表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/109

目標と目的 (1)

「ウィルナの行動は正しい」


ビルは隊列の最後尾に並んで歩くウィルナに少ない言葉をかけただけで止めた。


ウィルナはいつも屈託の無い無邪気な笑顔を見せ、

メンバー全ての言葉に興味を見せ、何事にも素直に従ってくれていた。


だが今は奴隷という存在を理解し、その命を奪ってから明らかに表情が無い。


悲痛な表情も、奴隷の主人に怒りを見せるわけでもなく、

泣き顔を見せるわけでもなく、ただ下を向いて歩くその目が死んでいる。


エイベルは優しい彼を自分と同じ境遇にしたくはなかった。


だからエイベルは、隊列に戻り横でうつむいて歩くウィルナを気遣い、

ビルと配置換えをして自分では無く同世代の、言葉を飾らないビルに任せた。


確かに誰かの言葉で救われる事もある。


だがビルは多くは語らない。理屈だけの言葉を羅列しない。

ただ隣に並んで歩いてくれるだけの存在が最善と考えた。


しかし今のウィルナは自分一人で受け止め切れない罪悪感と、

心の支えであるルルイアとロッシュベル、トレスと離れた孤独感に苛まれ、

自身の弱さを痛感してビルの言葉に些細な反応すら示さなかった。


自覚した弱さは肉体的な弱さではない。心の強さ、意志の強さ。


ウィルナは左手を上げて付着した獣人の血を見つめ、

その手を固く握り唇を噛んだ。


最後を看取った獣人の微かな笑顔が忘れられず、

その感触は今も両手に残り、乱戦中に出来た事をひたすらに考え続け、

後悔と罪悪感に体の中心を握り潰される感覚に苦しんでいた。


「仕事に集中。まだ依頼は完了してない」


ビルは横で口元から血を流し、痛みを感じる事で自分を少しでも罰する

ウィルナに『仕事中』という意識へと誘導しようとした。


「そうでした。すいません」


ビルに答えたウィルナの口調は普段通り。

しかし今までと声のトーンが明らかに違った。


「俺の記憶では階段大部屋まで近い。依頼完了まで気を付けて」


ウィルナはビルの言葉に違和感を覚えたが、聞き返す事はしなかった。


階段大部屋に到着したら依頼完了。

階段大部屋に到着しても最後まで気を付けて。


どちらとも受け取れるビルの言葉は、

ウィルナにとってどちらでも構わない些事だった。


ただ、ビルの意識誘導は成功し、

仕事をしなければという意識に動かさせたウィルナは顔を上げた。


ウィルナは隊列に漂う血臭に引き寄せられた魔物の追撃や奇襲を

警戒していたが、隊列の足音が反響するに留まり後方は静寂を保ち続けた。


理由も無く集団となり固まっていた無数のガスト達と、

四階層では殆ど出会う事の無いウィルオーザウィスプ四体に遭遇し、

相当数を討伐した事で付近の魔物は数を減らしていた。


進む巨大な通路で数体のガストに遭遇するが、

先頭の傭兵四人を抜けて護衛対象に迫る個体もいる為、

リカルドが前進して盾で防ぎ、連携するアーロンが大剣で切り伏せた。


減った傭兵団に変わり戦闘に参加する機会が増えてきた事で、

エイベル指揮のもと隊列は堅実且つ安定した前進を続けた。


隊列内の口数は少なく、メイの進路指示と

無傷のルーシェの愚痴まじりの声だけが代り映えのしない通路に反響していた。


「見えたよ。大分時間が遅いけど階段大部屋」


ビルの声でウィルナも直線通路の先が階段大部屋の入口である事を確認し、

やがて隊列は階段大部屋に入り、負傷者の念入りな処置を開始。


開いた傷の縫合を受ける者、傷を焼いて止血する者様々だった。


「今日はもう遅い。明日に備えて俺以外は休め」


エイベルは水を消費し、大分軽くなったバックパックを背負い直し、

グレイブを握りしめて階段大部屋入口に歩き始めた。


他のメンバーは軽く答え、食事を済ませて直ぐに睡眠に入った。


食欲の出ないウィルナは携帯食料を無理して詰め込む形で水で流し込み、

石造りの高い天井を見上げ、やがて大きくため息をついて眼を閉じた。


四日目は多少遅れた時間からの移動開始となった。


負傷者の手当てや殆どの部隊員が、自身の治療を済ませる時間を取った為だった。


念入りに装備確認や武器の手入れ、多少の負傷でさえ治療した。


「お前ら仕事の時間だ。準備はいいな」


エイベルは所持していた荷物から離れ、装備確認していたメンバーに声を掛け、

愛用のグレイブを石畳に立てて話を続けた。


「五階層のエリアオーディールはドラウグルだ。

先週潜ったやつらが討伐したが、生まれている可能性もある。気を抜くな」


ウィルナ以外の五人はマントも外し、円陣を組んで互いの背後の装備確認も行い、

皆の完了を確認してしてエイベルは腰部のダガーの柄を握り歩きだした。


全員が荷物全てを固めて置いて、メインとサブ武器二本のみを所持して

エイベルの後に続いて移動を開始した。


「お前は俺の後ろで何もせずに見てろ。必ず俺が守る」


エイベルを先頭に形を崩した円陣の最後尾、

声の主のカインがウィルナの肩に手を乗せて頷いた。


ウィルナは「はい」と答え頷いたが敵が脅威だった場合、

指示を無視して五人には防御魔法を付与し、戦闘に参加する事を決めていた。


『ドラウグル』


ウィルナはダンジョンに入り、再度初めて聞く名前を無言で復唱し、

敵が脅威である事を渇望した。


耐えがたい精神的苦痛から少しでも逃れる為に、

全力で叩き潰す強敵を切望した。


昨日までのウィルナには一切存在しない価値観と思考パターンだったが、

本人にその自覚は無く、溢れた負荷は内なる怒りへと転換していた。


ウィルナ自身でもない。誰に向けてなのかも分からない怒りで体が肥大化し、

熱を持ち、震えている感覚が鬱陶しく感じるばかりだった。


隊列は大階段を下りた短い通路で固まり、

ウィルナも階段先に広がりだした空間に目を奪われ戸惑った。


確かに地上の階段に足を踏み入れ方向感覚は大きく狂った。


しかし上下まで狂う事は無かった。


実際すぐに五階層である事は理解した。


視界の先に広がる景色はダンジョンに入ってすぐの景色が広がり、

黒一色の円柱状の空間内部に広がる大きな草原。


ただ、明るい空間中央に大階段は無く、代わりとして

幼い頃に育った村で長老と呼ばれ親しまれ続けてきた大樹。

アルマやトレスと出会った空間で黒獣と戦った場所にあった大樹。

その二本とはどこか違うと感じる大樹が巨大な実をつけ存在していた。


違いを感じる要因は大樹が多少小さく見え、

淡く光る赤い線を幹の根元に見せているからだった。


ウィルナは部隊が集合している階段下の短い通路まで階段を降りず、

集団から離れた見渡せる高い位置から五階層のフロアを見回していた。


ウィルナの目には巨大な大樹とその枝に実った巨大な実。

黒獣が出現した場所に存在した、似た見た目の巨大樹と巨大な実。


『あの黒獣がドラウグル。あれ出るのか。丁度良い』


ウィルナが全力で死闘を繰り広げる相手としては申し分ない黒獣。

しかし、ウィルナの決断は全てが選択不可能になった。


「先週ドラウグルは討伐された。情報を集めておいてよかったぜ」


傭兵団の隊長は数を減らした部隊員三名を連れて草原に足を踏み入れた。


「お前ら行くぞ。厄災の果実五個が依頼内容だが三個でいい。あれ落とせ」


隊長は横に大きく枝葉を伸ばす巨大樹の一番取りやすい実を選んで歩き続け、

槍持ちの仲間一人に指示して実を切り落とさせるため先行させた。


ドラウグル二体が巨大樹の根元の横に立っていた。


ウィルナが過去に経験した現象。

存在していたが認識できず、急に脳が存在を認識したかのような非現実感。


一番距離の近かった槍持ちの男は、一体のドラウグルが持つ大弓の矢で

胴体を射抜かれて動きを止め、後続の一体から追撃され両手剣で両断された。


出現後から流れるような動きで槍持ちの男を仕留めた二体のドラウグルは、

武器を構えず残る傭兵団三名に歩き出した。


このダンジョンに出現するアンデッドタイプの魔物で、

鋼鉄の防具で数ヶ所を包み熟練の戦士を思わせる姿はやはりアンデッド。


腐敗し干からびたその体は未だ厚く逞しい肉体を有し、

巨大な武器を扱うその動きは人間とは異次元の絶対的な力を感じさせる。


「お前らやれ!」


草原広場に足を踏み入れた隊長は仲間に悲鳴まじりの指示を伝え、

自身は二体のドラウグルに恐れをなし、

剣は抜いたが交戦では無く後退という逃亡を選択した。


同じエリアボス討伐情報を持ち、戦う覚悟を持って挑んだエイベル達。

何の覚悟も警戒も無く足を踏み入れた傭兵達。この差は犠牲を生み出し、

背を見せての逃走という結果を招いた。


階段から短い通路に降り、草原に少し足を踏み入れた場所で護衛対象を囲み、

防御態勢を取っていたエイベル以外のメンバー。


二部隊の集合体から離れ、草原を進んで足を止めていたエイベル。


先頭でエイベルに走り寄り加勢を求める傭兵団隊長。


エイベルは無言で躊躇なく、両手で持つグレイブで隊長の腹部を貫いた。


悲鳴と罵声が傭兵達と護衛対象から響き渡った。


「一体何をしている!貴様正気か!?」


防御陣形だった味方の傭兵団ブレイムチェインの隊長エイベルの行動で、

一転して周囲を囲まれた状況に陥ったシーカー部隊の隊長ルーシェ。


罵声ともとれる叫び声を上げ、盾を構えて仲間達と小さく固まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ