うちの馬車の中に入る化け物
『・・・神様・・・なぜでしょうか神様・・・。
先程、救いを求めた田舎にあるヘイヨード村のベリューシュカです。
十七歳になったばかりの、か弱い少女です。
自己紹介をしなかったからなのですか?
先程もお伝えしましたが、悪い事は何一つした事はございません。
あえて言うなら「可愛い、かわいい」と頻繁に言われる事くらいです。
盗賊に馬車から引き落とされ、腕を掴まれ大声で怒鳴られていました。
遠くに黒い何かが出来て、そこから出てきた人らしき何かが
見た事も無い魔獣らしき何かとすごい勢いで走ってきました。
頑張って抵抗した私を救うため、
神様がつかわされた存在では無かったのですか?
私の腕を掴んでいた盗賊を殴り飛ばしました。
魔獣らしき何かは背中から伸びるうねうねした何かで盗賊を貫きました。
あぁ神様・・・・
私は悪い事はしていません・・・
目の前の人の形をしたものは、一体何ですか?
大人一人をワラ人形のように殴り飛ばしました。
噂に聞く魔族も魔人も獣人も人の形をしているのでしょう。
目の前で屈んで見せている背中の黒い毛皮は一体何?
腰にも似た毛皮があるのですが他全裸っていったい何?どういう事??
今はもう冬なのですが・・・・
目の前の何かは人らしきケダモノにしか見えません。
神様の御使いがケダモノなんて聞いてないです。
あぁ神様・・・物語に出て来る白馬の騎士様は実在しないのですね・・・』
離れた位置から走って来る野人は細い体のイメージだった。
身長も一般男性くらいなのかもしれないと思っていた。
目の前で屈んだ野人の体をよく見たベリューシュカは間違いだったと知った。
腰は細い、しかし盛り上がった背中の異様な筋肉が毛皮の内側に見えた。
屈んだたくましい足やその太い腕には筋肉の筋がくっきりと浮かび上がり、
数本の傷跡が刻み込まれている。
背後からでも分かる胴体は厚くたくましく、
顔全体を隠し背中の中ほどまである長い髪もまた異様だった。
盗賊より野人の方が怖かった。
「ひぃっ!」
ベリューシュカの口から恐怖で声がでた。
恐怖で目の前の野人に釘付けとなり、見ていたベリューシュカの思考は、
さらに先の・・・、ある一方へと拡大進行、一瞬で突き進んでいった。
『このケダモノの子を孕んじゃう!!!』
べリューシュカの目には自分の抗う両腕を
しっかりと抑える事が出来るであろうたくましい腕が見えた。
どれだけ逃げても追いつかれ組み伏してしまう足を見た。
盗賊を蹴散らした後、自分の衣服はケダモノに破り捨てられ
半裸の私はあの腕で押さえつけられ犯される・・・
そしてケダモノの厚くたくましく生命力にあふれた体躯で犯され、
一回の交尾で確実に子供を身ごもる事になる。
ベリューシュカの目にはこちらに振り向くケダモノの顔が見える。
『・・・髪の間から見える綺麗な鼻筋はタイプなのかも・・・
違う違う!!!神様!ごめんなさい。嘘つきました。いえ、ついていません!
いつも可愛いと言ってくれるのは唯一の家族のおばあさんだけです。
今日も朝にかわいいベリューシュカと言ってくれました。
かわいい17歳の女の子と言えば神様も助けてくれるかもと思いました!
他の男の子に言われた事なんて一回も無いです。
短い髪はボサボサだし、顔にはソバカスもあるし、
ほんとにかわいい人は他にたくさんいます。
でも結婚前になんて絶対やだ!!!
違う!違う! ケダモノのお嫁さんになんてなりたくない!』
「だいじょびゅ・ふぉ・・・・・・・」
「いっやああああああああああああああ」
ベリューシュカは最後の抵抗と意志表示のため左手を地面につけ、
大きく右手を振り上げておもいっきりケダモノをひっぱたいた。
そこからベリューシュカは目の前の光景を見ていたが記憶から除外した。
「お前達のせいで、なになに~」
「お前達がいなければこんな事に、なんとかかんとか~」
ベリューシュカは聞こえる声や悲鳴さえ認識を拒んでいた。
初冬の明るい田舎の街道は暗い地獄だった。
『・・・神様・・・ 御使い様はケダモノではなく化け物だったのですね。
ショートソードやストレートソードを持った盗賊六人は、
素手であっという間にやっつけられて私の番がまわってきました。
・・・・神様・・・・どうかおばあさんだけは助けてください』
ベリューシュカのうつむいた先の地面に大粒の涙がおぼれ落ちた。
地面についた両手は、座り込んだ足腰は、体が恐怖で動かない。
ベリューシュカのうつむいた視界の先に化け物の足が見えた。
ゆっくりと確実に歩いて来る。
「・・・神様。」
目の前まで来た化け物に恐怖で顔を上げれない。小さな声だけがでた。
化け物はそのまま歩きすぎた。
「大丈夫ですか?どこか怪我は無いですか?」
普通に優しそうな青年の声が少し離れた横から聞こえた。
ベリューシュカは顔を上げ、化け物を見た。
『ちょっと、ちょっと!なんですぐにおばあさんの方なのよ!
座り込んで泣いてる女の子の私が先じゃないの????
怪我もしてるかもしれないじゃん。それ先に聞くの私じゃない????』
「そうですか。もう一人の女の人も大丈夫ですよ」
『いやいや、だから泣いてるって。大丈夫に見えないでしょう普通!!!』
別の意味で悲しくなり、ベリューシュカの涙は溢れた。
「あ、あ・・・、あ、あの・・・、あのー。」
ベリューシュカは今までの恐怖と緊張で言葉がうまく出ないけど頑張った。
「わ、わ、・・・私達を助けてくれたんですか?
盗賊を追い払って私達を横取りするんじゃなくて?」
「盗賊や横取りという言葉が良く分かりませんが、
困ってそうなので助けに来ました。
追い払ってよかったのでしょうか?一人も殺していませんけど」
ベリューシュカの声に振り向いた化け物は
長すぎる髪でどちらが前か一瞬分からない程だが振り向いて答えてくれた。
「あの・・えと・・あ、あ、あの、はいっ!」
化け物が寄って来てベリューシュカの前に立ち右手を差し出した。
「ひぃっ」
ベリューシュカはやっぱり化け物が怖くて、その腕が近づくのが怖くて声が出た。
「ベリューシュカ。私のかわいいベリューシュカ!」
「おばあさんっ。うえええええん」
二人は抱き合い涙を流した。
「無事で良かったです。それでは僕はこれで」
化け物は魔獣のうねうねの先に着いた盗賊の血を
竹の水筒から水を流し洗って綺麗にした後で二人に声を掛けた。
「お待ちください。ヘイヨードに帰る途中なのですが、
乗って行かれませんか。家で何かお礼もしたいですし、その・・・」
立ち去る化け物におばあさんが声を掛けた。
「旅の護衛として私達を助けてください。・・・それに・・・・
これからの冬に裸はおつらいでしょう・・・」
おばあさんがかなり勇気を振り絞って化け物に続けて伝えた。
ベリューシュカは見守るしかなかった。
化け物が裸至上主義だったら命はないのかもしれない。
「え・・・・・」
化け物は振り向いて固まっていた。
「え?」
ベリューシュカとおばあさんは声を重ねて聞き返した。
「うおおおおおぉ~っ!!!」
化け物は今のおばあさんからの言葉で自身がほぼ全裸だった事を自覚し
急に羞恥心を見せて体を丸め毛皮を引っ張っている。
ベリューシュカは盗賊も知らない目の前の化け物が馬鹿なのだと思った・・・・
「少しお待ちください。使える物がありますよ」
おばあさんが馬車の荷台後方から四角に折りたたまれた白い布を持って来て、
化け物に渡した。
「これは・・・、ありがとうございます。マントのように体をつつめますね」
肩に掛けてある毛皮を外し大きな白い布を広げて体にかけた化け物は、
幾分ましだが布を羽織った人間も見た事が無い・・・やっぱり異様で異形だ。
ベリューシュカには化け物がお化けに変わっただけにしか見えない。
「長い髪も櫛でとかして束ねましょうか?」
「はい、お願いします。前が見づらくて困ってたところでした」
「手が届かないので地面で悪いですが座っていただけませんか?」
「はい。ここでいいですか?」
ベリューシュカの目の前でおばあさんは化け物と普通にやり取りしている。
左にある馬車の荷台に左手をつき蒼白銀の魔獣に目を向けると、
化け物の方を向いて大人しくお座りをしている。
『一体何なの???おばあさんは孫が出来たみたいに優しくしてるし、
化け物もおばあさんに嬉しそうな感じ、うちのおばあさんに懐いてない?
おばあさんってもしかして化け物の扱いが上手なわけ???
いやいやいやいや・・・・・
魔獣のうねうねについてた血も水筒みたなやつで洗い流していたし、
化け物の声も優しい感じ、優しい化け物なのかしら・・・・』
「かわいいベルや。髪留めを持って来てくれないかい?」
考え事をしながら眺めていたベリューシュカに、
おばあさんから頼まれ事が告げられ「は~い」と
返事をして御者台まで駆けて髪留めを手に戻ってみれば、
化け物は布を巻いた人間に変身していた。
「おばあさん。はいこれ」
「ありがとうね」
ベリューシュカはおばあさんに髪留めを渡しながら
横目で化け物を見てドキドキした。
『普通じゃん。顔も普通、年も同じくらい。
鼻の形は好みだし、ん~顔も好みかも?・・・・でも化け物だし・・・・』
「どんな具合ですか。痛い所とかは無いですか?」
「はい。ありがとうございます。世界が広がった感じがします」
「それでは荷台にお乗りください。村に帰りましょう」
「え・・・?あぁそうでした。お言葉に甘えてお願いします」
おばあさんと化け物は二人で話を進め、
ベリューシュカは取り残されたが、頑張って一言化け物に聞いた。
「あ、あの、あの、・・・あのですね・・・お名前は?」
振り向いた元化け物の青年はウィルナと答え、
「行くよトレス。優しい人達に出会えて良かったよ」と
魔獣に声を掛けて外した毛皮を手に荷台の後方から乗り込んだ。
『ちょっと!!!名前聞かれたんだから聞き返すでしょうよ。
そこは普通私とおばあさんの名前聞くよね???
自己紹介って言葉知らないの?やっぱ化け物じゃん』
こうしてベリューシュカとおばあさんと化け物と魔獣で村に帰る事となった。




