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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~
8/64

安寧 捌

「よろしくお願いします」

三人の子供が気迫の宿る声を合わせ一礼後、

木剣を正眼に構え距離のある目標へ視線を向ける。


開幕直後ウィルナは右手を空へと掲げ唯一の攻撃魔法を発動させ、

魔弾が魔力により精錬され次第、投げる動作を伴い目標へと発動させる。


精錬された、いびつな円錐形魔弾は投げる動作を伴う事でより明確な意思を汲み取り、より速い弾速で風切り音を伴って、自身に付与された効果を発動すべく目標へと猛進する。


左右後方に離れて展開していたロッシュベルとルルイアは、

ウィルナが魔法練成のため上空へと頂く右腕を僅かな視界にとらえた後、

即座に意図を理解。目標を挟撃すべく大きな弧を描く動線で距離を詰めてゆく。


ウィルナの初弾への対処は肩を横に開くのみ。最小の動きで軽く躱された。


「フー」という音と共に息を吐く。

狙いが甘い、目標とした胴体中央から肩口に外れている。


だが問題は無い。目的はロッシュベルとルルイア、

遠距離攻撃手段を持たない二人が同時に仕掛けるまでの時間を稼ぐ事。

目標の視線と注意をこちらに向け続ける事。


死角や意識外からの遠距離攻撃は対処が難しいはずだ。

このまま二発目三発目と撃ち続け二人が迫る頃合いで僕も距離を詰める。


はずだった。


二発目の魔法練成が終了し、

発動したと同時に目標が真っ直ぐ最短距離で詰めてきた。


二人の直線上には発動した魔弾が目標へと猛進している。


魔弾が目標に接触する直前、軽い金属音にも似た音が響き渡り

角度を変えて通り過ぎ霧散する。


正面から直視していたから確認出来た。木剣を持たない右腕の動き。

円運動で外側へと腕を回転させ、払い、いなす技。回し受け。


だがこれは父親の受け売りで、回し受けを深く理解していなし、

実際は単純に手で跳ねのけられたに過ぎない。


接敵まで猶予が無い。


「落ち着きなさい。自分の呼吸に集中するんだ」

お父さんの教えが呼び起こされる。


鼻から空気を取り込み、数秒置いて口から吐く。


自身の肩の上下を感じ、思考を巡らせる。

瞬時に思いついた選択肢の中から選定した行動は迎撃。


ウィルナは身体強化魔法を発動させ木剣を両手で握り正眼に構えた後、

左足を一歩踏み出し右上段に構え直す。


目標が左手に持つ木剣の切先をウィルナに向け左脇に引いた為、

出てくる攻撃は突きと判断。相手に合わせて構えを変更した。


飛ぶように大地を駆け距離を詰め、眼前に迫り来る目標に集中する。   


(今っ!!!)


呼吸を止め、目標の突きを躱すべく右前方へと右足を大きく踏み込み、

躰ごと回り込む形で上段から打ち下ろす。


が、目標は未だ攻撃範囲外にいた。

目標が速すぎるため予測で打ち込んだ事が災いした。


(振らされたっ)


だが、フェイントに気が付いた時には既に手遅れ。


一瞬動きを止めていた目標は、時間差でウィルナの右側へと即座に距離を詰める。


瞬間、炸裂音と共に木剣すら振るう空間が無い程に

密接していた二人の距離は瞬時に拡大してゆく。


腹部に鈍痛とかなりの衝撃を受けたウィルナは痛みに耐え歯を食いしばり、

自身を吹き飛ばし押し流す力に抗い続けた。


大地に接触しても一向に止まる気配すら無く押し流される。

体をバタつかせ何とか数秒かけて止め、顔だけを持ち上げ視線を目標に向ける。


視線の先では目標に間を抜かれたルルイアが追い付き木剣で攻撃を仕掛けている。

二人の赤茶と金の長い髪が逆巻き動きの激しさを物語る。


その奥で目標に駆けているロッシュベルを目にする。まだ大分距離がある。


ルルイアの連撃。その殆どが躱され互いの木剣が打ち鳴らされる音は数度のみ。

攻撃を仕掛けているルルイアが下がり、防戦一方の目標が距離を詰めている。


あっという間に足をすくわれ、ルルイアの眼前に切っ先が向けられる。


残ったロッシュベルに向き直り歩き出す。


ロッシュベルも警戒し、その場で正眼の構えを取り距離を測る。


数歩で足を止めた目標はロッシュベルに右手を(かざ)す。


白黄の魔法球が生み出されロッシュベルに容赦なく着弾。

炸裂音と共に弾けて消滅。その効果は衝撃を伴い被弾者を吹き飛ばした。


「みんな怪我は無いかしら?休憩にしますよ」

僕達三人を見回したカーシャおばさんの普段と変わらない優しい声が響く。


ルルイアは確かに強い。が、カーシャおばさんは桁が違う。


カーシャおばさんは右利きだが、左で木剣を持っていた。

右手で魔法を使う為なのか、ハンデをくれていたのかすら解らない。

そしてこちらへの攻撃は三手のみ、三人で挑んでも無力な完敗だった。


ルルイアが三人の中で最強なら、カーシャおばさんはこの村で最強なのだから。


故に剣槍を持つ資格と、子供達を護る使命を村の総意で託された。


腹部の痛みは多少の感覚として残ってはいるが、

すぐに跡も残らず収まるだろう。大地を転がっても傷一つ無い。


僕達にはカーシャおばさんの防御魔法が付与されている。


皆が腰掛岩に向かい、仲良く四人で腰掛ける。それがこの岩の名の由来。


ウィルナはタオルで汗を拭い、水筒を持ち上げ口を付け、

蒼天をぼんやり眺めながら思考に意識を向ける。


今回の訓練で不確かで曖昧な感覚ではあるが、

確かに存在を感じる漠然とした何かを知覚していた。


代償として体の動きが悪くなる筋力のみを強化する身体強化とは違う感覚。

同じ身体強化魔法系だが本人は自身の成長に明確な答えを出せていない。


それほどに些細な成長と認識。


ふぅーと皆が一息ついた時、鳥の鳴くような独特な音が響く、鏑矢(かぶらや)だ。

次いで重低音が特徴的な角笛が鳴らされる。


この世界で一番聞きたくない二種の音。

魔物発見の一報と村に警戒を告げる音だ。


訓練前とは全く異なる異質な緊張感が胸を圧迫した。

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