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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

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不安と不意

朝早くに入都して、時間の経過とともに太陽は空高く昇り、

それぞれが落とす影も小さく流れる。

馬車二台は明るく賑わう城塞都市の大通りを西地区へと走らせていた。


「ロッシュベルとルルイアか・・・

 俺も何か聞いたら教えるから、あまり落ち込むなよ」


御者台に座るウォレスは横で街並みを眺めるウィルナを気にしていた。


ウィルナは結局シーカー申請を諦める事にした。

ウォレスからシーカーの仕事内容を詳しく教えてもらい、

単独で受けられる仕事もあるが仕事以前の問題で、知らない単語が多すぎて

読み書きが出来ないと、依頼内容の把握どころかシーカー登録の申請書すら

一人で書く事が出来なかったからだ。


ウォレスはウィルナが弟妹を探して旅をしている事も聞いていたため、

申請用紙をうなだれて見つめ固まるウィルナを気遣い、

代わりにシーカー協会の受付に二人の事を尋ねたが、協会には二人の年齢に近い

名前は登録されておらず、さらには外見に合致する人を幾人も見てきたため、

判別できないし有益な情報は持っていないと返答されていた。


「なぁおい。そんなに気を落とすな。果実酒飲むか?飲んどけよ」


ウォレスは左横に置いてある鞄の中に左手を入れて漁り、

目的の物を認識して黒く縦長の酒瓶を取り出し反応の無いウィルナに差し出した。


ウォレスはウィルナが言葉無く落ち込む理由が文字を知らない為なのか、

弟妹の情報を得られなかった為なのか、どちらもなのか分からず困惑していた。


「ありがとう。嫌な人かと思ってたけど優しいね」


「そこはありがとうだけでいいんだよ。ほら、昼間っから飲み過ぎるなよ」


ようやく反応して黒の酒瓶を受け取ったウィルナに幾分安心して、

背後の荷台で継続中のクスクス笑いにウォレスは反応した。


「何わらってんだよ、ベル。字が読めなくても別にいいだろ」


「はぁ~~~~。ウィルナじゃなくてウォレスがおかしかったの」


「何言ってんだよ。俺のどこがおかしいんだよ」


「全部でしょ。大体なんでウチの馬車に乗ってんのよ」


ベリューシュカはウォレスがウィルナに珍しく気を遣うのが面白く、

意外な一面を見て『いいとこもあるじゃん』と笑っていたが、

食いついてしまった。ウィルナを元気づけようとしたウォレスに乗せられた。


ウィルナが落ち込む理由は両方だった。

戦う事で生活可能になるなら二人がシーカーになっていると考えたが違った。

エイナの役に立つためシーカーになって働こうとしたが無理だった。


ウォレスから受け取った酒瓶を両足に挟み、

新しい鞄から木のコップを取り出して感じていた寂しさが強調された。


生まれ育った村を出た時から常に所持していた全ての品は手元に無い。

木剣はアルマの墓標だから繋がりを感じてまだ良い。

しかし他の品、衣類全ては使えなくなり、かなり昔に燃やした。

竹の水筒と革鞄も損傷激しく諦めて、エイナの家の暖炉で燃やした。

蛇足だが、魔獣の毛皮もエイナの家の前で洗って干していたら、

村のおじさんが駆け寄って来て「ぜひこれを頂けないでしょうか」と

凄い勢いで迫って来るし未練も無いのであげてしまった。


ウィルナが育った村や周りにいた人達と、価値観や文化文明さえ違う

新しい環境で感じる孤独感で寂しかっただけなのかもしれない。


「そりゃ、あれだよ・・・。ウィルナに酒飲ますため?」


「あんた性格も悪いのに頭もなの?」


「んなっ。・・・顔はまぁまぁいいからバランス的なやつ?」


「もぉ~~~ホント最悪。あんたの馬車に早く帰って。何しに来たのよ」


「ありがとう。これ甘くておいしいよ」


ウィルナが酒瓶の栓を抜いて鞄から取り出した木のコップに注いで栓をして、

一口飲んでお礼と共に酒瓶をウォレスに返した。


「また飲みたくなったら言えよ」

ウィルナに顔を向けず酒瓶を受け取ったウォレスは笑顔だった。


やがて目的の西地区にある商業地区に入り、

木造の建築物が目立ち、土壁の建築物がちらほら、街並みは一変した。


シーカー協会でエイナを中心に今ある金銭で何を優先して購入すべきか

話し合われ、石炭と木炭のみの購入に決まっていた。

冬を越す必需品でもあるが村の特産品である鉄の精錬に欠かせない品で、

村に在庫もまだ多少あるが購入希望品の中で優先順位が一番高いと判断された。


仕入れ先に到着し、盗賊騒ぎのせいで価格高騰が痛い所であるが、

城塞都市付近で収集出来る品であるため季節による値上がり含め、

他の希望品に比べ価格上昇割合は多少で済んだ。


ウォレスの一存でウォレスの馬車に積載可能分だけ購入して積み込み開始。

多少余った金銭はウォレスからエイナに渡された。


「こんなに多くは頂けません」

お金の入った布袋は鉄鉱石の運搬依頼料、断るエイナにウォレスは続け


「いや、貰ってください。ここでウィルナの面倒見てやるんでしょ?

ウィルナに感謝する俺らの気持ちも、この中に入ってますから」


エイナの目に、ウォレスの背後で『俺ら』に含まれた護衛役の村人五人が、

積み込みを進めながら軽く片手を上げているのが見えた。


「そうですね。ありがとう。私達の命を救ってくれた人のために頂きます」


エイナは感謝した。お金は殆ど無かった。

それでも考え抜いた末、弟妹を探すウィルナの助けになればと滞在を決めていた。


ウォレスとエイナの二人だけの会話が荷積みしないエイナの馬車の横で行われ、

「おばあさん、おわったよ~」仕入れ先の倉庫から走って来るベリューシュカが

手を振っているのが見える。


「ありがとう、かわいいベル。広場までは私が馬車を動かそうか?」


「エイナさん。俺がいます。安心して休んでてください」


エイナのベリューシュカへの提案にウォレスが横から即答した。


「だからなんでウチの馬車に乗り込もうとしてんのよ!」


「お疲れウィルナ。今日の宿泊地に行って酒でも飲もう。

酒とチーズはちゃんと買っておいたぜ!よし、飛び乗れ!」


ベリューシュカに即座に斬り捨てられたが意に介さず馬車の御者台に飛び乗り、

ウォレスは丁度来たウィルナに声を掛けた。


「積み込みしてる時いないと思ったらお酒って。・・・村長の息子最低~~~」


エイナとベリューシュカが荷台に乗るのをウォレスは笑顔で待った。


到着した目的地の大きな砂地の広場には数台の馬車が止まっており、

数人が焚き火を囲んで食事をしたり談笑したりしている景色が広がる。


西地区と東地区に一ヶ所ずつある有料の馬車止め専用の大きな砂地の広場で、

日没までに仕入れを完了させ、今日はみんなここで一泊予定だった。


馬車二台を少し離して止め、その中間に焚き火を起こして食事の準備、

見える位置に木の杭を四本打ち込んで馬をつないだ。


杭や木槌や馬の給水桶や餌箱など、ここを管理する

騎士団所属の警備隊の人達が貸してくれて問題なく済ませた。


「牛さん連れて帰りたかったけど諦める。残念。ねぇトレス」


夕闇に焚き火一つを九人とトレスで広く囲み、

ベリューシュカがお酒に酔って愚痴をこぼし、チーズを口に運んだ。


「良い相棒を連れてるな。しかし魔獣が良く懐いたもんだ」


トレスを始めて見て、護衛として同行してきた

5人のおじさん達の一人がトレスを眺めながらウィルナに驚いた。


「そうですか。トレス、魔獣なんだって。

 僕でも犬じゃないとは流石に思ってたよ。アルマ大きかったしね」


「犬も狼も背中に二本の長い棘は付いちゃいないさ。

けど黒い眼玉じゃないし、初めて見る姿。フェンリルの子か?」


別のおじさんが酒を飲みながら笑って伝え「どうなんでしょう」と

答えたウィルナは、無知が恥ずかしいので苦笑するしかなかった。


唐突に両手を叩き合わせたようなパァンといった音が遠くから聞こえ、

全員が口を閉ざし同じ方向に顔を向けた。


三台並ぶ馬車後方の地面に倒れ込んだかなり幼い少女と働く獣人二人、

体格の良い中年男性五人は全員が武装して護衛と思われ、

見えた限りでは以上で、男一人が少女の近くで怒鳴っているように見えた。


今まで感じてきた孤独感と奴隷制度に対する不快感が怒りに転じた。

人が悪意をもって人を傷つける理由が分からなかった。

しかも相手は幼すぎる少女であるという事。


ウィルナもこの世界に毒され、少女に怒鳴る男と同じ事をその男に

しようとしている自分自身に嫌悪感すら覚えた。


ウィルナは立ち上がった。我慢の限界だった。

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