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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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22/108

琢磨 伍

今いる場所は星夜の扉と三人が命名した不思議な空間を抜けた先に広がる大森林。


この地に降り立ち四日目、初めて発見した動物が虫や鳥ではなく、

魔物だった点が気になるウィルナは、動物の気配が無く風で発せられる音以外、

無音の大森林での戦闘音がどれだけの範囲に響き、襲撃の元凶と成り得るか、

魔物の血や自身の流れる血に釣られ、此方を襲う魔物や獣の襲来に警戒していた。


魔物三体討伐後、負傷し涙を見せたウィルナは、

記憶を胸に思考を切り替え焦る気持ちに突き動かされ、

目の前で心配そうな顔をしているロッシュベルとルルイアに

ウィルナは座り込んだ状態のまま、

「もう大丈夫、回収してこの場を早く離れよう」

と伝え、体の痛みや出血を顧みず立ち上がる。


「いいからじっとしてて!あたし達がやるから休んでて」とルルイア


「兄さんは傷の手当てをするから、そこに座って」とロッシュベル


「・・・・」ウィルナも応えようとして口を開けたが、

体はそれ以上反応せず、視界が歪み脳がグラグラする。


症状は立ち上がった事に起因し、出血による軽い貧血、

極度の緊張と集中力を高め続けた脳への負担、

何より蓄積した体へのダメージは11歳の容量を超えていた。


ウィルナの体はこれ以上の活動を拒絶し、膝から崩れ左肩から大地に横たわる。


『不味い、この場から早く・・・』

心配する二人への視界は閉ざされ意識は途切れ、ウィルナは気を失った。


「兄さん!」「ウィルにぃ!」


ウィルナの側にいた二人は横に座り込み、仰向けに寝かせ直し、

ロッシュベルはウィルナの肩から掛けてある革鞄を慎重に取り外し、

思いっきり口を広げて腕を突っ込み目当ての品を引っ張り出す。


「しっかりしてよウィルにぃ」


ルルイアも自分の折り畳まれたタオルを肩から掛けてある革袋から取り出し、

ウィルナの頭の下に置いて気道の確保を行い、

更に傷の手当てをする為、上着を捲り二人で傷の確認をする。


傷を確認した二人は息を吞み、一瞬言葉を失ったが、

村で教えられた知識と治療の手伝いで学んだ記憶を総動員し、

ウィルナを救うべく行動を開始、残り少ない水を盛大に使い切り、

傷口を洗い流し傷の深さを確認する。


ウィルナの体は酷く傷つき、右肩と左腹部は裂傷による出血が酷く、

右肩は土塊による攻撃で右肩付近の範囲の皮膚が裂かれている。


左腹部の傷は特に酷く、魔物の体当たりで角が腹部を裂いており、

深くは無いが止血しないと確実にまずい状態だ。


腹部には打撲の症状や細かい裂傷や擦過傷も見られ、

両腕両足にも打撲や軽傷があると思われた。


「すぐに手当てしよう、ルル酒瓶を」とロッシュベルが酒瓶を手渡し、


「分かった」とルルが答え、二人は手当てを開始する。


酒豪しかいない村で造られた酒の一つで、

消毒用としても使われるアルコール度数の極めて高い蒸留酒(スピリッツ)を、

綺麗な布が包帯しかない為、直接傷にかけ直後にウィルナは

痛みで覚醒し、うめき声をあげ上体を持ち上げようとした。


「今消毒してる」

ロッシュベルが体を抑えながら声をかけ、


「もうちょっとだから、頑張って」

ルルイアも片手で抑え片手で消毒を継続する。


左腰上の横に裂けた傷は内臓までの深さでは無いとはいえ、

筋肉は切断され確実に縫合が必要な傷だが、

二人はそこまでの知識も道具も持ち合わせていない。


後は村で使用されている軟膏を塗り込むため、

ルルイアは自分の手に酒をかけ消毒し、

手を振って酒を飛ばした後、慎重に塗り込んでいく。


軟膏は二種類あり、直接傷口に塗る止血、炎症予防の軟膏、

傷口付近に塗り込む鎮痛効果の軟膏。


二つを塗り込む間もウィルナは意識を保ち、

小さな呻吟(しんぎん)を漏らすが耐え抜き、終わる頃には再度気を失っていた。


「しっかり、ウィルにぃ・・・」


二人で協力して包帯を巻き終え、ルルイアが心配そうに見つめ声をかける。


「早く回収して、移動しよう。兄さんが言ってた事を済ませよう」


と、ロッシュベルがルルイアに伝え、

体温の低下を防ぐ為、自身の上着をウィルナに掛け立ち上がる。


頷くルルイアも真似をして上着を掛け立ち上がり

「どうする」と魔物に視線を移す。


「二本の太い棒で三体纏めて支えて担ぎ上げよう」「おーけー」


ルルイアにはピンとこない回答だったが、

取り合えず太い棒が二本、この情報を基に行動に移し周囲を駆け回る。


ロッシュベルは棒をルルイアに任せ、長い蔦を探して周囲を探索する。


ウィルナの側を離れる訳にもいかず、周囲の探索は10分程度で終了し、

十分な蔦は入手出来たが、手頃な倒木や太い枝は発見出来ず、


「木を切ろう。危ないからルルはウィル兄さんの所に」

とロッシュベルが声をかける。


「わかったー、けど大丈夫?」

ルルイアは魔術で切り倒す事を心配して声を返す。


ロッシュベルは多種の魔術が構築可能だが、使用可能ではない。


しかしウィルナが狩った獲物を回収する為、

自分も役に立つ為、近場で手頃な木を見つけ両手を翳し、

念のため自身から離れた場所に薄い円盤型の光を構築するが、

やはり制御出来ずに爆発消滅してしまう。


小さな円でも爆発爆風は強く、衝撃が周囲に伝わる。


「くっ・・・」と声を漏らすロッシュベルを眺め、

ウィルナの横に座るルルイアは何も言わず待ち続けた。


ロッシュベルが魔法を構築し発動出来たのは、それから八回目、

二本の木を直線で捉え根本付近から綺麗に切断し、20分かけて

「やった」と喜ぶロッシュベルに「うん!」とルルイアも駆け寄る。


ルルイアはロングダガーを腰裏の鞘から引き抜き、

長さ約3メートルの幹から広がる枝を手早く切断していく。


「この枝使う?」と聞くルルイアに「うん」と即答のロッシュベル。


「兄さんを枝に乗せて運ぼう」と答えルルイアに蔦を少し渡す。


それから二人は更に50分近くかけて準備をし、

切った枝葉は切り口付近で数ヶ所が蔦に結ばれ束になり、

幹は左向き縦列で並べられた魔物三体の前足と後脚の下にそれぞれ置かれ

幹と魔物は蔦でがっちり結ばれ固定されている。


結束した枝葉の上に上着を置き、その上にウィルナを寝かせ、

「ルル大丈夫?いくよ?」「オッケーカウントスリー、ワンでいこう」と

二人でやり取りし二人の合図と共に両腕を肩に回す形で幹を持ち上げ、

後方のロッシュベルは更に結束した枝の束まで右手で握りしめ、

「オーケールル、蔦だから脆い、慎重に進もう」

と声をかけ、数人で物を抱えた場合、

一番低い位置に負荷がかかる事を知るロッシュベルは

「疲れたら声をかけて、休憩するから」

と、自身より背の低いルルイアに気を遣い声をかけ、

身体強化魔法を発動しながら移動を開始する。


昼もかなり過ぎたが空腹を感じす、戦闘でズレた進路は修正され、

巨大な一枚岩に向かい二人は慎重に進み続けた。


現在所持する水は無く、ウィルナは特に水が必要な為、

日が陰る時間になっても負担を顧みず身体強化魔法を継続し進み続け、

夕日に輝く流れを漸く発見した二人は喜びの声を上げた。


遠方に見える念願の川は草花の帯と並走し、辿り着いた草地に

抱えていた二本の幹とウィルナを乗せた枝の束を草の上に置き

ロッシュベルだけ近寄り川を確認すると、川幅は約4メートル、

川岸川底は大小様々な石で埋め尽くされ、部分的に砂色が見え、

起伏が少ない地形の為か、流れは緩やかで水も澄み渡り、

水流の音が清流と呼ぶに相応しい優しさを感じさせてくれている。


川を確認し終え走って戻り、ウィルナの隣に座り込むルルイアに

使えそうな水である事を頷いて伝え、横で眠るウィルナに

「ウィルにぃ、やっと見つけたよ」「水だよ、もう少し待ってて」

と二人で報告する。

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