未知と既知 (1)
夜明け過ぎに城塞都市の西門は解放され、
周囲が賑わい始めた頃にウィルナ達ともめた傭兵団の荷積みが完了。
もめた部隊の馬車三台を先頭に城塞都市西門を抜け、
その後に最後に到着した部隊が乗る馬車二台が続き、
最後尾にカインが御者を務め、ウィルナも乗り込んだ馬車が続いた。
ウィルナにとって六台の馬車が真っ直ぐ列を成して進む光景は壮観で、
特に開けた草原でのカーブでは並ぶ馬車の隊列が良く見えて心が躍った。
「横に来るか?進行方向にはガラ砦、魔獣は出ないだろうし
盗賊もこの台数の馬車を襲って来ない。のんびり景色を眺めるのもいいぞ」
御者台のカインが真後ろの荷台で前方を眺めていたウィルナに声を掛けた。
「はい!なんかかっこいいですね」
「格好いい?俺の事か?ははっ、もう三十八のおっさん捕まえて、なんも出んぞ。
いやまて、酒飲むか?いいやつあるぞ。チーズ食うか?」
移動するウィルナの横で真っ直ぐ前を見るカインはウィルナに似て細く見えるが
身長は高く、マントの下にローブと革の装備数点を着用した軽装備、
ギザギザ頭のオールバックが風に揺れ、この馬車に乗る人達の中で最年長だった。
ウィルナの伝えたかった意思とは違うが敢えて否定する事も無いため
笑顔を返して断り、カインの横に座って昼過ぎの暖かな日差しと風を感じた。
「皆お酒好きですね。熟睡?泥酔?してますし・・・」
ウィルナは荷台で酒瓶を片手に乾燥パンや燻製肉などの昼食を済ませ、
今は寝ている他四人を振り返って眺め少し笑ってしまった。
「ハハッ確かにな。だが、お前も休める時に休めよ。
この仕事は体の調子が悪いなんて言い訳は通用しない」
「はい。それで僕の仕事は?何をすればいいんですか?」
ウィルナは向かう先のダンジョンとは何かをウォレスから聞いて理解した。
だが仕事内容はカイン達から聞かなければ分からない。
後から説明もされるだろうが興味でカインに今聞いた。
「・・・そうだな。
お前のというか俺達の仕事は前に見える馬車二台に乗るやつらの護衛だ。
お前に殴りかかったやつらが先頭を進み魔獣やらと遭遇したら戦うが、
俺達はあいつらに手を貸す必要は無い。そうゆう契約だ。
そしてお前は戦う必要も無い。ウチの荷物を運んでくれればいい」
ウィルナには簡単な仕事だった。「はい」と答え
「前の二台の人達、戦えないのですか?」と浮かんだ疑問を聞いてみた。
「あいつらはシーカー協会からダンジョン探索の道案内で派遣されたやつらだ。
先頭の馬車三台に乗ってるやつら信用の無い嫌われた傭兵で、
仕事を受けるために協会に泣きついたんだ。
で、協会から声を掛けられた俺達が護衛する事になったってわけだ」
「信用が無くても仕事の依頼、来るんですね」
ウィルナは更に疑問を感じて聞いてみた。
「そうだな。それだけ今回の仕事がどの隊にも受諾されなかったって事だ」
「なるほど。ありがとうございます」
「気にするな。真冬なのにこれだけ暖かいと眠くなる。
俺には良い話し相手が出来て丁度いい。他に何か知りたい事はあるか?」
ウィルナは弟妹の話を聞いたが知らないと言われたが、
カインは話を続けて持っている情報を色々教えてくれた。
「暇つぶしに・・・そうだな、ここ二年の情報か・・・・・。
俺達はここ一年でコンスフィッツに拠点を移したから多少は仕入れてある。
東にあるファルドールの町にマークドフェンリルって商会があるが、
ここ一年の躍進が凄いぞ。他にも名前しか知らんがフォーリーフクローバー、
アブソリュートスクエアの二つの名だけはよく聞いていたが最近は聞かんな。
アッシュクロウ、イービルシーカー・・・・・
他にも二人と言えばアルエイって傭兵二人組も強いらしいぞ。
お前が探す二人に見た目や年齢が合わないのは残念だが」
ゆっくり説明してくれたカインに頷いていたウィルナだが、
情報量が多すぎて一つも記憶出来ず、唯一東に町がある事を知った。
「ありがとうございます。落ち着いたら東の町に行ってみます」
弟妹の探す当てを得たウィルナは笑顔でお礼を述べて前を向いた。
ウィルナは野営の時などを利用して他の部隊の人達に弟妹を聞く予定だったが
不可能だった。一行は御者を交代しながら一昼夜行進を続け、
そのまま次の日の早朝に目的地まで何事も無く到着した。
朝焼けに照らされた草原に佇む縦長の岩。
岩から多少離れた場所に石造りの大きな建造物があり、
その横に木造三階建ての建物二軒、木造平屋の大きな厩舎が一軒。
それらの建物が木の柵で広く囲われ、数人の人影が見られる。
「俺が行って来る。ここで待ってて。もう暴れないでよ」
木の柵の二ヶ所ある入口の内の一つから入り大きな広場に馬車六台は停車し、
馬車の御者台から降りた青年はウィルナと同年代で落ち着いた雰囲気。
マントの下にローブと革の籠手に革のロングブーツ、左の腰に直剣が見えた。
「あいつら次第だ。ビルも分かってるだろ。そんなに期待するなよ」
「いやいや。期待してないし。いや、飲み過ぎない事を期待してるよアーロン」
酒瓶片手に笑うアーロンに背を向け右手を上げて石造りの建物に向かうビル。
御者台にいた二人以外は荷台で寝ており、
ウィルナも荷台から二人のやり取りを笑いながら見ていた。
縦長の岩が気になり馬車を降りて近づいて行くと、
後ろからウィルナを呼ぶアーロンの声が聞こえ、
振り返り立ち止まると歩み寄って来て「あれ見るの初めてか?」と
聞いてきたのでウィルナは黙って頷き岩を眺めた。
「あれがダンジョンの入口だ。
今ビルが探索手続きと馬車の管理委託を出しに砦に行ってる。
お前も楽しみなんだろうが荷下ろしもある、もう少し待て」
「そうでした。荷物。頑張ります」
「くっはっはっはっ。お前は頑張らんでいい!俺達に任せろっ」
気さくな大男にウィルナは肩を組まれ、なんだか嬉しくなって一緒に笑った。
『あの岩、小さいけど星夜の岩に似てる。
アルマのいる場所行くのかな?まぁ荒らされなければ何でも関係は無い。
この人達とこれからダンジョン探索か、色々楽しみだ』




