第10幕~最強同士の戦い、圧倒的な武と資質~
投稿します!
遅筆です(^_^.)
それではどうぞ!
一夜明け、鈴鐘達とトントンは庄屋の家にて朝食を取っていた。
「なに? バケモノではない?」
愛紗が一度箸を置いてを聞く。
「ああ。間違いない。あれは人間だった」
趙雲は食事を進めながら答える。すると、愛紗の表情がみるみる険しくなっていく。
「そうだったのか・・・! バケモノでないなら、もう恐れる理由はない。今度会ったら――」
「やはり恐ろしかったのだな?」
趙雲は笑みを浮かべ、茶化すように言った。
「なっ// そ、そんなこと! ・・・ゴホン! とにかく! 今度会ったら成敗してくれる!」
「鈴々がコテンパンにして退治してやるのだ!」
愛紗と鈴々は拳を強く握り込みながら意気込んだ。
「そう簡単には行かぬと思うぞ? 確かにバケモノではなかった。・・・だが、強さは言葉通り、バケモノ並みだった」
「バケモノ並み・・・」
トントンがポツリと呟く。
目を細めながら淡々と語る趙雲。その様子を見て愛紗と鈴々、トントンが息を飲む。趙雲は普段人を茶化したりからかったりするが、武に関しては冗談は言わないことを他の皆も知っているため、趙雲の言葉通りに受け取った。
「趙雲、昨夜会ったその人間の特徴ってわかる?」
鈴鐘が気がかりになっていたことを尋ねた。
「ふむ。顔は薄暗くてよく見えなかったが、背丈は私同じ・・・いや、少し高かったかな? 白い虎のような被り物を頭から纏っていた。得物は偃月刀・・・いや、あれは戟だな」
「(・・・やっぱり。じゃあ、バケモノの正体は・・・)」
趙雲の説明により、鈴鐘はバケモノの正体の全容が見えた。
「では、朝食の後、昨夜の御堂へ行き、件のバケモノの足取りを追うとしよう」
「応、なのだ!」
「そうだな」
「うん!」
※ ※ ※
そして、御堂へと足を運んだ鈴鐘達は、御堂の広場の周りを隈なく調べ始めた。
「しかし、なにもトントン殿までついてくることは・・・」
愛紗はトントンの身を案じるが、トントンは首を横に振った。
「いいえ、バケモノでないなら、このようなことをする理由があるはずです。それを確かめないと・・・」
「・・・あったぞ。奴の足跡だ」
愛紗とトントンが言葉を交わしている最中、趙雲が草むらを掻き分けた先で真新しい足跡を発見した。足跡は草むらを越えた先まで続いていた。
「この先に続いているな」
「行ってみるのだ!」
鈴々の一言により、足跡を追っていった。
「・・・ん?」
一向が先を歩く中、鈴鐘は何かを発見した。
「これは・・・」
それは、手のひらに収まる程の大きさの犬の飾り付けだった。鈴鐘はこの飾り付けに見覚えがあった。
「もう間違いない。バケモノの正体は・・・」
鈴鐘はバケモノの正体を掴んだ。
「・・・って、あれ?」
ふと、辺りを見渡すと、周囲に鈴々達の姿はなかった。
※ ※ ※
足跡を追っていくと、その先に焚火の跡とそのすぐ傍にある洞窟を発見した。
「これは・・・、間違いないな。バケモノの住処だ」
趙雲が一目見て確信する。4人が洞窟へと近づこうとしたその時!
「っ!? 愛紗、後ろだ!」
ガキン!!!
こちらへと駆けてくる足音に気付いた趙雲が愛紗に忠告をする。その言葉に愛紗が振り向くと、先程趙雲が説明したそのまま容姿をした者が愛紗へと斬りかかり、それを愛紗が咄嗟に青竜偃月刀で受け止めた。
「トントン、下がるのだ!」
「は、はい!」
鈴々の言葉に従い、トントン後方の木の後ろまで下がった。
「気を付けろ、奴だ」
趙雲のその言葉を聞き、全員が得物を構えた。
「昨日、勝手に気絶した奴」
「き、昨日は深くを取ったが・・・」
「今日は負けないのだ!」
現れた者の言葉に鈴々と愛紗は恥ずかしそうに意気込む。
「・・・お主、バケモノでないなら名があろう?」
趙雲の問いに、バケモノと呼ばれていた者が被り物を取り払った。すると、女性の素顔が露わになった。
「呂布・・・字は奉先」
「では呂布とやら、参るぞ!」
その言葉を皮切りに戦いが始まった。
「はぁぁぁぁっ!」
愛紗が初めに青竜偃月刀を振るった。
ガキィィィン!!!
「ぐぅっ!」
その一撃は呂布の払うような一撃により、愛紗ごと弾かれてしまった。
「今度は鈴々からなのだ!」
すぐさま鈴々が蛇矛を振るった。
ギィィィィン!!!
「にゃぁっ!」
その一撃も返す刀で弾かれ、鈴々ごと弾き飛ばされる。
「な、なんて一撃だ・・・」
「こんなの初めてなのだ・・・」
その圧倒的な力に鈴々と愛紗は驚愕した。
「言っただろう。強さはバケモノ並みだと」
趙雲はグッと龍牙を握り、呂布へと向かっていった。
鈴々、愛紗に加え、趙雲が参加し、連携を組みながら呂布に向かっていく。だが、呂布は全く意に返さず、いなしていく。
呂布の圧倒的な力と技の冴えにより、鈴々達は徐々に劣性へと追いやられていく。遂には防戦一方となり・・・。
ドガッ!!!
「がっ!」
愛紗は呂布の一撃により吹き飛ばされ、倒れ込んでしまう。鈴々、趙雲も既に地に膝を着け、肩で息をしている。
「お前達、弱い」
呂布は3人を見下ろしながら告げる。
「まだ・・・まだなのだーーーーっ!」
鈴々は蛇矛を杖替わりに立ち上がると、再び、呂布へと向かっていき、蛇矛を振るった。
「遅い」
ガギィィィィン!!!
「にゃぁぁぁっ!」
「鈴々!」
だが、その一撃も呂布に届くことはなく、呂布の払った一撃により、鈴々は蛇矛を飛ばされながら弾かれていった。
「まずは、お前から」
倒れ込んだ鈴々はもはや、起き上がることができない程に疲弊しており、何の抵抗もできなくなっていた。
ブォン!!!
そんな鈴々に無情にも振り下される方天画戟。
抵抗のできない鈴々は両目を閉じ、覚悟を決めた。
ギィィィィィィン!!!
鳴り響く轟音。鈴々がおそるおそる目を開ける。
「あっ・・・」
「大丈夫、鈴々?」
「お姉・・・ちゃん・・・」
鈴々が目を開けると、呂布の一撃を受け止めている鈴鐘の姿が目に入った。
「・・・」
呂布は一度下がり、距離を取った。
「鈴鐘! お前、今まで姿がないと思っていたが・・・」
「皆、ひどいよ。私のこと置いてけぼりにするんだもん」
鈴鐘が口を尖らせながら言う。
「まぁ、それはともかく・・・」
鈴鐘が呂布へと振り返る。
「昨夜、趙雲を倒したのはあなたね?」
「そう」
鈴鐘の質問に呂布はただ一言で答える。
「(やっぱり、恋だったんだね)」
趙雲をいとも容易く昏倒させた相手。バケモノの正体は鈴鐘の予想通りの人物だった。
「(恋がこんなことをするのにはきっと訳があるんだと思う。けど、鈴々達を痛めつけてくれた借りだけは返しておかないとね)」
鈴鐘は蛇矛を構え・・・。
「ここからは私が相手だよ」
呂布に向けて言い放った。
「よせ! 呂布は我ら3人がかりでもこの有り様なのだ。いくらお前でも――」
「大丈夫。心配はいらないから」
愛紗の心配に対し、鈴鐘は薄く笑みを浮かべながら答えた。
「だが・・・!」
尚も止めようとする愛紗を趙雲が制止する。
「案ずるな、張翔ならば大丈夫だ」
「星・・・」
「(ずば抜けた強さを持つ張翔。そして、我ら3人を圧倒した呂布。この2人がぶつかればどうなるのか・・・)」
趙雲はこの戦いの結末がどうなるか。見当が付かなかった。
ジャリ・・・。
鈴鐘と呂布の双方が構える。
その光景を固唾を飲みながら見守る鈴々と愛紗と趙雲。
「「行くよ(行く)!」」
両者が同時に動き出した。
ガキィィィィィン!!!
両者の得物が激突する。
「はぁ!」
ギィン!!!
「ぐっ!」
呂布の方天画戟が弾かれる。
「なっ!? 呂布のあの重い一撃を弾き飛ばしただと!?」
愛紗は驚愕した。一撃を受ける度に腕が痺れてしまう程の呂布の剛撃。それを防ぐどころか弾き返してしまった。
呂布は一瞬、顔を歪ませるも、すぐさま体勢を立て直す。
「お前、強い」
「あなたもね」
呂布の問いかけに笑顔で返す鈴鐘。呂布の実力は天下無双と謳われる程。その強さは群を抜いていた。元の世界の呂布であるならこの勝負はどう転ぶかわからない。だが・・・。
「(この恋は私の知ってる恋程じゃない。今の恋なら、勝てる!)」
一合の激突で呂布の実力を推し量った鈴鐘は勝利を確信する。
「まだまだ、行くよ!」
鈴鐘は地を蹴り、再度呂布に攻撃を仕掛ける。
ブォン!!!
鈴鐘が横薙ぎの一撃を振るう。呂布は頭を下げてそれをかわす。
「隙あり」
呂布はこの空振りによって出来た隙に一撃を繰り出そうとしている。鈴鐘の得物である蛇矛は間合いは大きいがかわされると出来る隙もまた多い。
「なんの!」
だが、鈴鐘は横薙ぎの回転を止めるのではなく、その勢いのまま1回転し、蛇矛の後ろ側で一撃を見舞った。
ガキン!!!
「っ!?」
呂布はそれに何とか反応し、紙一重でその一撃を受け止める。
「やるね! けど、まだまだだよ!」
鈴鐘は蛇矛から手を放し、さらに1回転し、呂布に向かって蹴りを繰り出した。
ガッ!!!
「ぐっ!」
呂布はこれにも何とか反応し、自身の腕でその蹴りを防いだ。だが、蹴りの威力が思いのほか強かったことと、不安定な体勢で受け止めたため、数メートル程吹き飛ぶ。
「これも止められた」
鈴鐘はそう呟くも、特に動揺はしておらず、爪先で蛇矛を掬い上げ、その手に掴んだ。
「さあ、どんどん行くよ!」
鈴鐘は叫び、呂布に向かっていく。
ブォン! ギィン! ガキィン! ブォン!
「ぐっ! ・・・くっ!」
鈴鐘が繰り出す一撃一撃はとても鋭く、速く、重く、手数が多い。さらにそれを緩急を付けながら巧みに繰り出しているため、呂布は何とか凌いでいるものの、防戦に追われている。
呂布は全ての攻撃を避け切れず、要所要所で方天画戟で受け止めるが、その都度、鈴鐘の威力ある一撃に体勢を崩されてしまい、防戦一方となっている。
ガキィィィン!!!
「うっ!」
鈴鐘の一撃を受け止めた呂布が後ろへとのけ反り、大きく体勢を崩した。
「隙あり!」
その隙を鈴鐘は見逃さず、トドメとばかりに追い打ちをかけていく。体勢的に避けることも防ぐことも困難。ところが・・・。
ドクン!!!
「っ!?」
鈴鐘は嫌な胸騒ぎがし、咄嗟に呂布から距離を取った。
「お姉ちゃん? どうしたのだ?」
「何故引いたのだ? 絶好の好機だったというのに・・・」
鈴々と愛紗は鈴鐘の行動を不思議がるように言う。
「(嫌な予感がした。・・・もし、あのままいっていたら、やられていたのは私・・・)」
歴戦の武人たる鈴鐘の勘が働き、咄嗟に身体が後ろに退いていた。
「・・・だんだんお前の動きと力に慣れてきた。戦い方もわかった」
呂布はそう呟き、鈴鐘との距離を詰めると、自身の方天画戟を振るった。
ガキィィィィィン!!!
「なっ!?」
今度は鈴鐘が驚愕する。それは先程まで力負けしていた呂布が、今度は互角の鍔迫り合いをしたからだ。
力はそんな僅かな間に上がるものではない。それを良く知っているため、この事実に驚きを隠せなかった。
「腕の力だけではダメ。もっと、身体を使って・・・」
呂布がぶつぶつと呟きながら方天画戟をもう一度振るう。
ギィィィィィン!!!
「ぐっ!」
鈴鐘はその一撃を受け止めるも、その威力に押され、後方に弾かれる。
「(今のって!?)」
今の一撃を受け、鈴鐘はさらに驚愕する。今、呂布がした得物の振るい方が、先程まで自分がしていた得物の振るい方ととても酷似していたからだ。
「今のも違う。・・・もっと、腕から足の力を・・・」
再び呟きながら呂布が鈴鐘に向かっていく。
ブォン!!!
先程以上に鋭い一撃が鈴鐘を襲う。鈴鐘は苦悶の表情を浮かべながら何とかその一撃をかわす。
鈴鐘は距離を取り、体勢を立て直す。
「(まさか、今までの斬り合いで私の戦い方を会得したの?)」
鈴鐘は驚きを隠せなかった。鈴鐘の戦い方。それは全身のバネ、さらには、全身の筋肉を使うことにより、全身の全ての力が蛇矛に集約され、より速く、鋭く、重い一撃を繰り出し続けることができる。
この戦い方は一長一短行えるものではない。並みの者が行えば振るった得物に身体が流され、大きく隙を作りだすことになってしまう。鈴鐘自身、この戦い方ができるようになるまでにかなりの年月を要した。
だが、呂布は一連の動きを見て、受けただけでそれをそっくりそのまま真似てしまった。
鈴鐘は、呂布の恐ろしさと同時に強さの秘密を改めて実感した。
呂布の強さの秘密は、圧倒的な身体能力だけではなく、その高い学習能力にあった。相手の武が自分にとって有益であるなら、即座に見て学び、それを瞬時に覚え、真似てしまう。これが天下無双と謳われる呂布の強さを支える秘密だった。
「・・・っ」
鈴鐘の額から冷や汗が流れる。
かつては、ここにいる鈴々、愛紗、趙雲と同じ、3人がかりで手も足もでなかった相手。そんな呂布に追いつくため、死にもの狂いで修行に励んだ。
追えども追えども追いつけず、年月を費やしてようやく肩を並べるまでに至った。
この世界の呂布は、先程まで、確かに自分の後ろにいた。だが、呂布は鈴鐘のように徐々に距離を詰めていくのではなく、気が付けば自分のすぐ後ろにまで距離を詰めていた。再び引き離してもすぐさま距離を詰める。
追う側となった呂布は、これほどまでに恐ろしいものであると、改めて実感した。
だが、鈴鐘は、恐ろしさを感じるのと同時に・・・。
「(でも、それでこそ恋なのだ)」
嬉しさも感じていた。
「お前、強い。ここまで強い相手は初めて。だから楽しい」
当の呂布も同様の気持ちであった。
この世界に来て、これまで本気で武を振るえる相手がおらず、ストレスを溜めていた鈴鐘。
圧倒的で武を持って生まれたため、これまで自分と対等に戦える相手と巡り合えなかった呂布。
互いに全力で打ち合える相手に巡り合い、互いに心の中がどんどん高揚していった。
「私も楽しいよ。だから、どんどん続けるよ!」
ドン!!!
両者が同時に飛び出した。
ガキィィィィィィィン!!!
互いの得物がぶつかり、大きな轟音が響き渡る。それがさらなる激闘の幕開けとなった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ギィン! ビュン! ブォン! ガキィン!
2人の戦いが始まって1時間程が経過しようとしていた。
互いに恐ろしいまでの一撃を繰り出し続け、高い次元で均衡を保っていた。
鈴鐘がどんどんギアを上げるが、呂布は難なくそれについていく。鈴鐘にはそれが妬ましくもあったが、それ以上に身体がどんどん高揚していった。
鈴鐘、呂布共にその表情は明るかった。
「すごいのだぁ・・・」
「まさか、これほどとは・・・」
「・・・どちらもバケモノだな」
その光景を見守っていた3人から思わず感嘆の声が漏れる。
自分達と次元が違うことが手に取るように伝わってきていた。
ガキィィィィン!!!
両者の得物が激突する。
2人の表情は、まるで恋人と舞いでも踊っているかのように晴れやかだった。
この時間がいつまでも続けばいい。2人の胸の中はそれが占めていた。
だが、2人の戦いは、それは突然に終焉を迎えた。
バキィィィッ!!!
呂布の一撃を鈴鐘がかわしたその時、その一撃によって傍にあった大木が斬り倒された。その直後!
「キャンキャン!」
不幸にもそのタイミングに一匹の子犬が現れ、その子犬に斬られた大木が襲いかかった。
「セキト!」
呂布が叫ぶ。
「危ない!」
傍にいたトントンが庇うためにその子犬の下に駆け寄り、抱きしめた。
「あっ!?」
斬られた大木がトントンにのしかかる。
ドォォォォォォン!!!
大木がトントンに襲いかかる。その事実を目の当たりにし、鈴鐘が言葉を失う。
戦いに集中にし過ぎたあまり、トントンを助けられなかった鈴鐘。だが・・・。
「こっちは大丈夫だ」
「間一髪なのだ!」
その大木を鈴々と愛紗が自身の得物で受け止めていた。
「あはは、くすぐったい♪」
当の子犬は、自分が危機的状況に陥っていたとは理解できておらず、のんきにトントンの頬を舐めていた。
「ホッ・・・良かった・・・」
「セキト・・・」
鈴鐘と呂布はトントンと子犬が無事であったことに安堵した。そして、改めて振り返った。
「「・・・」」
だが、今の一連の出来事のより、張り詰めていたものが緩んでしまい、再戦、という気持ちにはならなかった。
「お前達、良い奴。良い奴とは戦えない」
「残念だけど、この勝負は引き分けだね」
鈴鐘は構えを解いた。
「引き分け・・・じゃない・・・ぐっ!」
突如、呂布はその場で座り込んでしまった。
「呂布よ。いったいどうしたのだ!?」
「怪我でもしたのか?」
慌てて愛紗と趙雲が呂布に駆け寄る。
「ハァ・・・ハァ・・・怪我・・・じゃない」
呂布はその場でへたり込み、大きく肩で息をしていた。
いくら天賦の才と身体能力を有する呂布であっても、鈴鐘の戦い方を続けるには無理があった。
必要な体力と筋力を地道に付けながらその武を会得した鈴鐘に対し、呂布は現状の能力でそれを再現した。全身のバネと筋力を隈なく使用するその戦い方は身体へかかる負担がとても大きく。これをずっと続ければ自ずとすぐに限界がきてしまう。
もはや立つ体力も残っておらず、大きく肩で息をしている呂布に対し、鈴鐘は軽く身体が蒸気しているだけ。
戦いに夢中で、かつ、高揚していたため、実感がなかったが、呂布はとっくに限界を超えていた。仮に先のアクシデントがなくとも、遅かれ早かれ身体が限界を向かえていたことだろう。
「恋、もう限界だった。だからお前の勝ち」
呂布はその事実を理解しており、素直に負けを認めた。だが、鈴鐘は首を横に振った。
「ううん。決着はつかなかったんだからこの勝負は引き分けだよ。また勝負しようね!」
鈴鐘は笑顔で手を差し出した。
「・・・わかった。次は負けない」
その手を呂布は笑顔で握った。
「恋・・・って、呼んでほしい」
「うん! じゃあ、私のことは鈴鐘って呼んでね!」
2人は真名を交換し合った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
恋の呼吸が整うと、今回のバケモノ騒動のことを聞くことにした。その前に・・・。
「これ、恋のだよね?」
鈴鐘が御堂で拾った子犬の飾り付けを恋に渡した。
「ありがとう。恋の宝物。無くしたと思った」
恋は礼を言いながらそれを受け取った。そして、今回の騒動のことを話しはじめた。
「村人に食べ物を供えさせていたのは、子犬の餌にするためだったのですね」
事情を聞いたトントンが納得する。
「(恋が理由もなくこんなことするわけないもんね)」
鈴鐘も理由に納得した。
「自分で餌代を稼ごうとしたこともあったけど・・・」
天下無双の武を持つ呂布だが、それ以外のことはからっきしで、どれも上手く行かなかったことを話していく。
「んにゃ~、ダメダメなのだ」
「お前が言うな」
そう感想を漏らす鈴々を愛紗がジトッとした目をしながらツッコむ。
「だが、子犬1匹にあれだけの食糧は必要ないのではないか?」
趙雲が気になっていたことを尋ねる。
御堂に供えた食べ物はかなりの量であり、子犬1匹では有り余る程だ。
「1匹じゃない」
呂布はそう答え、口に指をくわえると、ピィーと音を鳴らした。すると、傍の洞窟の中からたくさんの犬達がぞろぞろと現れた。
「確かに、これだけ犬がたくさんいると、あれだけの食糧が必要になるよね」
「皆、友達。怪我をしていたり、捨てられたり。可愛そうで、ほっとけなくて・・・」
恋は悲しそうな表情で言う。
バケモノ騒動の真相を理解した鈴鐘達だが、このままというわけにもいかない。この先どうするか考えていると・・・。
「あー! 月!」
「月様!」
突如、そんな声が聞こえてきた。
「あっ、詠ちゃん、華雄さん♪」
トントンが突如現れた者達ところへ向かっていった。
「詠ちゃん♪ じゃない! もう、心配かけて」
「ハッハッハッ! まあ、賈駆よ。こうして無事に見つかったのだから、そういきり立つこともなかろう」
メガネをかけた軍師の容貌をした女性を戦斧を持った武人が窘めた。
「(詠! それに想華!)」
鈴鐘は元の世界で縁がある者が現れ、少々心を躍らせていた。
「それで? バケモノ騒動の件はどうなったの?」
「もう解決しちゃった♪」
「あー、そうなの・・・」
笑顔で答えるトントンに賈駆は肩を落とす。そこに、鈴々達が歩み寄ってくる。
「お取り込み中すまないが、お主達はいったい・・・」
愛紗が尋ねると・・・。
「我が名は賈駆、字は文和」
「私の名は華雄だ」
2人は自己紹介をする。そして、賈駆が手のひらをトントンに向け・・・。
「こちらにおられる太守様である、董卓様に仕える者だ」
それを聞き・・・。
「「「えぇぇぇぇぇーーーーーっ!」」」
鈴鐘を除く3人が驚きの声をあげたのだった。
※ ※ ※
そして、鈴鐘達と呂布は、庄屋の主人を連れ、この地を治める董卓の城まで案内された。
玉座の間でしばらく待っていると、きらびやかな皇族衣装に身を包んだトントン・・・董卓が姿を現した。
それを目の当たりにした鈴々達と庄屋の主人は感嘆の声を上げた。
そして、董卓の口から今回の騒動の真相の説明が庄屋の主人になされた。
「なるほど、そういうことでしたか・・・」
「はい。呂布さんのしたことは、良くないことです。ですが、これは決して悪心から出たものではなく、傷ついた犬達を救うためだったのです。門前の岩もすぐにどかしますし、出来る限りの償いもするそうです。そうですね、呂布さん?」
董卓の問いかけに・・・。
「・・・(コクリ)」
恋はコクリと頷いた。
「わかりました。すでに本人からは謝っていただきましたので、村人の方には私から話をしておきましょう」
庄屋の主人も納得し、恋のしたことを許した。
「そう言っていただけると助かります。・・・ところで、詠ちゃん。役所では、民の訴えを取り合わなかったとか・・・」
「そ、それは・・・」
董卓の言に賈駆は目を逸らす。
「董卓様。その話は既に済んだことですので・・・」
庄屋の主人は申し訳なさそうに言う。
「いえ、民からの声を疎かにしないことが政の基本なのですから。今後、このようなことがないようにしてください」
「はっ。以後、このようなことがないよう、役所の者達に徹底させます」
賈駆は右拳を左手で包み、礼をしながら返事をした。
「それで、あの犬達のことなんだけど・・・、ここで飼ってあげることはできないかしら?」
「って、あの犬全部?」
董卓の願いに賈駆が困り顔する。
「詠ちゃん。確か、警備の兵士不足で、街の治安が悪くなっているって言ってたでしょ? この犬達に警備の手助けをしてもらってはどうかしら?」
「ちゃんと躾けることができれば泥棒除けになるかもしれないけど、だれが犬達を躾ければ・・・」
「それなら大丈夫。・・・呂布さん。お願いできますか?」
董卓が呂布に視線を向ける。
「(コクリ)・・・まかせて」
恋は笑顔で頷いた。
「待って! ボクはまだ、飼うなんて一言も・・・」
たじろぎながら断ろうとする賈駆に対し・・・。
「お願い・・・」
董卓は真摯の眼差しで懇願する。
「うっ・・・」
その眼差しを受け、さらにたじろぐ賈駆。
「ジ~・・・」
その賈駆に懇願の眼差しを向ける恋と犬達。
「・・・うぅ、わかったわよ。飼うよ」
根負けした賈駆が渋々であるが、了承した。
「やった~、詠ちゃん、大好き♪」
董卓が賈駆に抱きつく。それに続いて恋が抱きつき、犬達も飛びついていった。
「あー、もう! ボクに抱きつくなぁ!」
「ハッハッハッ! こうなっては軍師殿も形無しだな」
その光景を見て華雄は豪快に笑っていた。
かくして、村を騒がせたバケモノ騒動は解決したのだった・・・。
続く
原作でいうところの第6話がこれで終了です。
途中で鈴鐘が心の中で読んだ『想華』とは、外史の守り手世界の華雄の真名です。
次回から第7話に入りますが、少々原作と変えてみようと思います。
それではまた!