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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第一章 初幕 ~ 邂逅と認識 ~

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帰路と隘路〈あいろ〉

辺境の移動において欠かせない護衛として雇っていた二人はシーカーと呼ばれ、

この世界に存在する町や都市にあるシーカー協会で依頼を受けて契約される。


雇い入れた目的は猪や熊、狼の集団など野生動物からの攻撃を防ぐ事が目的で、

もちろん遭遇確率は低いが盗賊や魔獣からの護衛も依頼内容に含まれる。


雇った時は偉そうにしていたシーカー二人は若く大柄で装備もそこそこの革鎧、

強そうな二人の護衛を見ておばあさんとベリューシュカは安心していたが、

村で集めた貴重なお金が無駄になった時の絶望は果てしなかった。


急に現れ、威嚇の大声と共に駆け寄って来た盗賊に襲撃され、

シーカー二人の指示で馬車とともに逃げていたが盗賊六人に囲まれてすぐ、

シーカー二人は戦いもせずに降参して逃げ出した。


『神様!どうか神様。私達をお救いください。』


御者台のベリューシュカは自分の腕を掴むニヤケた面の盗賊が怖かった。

それでも御者台から自分の方に引っ張る盗賊に必死に抗い悲鳴を上げていた。


「放してっ。イヤッ。はなしてー!」


「こいつもついでに売り払おうぜ。そこそこの金になりそうだ」


「動くなよ婆さん。こいつに傷つけちまうぜ」


「あぁ。傷はつけるなよ。値がさがるからよ~」


『神様。私、頑張って抵抗します。どうかおばあさんと私をお救いください。』


ベリューシュカには盗賊の声が絶望でしかなく、それでも懸命に抗った。

抵抗むなしく地面に引きずり落され顔を上げた視線の先に浮かんだ黒の空間。


そこを助けたのが黒の空間の前に立っていた色々な意味で盗賊を上回る謎の存在。


「ようやっと休息地に着きました。今日はここで一夜を明かしましょう。

遅くなりましたが晩御飯にしましょうかね」


暗い草原の中にある辺境の街道の脇にある小さな荒れ地の休息地。


「はい。エイナさん、焚き火はここでいいですか?」


休息地に馬車を止め、二頭の馬を馬車から解放して近くの木の柵につなぎ、

水と餌を与えて休ませた。


休息地には井戸もあり、ウィルナは馬用の給水桶に水を入れ終え歩いて来る。


ベリューシュカと祖母であるエイナのやる事はほとんど無く、

ベリューシュカ目線では化け物ことウィルナがほとんど終わらせる。


特にウィルナは礼儀正しい働き者らしく要領もかなり良い。

二日目にはやる事をすべて覚え、何も言わなくても率先して行動していた。


馬車の荷台の大樽に保管してある枯れ木や薪を必要分抱えて移動し、

エイナおばあさんが指定した場所であっという間に火を起こし、


「他には何か運ぶものはありませんか?馬にも御飯をあげておきました」


と、おばあさんの手伝いを進んでやっている。


馬二頭は蒼白銀の魔獣に怯える事無く大人しく、蒼白銀の魔獣は今が暗いため、

蒼灰銀に見える長い毛をなびかせ、離れた位置で丸くなって大人しくしている。


ウィルナと魔獣が一団に加わって今日で四日目。

シーカー二人がいた頃より安全に感じ、穏やかになった帰郷も明日には終わる。


ベリューシュカもウィルナに多少は慣れては来たし、

恐怖もだいぶ薄れたが、もともと他人と接する事が苦手なため言葉が出ない。


「ベリューシュカさん、こちらへどうぞ。暖かいですよ」


「ひゃいっ。そ。・・・そ、そうですねっ。行きます。は、は、はいー」


さらには助けに入ったウィルナに勘違いしてビンタをかまし、

その事を謝りたいが距離を縮める事が出来ず、さらにオドオドした言動となり、

やる事もなく馬の背を撫でていたらウィルナの声が聞こえ、

びっくりして返事を返して振り向いてみたら仲の良い二人が焚き火の側にいた。


『ひ~~~。話しかけられるとドキドキするよ~~~。

 ・・・・・

って、うちのおばあさんの肩たたきしてる。なに???なんで???

やっぱり私をお嫁さんにする気?おばあさんを落として私を貰う気なの???』


ベリューシュカの脳裏にウィルナの逞しい裸体が思い浮かび、

頭の中に焼き付いた裸体がさらに自分を抱き寄せたイメージで更に動揺を誘う。


混乱したベリューシュカは初めて近くで接している同年代のウィルナを

意識しすぎるあまり、更なる勘違いを引き起こし、

妄想癖のある彼女はウィルナを化け物枠で認識しながらも、

同世代の男の裸を見た事が無かったベリューシュカをさらに挙動不審にしていた。


『私、化け物のお嫁さんに?・・・ひぃえええぇ~~~』


「私たちはこれから晩御飯なのですが、あなた方も一緒に(あたた)まりませんか?」


『えっ?ちょっと。怖い事言わないでよ。お化け?お化けでも見たの???』


馬から離れ焚き火へと向かうべリューシュカは、

街道とは逆の草原側に発言したウィルナの大きな声で周囲を見渡すが、

暗く静かな景色が広がるばかり。


焚き火の街道側、街道を背に座るおばあさん、その肩を優しくほぐしている

ウィルナは右手を差し出しベリューシュカの座る位置を誘導した。


「ありがとうウィルナさん。だいぶん肩が軽くなりましたよ。

さあ御飯にしましょう」


「いえいえ。出来る事は何でもしておきたいです」


『しておきたい?したいじゃなくて?やっぱり化け物は馬鹿なの???

ボロをだしたの?私達を油断させて食べる気だったの?グールだったの?


・・・きっと違う。・・・優しいし、やっぱり私を貰うつもりなのねっ!

あのグールが私のお婿さん?・・・キャ~~ヤダ~~~~・・・・ん?


・・・グールと私の子供なら人間?それともグール?・・・・ん~~~~』


ウィルナの言葉はエイナおばあさんに薄れゆく記憶のアサ婆様を見たからだ。


幼いウィルナはアサ婆様に何もしてあげれなかったと考えているからこそ出た発言で、人の命は、一緒に居られる時間と日常は簡単に壊れてしまう事を理解しているからこそ出た言葉だが、時に言葉は人の真意を表すが、他人に自分の意志を正確に伝える事は難しい、一言の違いで簡単に誤解を招く。


ベリューシュカはウィルナの発言に戸惑い、噂で聞いた事しかないグール、人の姿で人を食べる化け物である食人鬼をウィルナに重ね、同時にお化けが気になるベリューシュカは周囲を見回しながら位置につき、隣の気分の良さそうなおばあさんから乾燥パンとチーズと果物を受け取った。


『落ちるの?落ちたの?おばあさん?私を化け物のお嫁さんにする気なの???」


焚き火の前に座ったベリューシュカは妄想を膨らませながらも

受け取った食事を座った足の上のローブに直接置き、

ウィルナが所持していた革鞄の中にある燻製肉も貰う。


「あ、・・・あ、ありがとう・・・です・・・・。」


「あなた方も僕の燻製肉で良ければありますよ。折角ですので焚き火にどうぞ」


「ひぃっ。・・・・誰かいます?・・・お・・お、おば、おぉ、おかべ???」


座ったまま奇声を上げて背筋を伸ばし、

少しでも高い目線で懸命に周囲を見回すベリューシュカ。


「え?・・・」


ウィルナはベリューシュカに聞き返すしかなかった。

凄く早口で話すベリューシュカが何かに驚いている様子は理解できるが、

勢い良すぎてなんて言ったか分からなかった。


「ウィルナさん、先程から誰に話を?」


「向こうに止まっている人影が七人見えるので、私達に気を遣っているのかと」


エイナの質問に、ウィルナが自分の革鞄の中を漁りながら答え、

ウィルナ以外の二人は暗くてよく見えない周囲を見回すが誰も発見できない。


「大丈夫と思うよ、トレス。横においで、ご飯にしよう」


ベリューシュカの向かいの位置で焚き火に座るウィルナに二人の視線は集中し、

その声もまたウィルナに向けられウィルナも会話の捕捉を続けたが、

顔の向きと言葉は離れた位置のトレスへと向いていた。


ウィルナは自分の横に位置を変え再び丸くなったトレスに

燻製肉を差し出しカリカリと独特な音が鳴りだす。


三人が焚き火を囲んで数分後、

街道と逆方面の草原が広がる大地に、突き立てられる金属音が二回連続で響き、

エイナおばあさんとベリューシュカはびっくりして声を上げ、

トレスは丸くなったままカリカリを続けウィルナは金属音を気にしていない。


ほどなく星の一つすら見えない厚い雲に覆われた闇夜の休息地に

三人の黒い人影が浮かび上がった。


やがて焚き火の光に照らされ歩いて来る人影は、

黒一色のマントで身を包みフードを深くかぶり一人が大柄で男性とわかる。

残りの二人は体格から判断すると女性。


『なんで?なんでなのよ???どういう事なのよ!!!』


先頭を歩く女性一人の深くかぶったフードの陰から

灰銀色の綺麗なストレートの長い髪の一部が胸元まで流れ、

歩みを進めるかすかな体の動きとともに揺れ、焚き火の光を反射している。


「ご厚恩に感謝する。」


三人の先頭を進んで来た女性の声は強い意志と

(はかな)さを併せ持つ透き通る綺麗な声だった。


「構いません。ここは旅をする(みんな)の休息地と教えてもらいました。

二人も良い人達ですし気にしないと思いますよ」


『感謝』という言葉を理解し反応したウィルナの声に、

来訪者の姿を確認したエイナおばあさんとベリューシュカは固まるばかり。


先頭を進んでいた女性一人が焚き火に座り、他二人は背後で仁王立ち。


「魔族・・・・」


「ひぃっ・・・」


エイナおばあさんとベリューシュカは無意識に声がでた。


来訪者は深くかぶるフードで顔を隠しても、

焚き火を囲んで座るウィルナ達三人は歩いて来る人影を下から覗き込む状態、

噂の外見をフードの陰の中に視認していた。

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