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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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30/109

成長 陸

巨大な影を伸ばす親犬に目を向けながらウィルナは決断した。

「よし、親犬の所へ行こう!」

ウィルナは即時身体強化魔法を発動し、子犬を抱きしめ親犬を視界に駆ける。

「いま行くぞぉ~、お~や~い~ぬぅ~!!!」「うん行こう!」

二人も自身に強化を発動し、ウィルナの後を追い親犬のもとへと草原を駆ける。


「おやいぬ~、お~や~い~ぬ~!」命を懸ける戦闘前、

5メートルという巨大な魔獣が迫る中でもルルイアの声は何処となく楽しそうで、

「やろう兄さん、ルルッ!」

背後から聞こえるロッシュベルの声は戦う決意に満ちている。


巨大な衝突音が聞こえ音の方向、かなり距離のある魔獣に目を向けると、

魔獣の数が四体から三体に減っている。


「おやいぬ~!すごいぞ、おやいぬ~~!!!」隣のルルイアは飛び跳ねて駆け、

ロッシュベルは「兄さん!見えたかい?」と歓喜の声を掛けてくる。


ウィルナは何の事か分からず駆けながら声の主へと小さく首を振り、

そのまま三人は親犬の後ろに辿り着くと同時に親犬の触腕で背に乗せられた。


今回も触腕で子供達を支えているが、

右側の触腕のみで左の触腕は親犬の前面に巨大な爪として展開され、

背にまたがった子供達は右腕を回し、蒼白銀の触腕にしがみついた。


未だ魔獣との距離は80メートル以上はある。


「いくぞ~おやいぬ~~~!」先頭に座り声をあげるルルイアを見て、

『めっちゃ楽しんでるよね』と言いたくなるのをウィルナは抑え魔獣を注視する。


親犬の存在という絶大な安心感が戦闘に対する緊張感を失わせ、

ウィルナ自身も気が緩んでいる事を実感した。


「みんな気を抜くな。つかんだ右腕は絶対に離すな!防御魔法も展開!!」

ウィルナは多少の痛みを気にせず左腕にしっかり抱いた子犬を確認し声を上げる。


周囲に薄氷を踏む音が響き渡り不格好な光の揺らぎが生み出され、

子犬を優先し発動した防御魔法をウィルナ自身に再度発動する。


「わかってるって~」ルルイアだけが返事をし、

前に座るロッシュベルも触腕を右腕でしっかりと抱え直し、

その間ゆっくりと反転し魔獣と距離を保ち続けたいた親犬が再度反転、

魔法の行使を行い二体目の魔獣が草原に陥没する。


ウィルナには魔術としか表現できなかった、

親犬がそれ(・・)で攻撃している以上攻撃魔法なのかもしれないが、

親犬からは一切の振動も予兆も感じ取れず、

どの様な自然の力の根源なのかまったく理解出来ない。


ただ何の前触れも無く視界の先で草原が陥没し、魔獣と共に消えていく。


魔獣との距離残り70メートル、魔獣二体が同時に止まり、

後ろ足四本で上体を起こし立ち上がったように見えた。


「撃てロッシュ!!!」「わかった!」 


魔獣は長い前足を大きく広げ、その中心に巨大な炎弾を生成し始める。

ロッシュベルも親犬の背で左手を空へと掲げ意識を集中し始める。

親犬は速度を上げ真っ直ぐ距離を詰める。


親犬の動きが起点となり三人は同じタイミングで体勢を動かされるが反動に耐え、

疾走に入った親犬の触腕にしがみ付く。


「わっひゃ~」「くっ」「うわっ」


草原を疾走する親犬は急に左に跳躍し子供達は右の触腕に体を支えられ、

発生した強力な遠心力に皆が声を上げたが懸命に姿勢を維持し、

振り落とされる事無く魔獣に視線を向け続けた。


その中でもロッシュベルは集中を切らさず攻撃魔法を発動させ、

距離の近い方の魔獣一体を狙い爆炎魔法を発動、

魔獣の横で一瞬の煌めきの後、轟音と共に爆炎と衝撃波を生み出し、

多少発動地点がずれたにも関わらずその大きな爆炎で飲み込む事に成功する。


ウィルナも攻撃魔法の射程に入った為、いびつな円錐形魔弾を二本構築、

爆炎に飲まれた魔獣を狙い記憶の位置を頼りに追撃する。


「いいぞロッシュにぃ!ウィルにぃ!いけ~やれ~おやいぬ~!」


触腕にしがみ付く最前列のルルイアは左手を突き上げ叫び続け、

その間親犬は爆炎に飲まれた魔獣より無傷の一体の爆炎魔弾を警戒し、

大きく旋回して二体を中心に距離を取り反時計回りで疾走を続け、

無傷の魔獣から発動された炎弾を更なる加速で振り切り、

子供達三人は同時にガクンと上体が後方に跳ね上がるが懸命に耐え、

煙の晴れた魔獣の殆ど(こた)えていない姿を目撃する。


攻撃魔法の発動阻害は出来たようだが効果は今一だ。


ウィルナは魔獣の外見から以前戦った馬を思い出し、

馬も今目にしている魔獣同様、分厚く固い皮でその身を包み守っていた事、

馬の魔獣にもウィルナの魔弾は通用しなかったが、

ロッシュベルの物理属性を併せ持つ土操魔法と自身の木剣の突き、

ルルイアのロングダガーで切り裂き、全が物理属性で仕留めた事を思い出し

「土操魔法だ!物理属性ならいけるかもしれない」とロッシュベルに叫ぶが

「無理だよ兄さん、マナの操作が安定しない、距離も届かない」と返され

「親犬の邪魔にならない様に魔弾で攻撃しよう」と即座に叫び

「分かった兄さん!」とロッシュベルの声を耳に、

再度ウィルナは魔弾二本を構築、即時魔獣に攻撃を再開し、

ロッシュベルも球状の魔弾を一つ構築し攻撃を開始する。


トカゲの魔獣は横移動が苦手なのか親犬の動きついて来れず、

その場で頭を親犬に向け、尾の先へと捻り込むように方向転換している。


凄まじい速度で魔獣二体の周囲を旋回し、その円を少しずつ狭めていき、

親犬は前面に展開してある巨大な爪で衝撃も反動も無くトカゲの胸部を貫き、

親犬は空中に持ち上げたまま疾走する速度を維持し、

残りの魔獣に背中を見せた状態で真っ直ぐ距離を取る。


ウィルナとロッシュベルは上体を捻り後方の魔獣を確認、魔弾を発動し続ける。


「あと一体だおやいぬ!がんばれ~!!」

ルルイアだけは凄く楽しそうだ。


二人の魔弾は魔獣に対して殆ど効果が無く、直撃しては霧散消滅し、

トカゲの魔獣は直線で走る後ろ姿の親犬に両前足を広げ、

その中心で巨大な炎弾の構築を開始している。


親犬は子供達を気遣いながら速度を落とし、ゆっくりと向きを変え、

秒数の間でかなり離れた魔獣に視線を向け歩き始める。


「がんばれウィルにぃ!まけるなロッシュにぃ!!」

ルルイアの無邪気な声援が無音の草原に響き渡る。


ウィルナは射程外となっており、ロッシュベルだけが魔弾を発動し続け、

親犬は魔獣から迫る爆炎魔弾に触腕で貫いた魔獣を放り投げ、

二者の中間位置で衝突し巨大な爆炎を引き起こす。


子供達を守る盾として、

魔獣を貫き黒紫の血に染まる触腕が前面にうねり展開されており、

三人は爆風や熱をあまり感じなかった。


「ありがとう親犬、もういいよ」


ウィルナは優しく、それでも親犬の耳に届くように心がけ、

精一杯の感謝を伝えた。


「そだね。おやいぬありがと~」「うん」


と二人も納得し、正面の草原に巨大な穴が出現し魔獣の姿を一瞬で飲み込んだ。


右の触腕だけで器用に三人全員を親犬の前の草原に優しく降ろし、

魔獣を貫き付着した黒紫の血を舌で舐め取る親犬の巨大な前足に、

子供達は思いっきり抱き着きしばらくの間離れなかった。


子供達は弱者である事を再確認させられた。


親犬は駆け付けた子供達が戦闘に加わった事で、戦う時間を与えてくれていた。


夕暮れ前から始まった戦闘は数分で終了し、親犬は自身の触腕と爪に付着した血を

丁寧に舐め取りながら周囲の草原で巨大に陥没した個所を隆起させ、

大雑把な形だがある程度修復し、三体の無残な姿の魔獣も上がって来た。


子供達が離れ、一番近い魔獣に歩き出した親犬について行く形で二人も歩き出し、

ウィルナは子犬を屈んで地面に降ろし、頭を撫で親犬の後に続いた。


「おやいぬあれ食べてもいい?」

親犬の顔の横で小走りのルルイアが近くの一体を指さし親犬に聞いている。


一番近くの魔獣は貫かれ、魔弾の盾として投げられた魔獣で多少皮が焦げている。


親犬は顔をルルイアに少し向け巨大な赤い瞳で見つめ、再度正面に向き直る。

反応はしているが今一判断に困る。


親犬は右の触腕の爪で二体、左の触腕の爪で二体と、

全ての魔獣の頭部を貫き巨体を抱え上げて亀裂前の少し離れた位置に運び、

二体を子供達の家となる穴の前に置き、

一体は地面に、一体は触腕を器用に使い前足で地面に抑えながら食事を開始した。

子犬も親犬に混ざり同じトカゲを食べている。


「ありがとう」と三人で感謝を伝え、

一体を親犬の置いた一体の近くまで三人で引きずり「一体で十分だよ」と伝え、

「ありがとう」と再度感謝を伝え、

自分達も日が暮れる前に食事の準備に取り掛かる。


ウィルナ達は四ヶ月で確かに成長した。


だが、今までは運がよかった。この場所では通用しない事を実感し、

「さあ、晩御飯の準備をしよう。沢山食べなきゃ強くなれないよ」

と、ウィルナは二人に伝え食事の準備に入る。


数ヶ月程度の成長は、大した変化では無いのかもしれない。


それでも、昨日の自分と戦えば確実に勝てると自信を持って言える一日を過ごし、

ウィルナは毎日を大切に一歩ずつ積み重ね続け、継続する事を第一目標にした。

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