インパクト
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「カーラさぁん! 盾的な物は無いのでしょうか! このままだと俺はハンバーグのタネになってしまいますうう!」
『盾なら持っとるじゃないか、腕輪がそれよ。弾け、や防げ等のキーワードで魔力障壁が展開される優れ物でのお。それにあのような雑魚、防ぐ程でもなかろうに。横からぶっ叩けばすぐ倒せる』
「んな事言ってもぶっ叩くバット的なのがありませえん!」
『む。その剣は飾りで渡したのでは無いぞ? 鞘ごと振り抜けばりっぱな鈍器よ。それは魔剣槍ヴィラと言ってなぁ過去の……どれくらい昔だったか、武闘派で鳴らした魔王ヴィジャクラが創り上げた業物で……当時その溢れる才能と』
「その話長くなるなら結論だけ下さい!」
魔弾は何故か俺の事を執拗に狙っており、いくら紙一重で避けてもすぐに軌道を直し向かってくる。
何処から見ているのか分からないが俺が避けると壁にめり込む前に逆回転を掛けてまた突っ込んでくるのだ。
距離と動線を目測し、最善のタイミングで横に跳ぶ。
こんな状況でカーラの思い出話に付き合える余裕なんてあるはずが無い。
『む。ここからが良い所なのにのぉ……とりあえずヤツの横っ腹を鞘ごとぶっ叩いてしまえ』
「かしこまりましたああああ!」
横に大きく跳び魔弾の射線から距離をとり、腰に下がっている剣を握りしめバッターのように構える。
グッと柄に力を込めると頭の中に剣の名称が流れ込んでくる。
ひょっとして他のも同じなのか?
ぶっ叩いたら鞘がすっぽ抜けるとか無いよな?
と一瞬そんな事を思ったがギャリギャリという音に意識が集中する。
再度床を抉りながら突っ込んでくる魔弾を正面から見据え、神経を研ぎ澄ます。
勝負は一瞬、俺は44人のクラスメイト達と一緒だ、俺は強くなったはずだ、大丈夫、やれる、かっとばせ、明日はホームランだ。
あぁそういえば親父いつも野球中継見てたな、もう親にも会えないわけか……。
いつも鬱陶しかったけどこうなると少し寂しいな、ちくしょう。
死んでたまるか! お願いされたって死んでやらない!
くそっ! 集中すればする程やたらと雑念が入ってくる!
そんな俺に容赦無く魔弾が迫る。
僅かに膝を曲げ、両足は肩幅に開く、上半身は力を抜いて振り抜く一瞬に全てを込める!
異世界の放つ魔球は目と鼻の先、間違えれば床と同じくあの丸ノコで豆腐のようにさっくりと削られてしまう。
眼前に迫る明瞭な死のサイン。
「くそったれがああああ!」
インパクトの瞬間、全てがスローに見えた。
剣鞘がスラッグソーの棘をへし折りつつ鉄球にめり込んでゆく。
プラスチック製のバットでバスケットボールを打ったような重たい感触が手から腕に伝わる。
ゴキン! と鈍い音が響き、力任せに剣を振り抜く。
数秒遅れて盛大な破壊音がフロアに鳴り響いた。
遺跡の壁をぶち抜き、隣の部屋であろう壁にスラッグソーがめり込んでいる。
鉄球からはダラリとイルカのナメクジが身体を曝け出しており、緑色の液体をぽたぽたと滴らせている。
あれは殺ったな。
縦の衝撃には強く横からの衝撃には弱かったのだろうか。
天井から岩の欠片や埃がパラパラと音を立てて落ちてきている。
「やったぜ親父……逆転サヨナラホームランだ……」
肩で荒い息を吐きつつ、ふと二人に視線を送るとこちらを見て唖然としている、キリアシも同様にポカンと口を開けて壁の穴を見つめていた。
「……はっ! 隙あり!」
すぐさま現実に戻ったミモザがトカゲの首を切り落とす。
ドチャッと濡れた音を立て頭が床に落ち、遅れて首から緑色の体液を吹き出しながらキリアシは冷たい床に倒れ伏した。
決死の攻防を制し、見事生を勝ち取った朱沢龍斗。
44人の魂は彼をどこに導くのか。
自らの力に戸惑いながらも、異世界で生き続ける為の手段を学ぶ。
次回
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