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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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成長 壱

季節が変わり秋の到来を足元に増えてきた枯れ葉の存在で感じ、

目に見える世界の彩に赤や黄色が目立つ事で実感する。


「こっちに栗の木あるよー」


三人は採れなくなっていたイチジクに代わり、時期である栗拾いに出かけ

棘に気を付けながら実を取り出し収穫し、ウィルナの持つ革鞄に詰め込んでいく。


村でも保管していたムクロジやエゴノキと呼ばれる植物の実で、

泡の実(ソープベリー)と呼ばれていた実も見つけ、現在は大量に確保し石鹸として使用している。


当初は苦労していた大森林の生活も四ヶ月という短い期間で順応し、

厳しい環境下、日々訓練を行い戦闘面でも飛躍的に成長していた。


最初に会得を試みた防御魔法を四ヶ月で何とか形に出来た事は大きく、

淡く光る割れた硝子を繋ぎ合わせた様な不十分さの残る防御魔法だが、

微弱な攻撃に耐えれる強度が確保され、最近狩りに出るようになった。


偶に姿を見せる子犬は子供達を癒し、

親犬は見た事も無い魔獣を咥えて持って来てくれる事もあり、

子供達の精神的主柱となり、小さな子犬と大きな親犬の存在は大きかった。


生活拠点としていた川の側は親犬の縄張りなのか、

魔獣に出くわす事は無く安全面では良かったが、

周囲の本数の少ない栗の木から粗方回収したが、未だ栗の保存数は少なく、

羊猪も狩りに出ては空振りに終わる事も多く、

成功は一回の一体のみ、怪我を負わずに済んだが冬を越すには心許ない。


「引っ越そうと思うけど、どう思う?」


栗を拾いながらウィルナは自分の考えを述べ、聞かれた二人は

「兄さんに任せるよ」と、ロッシュベル

「お引越しーいいじゃん」と、ルルイアが答え、

「早速明日の朝から準備を始めて、明後日移動を開始しよう」と、ウィルナ。


「うん」「オーケー」と二人も答え、三人は夕方前で拠点に戻り始めた。


朝起きて身支度、朝食を済ませ、訓練を開始、

昼食を済ませ周囲で採集、戻って訓練を再開、

晩食を済ませ訓練を再開、川で体を洗い服を洗い、

暗がりの中、三人で焚き火を囲んで服を乾かしゆっくりとした時間を過ごし、

枝と草の上に敷かれた毛皮の上に横になり毛皮を体に掛けて眠りにつく。


同じ毎日をひたすら繰り返す安定した日常は村での生活を想起させ、

失った存在の記憶が子供達の強い原動力になり続けた。


準備をする日と決めた朝食後、一日がかりで丈夫な草葉を選んで縄をない、

ある程度の長さのロープを数本用意、晩食後残りの食料をかき集め、

手持ちの毛皮を羽織りと腰巻、腕巻き、足巻きに加工し、

普段より遅い時間で床に就く。


「よし、一枚岩の方へ行こう。」

「うん」「おー」


朝から移動を開始する子供達の増えた荷物は食料と水と毛皮とロープ。


火を使った場所だけ土で埋め、かまども崩して土をかけた。

他はそのままにしており、四ヶ月過ごした場所に背を向け進み始める。


目的地の一枚岩は凡そ川と同じ方角に湾曲し、水場から離れる事は出来ない為、

川沿いに進むことにした。


子供達から離れていく犬親子は、帰路がいつも一枚岩方向だった事も目指す理由で、出来ればお隣さんになりたかった。


川沿いをある程度進み、昼食の為適当な場所で立ち止まり、

腰を下ろす足元は土色で丈の長い草がちらほら、翠の衣を纏う岩も多く、

苔藻類が散見される場所で、生い茂る木々の間から陽光が明暗の線を引く。


木陰で川の近くという事もあり、少し肌寒く感じるが毛皮のおかげで問題はない。


「岩まで何日位だろ」「どうなんだろうね」「後二日位かな」


食事を摂りながらの何気ない会話は中断され、

ウィルナから警戒の合図が手で示さた二人も既に気付いており、

三人は顔を見合わせ黙って頷き不用品を体から地面にそっと下した。


三人はかなり距離のある遠方に二体の魔獣を発見していた。


小型で体長約3メートル、爬虫類を思わせる皮の鱗を纏う姿は馬、

体を覆う分厚そうな皮と同様に頭まで広く皮で覆われ、

首から上の形状は獣毛の無い獅子という不揃いな姿の魔獣。


ウィルナは左右二本の木剣を確認し、

ロッシュベルは腰に差してある木剣に手を当て、

ルルイアは腰裏に差してあるロングダガーの柄を握り、

木を研いで作られた槍を手に、屈んだまま各自防御魔法を自身に付与する。


薄氷を踏み拉く音と共に不格好な衣を身に纏い、

身体強化魔法を発動し、息を殺して魔獣の動きを観察し続ける。


遠距離なら攻撃魔法を使ってこられる可能性が高い、それは避けたい。


使う魔法が火属性なら周囲一帯は火の海と化し、間違いなく焼け死ぬか、

逃げる背を撃たれ同じく死ぬ、攻撃魔法の撃ち合いでも分が悪い為、

必ず距離を詰める必要がある。


魔獣二体は歩調を合わせ、ゆっくりと此方に進んでくる。


このまま隠れてやり過ごす手もあるが、発見される可能性も有り、それは賭けだ。

戦闘もかなりの賭けだが、どうせ命を懸けるなら分のある奇襲に懸ける事にした。


後は此方がどの様に動くかだ、ウィルナは三人の命を懸ける選択に迫られた。


ウィルナは体温が上昇し、心臓が巨大化し暴れている感覚に陥る。

平常心を保つため、目を閉じ音を抑えて深呼吸し、

心臓の鼓動に意識を向け、自身の体の制御を試みる。


距離を詰めるか、動かず待つか。

これは此方に向かう魔獣に対し、距離を詰めれば察知させる可能性が高い為、

この場で待機を二人に手で指示をした。

風は左から吹いている。すぐには察知されない筈だ。


後は戦闘を行う場所だ。姿が馬の形で、村にも馬はいた。

直線を走るのが得意で初速からかなり速い、馬車も引いて膂力もある。

しかし、細かい急旋回や横移動は苦手なイメージが強い。


今まで辿った後方を見渡し記憶を掘り起こす。


「移動しよう。奇襲する。」二人は頷き三人は後方へ移動開始する。


三人は高低差を利用し、木の影や岩影を使い地を這う様に来た道を辿り、

ウィルナは巨木も数本見られる木の密集した地帯を目指し先頭で進み、

ルルイアが後を追い、ロッシュベルが魔獣を確認しながら慎重に後退する。


ロッシュベルの合図で移動と待機を繰り返し、到着した戦闘予定地は、

川を渡り、足を取られる川から離れ、

地面がデコボコした落差のある地形で大きな岩も点在し、

木と木の間隔がやや密集した地形で、巨大な樹木も数本ある、

何より樹木には苔が生えており枯れ木は存在しない。


出来れば火属性魔法が無ければ良いのだが、対策だけはしておきたい、

魔獣の火力次第だが、一気に延焼する事は無いと願うばかりだ。


三人は、ウィルナの提案で進路上の殆どの枝を拾い集め、

高所の登り口にある窪地付近に投げ込み、

この周囲では一番高い高所にある木の裏にそれぞれ離れて陣取り、

隠れて魔獣の行動を監視し続ける。


近づく魔獣と未だ距離は多少あるが、此方に気が付いた様な動きを見せた。

移動して位置を変えた事で、風が後方から真っ直ぐ魔獣へと流れている。

しかし、方角を感知しただけで此方の所在を探し進路を変え進んで来る。


[良し、釣れた」

ウィルナはこの場所まで素直に歩いて来る魔獣を陰から確認し、

木の裏に隠れ小声で最初の賭けに勝った事を喜んだ。


呼吸を整えたウィルナは左の位置でロングダガーと槍を握るルルイアを確認し、

右の位置で地面に両手を当て準備を完了しているロッシュベルを確認する。


魔獣の耐久性の高そうな外皮に対し、ウィルナの魔法が有効であるかは未知数だ。


確実な決定打はルルイアのロングダガー。

しかし幼い妹のルルイアには前線を任せたくない。同様にロッシュベルも。


四か月前の怪我の激痛は約二週間続き、完治まで一月以上かかった。


だからこそ、ウィルナ自身が前線に出なければと、両手の木剣を握りしめ、

無音の大森林で木に隠れ、聴覚のみで魔獣との距離を予測する。

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