目算と打算
北口から城塞都市に入り楽しかった都市観光は終了し、
奴隷という存在を理解認識した二人とエイナは沈黙の中、売却所に到着し
無事全ての鉄鉱石の原石を買い取って貰えたが目標金額まで届かず、
未履行依頼の返金を願うためにシーカー協会に行くことになった。
移動距離は短く、シーカー協会を中心とした東地区に
シーカー業務関連の様々な施設や店舗が密集しており、
辺りには様々な武具を身に着けた個人少数や集団が目立っている。
「さあ、つきましたよ」
大きな道の端に馬車を止め、建物を示したエイナから到着を告げられ
「トレスはここに隠れてて。・・・これがシーカー協会ですか。凄いですね」
付近では一番大きく外装も豪華な建物を見あげたウィルナ。
ベリューシュカもシーカー協会建物入口の前にある、横に長い七段の石階段を
上りながら「ここら辺じゃ、一番おおきいね・・・」と周囲を見回す。
「おい、キョロキョロするな。田舎者と思われるだろうが」
二台の馬車を大きな道の端にある馬車止めに止めた後にウォレス達と合流し、
今では村長の息子ウォレスが村人9人の代表となって先頭を歩き、
最後尾のウィルナ達に注意というか文句を言っている。
「やっぱり、あいつきらい」と聞こえる声で文句を返すベリューシュカ。
ウィルナの耳にウォレスの大きなため息が聞こえてくる。
石階段の先の建物中央に入口の木造両開きの扉があり、大きな扉をくぐった先、
シーカー協会内部は落ち着いた内装で、石畳の床に石造りの壁と高い天井、
梁も無い大きな一つの天井を支えるためか、石の円柱が横に二列計六本。
建物内部は一つの大きな空間となる大部屋に見える。
六本の円柱が左右中央三区画に分ける壁の役目を果たし、
左の区画には椅子の無い円形テーブル計四脚、少ないがテーブルで話す人もいる。
そのテーブルの奥には建物内部の石壁沿いに石造りの大きな階段も見える。
右の区画は入って右の壁に並ぶ木造掲示板と、奥の円柱の近くの区画の境に
木造の大きな長椅子が待合所として縦列で四脚並んでいる。
中央の区画は開放的で正面奥の受付まで何もない空間が広がり、
横長い受付のカウンター奥には部屋が存在する事を位置と奥の土壁の扉が証明し、
一つの大きな空間に天井から吊るされている六点のシャンデリアと
左右の窓からの明かりが差し込み、多人数が存在する独特な声と音が響いている。
「そう言えば・・・・ここは、何屋さんなんですか?」
ウィルナはこれまでの旅の中、当たり前に会話に出てきていたシーカー協会を
詳しく教えてもらう事も無く、ここまで来てしまっていた事に今気が付いた。
「そうでしたね」「えぇ~~~。いまぁ~~~~~」
前を歩くエイナおばあさんは笑って振り返り、
ウィルナの左を歩くベリューシュカはウィルナを呆れた顔で眺め、
足を止めてしまった。
「なんでも屋さんよ」と答え、歩き始めたベリューシュカ。
契約書を持っているウォレスに返金は任せ、
右奥の長椅子に向かうエイナは歩きながら後ろに続くウィルナに答えた。
「いつから協会があるのかは私も知らないけれど、その起源は名前の通りシーク、
探すにあって、シーカーは探す人、探索者の事。・・・あそこに座りましょうか」
エイナおばあさんはここで話を区切り、
先頭を進んで木の長椅子に腰掛け二人も座ったところで話を続けた。
「情報共有や協力のために協会は創られ、最初は探索。珍しい石とか植物とか未開の地や遺跡調査なんかにも行ってたと聞いた事があります。けれども、行く先には必ず危険が付きまとう。何かと戦う事が必要だったのだけれど、未開の地が少ない今、戦う事が仕事になっているのですよ。」
「へ~~~おばあさん物知り」ベリューシュカは知らない知識を得て喜び、
「戦う事が仕事ですか」とウィルナは考え込んだ。
「ここで二人の事も、後で聞いてみましょう。何か分かるかもしれません」
「はい。お願いします」
エイナの言葉とこれだけ大きな城塞都市に、
弟妹との再会という希望の光が差し込んだウィルナは周囲を見回した。
ウォレスが並ぶ受付は未だ人が多いいが、シーカー協会に入って来る人も、
長椅子に座って待っている一般人もいない。そのうち順番は来るだろう。
三人は特にやる事も無く時間を無駄話で潰し、やがてウォレスがやって来て
返金を受け取ったが、それでも金額が足りなかった事を告げられた。
エイナも都市に来たのは去年の秋以来、鉄鉱石の原石も値崩れしており、
最たる理由は都市の物価が去年より格段に上がっているとの事だった。
物価高騰原因はここ一年で盗賊の被害が多すぎる事が挙げられ、
受付の男性に色々と聞いてきたウォレスが代表となりエイナに説明し、
エイナを中心に今後の事を議論している。
「僕が足りない分、シーカーとして働きます。
エイナさんとベリューシュカさんも、少しここで暮らしませんか?」
何も知らないウィルナだけではここでロッシュベルとルルイアを探し出せない。
『戦闘だけなら少しは働けるかもしれない』
エイナの役にも立てるなら、これしかないとウィルナは考えた。
急な発言をしたウィルナ以外、村人八名は口を開けてウィルナを見つめた。
「却下だっ。登録認定手続きと試験に魔術鑑定、何日か必要になるんだぞ」
ウォレスが反論し「私はいいよ?おばあさんは?」と軽いベリューシュカ。
「知らない言葉が色々並んだのですが、何の話ですか?」
『仕事や働く』事を村と同じ認識で提案したウィルナには、
ウォレスから初めて聞く単語いくつかにより話が理解出来なかった。
「ちょ、待てってベル。なんでこんなやつ」
なんとか食い止めようとウォレスが粘るがウィルナをこんなやつ扱いされ、
なおの事引きたくないベリューシュカは
「気安く呼ばないで!もう決めたから」と大声で突っぱねた。
「なっ。いやだから時間がかかるんだって」
「そんなの関係ないもん。ウィルナと一緒にいるって言ったでしょ!」
・・・会話について行けないウィルナは蚊帳の外で無視された。
ウォレスのため息のみがやがて消え、ここで会話が途切れたため、
『他の案にしてください』と言いたくてウィルナは再度声を上げ・・・
「あの、ベリューシュカさ・・・・・」
「違う違うって!ベルでいいのっ。」
ベリューシュカに豪快に話を被せられ、ウィルナの言葉は遮られ、
「ウィルナはベルって呼んでいいのっ。
・・・ベルって呼んでくれないと今度から返事しないから!」
「はい・・・」
ベリューシュカの怒りがウィルナにまでも飛び火どころか延焼し、
聞きたい単語の意味も聞けず返事を返すが護衛役の他5人は苦笑している。
「そうね。ウィルナさん一人を置いていくのは気の毒だしね」
エイナもしばらく考え、ウィルナを助けるために滞在する事を選んだ。
「は~~~。お前、自分の名前書けるか?・・・使う武器は?魔術系式は?
・・・・出身の村は良いとして保証人は?誰の家族で登録申請出す気だ?」
ウォレスのため息から始まり、列挙された質問に
ウィルナはどう答えれば良いのか分からず、無言でウォレスに顔を向け続けた。
「・・・・・は~。・・・俺もシーカーだ。ついて来いよ」
諦めたウォレスは腰の左に装備してあるストレートソードの柄頭に左手を置き、
ウィルナを連れて一番近い受付カウンターまで歩き出し、
奥で背を向けている受付の男の人の前にカウンターを挟んでウォレスは立った。
「こいつのシーカー認定、お願いしたいんすけど」
横に長いカウンターの奥で後ろを向いて大きな棚を漁っていた男性は、
ウォレスの声で振り返り「はい。申請書をお出ししますので」と、
カウンターの下に腕を差し込み一枚の用紙をウォレスに差し出した。
「どもっ。・・・ほら、ここ来てこれ書け。次の試験は9日後か」
男性から申請用紙をカウンター越しに受け取ったウォレスは右横に用紙を滑らせ、
右後方に固まるウィルナに顔だけ向けて、右横にある申請用紙の場所を手で叩き、
ウィルナもカウンターに置かれた申請用紙の前まで進んで再度固まった。
『・・・黒い字がたくさん・・・これ、紙?・・・なんて書いてあるんだろ。
・・・・・どこにどうやって・・・なんて書くんだろ』
ウィルナは幼い頃、育った村で単語も教わり少しは読めるし書けた。
しかし村にあった数冊の本を自分で開いた事も無ければペンを見た事も無い。
文字は全て砂板に指で書いていた。
横に立つウォレスから受け取った用紙を見たウィルナは心が折れかけ後悔した。
世の中、甘くない。 どちらかといえば辛い。




