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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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28/108

成長 肆

ウィルナの最後の記憶は深い森の中を歩く親犬の背中にしがみ付いて、

子犬を抱きかかえていた事。


親犬は横方向にかかる遠心力でウィルナ達を落とさないようにする為か、

直線で背に座る三人の支えとして二本の触腕を背後に伸ばし、

最後尾のウィルナの背後で交差させ、子供達を両側から支えていた。


ウィルナは強さにおいて圧倒的信頼を置く親犬の背で守られ、

盛大な歓声を上げる二人の声を聴きながら自身も雄大な自然を満喫していたが、

やがて親犬のサラサラでフワフワな毛に顔から上体を埋め、

右腕に子犬を抱きかかえながら安眠に落ちていった。


曖昧な意識の中、ウィルナは包まれる温もりと肌に伝わる柔らかな感触を手に

上体を起こし、薄く開けたその目で影の先に広がる緩やかな下り勾配の草原と、

その先に広がる大小様々な樹木や苔に覆われた多数の岩を見た。


草原にも大小様々な大きさの岩が顔を出し、それらに苔は生えていない。


しかし岩より目立つのが巨大な物体で押さえつけられた様子の窪地だ。


大小様々な大きさの窪地が点在し、ウィルナは直ぐに焚き火を思い出した。


目に映る景色に夢中になり、

目が覚めたウィルナは自身が親犬の足と尾に包まれていた事に気が付き、

毛並みから親犬の頭の位置を推測し顔を上げ向けてみると大きな頭を発見した。


親犬はいつもと変わらない姿勢で横になり、

ウィルナの体を前足二本で器用に支え尾を丸めてウィルナに重ね瞳を閉じていた。


「おはよう、ありがとう」

ウィルナは御礼と朝の挨拶をして毛を踏まない様に注意して立ち上がり、

耳だけ反応した親犬は瞳を閉じたまま尾を動かし、

ウィルナに草原へと進む場所を開けてくれた。


足元含め周囲は全て大きな一枚岩で、横に広がる大きな亀裂の陰の中、

ウィルナは右腕だけで背伸びをしながらゆっくりと歩き出す。


目の前に広がる草原は、秋だが翠色で寝起きのまぶしい陽光から目を癒し、

正面に広がる大森林までの距離よりも左右に広大な広がりを見せ、

直ぐに駆け回るロッシュベルとルルイアと子犬を遠方に発見した。


大森林に来てから四ヶ月、保護者はおらず生命自体への脅威が存在する今、

ウィルナは勿論二人とも睡眠時でさえ音や気配に敏感となり、

常に警戒して過ごしてきた。


そんな中、笑顔を絶やさず過ごしてきたつもりだが、

今見る二人はここでの生活を始めてから初めて見せる懐かしさを感じさせ、

村で過ごした四か月前までの記憶が遠い過去に感じられた。


二人と子犬の方向へ歩き出したウィルナは、自身がいた背後の亀裂に振り返り、

やがて体も向けて後ろ歩きをする体勢になり、ある程度後退した後立ち止まった。


見上げた一枚岩は火成岩で形成され、部分的な柱状節理が特徴的な存在感を示し、

雨によって浸食された縦の筋がはっきりとした線で描かれ、

岩壁でたくましく生えた草木や苔藻類の緑も見て取れる。


ウィルナが注目したのは、多少先にある岩壁から流れ出る小さな滝で、

目が覚めてから微かな水音は聞こえてはいたが、

岩肌の傾斜に白線を引く小さな流れは小さな青緑色の滝壺に辿り着き、

樹海へと曲線を引く清流は光色の輝きを放つ透明な流れを形成している。


「おぉー」

一枚岩の壮大さと綺麗な水源に、今目に映る大自然の絶景に感動したウィルナは

つい感嘆の声を漏らした。


「おはようウィルにぃ」続けて「おはよう兄さん」と遠方から声が聞こえ、

間を置かず子犬がウィルナの足に体当たりをして周りで駆けまわる。


「おはよう」と屈んで子犬の頭に右手を出すと止まって頭を撫でさせてくれる。

その流れで子犬の背中にも手を移動、さすってあげると子犬はその場に寝転んだ。


『うん、今日も可愛い』


子犬の背中を撫でているとウィルナの背後から草の上を走る足音が聞こえ、

駆けて来る二人の方へと向き直り立ち上がる。


「おはようルル、ロッシュ」

ウィルナは普段の声量でも聞こえる距離に来た二人に声を掛けると


「おそようだよ兄さん!そこに座って傷の手当するから()ぐに座って待ってて

鞄取って来るからそこにいてよ、今もう昼だよ!」


ロッシュベルに捲し立てられ「はい」と返事し、強調された昼を意識し

空を見上げた後、走り去るロッシュベルの言葉通り座り込んだ。


「ウィルにぃ寝すぎ、親犬いるから薬塗れないし、起きるの待ってたんだよ」

座り込むウィルナに微笑むルルイアが状況を説明し、

ウィルナは「あぁ」と理解を示した。


「上着取るから我慢してよ」と言われ頷きで返答し、右腕を真上に上げる。

下から服を捲り上げ傷のある左腕と左肩を最後に服を脱がして包帯に取り掛かる。


「ちょ、ロッシュにぃどんな巻き方したのよっ」

愚痴を言いながら包帯に悪戦苦闘するルルイアに全てを任せ、

ウィルナは黙って脇を開け続けた。


「それ巻いたのルルでしょうが」

聞かれたロッシュベルに訂正されたルルイアは「え・・・」と昨日の記憶を辿り、

「あとは任せたっ。かけっこしよう子犬!」と子犬を連れ逃げていった。


「まったく・・・」とロッシュベルが頑張って包帯を外し手当てをし、

鎮痛効果のある軟膏も塗ってくれたおかげで、

時間も経てば少しは痛みも楽になるだろうと服を手に立ち上がる。


「はいこれ、お昼ご飯と水筒だよ。服と包帯は僕が洗っておくから」

「うん、ありがとうロッシュ」


ウィルナは水筒を受け取りその重量を感じ、その水を一気に喉へと流し込む。

服を受け取り栓を開けてくれたロッシュベルが栓をしてくれて、燻製肉をくれた。


「ありがとう」ウィルナは再度感謝を伝え、肉片を口に入れ水筒の紐を肩に掛け、

服と包帯を手に滝壺へと駆けて行くロッシュベルの背中を見ながら決めた。


「よし、ここに住もう!」

全ての燻製肉を飲み込んだ後、行動を開始した。

そうと決まればここに住んでいる親犬に許可を貰わなければと駆けて行く。


いつもと同じ姿で亀裂に横たわり、丸めている尾を避けて親犬の足にしがみ付き、

「ここに住みたいんだ、いいかな?起きてよっ!」

と親犬の大きな前足をゆすってみた。


ウィルナの声に反応して巨大な赤く光る瞳でウィルナを見つめ直ぐに目を閉じる。


「おねがいだよ、起きてよ」

再度の抵抗の後、親犬は瞳も開けずウィルナの背後にある尾で、

ウィルナの背後から全身を上から下に撫でてくれた。


相も変わらず理解に苦しむ反応だがウィルナはOKサインだと勝手に認識した。

「いいんだね、いいよね、仲良くしようよ。やってほしい事があるんだ。

起きてよ!」


今度は前足を引っ張るウィルナに再度赤い瞳を向け、

撫でるのを止め丸めていた巨大な尾で再度ウィルナを優しく撫でる。


「違うんだ。あれだよ。あれやって欲しいんだ!ねぇ起きてってばっ」


懸命に足を引っ張り親犬を立ち上がらせようとするウィルナはまだ子供で、

赤い瞳で見つめた親犬の姿には慈愛という感情が宿っており、理性を感じさせた。

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