た人が忘れていった道具が瘴気を得て魔道具になっただけって言うのが多々だけれど」

「ふぅん……ミモザも練習に来てたって事か」

「そういう事。この子と一緒にね」

「ん? でもベリーニはまだ半年しか経験が無いって言ってなかったか?」

「んー……この子は特殊な家柄でね、貴族の娘みたいな位置なのよ。そんな家柄の娘がおいそれと危険なトレジャーハンターになれる訳も無く、親から猛反対されてやっと外に出れたのが半年前、それまでここに内緒で来ていたの」

「こいつが、貴族の娘ねぇ……」

「最初は魔物どころか擦り傷から出た血を見ただけで半日気絶してたんだからこれでも成長したのよ」

「そりゃまた大変なこって……」


 俺に背負われているベリーニの髪をさらりと撫で、ミモザは昔を懐かしむようにフフフ、と笑う。

 慈しむような優しい表情を浮かべてミモザは言葉を続けた。


「私はね、戦闘しか生きる道が無いのよ。私の家系グランシア家はベリーニの家系を護る事だけを目的としているの、だから私の人生はこの子を護る事が大前提。もっともこの子は私を姉のように慕ってくれるから苦では無いけれどね」

「そんな……」

「同情する人もいるけど私は別に嫌だとかそういった感情を持った事は無いの。だから気にしないで? そんな事よりほら、着いたわ」

「お、おう」


 生い茂る樹々の中にぽっかりと開いた暗い口が俺達を出向かえる。

 入口からは傾斜の緩い坂になっており、奥からはひゅるひゅると冷たい風が吹き火照った身体に心地良い。


「ここは5層しか無いからサクッと終わるわ。何で魔素や瘴気に用があるのか知らないけどさっさと行きましょ」

「理由は後で話すよ」

「記憶喪失なのに?」

「ちょっと思い出した事があるんだよ」

「そ、だったら尚更早く行きましょう」




***




 コツコツと靴底が鳴らす音がヒカリゴケの張り付いた岩肌に反響する。

 洞窟内はヒカリゴケと鉱石の反射により適度な薄暗さが作り出されており、初心者でも進みやすい道なりでもあった。


 今いる階層は第5層。

 ここまで出会った魔物はゼロ、作動したトラップもゼロ、疲労もゼロ。

 所要時間は体感2時間くらいか。


「おっかしいなぁ」


 つま先で石ころを蹴りながらミモザが首を傾げる。


「何で魔物が一体も出て来ないんだろう」

「キュイキュイ」

「ん? なぁに?」


 傍らをてふてふ歩いていたスコッチが首を傾げるミモザに答えるように鳴き声をあげる。

 胸を張って、アゴを上げ誇らしげに再度キュイっと鳴いた。


「私がいるからです。だそうだ」

「あー……納得……」


 そりゃ人から雑魚扱いされてる魔物が砂漠の王者に挑むわけ無いよな。

 滲み出る貫禄というやつか。

 きっと殺気やプレッシャーみたいなのを放っているんだろう。


「ここで行き止まりよ。攻略おめでと」

「もう終わり?! 早いなぁ……えっと、すぐ終わるからちょっと待っててくれ」


 俺は背負っていたベリーニを地面に降ろし、行き止まりの岩肌に手を触れ、目を閉じてカーラに呼びかける。

 念じれば答えると言っていたがこれでいいのだろうか。


『カーラ、おいカーラ! 聞こえるか? 魔素や瘴気ってのが薄そうだけど通じるか?』

『む。その声はリュートではないか! どうしたのだ? つい先程話したばかりだというに』

『あ、うん。そうでも無いと思うけど……なぁ、このラットドラゴンなんだけど』

『おお! スコッチではないか!』

『知ってるのか? なんかこいつの言ってる事が解るんだけど……なんで?』

『会った事は無いがの。そりゃ魔王ヴィジャクラのペットでリュートは魔剣槍ヴィラを所有しておるでの、当たり前の事だと思うのだが』

『いや、答えになってないって。本当にヴィジャクラのペットだとしてもなんで言う事が理解出来るんだ?この剣とどう関係があるんだ?』

『ラットドラゴンは長寿で有名だからの、そりゃ生きていても不思議はあるまいて、ヴィジャクラが逝去したのは僅か1000年前、狩られたり病に倒れなければラットドラゴンは1500年は生きる。その魔剣槍はの、豪王と呼ばれたヴィジャクラが創りあげ幾度の修羅場を共にした愛剣なのだ。彼は自らが死せる時、魔剣槍に魂を封じる術を掛けていた。故にスコッチと魂レベルで意思疎通が可能になったのだろう、考えるな、感じろ、というやつよ。ヴィジャクラとスコッチは大層仲睦まじかったからの』

『え、じゃあ何か? この剣には魔王の魂がまだ入ってるって事か?』

『いかにも』

『えぇ〜……そういう事は先に教えてくれよ……』

『何を言う。長くなるなら結果だけ述べろと言ったのは他ならぬお主ではないか』

『ぐ……そういやそうだ……』


 なんてこった……

 チュートリアルはやはり無視してはいけなかったのか。


『これからはちゃんと話を聞きます……』

『む。よかろう。して他に聞きたい事はあるかの?』

『とりあえず、俺の武具について教えて欲しい。それとヴィジャクラの意識が覚醒する事はあるのか?』

『む。ならば教えよう。まずは——』


 ラットドラゴンの寿命の長さにはたまげたが、装備について詳しく知る事は重要な事だもんな。

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