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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~
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安寧 質 

小一時間も必要とせず、頭上に到達しそうな太陽を背に、

僕と隣に立つロッシュベルは晴天を見上げ両手をかざす。


二人の視界には白黄に光を放つ魔力球が正確に捉えられている。


魔力練成は完了した。

「良し」

両手の先には自身唯一の攻撃魔法であるいびつな円錐形魔弾が顕現し、

多少の曲線を描く射線で魔力球の浮遊する空へと駆け昇り、

やがて少し横をかすめた後、少しづつ霧散し消失した。


下げた両手を見つめ、算数問題の時のルルイアのように、

「う~ん」と声が出てしまう。


これで五発目だが一度も命中しない。


次の瞬間、右方上空で巨大な爆発音と体の芯に響く振動及び衝撃波が伝わる。


空を見上げると未だ膨れ上がる黒煙と、

僅かに顔を出す紅蓮の炎が生き物の様に蠢き、やがて風に吹かれ消えてゆく。


隣に立つロッシュベル本日初弾の魔法だが相変わらず凄まじい。


しかし魔法の制御が難しいらしく、魔法球よりかなりずれて発動している、

効果範囲を小さく抑える事にも苦戦しているようだ。


そしてルルイアといえば、魔法球の制御を終了したカーシャおばさんの横で、

もろ手を挙げて「ふぁいあ~」と叫び大喜びしている。


カーシャおばさんとの訓練中のみ使用する事が出来る攻撃魔法を、

毎日使用するという日課は終了した。


ロッシュベルが横にいるからこそ実感するが、余りにも危険すぎる。

この決まり事の意味は僕を含め、ルルイアでさえ理解している。


村から少し離れた砂と小石しかないこの広場まで場所を移す事は、

誤射や暴発という不慮の事故から村と村人の為の安全策となっている。


わざわざ空に打ち上げた魔法球も、

狙いを定めるという意識を集中して持たせることで誤射を防ぐ対策となっている。


「少し休憩にします」というカーシャおばさんの言葉に促され、

四人は腰掛岩に向かいタオルで汗を拭い、水筒の水を口に含む。


一息ついた後「向こうでまってるから、作戦会議終わったら声かけてね」


作戦会議という行動を促され、ロッシュベルとルルイアが僕を見てくる。


しかしカーシャおばさんへ即座に返した僕の返答は「はい」ではなく

「いりません、二人が準備出来次第いけます」だった。


二人は水筒からグイっと水を補給し、

タオルで顔を包み深く細く息を吐いている。集中しようとしているようだ。


これには二人を焦らせてしまった形になり少し失敗した気がしたが、

しかし訓練とはいえ三人で協力し挑戦するのは初めてだ。

思い付きで決めた作戦に囚われたくはない。何より二人を信じている。


先程、長所と短所を考える時間を貰ったおかげで、

漠然と把握していた二人の力を、確かな認識として今は捉えている。


兎に角やってみる。それで改善点は色々と見えて来る筈だと考えた。


その間、僕の返事に笑顔で頷いて歩き出していたカーシャおばさんは、

腰掛岩から一定の距離まで歩いている。


「いけるよニィニィ」腰に差した木剣に手をやる。

僕達二人を呼ぶときに口にする呼び方で先に声を上げたのはルルイアだ。


「僕もいいよ」とロッシュベルも

左手に木剣を握りしめルルイアに続き準備完了を口にする。


「よし、思いっきり頑張ろう」目の前の木剣を見つめながら歩き出す。

先頭に立ちカーシャおばさんから少し離れた正面の位置へと進み向かい合う。


カーシャおばさんの両手が持ち上げられ、僕達を捕らえた手が開かれ、

まるで薄氷を踏みしだいた時の様な音と共に防御魔法が三人に発動される。


「ロッシュは攻撃魔法禁止ね」


いつもと変わらないカーシャおばさんの笑顔と口調。その後、後転し十数歩距離を取り腰に差していた木剣を左手に構えつつ向き直った。


「全力で来なさい」


開始の合図がカーシャおばさんから宣言された。普段見せる微笑みは存在しない。

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