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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

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選択と選定

『これが外の世界の人達の戦いか』


冬の時期には珍しく、月と空一面に広がる星々に照らされた砂地の広場。

蒼の混じった落ちついた明るい闇夜に一人佇むウィルナは、

腕を組んで白く見える息を大きく静かに吐き出した。


ウィルナが訓練教官のように見つめる先では、

魔獣一体と五人の男の傭兵が戦闘を繰り広げていた。


エイベルを魔獣正面、

魔獣の左右後方に二名ずつの三角点の位置で魔獣を包囲し、

エイベル以外の二点は二人で一組、二人で前衛と後衛に別れ援護し合っている。


「交代しろリカルド!マナスキンの再展開をうけろ!」


エイベルは愛用の武器グレイブで正面の魔獣に牽制を続けながら左奥に声を上げ、

確実に距離を保ち続けて移動している。


「悪い、左に下がる。カインは右に頼む」


エイベルの指示を受けたリカルドは、魔獣の爪による負傷部位の腹部を抑えながら背後のカインと位置が重なり邪魔になる事を防ぐ為に声を上げた。

リカルドの左手に持つ破損したカイトシールドは何とか持ち上げている状態だ。

しかし腹部を抑えた右手にはストレートソードが固く握られ、

表情は苦痛に歪むが未だ闘志が宿り続けている。


「俺が右だな。右了解した!そのまま下がれ。マナスキンをかけ直す」


「エイベル、俺がヘイトを持つ!ビルは俺からもう少し距離を取れ」


「任せたアーロン!無理はするなよっ」


「やるぞビル!援護を任せた!」


「ファイアバレットを撃ち込む。いつでもいいよ、アーロン」


魔獣正面のエイベルは、視界の右側奥から

アーロンが突撃しているの確認してから魔獣に距離を詰め浅く切り込んだ。


「やるぞアーロン!」


魔獣に向けた斬撃は、エイベルの両手で持つ長いグレイブでも距離は届かず、

掛け声と共に(おこな)った攻撃の隙を防ぐ為、すぐさま魔獣の顔正面に刃を固定した。


魔獣はエイベルの行動に対して回避する事も反撃する事も無く固まった。

エイベルの次なる行動を警戒して、ただ身構えた。


「どっせぇああああああ」


直後に魔獣の左後方から迫ったアーロンの斬撃で大きく飛び跳ねて向きを変え、

さらにビルからの炎弾が魔獣の腹部に直撃して一瞬の炎をくゆらせた。


「来るぞビル、距離を保て!俺の真後ろには立つなよ」


「ああ、わかってる。リカルドの分は俺がやる」


エイベル視点で魔獣正面で敵意を取っていたエイベルから右後方のアーロンと、

その奥に立つビルに正面を向けた魔獣は、距離の近いアーロンに飛び掛かった。


同時にビルからの炎弾が魔獣の頭部に飛び、

魔獣が炎弾の直撃で身を捻る隙にアーロンは魔獣の右側に走り込んで離れた。


アーロン左後方のビルも右へと走っており、他三名の傭兵も右へと位置を変えた。


「無理はするなリカルド!離脱しろっ!アーロン、俺がヘイトを取り返す!」


「了解だ!聞こえたな、ビル。もう少し距離を取るぞ!」


「これくらいの傷ならまだ動ける。俺に構うな、マナスキンはもらった!」


エイベルが左奥に見えるリカルドに声を掛け、

後ろを見せた魔獣に距離を詰め、大ぶりな斬撃を浴びせた。

リカルドは剣を握った右手で腹部を抑え続け、出血を抑えているようだった。

その状態でも魔獣の動きに合わせ、他の四人と共に三角点で

魔獣を囲む自分の位置を維持し続けていた。


正面が魔獣の敵意を取り続け、左右のどちらかが背後から攻撃を仕掛け、

魔獣の反撃を受けたら防御も回避も行わず、距離を確保し続ける。

五人はエイベルをリーダーとして、常に声を掛け合い、

自分の行動と希望する支援や移動指示を、大きな声で叫び続けて戦っていた。


ウィルナには新しい発見も、学習し取り入れるべき点も見当たらない。


『この人達を村のみんなが見たら驚くだろうな。

カーシャおばさんやヨル爺様やアサお婆さん、なんて言うだろう』


ウィルナは目を輝かせて傭兵五人の動きと、魔獣の行動すべてを観察していた。


体の動きや攻撃方法に使う魔術にいたるまで、カーシャに丁寧に教わり

驚いたものは皆無。傭兵五人の戦術も、幼い頃ヨービルに教えてもらった

戦術の一つ。実際ウィルナもロッシュベルとルルイアの三人でいた頃は

互いに声を掛け合い、この戦法を用いて多くの魔獣を倒してきた。


傭兵達が、ウィルナを育ててくれた人達が教えてくれた戦術と

同じ戦術で戦っている。その一点で興味をもった。


『三隊合同のダンジョン探索、一日金貨一枚の仕事か・・・』


エイベルの誘いを思い出し、ウィルナはダンジョンが分からなかったが

他の単語は知っていた為、前後の文脈から場所である事は理解していた。


『探索と言えば森で薬草採集や鉱石の採掘採集・・・いや違うな。

それなら探索では無く採集か採掘。となれば・・・なんだろ。

そうか!探索か!森の名前がダンジョン・・・誰かが森で迷子なのか。

迷子の人探しに行く人達ならいい人達か?

大丈夫かな。いつも選択間違えるから・・・。

仕事に行くだけなら皆には迷惑かからなはず・・・・・よし!

明後日からあの人の所で一週間働いてエイナおばあさんにお金あげよう』


問題を起こした直後のウィルナは自分なりに良く考えて、

明日の朝から出発するダンジョン探索に行くことに決めた。


ウィルナは傭兵エイベルの人格を信用したわけではないが、

エイベルの戦闘技術は信頼していた。


戦闘開始前に防御魔法を展開し、火の手が上がる明るい馬車の残骸付近では戦闘を行わず、エイベルが魔獣を釣り出し、何もない暗く開けた場所で戦闘を開始。

他四人もエイベルの指示を受け、魔獣背後に移動し包囲を完成させていった。


ウィルナでも暗がりの平地を選び、

残骸がある場所の戦闘は足場が悪く移動しにくいために避ける。

魔獣の誘導や指示も的確で、流れるように三点包囲して戦闘を開始継続していた。


『後は、一週間の間にエイナおばあさんに弟妹の事を聞いてもらおう。

三隊合同の人探しだから人もたくさん来るはず。僕も明後日には二人の事を

何か聞けるかもしれない』


「いけるぞエイベル!動きがかなり遅くなっている!」


「アーロン、同時に仕掛けるぞ。カインもう少し堪えろ」


「了解だ!長くはもたないぞ!」


弱った魔獣正面で後方に下がりながら距離の確保と回避に専念するカイン。


ウィルナは単眼や多眼の魔獣も見てきたが、

目の前のこいつは肉食獣特有の双眼で、獲物との距離を正確に測る為、

前方の獲物を正確に視認する為に目が正面に向いてついている。


つまり正面の視野角に特化し、背後からの接近は音や気配で認識するのみ。


「仕掛ける!撃ちまくれカイン!!!」


「任せろ!」


エイベルの声を合図に魔獣正面のカインが後退しながら炎弾を連発し

移動の要となる後ろ足を狙われていた魔獣の動きは極端に鈍く

背後からエイベルとアーロンが呼吸を合わせてまっすぐ駆け寄り

魔獣の腹部と首にそれぞれの武器を突き立て大きく切り裂き

魔獣は無数の傷と致命傷となった今回の傷で力を失い倒れ込んだ。


「そこに座って傷を見せろ!状態は?」


「馬車から傷薬もってくるよ」


「お前達より多少酷い程度だ。心配するな」


座り込んだリカルドは駆け寄るアーロンに左手を軽く上げ、

馬車に走っていくビルを見送った。


ウィルナはゴロツキ達の所に向かうエイベルを背後に

エイナ達がいる所まで歩き出した。

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