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壊れた引き金

掲載日:2026/04/10

短編です

 ナイフが皮を突き破って、肉に刺さる感触が、未だに手に残る。

「「よくやった」」

 師匠の落ち着いた声が聞こえると、私はホッと肩の力が抜けるのを感じた。今日も依頼は遂行できた。依頼主にターゲットの最期の様子を動画や写真に収めて送信して、遺体を片付ける。

 重い肉片を引きずって、袋に詰めて、車に乗せる。周辺の血を拭き取って、血液の成分を薄める液剤をかける。ついでに落ちてしまったであろう髪の毛などの痕跡を確認して、何も残っていないことを自分でチェックする。これも師匠に叩き込まれた殺しのノウハウの一つだ。

 私や師匠を雇っている会社には、後片付けの部署もあるから、殺し屋が痕跡を消す必要はないのだけど、師匠は、自分で痕跡を消すようにと私に叩き込んだ。私もそれは必要だと思う。会社はあくまで私を雇っているだけ。私が用済みになったら、痕跡を残して罪を殺し屋のみになすりつけ、始末する可能性がある。そうして消えていった先輩や同期を何人も見て来た。依頼をこなせないと、容赦なく殺される、ソレが殺し屋の世界だ。

「チェック完了、帰社します」

「了解した」

 簡素な報告を済ませて、ターゲットの遺体を会社に持って行って、今日の任務は終了だ。

「お疲れ様。次の依頼があるまで待機だ」

 受付のおじいさんは、そう言って、報酬を入れた袋を渡してくれた。

 部屋に戻って、着替えを済ませて風呂に入ってようやく一休み。だいぶこの生活にも慣れてきたけど、あの感触が手に残ってる。皮を破って肉に突き刺さるナイフの感触。目を閉じてしまうと、あの時の感触が蘇ってしまって夜は眠れなくなる。

 何度もう辞めようと思っているかわからない。この感触が蘇るたびに思う。このままこの仕事を続けてしまったら、私はどうなってしまうんだろう。

「「お前は俺の最高傑作だ」」

 師匠がそう言ってくれると、少し安心できたような気がする。手持ち無沙汰になって、ナイフに触れる。これも師匠に教わったことだ。武器を自分のカラダの一部にしてしまえと。そうすれば、どんな状況に置かれても、確実に任務が遂行できる。と師匠はそう言ってくれた。

 ナイフの重さが手になじむようになった気がするのは、私の最大にして、最悪の依頼をこなした時だった。

 目の前で微笑む師匠。首元から血を噴き出して、倒れていく。

「よくやった」

 最期にそう言った師匠の声はまだはっきり聞こえる。

 私を育てた師匠を、自らの手で殺すのが、最大にして最悪の依頼だった。

 あれ以来、私を止めるブレーキが壊れてしまったような気がする。最初は殺すのが怖かったはずなのに、今やナイフを突き刺す瞬間に、喜びのような物を感じるようになってしまった。手に残る感触、ターゲットの目から生気が消えていく様子。

 師匠はずっと、私の目を塞いで、見えない様にしてくれていたけど、その師匠を、私は殺してしまった。だからもう、私を止めてくれる人はいない。この仕事を続けていたら、私、どうなってしまうんだろう。いつか快楽殺人の犯人のようになってしまうんだろうか。怖い。怖いよ師匠。



——どうして師匠は死んでしまったの?——

誰も私を止めてくれない

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