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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

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悪意と脅威

焚き火の明かりだけが確かな光源へと変わりゆく最中、

ウィルナ一人が立ち上がり、数歩進んだところで肩を掴まれ振り向いた。


「気持ちは分かるが我慢しろ」


真剣な表情を見せるウォレスがウィルナの右肩を掴んで静止させていた。


ウィルナ以外は奴隷のために問題を起こした場合、連帯責任として投獄され、

罪の対価として保釈金の要求が通達される事を知っていた。

それでも皆の気持ちはウィルナと同じで、ウィルナの判断に黙って任せていた。

おじさん達は場合によっては護衛としての役目を全うする心構えで待機している。


「ここであいつらと問題を起こせば俺達が捕まる。分かるか?

・・・・・焚き火の周りをよく見ろ。俺達全員だ。あの子達は命を含め、

全ての権利をあいつらに金で買われた人達だ。俺達には何もしてあげられない」


ウォレスの言葉で怒りは収まらなくても理解はできた。

ウィルナの視界にはエイナやベリューシュカ、ヘイヨード村のおじさん達、

トレスは丸くなって干し肉カリカリしながら見ているが・・・

皆がウィルナに顔を向けて黙って見つめていた。


「ごめんウォレス」


ウィルナは自身の軽率さが招いた結果に後悔したが、

変えられない過去だから後悔という言葉がある。


「気にするな。んな事より、お前やりすぎるなよ」


軽く返してくれるウォレスがウィルナの心を救ってくれた。


全ての行動には理由と結果、行った行動に対する対価と代償が必ずついて来る。

二人の視線の先には先程の男達の中の四名がこちらに歩いて来ていた。


「俺が話を付けて来る。こうなれば、ただの喧嘩だ。心配するな」


ウォレスは焚き火を囲む護衛のおじさん達に伝え、

頷いてエイナとベリューシュカの安全確保を優先させる事を促した。


ウォレスは四人の方に向き直り歩き出し、

その後ろにウィルナも責任を取るために続いた。


「うちの商品のどれか買いてぇのか?それとも用があるのは俺達か?」


革鎧やハーフプレートアーマーの混成防具一式。

個人それぞれがバラバラで統一感のない装備はシーカーのグループでもよく見る。


しかしウォレスはシーカーとしての経験上、目の前のガタイの良いこいつらが

奴隷商ですらなく、盗賊にも似たゴロツキである事はすぐに理解した。


「いえ、何も用はありません」


数歩前に出て口にしたのはウィルナで、ウォレスの横を歩いて男達の前に立った。


「んじゃー、俺たちは無駄足だったって事か・・・よっ!!!」


ゴロツキの話の最後のタイミングでウィルナは思いっきり殴られた。


鋼のガントレットで殴られたウィルナの頭部は嫌な音をあげて大きく跳ね、

振り払う強い打撃の反動で数歩後退する形となったが体勢を立て直して顔をあげ、

殴られた左側の口元に右手中指を当てて血のぬめりを感じ視認した。


『はぁ~~~最悪だ。口の中と唇切れた。ご飯食べれなくなるやつだ。

・・・これ、嫌なんだよ。口開けると唇の傷が開いて痛いし、

口の中も食べ物当たると痛いし気になるし。はぁ~~~。時間戻したい・・・』


「おいおっさん!」


「いいんだよ。僕は大丈夫」


ウィルナを殴って薄ら笑いを浮かべる四人に、

ウォレスが飛びかかりそうになるのを横にいたウィルナが止めた。


「なんだよ。腑抜けたガキが。根性あるガキはそっちだけか」


「んだとぉ、この、中肉中年の不細工どもがぁ!!!

上等だ。今からお前ら全員奥歯ガタガタにしてやるよ!」


ウィルナを侮辱されウォレスが大声で叫び再度飛びかかろうとするが、

ウィルナがウォレスの背中に顔を埋めて体を両腕で抑えて止めた。


ウィルナは自分の顔を殴ってきた人達に見られると、

更に面倒なことになる事は分かっていたからウォレスの背中にくっついて隠れた。


『さすがに言い過ぎだよ。あのおじさん達、くくっ・・・一瞬ビクッてしてたし。

・・・・・んひひっ・・・無理。笑い声が出そう。どうしよう・・・くくくっ、

・・・危ないとこだった。気を付けないと僕の血がウォレスの服に・・・・・』


ウィルナ以外の二組による一色触発の僅かな時間が過ぎ、

ウィルナの耳に遠くから僅かな金属音と足音が聞こえてきた。

すぐに「そこまでだ」と言う静止の大声とともにこの広場の警備隊が到着した。


「一体何事だ」


三名の騎士団所属の警備隊で鎖帷子のローブという同じ装備を身に着けている。


「先に喧嘩売ってきたのはこいつらだっ」


ウィルナに解放されたウォレスが声を上げ、ゴロツキも同じ言葉を返す。


双方の言い分は数分間同じ言葉が繰り返された後、

警備隊から注意警告を受けたのはウィルナ達だった。


裁定を判断した警備隊の人物が考慮した点は二点のみ。

四人は体格や見た目も強そうで、ゴロツキに関わりたくなかった。

ウィルナ達は成人年齢を超えているがだがまだ若く幼く見え、

若年層という弱い立場で実際に四人のゴロツキより弱そうに見えた。


「ふざけんな。殴られたのはこいつだぞ。それでも騎士団か!」


「この・・・侮辱罪で投獄されたいか!」


「いいよ。これで良いよ。早く戻ろう」


警備隊の仲裁後、四人のゴロツキは鼻で笑って背を向け歩き出した。

不満しかないウォレスにウィルナは再度謝り、二人で焚き火に向き直った。


数秒後、金属の破壊音と木材のへし折れる音が響き、

続いて悲鳴や罵声、馬の鳴き声など様々な音が入り混じるが、

大きな魔獣の雄叫びと破壊音は群を抜いて識別できた。


先程のゴロツキ四人は自分たちの壊れた馬車と、

暴れ回る巨大な黒い布を見て固まり、警備隊員三名も硬直していた。


「皆の所に。ウォレス!早くみんなの所に行って、馬も連れて避難を」


ウィルナはウォレスに声を掛けて見送り、魔獣の観察をしたが

かけられていた黒い布が、未だ魔獣の姿を全身覆い隠している。


悲鳴が上がり、ゴロツキの一人が月明かりの明るい夜空を力なく舞飛び、

投げ捨てられた人形のように地面で一度飛び跳ね、暗がりの砂地に同化した。


ゴロツキは他にも数名いたようで、三台並ぶ馬車の隙間から飛び出た

ゴロツキ二人が、こちらのゴロツキ四人の場所を目指してかけて来る。


「おおぉおま、お前達は死守、ここを死守だ。私は応援を呼ぶ」


先程仲裁の判断をした警備隊の一人が、

他二人を置いて魔獣がいる場所と反対の広場入口に走り出した。


「君達もここから早く避難しなさい。・・・・・顔の怪我、

 水でしっかり冷やすんだぞ。はぁ。交代直後に大惨事じゃないか」


残された若い方の警備隊員がウィルナに話しかけながら剣を抜き、

ゴロツキに向かって走り出し説明をもとめた。


「あれはお前たちの積み荷か?一体何なんだ。布の下は魔獣か?」


四人で固まり、魔獣を見つめているだけのゴロツキ一人の肩を掴んで

若い警備隊員は問いただしたが、怯えて応答は無かった。

唯一「なんでだ」とゴロツキは小さく答え腕輪を強く握りしめた。




「トレス、大丈夫だよ。痛いだけでダメージもないよ。ご飯が・・・。

はぁ~~まぁいい。これからは考えて行動しないと・・・」


ウィルナは避難準備をしている皆の方に足を進めて駆け寄ったトレスを出迎え、

頭に手をおいて歩き続けたが、ふと気になって魔獣の方に振り返り、

馬車の影や壊れた檻やその周囲を確認してみた。


『生きた魔獣が長方形で覆われ縛られた黒い布の中にいる事は認識していた。

方法は分からないが捕獲した魔獣。ならば魔獣が入るのは大きさに見合う檻。

分からない。・・・・・今まで何故、大人しかったのかが分からない。

魔獣がいきなり暴れ出した原因は僕の血の匂い?魔獣は血への感覚が一番鋭いが』


ウィルナは皆の所に戻りながら顔だけ向けて魔獣の観察を続けた。

魔獣が檻から抜け出し、うごめく黒い布から未だ抜け出せない状態、

黒い布に魔獣の爪が突き出し、距離が近く半壊した馬車二台の間で暴れまわる。

ゴロツキの死体が宙を舞ったやつをいれて二体。

獣人の死体が二体、かわいそうだが魔獣が暴れ出した直後にやられていた。


ウィルナの横を歩いていたトレスが魔獣の位置に向き直り、

足を止めて棘刺鞭を少し伸ばしてウネウネしている。


「・・・ん、あいつ食べたかった?・・・あいつは駄目だよトレス。

他の人が鮮度を保つために捕獲して連れてきた獲物なんだ。

あいつは諦めて馬車・・・・・?」


膝をついてトレスの首を両手で撫でながら伝えていると、

全壊した馬車付近から微かで独特な音を判別し、

馬車だった木材の崩れ重なる音と共に消失した。


「他の人に見られると魔獣と勘違いされるから馬車の中に」


ウィルナは立ち上がり背後でトレスが離れていく音と気配を感じ、

魔獣が暴れ続け、三台並ぶ半壊もしくは全壊した馬車の周囲を注視した。


『生きてた!!!』

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