旅人と嘘つき村への道
嘘つき村に行くと決めたは良いが、何かがおかしい。どれだけ道を進んでも一向に森から出られる気配がないし、そもそもこんな道の奥に集落があるのかも疑わしい。
「もしかして、あの老人に嵌められた?」
しかし、引き返す気も起きなかった。もう片方の道を行けばどちらかの村に行けるとも限らないのに、引き返す理由も見当たらなかった。
「こりゃ面倒なことになったな・・・。」
「お兄さん、何が面倒なんだい?」
突然話しかけられて、はっと振り返る。首を戻す。上を見上げる。前を見る。
「ついに幻聴まで聞こえてくるようになっちまった・・・。」
左右を見渡しても、頭上を見上げても、何もいやしない。今まで色々な旅をしてきたけれども、流石に10日間全く同じような道を歩いていたら、気もおかしくなってしまうか。
「幻聴なんて酷いじゃないか!僕はここにいるよ!」
やはり幻聴じゃない。まだ確認していない地面を凝視する。
「ここだよここ!」
その声は真後ろから聞こえた。
「なんだ・・・。カバンの中か・・・。」
しかし知らないうちに子供一人鞄に紛れて気づかないってどれだけ疲れてるんだか。
「僕が嘘つき村の住人さ!この道をまっすぐ行ったって、嘘つき村にはいけないよ。」
やはり何かおかしいとは思っていたが、まさか道が間違っているとは。確かに老人も「正直村に行きたいなら反対の道を行け」としか言ってなかったな・・・。
「じゃあどうしたらいいのか教えてくれるかい?」
「もちろんだよ!こっちこっち、着いてきて!」
その時突然私は我に返った。
「君はだれだ?」
嘘つき村の住人は自分を嘘つき村の住人だと名乗れない。正直村の住人ももちろん名乗れない。
しかし彼はもう森の中に消えてしまっていた。まるで質問から逃げるかのように。
しかし、これでは埒が明かない。このまま終わりのない一本道を歩き続けるなら、得体のしれない少年について行ったほうがマシである。
「ええい、なるようになれ!」
私は道を外れ、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れた。
そして普通に遭難した。