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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

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目標と目的 (3)

五階層の巨大樹に生い茂る横に大きく太く広がる枝葉の真下、大きく広がる深緑の草原で繰り広げられているエイベル達とドラウグル二体の戦闘は、エイベル達が終始優勢を保ち続けていた。


それでも相手はアンデッドのドラウグル。


斬撃で出血する事も無ければ、痛みで動きを鈍らせることも無い。

ドラウグルが持つ巨大な両手剣は一撃でも食らえば即死か致命傷。

さらに武器の重量を感じさせない荒々しく凶暴なその動き。

確実に仕留める決め手となるのはアーロンの巨大な両手剣による強烈な斬撃。


エイベルとビルはアーロンと巨大な大剣どうしで斬り結ぶドラウグルの背後で距離を保ち、追撃する隙を伺っていた。


「こちらにヘイトを向ける。俺達の武器では仕留めきれん!」


エイベルはビルと共にドラウグルの体に刻み込んだ無数の斬撃痕を見ながら、右手のダガーを逆手に持ち直し大声を張り上げた。


エイベルは呼応したアーロンがドラウグルの斬撃を大きく後方回避したタイミングで一気に距離を詰め、背後からダガーで斬り上げる斬撃を与え、流れるように前蹴りを食らわせた。


蹴りはドラウグルの間合いから逃れる目的と、その体勢を崩し反撃を防ぐため。

間合いが近い事もあり蹴りの威力よりドラウグルの腰部を押し出す事に注力した。


エイベルの蹴りは功をそうし、エイベルは蹴りの反動で後方に跳躍して距離を取り、ドラウグルは大きく体勢を崩し前のめりになっていく。


「無理はするなよエイベル。俺達は攻撃を控える。距離を保つぞビル」


アーロンは後方回避しながら言葉ではそう叫んでいたが一瞬の二択を迫られた。


目の前にはエイベルの蹴りで大きく体勢を崩し、右足を踏み出そうとしている多少距離のある正面位置のドラウグル。


『追撃出来る!今なら仕留めきれる!!!』


アーロンは決断した。


「ここで仕留める!だぁっせあああぁっ」


独特な咆哮と共に両手で柄を握り絞め、右肩に担ぎ上げている両手剣の重量を感じ、目の前で右足を大きく踏み出して前かがみのドラウグルに斬りかかった。


「下がれ!」「アーロン!」


エイベルとビルの危険を知らせる絶叫が五階層の巨大すぎる大部屋に反響する。

アーロンが両手で握る両手剣とドラウグルの両手剣が激しく撃ち合う金属音。


ドラウグルは背後から受けたエイベルの蹴りの力に逆らわず、その押し出す力を利用して右足を大きく一歩踏み出し加速し跳躍し、右腕だけで巨大な大剣を扱い、アーロンに居合い切りにも似た薙ぎ払いの斬撃を打ち込んでいた。


『くそがっ。体勢が悪い、威力を殺しきれんか。(わり)ぃエイベル』


ドラウグルの勢い任せの斬撃に反応し辛うじて防御態勢に入ったアーロン。

しかし凶撃を受ける体勢としては不十分過ぎた。


アーロンの両手で持つ大剣は右正面で直立したがドラウグルの大剣を受けきれず、

両腕の力は押し返され、横殴りの斬撃を腹部に受けて重厚な金属音が重なった。


圧し負けたアーロンはドラウグルの凶撃で体をくの字に曲げ、横に大きく吹き飛ばされた。一撃でも食らえば即死級の斬撃をまともに受けたアーロンは、静かな湖面で水切りをする丸石のように広がる草原を数回跳ね、かなりの距離を吹き飛ばされていった。


「くそがあっ」


ドラウグル後方のエイベルは溢れる敵意をむき出しに叫んだ。

ビルはドラウグルから大きく距離を取って直剣を構え直した。


直後、ドラウグルに炎弾が直撃、その巨体は炎に包まれた。


「大丈夫かアーロン!二人はドラウグルに集中しろ!まだ動くぞ!」


声でカインと判断した二人はドラウグルから大きく距離を取って保ち、

再度カインは離れた位置で足を止めたまま両手を突き出し炎弾の構築を開始した。


が、ドラウグルに見た事も無い攻撃魔法が高速で三発撃ち込まれ、

巨体に三つの貫通した穴を空けて草原に倒れ、呆気なく霧散消滅した。


エイベル達が離れた事で万全の射線が確保されたウィルナは、

カインの右後方から魔槍三発を躊躇なく撃ち込んていだ。


『間に合った。防御魔法は展開完了したはずだ。アーロンさん』


さらには付与可能な位置までカインと共に草原を駆け抜け接近したウィルナは、

即座に離れた位置のリカルド以外の全員に防御魔法を発動展開していた。


「俺は大丈夫だ!骨に響いたが問題はない!」


草原を吹き飛ばされたアーロンが自身の状態を大声で叫び両手剣を肩に担ぎ上げ、残るドラウグル一体とただ一人で死闘を繰り広げ続けているリカルドの援護に向かう為「行くぞお前らぁ!!!」と声高に叫び駆けだした。


ウィルナの魔法を間近で見たエイベルとビル、カインは少し固まったが、

アーロンの声でリカルドの援護に駆けだしウィルナもカインに続いた。


霧散消滅した両手剣持ちは距離を詰めて攻撃してきた。しかし、リカルドが一人で抑えている大弓持ちは遠方で足を止めて矢を射かけてきた。遠距離装備の個体だから当たり前だ。そして未だリカルドまで距離がある為、全員が全力で走り続けた。


リカルドは必死だった。


相対する巨躯のドラウグルの持つ大弓は、大きく厚く強硬性と柔軟性を兼ね備えた大重量。


大弓持ちのドラウグルまで距離を詰めた疾走する時間に六度の矢を鋼鉄の盾で受け流した。木製の盾なら一射で貫通し、間違いなく動きを止められる威力と精度。


肉迫した今、ドラウグルは大弓を振り回すだけの攻撃をリカルドに仕掛け、リカルドは何度受けて吹き飛ばされても再突撃を繰り返し、まとわりつくように防御に専念していた。


『一撃が重い。だが、矢を番える時間はやらん!仲間は撃たせんぞ!』


ドラウグルの振り回す腕は一撃でリカルドの上体を受けた盾ごと跳ね上げる。

ドラウグルの振り回す大弓は一撃でリカルドを受けた盾ごと吹き飛ばす。

それでもリカルドは必死に喰らい付いてた。


何度も、何度でも。リカルドの心が折れる事は無かった、仲間のために。


「リカルドさん離れてください。僕が仕留めます」


残るドラウグルを射程に捉えたウィルナの声は、

普段からは想像も出来ないほど五階層の草原に響き渡り


「下がれリカルド。ウィルナを信じて攻撃魔法の射線を開けろ」


ウィルナの声に続いたエイベルが同じく轟く声量を響かせた。


「ぅおおおおおおおおお」


即座に呼応したリカルドは咆哮と共に前面に両手で盾を構え、正面のドラウグル目がけ全体重を盾に乗せて体当たりのシールドチャージを食らわせ、横にずれる形で駆け抜け即座に反転、同時に勢いそのままドラウグルに対して盾を構え、大きく跳躍して距離を取った。


『凄い。ドラウグルが無防備に。さすがリカルドさん!』


「撃ちます!!!」


ウィルナは右腕を自身の右に突き出し、その上空に三本の魔槍を瞬時に構築、リカルドのシールドチャージで大きく体勢を崩し、足を止めたドラウグルの無防備な胴体に三つの風穴を開けて霧散消滅させた。


ウィルナにとって、巨体のドラウグルとは言え所詮は人型。

今まで戦ってきた大型の魔獣と比較すれば小型で動きも遅く、

魔槍も単発で十分に感じたがエイベル達や今回はリカルドの命がかかっていた。

確実性を求めたウィルナは仕留める為に魔槍を三発構築して発動させていた。


「リカルド怪我は?お前が抑えてくれたおかげだ」


「あぁ。問題ない。この盾、高いだけあって命を買ったようなものだ」


心配するエイベルにリカルドは新調したばかりの盾を右手の剣でガンガンと叩き、死闘後の身体的精神的異常を感じさせない陽気さで答えた。


「ふふっ。そうか。お前は本当に凄い盾役(タンカー)だよ。後はアーロンだな」


「負傷か?怪我の具居合は?重症なのか?」


ドラウグルの消滅を確認後、エイベルがこちらに走って来るリカルドの状態を確認している最中、ビルを先頭に他全員が、先頭切って駆けていたアーロンを心配して走り寄り、エイベルとリカルドも走り出した。


「動いて大丈夫なの?」


「っしょおぉ。心配するな。俺が死人に見えるか?」


「アンデッド並みの馬鹿力はあるでしょ」


アーロンは最初に声を掛けてきたビルに左手を上げて応え、豪快に腰を下ろしながら右手に持った両手剣を草原に置いた。座り込んだアーロンは斬撃を受けた場所を手で押さえてはいるが、出血は皆無。即死級の攻撃を受けた本人はいたって元気という現象を目に、ビルとアーロンのやり取りを聞いていた他の仲間は声を上げて大笑いした。


「お前なんだろ、ウィルナ。ここまで何回か変な音を聞いてきた」


結局草原に寝転び、大の字になったアーロンは顔だけウィルナに向けた。その顔は酷く嬉しそうであり満足げに見え、その口元や目は苦笑という笑顔を見せていた。


アーロンの言葉で全員の視線はウィルナに向いた。


全員がこれまでの道中後半で薄々は気づいていた。激しい戦闘に集中する最中、自身から確かに聞こえた薄氷を踏みしだく音。その()から、敵の攻撃が自身に当たって響く金属音とダメージの少なさ。ウィルナが部隊に加入する以前は無かったアーロンの現象に対して身に覚えがある。それに先程見た規格外の攻撃魔法。だから皆は目線をウィルナに向けた。


皆の視線が集中したウィルナはどの様な表情と返答をすれば良いのか分からず、落ち込んだ暗い意識の中で硬直し、言葉なく立ち尽くした。


「そんな事はいいから鎧外して斬られた場所見せて!」


ウィルナへの視線の集中はビルの説教にも似た声で中断され、アーロンは仲間達全員から追いはぎにあうように漁られた。特にビルに。


「お前ら、ちょっと待てっ、待ってって!俺は怪我人だぞ!」


「やっぱり怪我してる。早く見せてよ」


「いや待てっ。言葉のあやってのをお前は知らんのか!」


「俺達もビルの援護に向かう。俺に続けえ」


ビルだけがアーロンを真面目に心配して言葉を続けた。他の仲間は悪ふざけを含んだ行動で、動機の半分以上がアーロンの反応を楽しむためだった。苦笑し大声で笑いあい、ビルの加勢の為にアーロンを羽交い絞めにしている。


ウィルナは目の前の輪の中に入れず立ち尽くした。

それでも笑顔を見せるエイベル達の無事を心から喜び、優しい微笑を見せていた。


「ウィルナ、お前も加勢しろ。こいつ見た目通りの怪力なんだ」


エイベルの笑い声まじりの声にウィルナは口角を上げた。


「はいっ」


奴隷の獣人女性を看取ってから一日以上ぶりに見せた屈託の無い笑顔だった。

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