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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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33/109

継承 参

住処の亀裂から外に出なくなった元気のないアルマを気遣い

『収穫期』と三人が呼ぶ魔獣が頻繁に襲来する半月を避け、

出現しなくなる半月の時期を見計らい、

一向に減らない魔獣の原因を調査する目的で襲来方向へと痕跡を辿り続けている。


朝方にアルマのもとを離れて今日で三日目の昼前だった。


「あれって入口から続いてた山だよね」

最初に発見したルルイアが声を上げ二人も同意する。


アルマや三人が住居を構えた場所が、大森林の大まかな中心位置だったらしく、

木々の隙間から遠方にそびえたつ巨大な外輪山の一部を目に、

ようやく自身が巨大な大森林の、どの辺りに居るのかを理解した。


「明日の昼には岩壁まで辿り着くね。早いけどお昼御飯にして一休みしよう。」


ウィルナの提案に二人も同意し、適当な場所で腰を下ろし荷物を下ろす。


ロッシュベルが長年使い続けている多少ひび割れた革鞄には、

保存加工された燻製肉と調理済みの栗だけが入れられ、

ルルイアが使い続けているガサガサの革袋には水袋と包帯が入れられていた。


水や食料の携帯量の事情で一週間以上の探索は出来ない為、

三日目の昼前に何かしらの発見、

特に大森林の大きさの大体の把握は嬉しい発見だった。


しかし未だに目的の魔獣の発生原因が特定出来ない。


魔獣自体の発見も無くここまで来た。

魔獣の察知能力に秀でたトレスの反応も無い。


「昼からも日暮れ前までは痕跡を辿って進んでみよう。トレスも頼んだよ」


長年愛用している竹の水筒から水を口にした後、ウィルナが伝えた。

最初は緑の竹の水筒もいつの間にか黄色に変色したが大切に使用している。


「魔獣よりも見つけた山まで行ってみようよ。楽しそうだし」

ルルイアが隣で座るトレスに燻製肉を、その手を皿に食べさせながら提案し

「僕は魔獣発生の方が気になるよ。興味があるんだ」

ロッシュベルがルルイアに意見する事で多数決の決定権はウィルナに委ねられ、

近くに座る二人は同時に正面右のウィルナに顔と視線を向けた。


「二人とも良くシンクロするね。ん~~~」とウィルナは考え込み、

「痕跡の追跡を優先しよう。方向も大体同じだし、ごめんよルル」と決断した。


「え~~~、全力で走れば夕方前にはつくと思うのに~」

とルルイアが頬を膨らませたがウィルナは笑ってごまかし、

「調査は次回も出来るよ。あの山も気になるし来月行こう」

と切り抜けようとした。


「はいはい。その時は寒くてお母さんから離れられないかもね~」

と、ルルイアがさらにひねくれる結果に終わり、

「ごめんよ」とウィルナはあやまって許してもらった。


「まったく・・・子供なんだかりゃ・・・」


ロッシュベルの言葉で「なんですってええええぇ~」と、

ルルイアの怒りに触れたロッシュベルは頬を引っ張られる事となり、

文句を言い合う二人をなだめる楽しいお昼をウィルナ達は過ごし、

「行こうか。また砕けた落ち葉や、折れた枝を見つけよう」

ウィルナが口にしながら準備を開始しトレスが横についた。


二人も周囲を見回し忘れ物が無いかを確認した後

「おーけーいこ~」「うん」と二人も移動を開始した。


ウィルナ、トレスが前方を警戒して歩き、

右後方をルルイアが追従、ロッシュベルが最後尾の左後方。

いつもの警戒陣で何事も無く進行し、

夕方過ぎてトレスが一本の棘刺鞭を左前方に展開した。


アルマやトレスは吠えもせず唸りもせず一切声を出さないが、

三人が語り掛け続けた四年を経て、三人の言葉をある程度理解している節があり、

その中でトレスは棘刺鞭で魔獣の発見方向指示含め様々な意思疎通を行っている。


魔獣を認識出来ていない三人は静かにトレスに追従し、

500メートルほど移動した先で懐かしささえ感じる羊猪を発見した。


未だ距離のある羊猪三体をようやく認識出来たウィルナは

「良く見つけたね。あれを晩御飯にしよう」トレスの頭を屈んで撫でた。


「おぉ~あれってどんな味だっけ?まぁいいや。わたしがやる」

ルルイアがロングダガー以外を横のロッシュベルに手渡す。


「僕も行こうか?」とロッシュベルに声を掛けられたルルイアは

「いらない、この一帯破壊する気!?」と強く言い返す。


どうやら昼の事を未だ怒っていたみたいだ。


「任せたよ。三体だから僕達も近くに行くし、危なくなったら加勢するよ」

ウィルナは口に出しながら羊猪三体を不憫に感じた。


「はいはい。ウィルにぃは助けて。ロッシュはいらない」

「まったく・・・だから僕はこどみょっ!!!」

「もう止めなよっ・・・ぷ・・っぁはっあぁはっはははっひぃ~~~」

ウィルナはロッシュベルの顔が面白くて思わず大声を上げて笑ってしまった。


当たり前だが距離があっても魔獣三体に気付かれ走って来る。


「ごめんごめん。もう無理・・・はぁはっ~ひ~~」

ウィルナはツボに入り、

「もぉ~~~来てるじゃん、あれー」

ルルイアは文句を言い、

「トレスも助けに行かなくていいよ。ルルなんて!」

両頬を掌で抑えるロッシュベル。


結局準備も作戦も対策も何もせず、羊猪は距離20メートルまで迫り、

その時点でようやくルルイアは自身に防御魔法を構築終了。


「少し下がるよ、トレス」


「そうだね。僕もそうするよ」


ルルイア以外は身体強化魔法のみを使用し、後方へと大きく飛んで距離を取った。

トレスも反転後退してウィルナに続き、ウィルナの横で魔獣を捉えた。


羊猪とは2回だけの戦闘経験だが攻撃方法は記憶してある。

四年前の記憶だが、体を固定し地面から土塊を空中に構築し撃ち出す。

頭部を低く下げ、頭部にある角も利用して体当たりをして来る。


今の三人にとっては雑魚だ。


「このぉ~~~~~」


身体強化魔法を発動したルルイアは突進して来る集団に正面から突っ込み、

正面から一体の頭部に右手を固く握り右手の鉄槌を打ち下ろす。


ルルイアの防御魔法は三人の中で一番強固だ。


つまりルルイアは防御魔法で思いっきり殴った。


自身が許可しない一切を拒絶する魔法で、

付与する時に物理耐性と魔法耐性の割合を決めて構築する。


同時に二枚以上を付与する事は出来ず、

付与された状態に発動した場合は前者が消失し、

後者が再展開される上書に当たり、重複する重ね掛けは出来ない。


身体強化魔法はもっと単純で、

筋力と同じように体内に存在する魔力を意識して使用するだけで特別な事は無い。


ルルイアは体から離れた位置に魔法を構築する事が出来なかった。


ルルイアはこの二つの魔法しか使用する事が出来なかった。


八歳の頃には誰に云う事も無く既に諦めていた。


前向きすぎるルルイアは、悲観しなかった。

出来ないのならば自分が出来る他の事で他人との差を埋める努力を継続し続けた。


今現在では三人の中で一番の魔力出力を誇り、

生み出された強力な魔力出力で発動された身体強化魔法と

自身の体を密着して覆う外皮ともいえる防御魔法でルルイアは戦い続けた。


今現在右手の鉄槌を頭部に受けた魔獣は頭から地面に陥没後、

その体は地面でバウンドし黒紫色の弧を描き2メートルを超える跳躍を見せた。


魔獣を拒絶するルルイアの意志の中、固すぎる防御魔法は身体強化魔法を得て、

ルルイアを全身凶器に変えていた。


「次のやつ~!!!」


ルルイアは走り去る一体に体を向け直し跳躍する。たいした距離は無い。


魔獣は方向転換しようと速度を落とし右斜めを向いた瞬間、

頭部の右の角をルルイアの左手で押さえつけられ、

頭部から地面に食い込んで後ろ足だけ痙攣させ、

再度地面から引き剝がされ持ち上げられた頭部及び全身に力は既に無く、

再度地面に叩きつけられる事で魔獣は完全に沈黙した。


「ぬああああああ~~~~~つぎいいいい」


立ち上がるルルイアの目に短い四つ足を地面に踏ん張る魔獣を捉え、

魔獣の頭部横の空中に土塊が出現しているのを確認する。


「ふんっ」と、口にしたルルイアは歩き出し距離を詰める。


魔獣から発動された土塊を左手の一振りで打ち払い、

直後瞬時に距離を詰め、魔獣頭部の両角を両腕を交差させてガシッと掴む。


まるで畑で大きな大根でも抜くように持ち上げ、腕の交差をもとに戻し、

自身と魔獣が屹立した状態から「えやああああ」という声と共に

魔獣の背を思いっきり地面に叩きつけ、

轟音と共に骨の砕ける音が響き渡り地面はひび割れ陥没し隆起し、

再度持ち上げ叩きつけて「ふい~~~すっきりしたぁ~」と

ルルイアが戦闘終了を宣言し討伐完了した。


「さあ、食材もそろったし晩御飯にしよう。ルル首裂いて血抜き宜しく」

とウィルナが声を掛け、


「どっちが破壊者だよ」とロッシュベル。


「はぁ~~~~」と、すかさずルルイアが振り向き、


「はいはい。ご飯の準備が先だよ。暗くなる前に済ませよう」

とウィルナが両手を叩いて二人を止めた。


二人は燻製肉以外の満足な食事が終わる頃には普段の様子に戻り、

三人とトレスは仲良く携帯してきた毛皮の上で毛皮を掛けて夜を明かし、

次の日の昼食後、移動先で村に存在していた長老にも似た巨大樹を発見した。

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