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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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継承 陸

三人は直ぐに大森林から出る方法の調査及び探索を

開始するわけにはいかなかった。


この場所には子供達が『収穫期』と呼ぶ魔獣襲来の時期が

毎月約半月の期間で確実に起こる。


前回巨大樹まで探索した日数などは覚えているが、

冷たくなったアルマの尾の中で何日眠っていたのかが分からない。


冷たいアルマの体を魔獣から守る為、

亀裂の入口に岩を敷き詰め重ねて塞ぐ作業と、

襲来する魔獣にアルマを触れさせない為、

一体残らず駆逐する目的を優先させ、アルマの側を離れなかった。


一昼夜で終わる作業ではなく、

調査を開始したのは10度付近まで気温が下がる冬の時期からだった。


「ルル、お誕生日おめでとう。今日じゃないと思うけど。」


魔獣の毛皮を重ねて羽織り、腕、足、腰にも毛皮を巻いたウィルナが、

寒くなった冬の到来を意識しルルイアを祝福した。


「おめでとうルル。今年で十三歳だよ。」


「ありがとう。どう?大人の女の人みたいになった?」


ロッシュベルの声を合図に一行の前に駆けだし振り向いたルルイアが、

クルッと体を一回転させ重ね羽織った毛皮と長い赤髪をなびかせる。


「母さんに比べればまだ子供でしょ」


「はぁああああ~」


ロッシュベル自身の母カーシャを引き合いに出され、

ルルイアは笑いながら逃げるロッシュベルを追いかけた。


二人の後を歩き見守るウィルナとトレスを含め、

目的地の初期拠点のある場所へと歩を進め、

辿り着いた小さな草原に小川の流れる懐かしい景色。


殆ど朽ちているが使用した木の棒は未だ存在し、その痕跡を残している。


「懐かしいね~ここだよここ」


「あぁここだね。かまどを崩した跡もあるし」


「ありがとうトレス。助かったよ」


ルルイアは駆け寄り、ロッシュベルも歩み寄って周囲を見回す。


ウィルナはここまで案内してくれたトレスの横に片膝をつき、

両手で頭と背を撫でて感謝を伝えた。


三人はこの場所を離れる方法の調査のため、

一番最初に思い浮かんだ明らかに人工物の石柱を調査する事にした。


三人が知り得る石柱は二本二ヶ所。巨大樹か洞窟か。


どちらを調査するかはウィルナが即決し、最初の洞窟の一本だけに決めた。


黒獣との戦闘による負傷で、あのままならウィルナは確実に死んでいた。

それをアルマが救い、今のウィルナがある事を理解していた。

再度戦闘する事になれば勝てる保証は無い。

勝てた事が奇跡に近く、今生きている事もまた奇跡だった。


しかし三人は洞窟の場所が分からない。


引っ越し当時ここから半日歩き離れた場所からアルマの背で移動し、

その背で三人とも眠りに落ちて記憶がなかった。


そこでここに来ていたトレスに頑張って伝え、道案内を頼んだ。


この地点から記憶を辿り、最初にウィルナ達が登った木を見つけた。


広がる木の根の付近に洞窟の方角を指し示すため大地に立てた太い木の棒は、

乾燥し朽ち果てながらも一部を残し方向を教えてくれた。


一行は歩き続けやがて洞窟を発見し、その奥で石柱を見つけ、

ウィルナが魔力を流したり皆で周囲を観察してみたが反応は一切ない。


「あああっ」


手掛かり無く時間だけが経過し、一時間近く暗がりで話し合い周囲を見回し、

多少光の届く暗がりの洞窟の最奥でロッシュベルが声を上げた。


ここに来てロッシュベルの記憶は過去へと遡り、

どの様にここまで移動したのかを考え辿り着いた。


「岩だよ、最初に兄さんが割れた巨石で開いたんだよ。星夜」


「・・・なるほど確かに」「あぁ~~~」


ウィルナの声とルルイアの声が重なり現在の住居、

巨大な一枚岩のふもとに広がる草原で、

毎日目にしてきた点在する巨石を思い出した。


「家の近くのあの岩たちだよ、きっと。色も形も似ている気がする」


興奮気味のロッシュベルの声にウィルナも過去の記憶を辿るが曖昧だ。


「よし、戻って調べてみよう。さすがロッシュだよ」


「・・・・」


ウィルナはロッシュベルに賛同し、ルルイアは口を開けてポカンとしている。


三日かけてアルマが眠る正面に広がる草原に戻り、

草原に散らばり点在屹立する合計十一体の縦に長い巨岩を数えた。


「多分これだよ。割れてなければこれに近い形だった気がする」


ロッシュベルの案内で

ウィルナが毎朝魔獣を重ね訓練相手にしていた巨岩の前に辿り着く。


「ありがとうロッシュ。まさかこの岩、毎日見てたんだけど・・・ははっ」


ここまで誘導されてついてきたウィルナはかなり恥ずかしく、

毎日見ていても気が付かなかった事を笑ってごまかした。


「早速兄さんが魔力を込めてみて。あの時もそうだった。

長老の枝はもうないけど出来るだけ再現してみたいんだ」


多少早口気味のロッシュベルに頷き、ウィルナは巨岩に魔力を込めてみる。


ウィルナ含め三人は初めての経験で、

攻撃魔法などの訓練時は教わっていた習慣で全て上空に発動していた。


「フー。いくよ?」


右手を巨岩にあて、深呼吸して魔力を込めた。


巨岩から離れた位置に漆黒の空間が開かれた。


「きたあああああ~」


「やったよ兄さん・・・?」


「・・・」


ルルイアが喜び、ロッシュベルも続いたが途中で頭をかしげた。


記憶の星夜は漆黒の中でも分かる黒赤や黒蒼と、

光輝く星の様な光が一面に広がり三人が星夜と呼ぶその名の由来となっていた。


しかし両開きの大きな扉程度にひろがった空間には黒一面のみだった。


ウィルナは速足で駆け寄り、木刀を右手にその空間にあててみた。


空間に波紋が起こるだけで巨大な壁が存在している感覚。


1分ほど維持された黒は存在を消した。


「枝なのかな~あれが鍵なのかもしれないね。兄さん合図でもう一度」


腕を組んで考えていたロッシュベルが自論を考察し、

ウィルナに声を掛け、ウィルナも頷き巨岩に右手をつき合図を待った。


ロッシュベルは仮説を立て、試みた。

肩の革鞄をウィルナに手渡し、魔力を練り上げ高め魔法を発動した。


「いいよ兄さん。来いっ。ハーヴェスト・サァーイスッ!!!」


先ほど見た黒のみの空間は転移する為の扉、

長老の枝は扉を開くための鍵、

発見した石柱は転移先へと固定する為の印。


『鍵の無い扉なら力ずくでこじ開ける!』


そしてロッシュベルの仮説は正しい事が証明された。


ロッシュベルの魔法が黒に重なる瞬間から魔法周囲に星の光が輝きだした。


「ハーヴェストサイス・サークルフォーメーィション!!!」


ロッシュベルはその場で更に魔力を練り上げ魔法の形を変え、

生み出した二本の巨大な鎌の刃を連結融合、円月輪の形に変形した。


歯を食いしばり、魔力を消費し続け必死にこらえているロッシュベル。


更に三人とトレスの目の前に広がった黒の中心、

円月輪の輪の中には星夜の空間が出現していた。


「早く、二人とも。長くもたない・・・」


歓声を上げ星夜に駆け寄るウィルナとルルイアに

苦しそうなロッシュベルが伝えた。


ウィルナは円月輪の輪に生じた亀裂を見て瞬時に判断した。


魔法の使用のため星夜から離れた位置の動けないロッシュベルに

駆け寄り体を掴み、抱えて駆けこむより確実な方法、


「飛び込めルル!。ルルはお前が守るんだっロッシュ!」


そのロッシュベルの体を円月輪の中に広がる星夜に投げ、


「兄さん!!!」


ウィルナを見たルルイアも唇を固く結びウィルナの声を背に星夜に飛び込み、

ロッシュベルの魔法の消失と同時に黒一色に戻った。


一瞬の出来事だった。


ウィルナはロッシュベルが愛用していた革鞄を肩に掛け、

トレスの横まで移動し頭をなでて話しかけた。


「もう少しアルマの側にいよう。必ず外の世界で二人を見つけるよ」

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