支配者の迷宮 ー酒場と領主ー
色々手を出していたらなんだかキャラが不安定になりそうです・・・(汗)
いつもよりちょっと時間はかけましたが、中身については相変わらず自信がないので、誤字脱字、感想等お手柔らかに教えてくれると助かります
年末どうしよう・・・
予定していた建物も建て終え、建築の間手の空いたメイド達にポイントで購入した教科書の写しを大量に筆写させ、それを使ったりして色々学ばせていた(アッレを始めとした何人かの知識人に教育を担当させていた)。
商品を作るための建物と売るためのデパートのような大型商店の建築も始まり、湯水のごとく使ったお金も今は緩やかな消費になっていた。
「フンフンッ♪ご主人っ様っと・デ・ェ・ト♪」
ティナが上機嫌にカガリの左腕に腕を絡めて街を歩いていた。
今日は市場調査も兼ねて二人とも違和感のない服装で街を練り歩く。
ティナは性転換してから一気に大きくなった乳房をカガリに押し付けつつ、時折女性らしい艶やかな茶髪ポニーテールを振ってさわさわとカガリの腕や首筋をくすぐった。その笑顔は子猫が甘えるようで、持ち前の明るそうな顔つきと相まって近くで見た若い男は思わず足を止めてしまう程だった。
この付き添いの他に何人か男の奴隷を近くに配置しさりげなく警護させている。
実はこの付き添いに関してメイド達、リナ達や娘達、奴隷の一部も壮絶な戦いになった。カガリが条件を出していき、生き残った数名の内ティナのみが今日の仕事がなかったのであった。
「随分機嫌がいいな」
膨れっ面になったリナとガリアを宥めるのに苦労したことをふと思い出しつつティナに話し掛ける。
「そりゃあご主人様とこうしてデート出来るなんて光栄過ぎて鼻血ものですから。それに私はご主人様を愛していますから」
ニコニコと満面の笑みで答えるティナは、ふと思い出すように顔を逸らして遠い目をする。
「もともと村から追い出されて死にそうになっていたのを最初の山賊に救われて、そこを別の山賊に襲われて命乞いをしてなんとか生き残って、でもそこで何人も家族を傷つけて・・・ホントに狂う前にご主人様に人生丸ごと粉砕されて、また一からやり直せるチャンスを下さったご主人様は、私、いえ、私達にとって悪夢から覚ましてくれた白馬の王子であり、神に近い存在なんです。ですから、私達を、どうかご存分にお使いください」
「・・・アッレの差し金だったりするか?」
カガリの言葉にティナは、ふざけないでください、と割と真剣に怒った。カガリもそれが本心からの問いではなかったのできちんと謝った。
性転換させるときの副作用で、自分の今までの所業が過去の記録のような意識に変わっているのだと、あとでアッレに教わった。罪悪感はあれど自身の人格に影響を及ぼさないための対応らしい。例えるなら、汚ならしく塗った醜悪な油絵を真っ白に塗り固めたあと新しくその上に絵を描いた様なものである。
服屋に行ったり、雑貨屋で髪をまとめるリボンを買ったり庶民向け(砂糖などふんだんに使えるので館ではカガリやアッレに教えられたり試行錯誤し自作したものが流行しているため外とは格が違う)お菓子を買い食いしたりと気ままに過ごした。
夕方近くなって最後に開き始めた酒場へ入る。今日の情報収集はここで最後にする予定だった。
「いらっしゃい」
まだ人の入りも少ないからか、カウンターに立っている店主がカガリ達に声を掛けてきた。カガリ達はそのままカウンター席に座り、適当に料理を注文した。
「お客さん、あまり見ない顔だな」
「最近移ってきたんですよ」
店主がカガリ達に興味を持ったのか近くで話し掛けてくる。そのまま世間話をしていると、客が段々増えてきて、料理もカガリ達の元に届く。
「どうぞ、カガリさん」
人が多いため外行きの言葉遣いで甲斐甲斐しくカガリの世話をやくティナに店主がニヤニヤ笑い、雇われているらしい店員の中でも女性店員は憧れるように男性店員は羨ましそうにチラチラ二人を見ていた。ティナの世話を当たり前のように受け取っていれば少しマシだったかもしれないが、カガリは世話をやく度に言葉少なくだが礼を言い、その度にティナが蕩けるような笑顔になっていたので酒場に来ていた男性客の嫉妬が増えてくる。
「おいおい、見せ付けてくれんじゃねえか?ああ?」
酔いが回ってきたのだろう、カガリ達に数人の男が絡んできた。店主に目配せすると店主も不干渉を表すように肩をすくめた。
「ああ?無視してんじゃねえよ」
「あひゃひゃ、俺らのゆうこと聞くんだったら許してやるぜぇ」
無視されたような感じたのか男に怒気が混じり、ティナにも下卑た視線が舐めるように向けられた。ティナは不快そうに顔をしかめながらも罪悪感にまみれた表情になっている。大方盗賊だった頃の自分が女に向けていた視線の意味と不快さを理解したのだろう。
それを都合よく解釈したのか、はたまた酔っているせいで正常な判断力を失っているのか、若しくは嘗めているのか分からないが、男の1人がさりげなく庇うように前に出ていたカガリにつかみかかろうとした。
それを認識した瞬間ティナは頭が真っ白になり、我に返った時には寄ってきていた男達は皆悶絶していたり顔面が血まみれになったりして倒れ伏していた。
ティナの行動を見ていたカガリからすると、男の1人がつかみかかろうとした次の瞬間後ろから飛び出したティナが男の顔面にカガリ達が使っていたであろう木製のコップを拳ごと叩き込み、他の男達が動揺して立ち尽くしているところに男の1人の股間に手加減なしで前蹴りを放ち、続けて掬い上げるように椅子を足に引っ掛けてもう1人の頭にハイキックの要領で叩き付け、残った二人の男が対処する前に破砕した椅子の足を二人の股間に突き込んでいた。その時のティナの顔は、まさしく鬼や般若といった表現がぴったりだった。
怒涛の連撃にしんと静まり返った静寂が横たわる。店内にいた男は思わず股間を押さえ、調子にのって絡んできた男達を応援しようと口を開きかけたまま顔を青ざめさせていた。数少ない女性である女性店員だけが痛快だと言わんばかりの表情になっている。
「あ、あの・・・申し訳ありませんでした!」
固まっていたティナがカガリに深々と頭を下げ、そのまま店主、店員、客に頭を下げ、店内はやっと元の喧騒に戻った。
この時から、この街ではカガリのメイドに手を出すことはタブーとなった。それもそうである。メイド1人に男数人が数秒で制圧され、男の尊厳を奪われたものがその内半数を超えたからだ。中には復讐を考えるものもいたが、皆いつの間にか消えていた。
メイド数人が本館の前で出迎えに出てきて、ちょっと嫉妬があるのかティナに視線を向け、ティナが落ち込んでいるのを見て何かあったのかと不安になる。カガリが事情を説明すると、メイド達は一様にティナを慰め殴った時に怪我をした手を治療するため本館にある医務室へ連れていった。
メイドの1人が残り、カガリに伝言を伝える。相手はここの領主で、明日迎えを寄越すから、領主の館へ来いとのことだった。
カガリはそれに明らかにめんどくさい空気を感じて嘆息しつつ、伝えてくれたメイドの額に軽くキスをした。メイドは驚いて黄色い声を上げつつ走り去り、その日は寝る前まで軽く仕事をしてベッドでティナを慰めた。
翌日領主の館に行く前に護衛させる者を選ぶことになった。条件にあった中でティナが強く要望したのでティナとメイド1人、最近あまり構ってもらえていないホーリエ、リナもついてきた。ファティナもついてきたがったが、治療が万全でないのと、いくつかの要素が絡まり留守番となった。ティナは昨日のデートの汚名返上らしいとメイドが話しているのを聞いた。
(・・・別に、返上するような汚名なんてないと思うんだが)
内心そんなことを思っているカガリだが、実力は申し分なかったので連れていくことにした。
マリアとヤトは治療にあと半月程かかり、特にマリアはリハビリも兼ねて行動する許可が出るには更にもうしばらくかかるので、今回はまだ治療中だ。
領主の館まで寄越された馬車に乗って向かう。道中御者に話し掛けていたが、領主の目的について確たる証拠は手に入れられなかった。
館は質実剛健、という表現がピッタリの、無駄に豪奢な飾りがない代わりにしっかりとした造りのものが沢山置かれていた。カガリ達は出迎えた使用人に案内され応接間に案内される。ホーリエとリナは初めて見る館の内部にあちこち視線を巡らせ、ティナともう1人のメイドは緊張した面持ちで先頭を歩くカガリの両脇を一歩遅れてついてくる。応接間につくとそこには既に領主らしき壮年の男と、一番の上座であろうデスクにふんぞり返って座った青年がいた。青年の側には騎士のような服装の男女がいた。
青年は不躾に値踏みするようにカガリ達を見て、ティナとリナをジロジロと舐めるように下卑た視線で眺め回した。ティナは嫌悪感タップリに顔をしかめ、リナはカガリの影に隠れるように移動し「うう、気持ち悪いです」とカガリだけに聞こえる音量でボヤいたので、カガリは危うく顔面崩壊しかけたのを必死で取り繕いつつ領主の前に座った。
「初めまして、カガリと言います」
「うむ、バルズ・という」
互いに自己紹介を始める。デスクにふんぞり返った青年についてはスルーらしい。
「それで、今日のお話ですが・・・」
「持っている魔宝石全部余に寄越せ」
切り出した所で横合いから青年が投げつけるように言葉を発してきた。
「・・・どういうことでしょう」
カガリは迷わずバルズへ矛先を向ける。どうせこの青年がお偉いさんで、このおっさんへ圧力かけて板ばさみになりかけ自分にそれを押し付けたようなものだろうと考え、はじめから容赦するつもりがなくなった。
「いや、そういえばカガリ殿は幾つ魔宝石を持っていらっしゃるのだ?」
話を誤魔化すように核心へと近づけるバルズにホーリエは不思議そうにカガリとバルズの顔を見比べ、リナは失言しないようにと口を引き締めている(ティナとメイドはカガリの後ろに控えている)。
「そうですね、後これくらいですかね」
そう言いつつ5つの魔宝石を懐から取り出した。今日の朝から来る時点で用件は大体予想できていたからあらかじめ仕舞っておいた。
「それでいい。さっさとよこせ」
「・・・で、誰なんです?コレ」
モノ扱いで青年を指し示すカガリに、左右の騎士が怒気を向けてくる。
「・・・貴様、今余をなんと言った?」
「さてね。ではバルズ様、この魔宝石についてですが、一つ7ゴルドでお譲りいたします」
「そ、それはさすがに高すぎでは・・・?」
バルズがカガリの言葉に戸惑う。スルーされた青年は額に青筋を浮かべ始める。
(あおり耐性なさ過ぎだろ)
カガリがそのまま空気のように青年を放置しているので、他のカガリ側の面々もまるで空気のように扱っていた、いや、正確には空気と同じようでは空気に失礼とばかりにその存在がないかのように自然に無視していた。
「・・・ふざけるな!この方をどなたと心得る!そこへ直れ!その首叩き切ってくれる!」
先に音を上げたのは男の騎士、自分の剣の柄に手を置いてカガリを威圧しようとした。その次の瞬間ティナとメイドから狂気にも近い濃密な殺気がピンポイントで男の騎士の威圧を叩き潰し戦意を丸ごと挫かせた。騎士は崩れ落ちそうになる膝を残った気合でなんとか支えている。その様子に女の騎士は気づいたが青年は気づかず訝しげな顔になっただけだ。
「どなたなんです?」
カガリがとりあえず女の騎士のほうに問う。
「・・・この国の第三王子、アスベルト様にあらせられます」
仕方なさそうに女の騎士が答える。一応男の騎士はアスベルト第三王子の近衛騎士長であり、自分が副長なのだが、たかがメイドに気圧されている時点で若干失望している(カガリのメイドたちはへーリネンとジューベー、娘達に鍛え上げられた精鋭が多いため、あまり正確な比較対象にはならないが)。
「王子であらせられましたか。コレは失礼をいたしました」
まるで謝罪しているような雰囲気のない謝罪に青年はカガリをにらみつける。
「つきましては、謝罪もかねて決闘などどうでしょう?」
「・・・ほう」
自分の騎士に勝てるわけがないと思っているらしく、アスベルト第三王子は興味深そうにカガリの顔を見下すように見てあざけるように笑いつつユニークな提案に興味を示す。
「こちらが勝てば・・・そうですね、先ほどの無礼な振る舞い、今後の無礼な振る舞いを容認していただき、魔宝石を一個10ゴルドで買い取って頂きましょう」
「こちらが勝った場合は?」
「魔宝石をただで譲りますし、追加で20個ほどご用意いたします」
その言葉に女の騎士とバルズが目を見開く。
「足りん・・・そこのメイドとその女もだ」
「・・・この女性はうちのお客人でして、バルズ様に面会させるために連れてきたのであって掛け金には載せられません」
更に吹っかけてきたアルベルトに、コレは少しは乗らないと機嫌を損ねると判断し、指名されて蛆虫を見るような目でアスベルト第三王子を見ていたティナに目配せをする。ティナは全幅の信頼を置いているのかカガリにはにっこりと笑い頷いた。それを勘違いしたのかアスベルト第三王子は嬉しそうに口元をゆがめた。
カガリは一応用意していた魔法契約書類(コレは商人ギルドで見た後迷宮でポイントを使って購入したランク高めのもの)に先ほどの条項と、適当な話術で誤魔化しいくつかの条項とペナルティを増やした。
決闘の方法として、いくつかの説明を受ける。
・最大3人の参加で、降参もしくは全員が戦闘不能になったほうが敗北となる。
・魔法、武器の制限はないが、致死の攻撃は違反とみなし、違反者側の強制的な敗北となる。
・人数に不均衡が生まれた場合、人数の少ないほうが無傷で10分しのげば強制的に人数の少ないほうの勝利となる。
・何らかの脅迫、妨害などの行為は戦闘前後、戦闘中において関係者が行った場合も違反とみなし強制的に関係者側が敗北となる。
・無関係のものに前項を強要し、為そうとした場合も関係者側の強制的な敗北となる。
こんな感じのルールで、アスベルト第三王子側は騎士二人で出るらしい。
「そ、そんな!私も出してください!」
ティナがそう言うが、ティナは昨日の怪我でまだ万全ではない。もう一人のメイドのほうもカガリの作戦上出すわけには行かないし、ホーリエは積極的な戦闘員として連れてきたつもりはないのでコレも却下だ。出るのはカガリ一人になる。
「心配要らない。俺の女に色目使おうとした時点で俺も頭にきてるんだ」
素の口調でそう言うと、それが本気だと理解したのか、不満そうに唇を尖らせながらも引き下がったティナの頭をぽんぽんと撫で、決闘場所となった領主の館の中庭中央へ進み出ていった。騎士たちは全身甲冑で完全装備だ。男のほうは両手剣、女のほうは両手槍のようだ。対するカガリは軽装で、胴体と手足に防弾ジャケットのようなものと金属製の薄い小手を着けている。手持ちの武器はナイフ一本。
「・・・なめてるのか?」
「いえ?単に今装備できるものがコレくらいしかないので」
不機嫌に問う男の騎士にカガリは肩をすくめつつ手に持ったナイフをひらひらさせる。審判は領主とリナだ。領主もリナも、片方だけでは公平にならないと考えられるための措置だ。ちなみにリナにはストップウォッチを持ってもらっている。
「では両者準備が整ったところで、戦闘開始!」
「負けるではないぞ!」
「「カガリ様頑張ってー!」」
バルズの決闘開始の合図に、アスベルト第三王子とメイドたちの声援が届いた(王子側は声援と言っていいのか微妙だが)。
「起動、『城』」
カガリがそれを聞いてからこの体に刻んである刻印のひとつを起動させる。次の瞬間あと数歩で間合いに入るところで騎士たちが壁にぶち当たったかのように弾かれた。
「ぐはっ」
「げふっ」
不可視の壁に勢いよくぶつかったためか、二人とも弾かれたまま起き上がれないでいる。
「お前ら、何をしている!さっさと倒さぬか!」
激昂するアスベルト第三王子の叱咤に騎士たちはよろよろと立ち上がった。そのまま武器を構えなおすがどうにもしっかりと力が入っている様子はない。
「リナ、ストップウォッチは?」
「は、はい!動かしました!」
今動かしたのかよと思わなくもないが、あまりにあまりな展開なのだからそれも仕方ないと納得し、カガリは懐からいくつか紙を出し、読み始めた。
まるでそこが安全といわんばかりに地面に座り、書類(奴隷たちやマリアたちの治療状況報告)に目を通すカガリの姿に、侮辱されたと思った騎士たち(実際には歯牙にもかけていないだけだが)が自分の体に喝を入れて、武器を不可視の壁にたたき付ける。だがそれらの武器は硬質な音を立てて弾かれるのみで、一向に変化をもたらすことができない。そのことに業を煮やしたのか、女の騎士は少し下がって魔法を詠唱し始めた。魔力の規模から言ってそれなりに大きい魔法を使おうとしているらしい。
「~。『トルネード』!」
「『城』、大砲展開、発射」
女騎士の風の魔法に相殺するように不可視の壁から不可視の砲弾が飛び出しぶちあたった。大砲はすぐにかき消されたが、半分近くまで減った女騎士の魔法は不可視の壁に当たっても特に効果を及ぼすことができなかった。
その後は面倒くさくなったカガリは特に対応することなくリナが声をかけるまで騎士たちは無駄な努力を続けることになった。
「勝者、カガリ殿!」
バルズの決着を示す声にカガリは立ち上がり、騎士たちは力尽きたように崩れ落ちた。アスベルト第三王子は悔しそうに地団太を踏んでいる。
「き、貴様!覚えていろ!後で必ずお前にふさわしい罰を与えてやる!」
「「「「あ」」」」
魔法契約書の条項に書かれた内容を思い出したカガリ達の面々はアスベルト第三王子の言葉に思わず声を上げてしまった。違反時のペナルティについても知っているカガリが今後の展開に思わずため息をついた。
次の瞬間騎士たちとアスベルト第三王子の首に真っ黒な茨模様の刻印が現れる。コレはもともと違反者用に用意されたものの一種で、違反し敗北、もしくは罪を犯したものは特定の相手に対し逆らえなくなるものなのだ。この魔法契約書を作るときに保険として作ったペナルティだったが、ものの見事に地雷を踏んだアスベルト第三王子にカガリはあきれ返った。ペナルティはこの先一生カガリにはむかうことができない上に、もう一つのペナルティ、1年間のカガリの元での勤労義務が与えられるのだ。騎士たちはそのとばっちりを受けたに過ぎないので、正直同情してしまう。
「では行きましょうか」
「く、ふざけ」
「煩い黙れ」
「・・・っ、っ!」
カガリの命令にアスベルトは声が出せなくなった。刻印の効果が十分に示されていることに満足し、騎士たちごと領主に頼んで馬車に乗せてもらった。
「最後に、バルズ様」
「な、なんだ?」
あまりに急な展開に、バルズは動揺したままカガリを見る。他の者たちは皆馬車に乗ってしまっている。
「今後ともよい付き合いをしていきたいものですね」
「あ、ああ。そうだな」
にこやかに笑うカガリにどもりながらもバルズは返事を返す。
「仲良くしてくださったなら、娘さんも帰ってくるかもしれませんよ?」
「・・・!?なんだと!」
「いえ、この街に来る道中にあったゴブリンの巣で娘さんを助けたので、現在治療中ですが」
「そ、そうなのか」
一瞬脅しかと思い身構えたが理由を聞いて脱力しかけまた一種の脅しとなることに気づいて目を見開く。
「あと半月ほどで治療を終える予定ですので、そのときには連れてくることができると思います」
「そ、そうなのか・・・娘は、無事なのか?」
「犯されてはいましたが、命に別状はありません」
カガリの返事にバルズは思わず顔をしかめてしまう。娘との婚姻相手にこのことがばれてしまえば汚らわしいといって断るものも一気に多くなるだろうと思っていたからだ。実を言うと冒険者にもこの醜聞を広めるわけにも行かず、自分の兵士たちに秘密裏に捜索をさせていたのだが、今まで見つからなかったのだ。
「ではこれで」
「あ、ああ。ではな」
カガリは一礼して馬車に乗って領主の館を去った。
カガリの本館へ戻ったカガリはいくつか命令を出してアスベルト第三王子を真っ暗な部屋の一室に、騎士たちをそれぞれ一人ずつ地下に入れて迷宮へと戻った。ティナたちの様子を今まで見てきて、産出部屋などに入れたほかのメイドたちを解放してもいいだろうと思ったからだ。他にもマリアとヤトの現在の状況を見るというものもある。
アッレに指示を出して壊れてしまった者をカプセルに入れ、まだ正気を保っていたものを大広間へと連れてくるように言う。やがて大広間へと来たメイドたち(最低限の衣類しか着ていない)5人がカガリの姿を視認すると、号泣しつつカガリの前にひれ伏した。
「ああ、ああ。やっとお許しいただけるのですね」
「誠心誠意尽くします。ですからもう捨てないでください」
「また主様と会えるなんて、夢のようです」
「一生、死んでからもあなた様にお仕えいたします」
「あなたのためなら命を捨てます、命を奪います。どうかご存分にお使いください」
5人のメイドが涙ながらに忠誠を誓う。このメイド達を中心とした産出部屋、苗床部屋にいたメイドたちは皆狂信的なまでの忠誠心を持った恐るべきメイド部隊となるのだが、それはまたしばらく後の話。
今はカガリが手ずから一緒に風呂に入り、全身を洗ってやる。最初は恐縮し平伏していた彼女たちだったが、カガリに命令されて恥ずかしそうにしながらも洗ってもらっていた。実際彼女たちはまだ解放されたばかりで全身が疲れ切って動くことすらつらいくらいなのである。それでも動くのはカガリが今晩可愛がると宣言したからなのだが。
触手にやられたりしていい感じにほぐれたりゆるくなった全身をマッサージするように丁寧に洗うカガリに、メイドたちは感涙が止まらなかった。
それから数週間の間、用事がない限りはそれらのメイドたちの世話を焼いて手ずからや口移しで料理を食べさせ他のメイドと協力しつつも世話をしたカガリに、それらのメイド以外の、最初からメイドとして働いていた者たちも幸せをかみ締めていた。
アッレさんの教育講座
アッレ「はい、拍手」
ぱちばちばちぱち・・・
アッレ「はい、今回もやってまいりました。といっても2回目ですがね」
野猫「イエーイ!」
アッレ「作者が若干壊れているようですが、仕様なので仕方ありませんね」
野猫「仕様じゃないよ!?折角盛り上げようとした気遣いが無駄になっちゃったよ!」
アッレ「というわけで今回からたまにゲストを呼びます。ぶっちゃけキャラ1人でやっていけるほどこの業界甘くないんです」
野猫「つっこみどころが多すぎて対処できない、だと!?」
アッレ「ではゲストの、最初の方から空気のような扱いで、もはや忘れられかけているホーリエさんです」
ホーリエ「な、なんだよその紹介は!?」
野猫「ないわー、マジないわー」
アッレ「原因作者なんですけどね」
・・・作者口論中・・・
野猫「はあっ、はあっ・・・こ、これ以上は勘弁してあげる。スペースなくなるし」
アッレ「わー感謝しますー(棒読み)。まあ全カットですがね(笑)」
野猫「ぬかしよる」
アッレ「さて戯れもこの位にします。今日はこの世界の世界情勢をほんのちょっとお教えします」
野猫「お・・・おう」
アッレ「とはいっても、プロットもくそもない進行で進んでいる物語なので、教えられるのは世界の地域分布みたいなものですね」
野猫「お願いします。というかすみません」
アッレ「というわけで、しっかり聞いてくださいね?ホーリエ。でないと本当に影が薄くなりますよ?」
ホーリエ「モグモグ・・・ハッ、私は何を!?」
野猫「良いリアクションだけど私のクッキー食べてただけだよね?」
野猫ホーリエが食べていたクッキーを取り返す。
野猫「はい、あーん」
アッレ「ぱくっ、ありがとうございます」
野猫(照れないだと!?)
アッレ「えーと、では国についてですね?国は人族、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、妖精族、魔族の国が存在します」
ホーリエ「あたしは勿論人族ね」
アッレ「人族を中心としては人族の国は三つの国、自由貿易国家、宗教国家、テンプレ国家によって統治されています。細かい設定は今回ははしょります」
野猫「テンプレて(笑)」
アッレ「まあ王がいて、貴族がいて、平民がいて、奴隷がいると。ちなみにこの物語の現在の主軸はこの国家になります。国名はいつか明かされる予定です」
ホーリエ(ま、まだ大丈夫)
アッレ「エルフとドワーフの国は統一国家ですが、ハイエルフなんかは隠れ里に住んで時々口を挟んだりしているそうです」
野猫「まあ立場上逆らいにくいだろうしね」
アッレ「亜人族と魔族は多数の種族がいるため、それぞれに連合国家のようなものを構築しています。余談ですが亜人族の中でも翼人族はプライドが高いそうです」
野猫「自分だけ飛べるからとかそんな理由だろうけどね」
アッレ「最後に妖精族ですが、彼らに国家の概念はありませんが、王はいるそうです。大丈夫ですか?ホーリエ」
ホーリエ「な、なんとか。難しい話だからついていくのがやっとだったけど」
アッレ「今の話が難しかったですか?ではあなたに分かりやすく詳しく説明しましょう」
・・・少女説明中・・・
ホーリエ真っ白に燃え尽きている。
アッレ「・・・やり過ぎましたかね?」
野猫「いや、質問する前に気づいとこうよ」
野猫ホーリエを膝に乗せて頭をなで始める。
アッレ「説明どうこうしている間に大分進みましたね」
ホーリエ「・・・ふっかーつ!」
アッレ驚いて椅子から転げ落ちそうになる。
アッレ「な、なんですかいきなり」
野猫「ププ、良いリアクションご馳走さまでした。ちなみに復活の理由はこれ。ナシェリに元気の出るお薬もらってた」
アッレ「・・・大丈夫なんですか?それ」
野猫「まあネズミに1滴分飲ませたら半日ずっと駆け回ってたっていってた」
ホーリエがピョンピョン跳ねだしたのをアッレはひきつった顔で見ている。
野猫「・・・一本いる?」
アッレ「いえ、結構です。ではそろそろ締めましょうか。読者の皆様、ここまでふざけた話に付き合って頂きありがとうございました」
野猫「うん、ありがとう!あ、ちなみにアッレの飲んでる紅茶に1滴入ってるよ?」
アッレ「は、謀ったな!?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。