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前世も今世もサレ妻みたいです

作者: 小埜我生
掲載日:2026/03/24

※浮気、モラハラ表現あります

苦手な方はお気をつけください

「そんなに文句があるなら離婚してもいいんだぞ!」

話し合いをしたかったのに夫はバンッとテーブルを叩き、立ち上がるとリビングからドタドタと足音をたてながら出ていった。

玄関が開く音がしたからきっと彼女の元へ行くのだろう。


「どうして・・・こんな風になっちゃったのよ」

一人残されテーブルへポタポタと涙が落ちる。

消えてしまいたい。

よくない考えが頭をよぎった。


その時ズキリと頭痛が走る。

もともと偏頭痛持ちだがいつも以上の痛みに頭を抱える。


「うっ、うう、痛い....」

どうしよう、このままじゃ気絶しそう。

クラクラしてきて危険を感じた。なんとか救急車にとスマホに手をのばすがそこで意識は途絶えた。


「王妃!マリアーヌ王妃!お前のせいで」

赤い火と血だまりに倒れる人々、見せしめにさらされた私達。


「ッ....!!」

目を覚ますと頭痛はなくなっていた。

結局あのまま気絶していたのだろう。

時間を確認すれば5時間ほど経っており、すでに深夜になっている。

結局夫はあれから帰っていないのだろう。

スマホに着信はない。


椅子から立ちあがり、リビングの窓へと向かう。

カーテンを開けるとそこにはキラキラとしたビル群の夜景が広がる。


窓に映る私はこの夜景に反したようにやつれていた。

頬にそっと触れる。


「これが【今】の私なのね」

私はクスリと笑った。


私の名は、瀧池(たきいけ) (めぐみ)。旧姓 (おおとり)

あの晩私は、何度目になるか夫の浮気を問い詰めていた。

結局は逆ギレされるだけで話し合いにすらならなかったが。


離婚を脅され、かつて私が愛した匠真(たくま)はもういないのだと悟り、絶望していた。

けれどもういいのだ。

諦め?怒り?いいや、違う。

思い出したのだ。自分の前世を。


かつて私はカルメロ王国の王妃マリアーヌだった。

魔法などのある世界だったから異世界だったのだろう。

前世も今世もそういうものがあるとは噂されていた。フィクションとして。

けれど実際、私の身に起きているのだから本当だったようだ。


さまざまな事を思い出して最初に思ったのは。

「前世も今世も男運がなさすぎる」

正確には夫運か。


前世の夫は当然ながらカルメロ王国 国王。

私は隣国より同盟強化の為、彼に嫁いだ。

王女として産まれたのだそこに不満はなかった。

貴族の子女や平民でさえ基本的には家の為の政略結婚が当然の世界だったのだから王女だろうと関係はなかった。


まさかこんな愚王に嫁がされるとは思わなかったが。

初夜の議が済んですぐ「私には愛する者達がたくさんいる。君には王妃として彼女らをまとめて欲しい」と言われた。

悪気すらないのだろう。


この国では正妃を迎えるまで側妃は認められない。

つまり彼女というのは王の愛妾。

まとめろと言うことはいずれその愛妾を側妃として迎え、後宮を造って管理しろと言っているのだろう。

それが王妃としてこの国に嫁いだ私の役目だと。


もちろん国のためならそれも覚悟のうえだった。

愛だの恋だの言うつもりはない。

それでも初夜を迎えたばかりの妻に情け程度もかけない事に悲しくなった。

もちろん断れるはずもなく私はそれを受け入れた。


一人、また一人と後宮へ彼の愛妾達が入ってくる。

後宮の主としての立場はあったから表向きは敬ってくるが私に王の寵が無いのは明らかで影で馬鹿にしているのは分かっている。

たまに思い出したように閨には来るが宰相などに言われ義務を果たしたいだけなのだろう。

終わればさっさと出ていく。


けれどそんな日々も終わる日がやってきた。

国民が反乱を起こしたのだ。


国王は女達とただれた生活を送り、国政は宰相を初めとした一部高位貴族が好き勝手して贈賄が横行した国へと成り下がっていた。

国民へは重税が課せられ疲弊していた。


一度、事が起きれば展開は早いもので。

私達王族は捕らえられ、耳の早い貴族は国外へ亡命した。

同盟であった祖国はこの国の現状を憂い、革命軍の方へと支援したそうだ。

つまり国王も私も見捨てられたのだ。


愚かな王と無力な王妃。

彼らにとっては何もしていなかった私すら憎しみの対象なのだ。

何もしなかった事が罪なのだ。


私はその責を己が命で償った。


そして日本に生まれ変わったのだ。もちろん恵として生きた三十年の記憶も感情もしっかりと残っている。

どちらかというと恵がマリアーヌとしての記憶を思い出したという感じかな。


もともと特段信心深くないがこの感覚を悟るというのに近いのではないか?そんな事を考えれる程度には落ち着いていた。


あれほど夫にぞんざいに扱われていた事が悲しかったのに今となってはどうでも良いどころか嬉しささえ覚えている。


なぜなら今世は裕福と言えど王族や貴族に連なるものでなく、一市民。

夫は社長だが私は専業主婦で会社運営には一切関わっていないため何の責任もない。

その夫も外に女を作っているため世話をする必要はない。

妻として生活費はかなり多めに貰っているし、このタワマンで好きに過ごさせてもらっている。

しかも日本の法律では有責者側からの離婚は認められないらしい。


つまり私はこの悠々自適な生活を私が夫に離婚を求めない限り続けれる。

しかも夫は社長として世間体を気にする方なのでわざわざ大げさにしての裁判なんて出来ないだろう。

私にしてきた事を暴露されれば旗色が悪いのはあちらだし。

恵としての私は専業主婦ではあるが婚約者の次期からたびたびパーティーなど挨拶回りに付き添っているし、提携企業の社長さんや会長さんの奥方からの評判も良い。

そんな私がいらぬ騒ぎを起こすのは彼も本意ではないだろう。


まぁ、前世を思い出す前の私なら悲しみつつも彼との思い出を捨てきれず婚姻生活を続けたか私も悪いとそっと身を引いていただろう。


「なんとも都合のいい女だったのね」

また思い出してふふっと笑いが溢れる。


離婚を匂わせた日から妻の様子がおかしかった。


俺は、TAKIグループの社長を務める瀧池 匠真。

昨年父親から会社を継いだ俺は忙しさを極めていた。

それなのに妻が煩わしい事を言ってきたのでつい売り言葉に買い言葉で離婚してもいいと怒鳴ってしまった。


もちろん実際そんなつもりはない。

妻である恵とは大学生時代からの付き合いで元々はサークルの後輩だった。

今時珍しいくらいの世間知らずだが育ちの良さから品が良く、気遣いも欠かさない。

見た目も相まって大和撫子という感じだった。


いずれ会社を継ぐ予定の俺は、顔も良いし女に困ったことはない。

そんな俺に媚びを売るわけでもないそんな姿勢にも好感を持てた。

社長夫人にはこんな女がふさわしいだろうと下心を持って近づいた。


思ってたよりガードが堅く、やきもきしたが一度懐に入れれば想像以上にいい女だった。

俺もやっと手に入れた事もあって大事に大事に付き合った。

俺が大学を卒業後、すぐに恵と婚約をした。

結婚は恵が卒業後にという形で。

普段厳しい両親も恵は気に入った様でトントン拍子に婚約が決まった。


父の会社に入社し、付き合いのある会社のパーティーの挨拶回りでも彼女の評判は良かった。「今時こんな大和撫子は珍しい、大事にするんだぞ」

気難しいと有名な会長もこの調子だった。

嬉しい反面どこか彼女ばかり褒められる、そんな状況に腹がたってきた。


結婚後飲み会でいつもより深酒をし、つい帰宅が遅くなった。

恵が軽く俺を注意してきたことにカチンときて怒鳴ってしまった。

しまったと思ったが恵は小さくなって何度も謝ってきた。

俺も怒鳴ってすまないと謝るとホッとしたようにまた甲斐甲斐しく世話をしてきた。

そのときスッと何かが心の内でひいた。


それから俺はことあるごとに彼女を責めた。

気付けば何事にも俺に気を遣う妻になっていた。

俺に捨てられたくない。そういう気持ちが透けて気持ちよかった。


大事に大事にしていた彼女の悲しそうな顔を見る度に愛されている事を実感していた。

言葉にすれば歪んでいるが社会に出たこともない専業主婦、しかも裕福な生活をさせているのだ感謝こそすれ文句を言われる筋合いはない。


大学時代に妻と出会ってからは彼女一筋だった。

サークルなどには狙ってる輩も多く、俺が相手だから表立っては手を出してこない。

けれど俺が卒業した後は分からない。

だからやや強引に婚姻を結んだのだ。


そのせいもあって俺は妻と付き合って以降、他の女に手を出したことはない。

けれど次期社長として寄ってくる女も多く、夜の店のプロから会社の部下とよりどりみどり。妻は俺に従順だし少しくらい遊んでもバチは当たらないだろう。


口の堅い女を中心に手を出した。

久しぶりの妻以外の女は刺激的だった。

経験豊富だからこその妖艶さ。妻としてではなく女として魅力的な女達。


朝帰りも当たり前になったつい先日ついに妻が俺に問い詰めてきた。

さすがに鈍い彼女でも俺に女の影があることには気付いていたのだろう。

疑いは言葉にせずとも、より尽くしてきていたしな。

けれどあの日ついに問い詰めてきた。


といっても話し合いしたい、浮気しているんでしょう、といった感じだったが。

久しぶりに反抗されたことに苛つき怒鳴ってしまった。

よくよく思い出せばあの日は結婚記念日だった。

だからこそ女の匂いを隠しもせず帰った俺につい反抗してしまったのだろう。

結局そのあとは彼女の一人の家に泊まった。


次の日から出張だった為、家に帰宅したのは三日後。

さすがに少しは機嫌を取っておくかと秘書に花束を手配させた。

単純な女だ。これで喜ぶだろうと思っていた。


家に帰ると妻は変わっていた。

俺が好きと言ってくれたからとのばしていた腰まであった黒髪はバッサリと肩まで切られ、茶髪に染められていた。

化粧も前より濃い気がする。

別に似合っていないわけではないが俺が好きと言ってきた見た目ではなくなっていた。


それだけでなく、俺が帰ってきても特に気にすることなく読書をしていた。

今までなら食事を用意し、帰ってきたらすぐに荷物や上着を受け取りに来ていたはず。

そういえばあの日から一切連絡がきていなかった事を思い出す。

まだ怒っているのか?


めんどくさい奴だなとため息をついたがコレを渡せば機嫌も直るだろう。

「おい、帰ったぞ。あとこれ」


「おかえりなさい」

俺に視線も向けず事務的な返事だった。

こんなこと今までなかった。


「お、おい!」


「・・・何ですか?」

俺が再度呼ぶと本を閉じ、めんどくさそうにやっとこちらを向いた。


「まだ怒ってるのか?ほら、これで機嫌を直せ」

花束を差し出した。


「花?特に好きではないですし。彼女さんの方にお渡ししたらどうですか?」


「は?」


「だから彼女さんに「嬉しくないのか?」


「そうですね。世話する手間もめんどうなので」

喜ぶと思っていたのにいっそ迷惑そうだった。

こんな妻を俺は知らない。

しかも憤っていたはずの他の女達を何のこともないように受け入れていた。


「あの、もういいですか?読みたい本があるので」


「は?俺が帰ってきたのに飯も風呂も準備ししないのか?」


「お風呂は洗ってはあるので入りたければお湯入れたらどうですか、ご飯も私の夕食の残りとか作り置きなら冷蔵庫にあります。子供でもないのですからご自身でお好きにしてください」


今までは暖かく綺麗に盛り付けた食事を用意し、風呂場には着替えも準備して俺のしたいようにしてくれていた。

それが本を読みたいからと俺に自分でしろと言い捨てた。


「お前は専業主婦だろう!!仕事しろ!!」

怒鳴ればいくら拗ねているとはいえ従うと思っていた。

しかし彼女はほほ笑みを溢した。

「ふふ、仕事ねぇ」


「!?」


「貴方は夫としての仕事をしているのかしら?」


「俺は、お前を養っているだろうが」


「そうね、だから部屋もお風呂も綺麗にしてるし、食事も盛って暖めるだけにしてあるわ。別に専業主婦って夫を子供のように全てしてあげる人ではないでしょう。だいたいある程度大きな子供なら出来る程度の事すらも出来ない大人なのかしら」


「だっだが「それに社長夫人として今までお付き合いは欠かしてないわ。これ以上何を求めているのかしら?」


「そんな態度していいと思っているのか!?離婚してもいいんだぞ!!」

さぁ、謝れと俺はニヤリと笑った。

けれど返ってきたのはとても冷たい笑みだった。


「またそれですか?出来るものならどうぞ。有責者から求める事はできませんけどね。それでもしたいなら裁判かしら」


「それは・・・」

出来るわけがない。

ただの離婚ならまだしも裁判にもつれ込み、しかも評判のよい恵へしたことを暴露されでもしたら俺の評価は最低に落ち込む。


「貴方は彼女と好きになさってください。私もこれまで通りの生活をいたします。お互いに楽しく過ごしましょう」

だから余計なマネをするな。

暗にそう言っているのだ。そこにはかつて俺が虐げた女はいなかった。


あれから私は前世で手に入れなかった平穏をついぞ手に入れた。

恵はもともと頭も良く、様々な才に溢れていた。

一度学べばだいたい出来るほどに。

唯一、内向的な上に両親に箱入り娘として育てられた為自己主張が苦手だった。


だからいくら優秀でも自信が持てなかった。

なんともったいない。

そのせいでろくでもない夫に精神的に依存していたのだろう。


これからはお互い都合の良い関係になってくれるはずだった。


「なんでこうなるのよ」

部屋に届けられるブランド品、宝石といった贈り物。

送り主は夫だ。


最初は暴露されないための口止め料かと思った。

私の平穏な生活だけ守られればこちらも余計な事しないと伝えた。

不安なら契約書を巻いたって良いとも。


「いらないなら現金にして貰っても構わない。俺が間違っていた。やっぱり俺が愛しているのは恵だけなんだ」

予想外だった。

何故、好きにしていいと見捨てた途端にこちらに気持ちを戻すのか。

正直頭を抱えている。


付き合っていた女性達もすぐにきったそうだ。

文句を言いに来た元秘書の女性がいたが私に土下座しながら愛を乞う夫を見て何も言わず帰って行った。

夫も連れて帰って欲しい。


いっそ離婚をするべきか。そう悩むこともあるが私が触るなと言えば一切近づかず。

子も付き合いも必要とせず自分が貢ぐ上で生きて欲しい。

今世は穏やかに過ごしたい私にはとても都合の良い条件。今さら働きにでるのも面倒ですし。


夫はおそらく手に入らないという経験が裕福さゆえに幼少期からほとんどなかったのだろう。だからこそ追い求めることに一種の興奮を覚えている。

本人にも自覚はないようだ。


大学時代、恵に好意を持ったのだって同じ理由だったらしい。

なかなか手に入らないそんな存在だからこそ愛おしい。

けれど手に入ってしまえば興味は落ちていく。

その上優秀な妻を出会ったときは魅力と感じたが興味が落ちれば己の自尊心を傷つける欠点と成り下がる。


自分勝手で憐れな男。

彼は、これから手に入らない私の愛を求めるだろう。

そして絶対に手に入らないからこそさらに執着する。


「私は何もしないわ。ただ幸せに生きるだけ」

いつまでも手に入らないという世界に今は幸せな夫が耐えられるならそれでもいい。

都合良く私のために生きて貰うだけ。

もしも壊れたなら・・・。


「都合のいい夫だわ」

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