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ウィルナの願い星 Self-centered   作者: 更科梓華
第零章 ~ 礎と意志 ~

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21/108

琢磨 肆

ウィルナの足元は土色一色。

緩やかな下り勾配が目標まで続き、駆ける勢いに加勢してくれている。


目標となる魔獣三体は多少窪んだ広がる地形の中心部。

迫るウィルナに向かい正面一体後方二体と三角形で攻撃態勢を維持している。


広がる窪みに樹木は存在せず、互いの視線や魔術射線が切れる事は無い。


村の色々な人から与えられた様々な知恵知識思い出の一部が、

魔獣三体に突撃するウィルナの全身で覚醒し、死の恐怖に耐性を与える。


魔獣三体へ疾走を開始したウィルナは最速で駆ける姿勢へと移行した後、

両手に持つ二本の木剣をそれぞれ背面に大きく振り上げ、二本の木剣上部の空中に

いびつな円錐形魔弾を一本ずつ構築。自身の呼吸を意識する事で平常心を保ち、

大量の空気を肺に溜め呼吸を止めた直後、「んんっ」と息漏れを伴う程の動きで

構築された二本の魔弾を同時に射出する。


ウィルナの一連の動きは走り幅跳びを連想させる。


体を大きく反らせた跳躍をした後、前傾姿勢へと力強く体勢移行した。

その反動でやり投げの様に両腕を、両手に握られた木剣を振り下ろし、

上空に構築された魔弾はウィルナの息漏れと伴に高速で射出された。


ウィルナが創り上げた運動力をその身に宿し、構築された二本のいびつな魔弾は

狙いを付けていた正面の魔獣の胴体に致命傷となる深さまで体内に吸い込まれ、

「ウィルにぃ!!」と呼びかけるルルイアの声と共に攻撃後着地した体が反応し、

二本の木剣を自身正面の位置で交差させ、認識外の正面の攻撃から身を守る。


攻撃とその目標のみに全力全神経を集中させていたウィルナには、

後方に控えた二体の魔獣を視界に捉えながらも認識出来ておらず、

一体は大地から空中に土塊を、一体は体当たりの姿勢をウィルナに向けていた。


「ぐっ」


何とか直撃に姿勢を崩しながらも耐えたウィルナはその瞬間、

ギャイィインと重く響く金属音にも似た音と共に土塊を(ようや)く視認する事が出来た。


「ヴォエエエエェ」


上体を大きく反らせるウィルナの視線に、迫り来る魔獣が頭を低く追撃し、

体勢を立て直す暇のないウィルナは、再度木剣二本を正面で交差し、

一瞬の時間を集中して引き延ばし、息を吸い込み呼吸を止め衝撃に備える。


「くっかあっっ」という音が、

歯を食いしばっていたウィルナの口から発せられると同時に大きく吹き飛ばされ、

硝子の割れる音がウィルナから響き、砕けた透明な何かを光の反射で視認させる。


ウィルナは衝撃を和らげる為、

直撃前の一瞬で体当たりと同じ方向へ跳躍したが威力は強烈。

不十分な体勢での跳躍も効果は薄く、体当たりの衝撃か、受け身も取れず

地面に体を打ち付けた事が原因か、視界はハッキリしているが呼吸が出来ない。


地面に横たわるウィルナの周囲に光る欠片が舞い踊り消えて往く。


「このおおおぉ!」

仰向けになり膝を起こしたウィルナにロッシュベルの声が聞こえる。


「えやああああ!」

上体を起こし顔を上げた先にルルイアが魔獣に向かい走っている。


「あああああああああ!」

気力で立ち上がり蒼天に掲げた二本の木剣の先に魔弾を構築し、

体当たりをしてきた正面の魔獣に撃ち込む。


体当たりした一体も土塊を構築しておりウィルナへと発動したが、

今回は正面の魔獣の足元の地面の動き、土塊の起動を視認する事が出来ており、

ウィルナが放つ魔弾の一本に撃墜され、一本が首元に浅く刺さり紫の線を見せた。


(――呼吸が出来ない、全身が痛い・・・)


ウィルナの目の前には左腕に槍を抱え、

右手に持った一本の槍を投げ槍として投擲するロッシュベルとルルイアが見える。


(だから何だ!この程度で死にはしない!!!)


二人の位置は魔獣まで約10メートル、

木を削っただけの投げ槍は有効射程範囲が極めて狭い。有効打は無い。

それを理解している二人もウィルナを援護する為、命を懸け懸命に戦っている。


「うぉああああああぁ!!!」


両手の木剣を握りしめ、ウィルナは再度魔物二体に駆けて距離を詰め、

同時に二本の魔弾を構築し切り込む。


二人も槍を投げては小さく数歩距離を詰め、体勢を整え再度投擲を繰り返す。


体当たりしてきたウィルナの正面の一体が再度土塊を構築する為、

四本の短い脚を広げ地面が蠢くが右へ跳躍したウィルナの方が早かった。


「兄さんっ!」


ロッシュベルの声が響き渡り、ウィルナにもその意図が伝わる。


射角を取り、再度負傷している首元に狙いを付けたウィルナの魔弾二連を

首元に受けた魔獣は、土塊を発動する事無く土塊と伴に音を立て崩れ落ちた。


その崩れ落ちた魔物の背後から土塊がウィルナへと飛来し、

着地のタイミングで直撃するが、土塊に対して半身となるべく体を捻る。

更に二本の木剣を平行に滑り込ませる形で衝撃をいなし、

多少吹き飛ばされつつも体勢を立て直し、残る一体に突撃する。


ロッシュベルの声で警戒し、その脅威を確認出来ていたウィルナは、

速度を緩める事無く最後の一体に飛び掛かり、

ロッシュベルとルルイアも包囲すべく距離を詰める。


最後の一体は体当たりの姿勢でウィルナに突撃するが横へと回避され、

これまで幾千と繰り返してきた木剣による打ち下ろしの斬撃を首筋に受けた。


「馬鹿な・・・・っ!!!」ウィルナは後悔し、思わず言葉が漏れ出した。


致命傷へと至るべく打ち下ろされた魔獣への斬撃はその効果を見せず、

即座にウィルナへと反転。再度突撃して来る。


(なに馬鹿な事をしてる!!!)


ウィルナは両足を開き腰を沈め両手の二刀を右後方且つ平行に構え、

迎撃の態勢を取りつつ思い出す。


今両手にある木剣は剣では無い。木で形成された訓練用の剣。

つまり分類は斬撃武器ではなく打撃属性に分類される鈍器武器!!!


「いえああああっ!」


突進してくる魔獣に集中し、

大きく踏み出し全体重をかけ、横殴りの強打を魔獣の頭部側面から叩き込む。


「ボエエエ」 「ぐあっ」


全身全力の強振で体は右へ流れたが目算通り。しかし流れ残ったウィルナの左半身に避け切れない魔獣の突撃が直撃し、お互いを違う方向へと弾き飛ばした。


地面に崩れた魔獣に対し、即座にルルイアがロングダガーで首を突いて仕留め、

地面に転がる他二体にも同様に首に突いて切り裂き確実に仕留め、

黒紫の血を大地に染み込ませる。


「兄さん、大丈夫かい兄さん!」

吹き飛ばされ大地に伏せ横たわるウィルナにロッシュベルの声と足音が聞こえる。


「ウィルにぃ・・・。」

心配そうに駆け寄るルルイアの声も聞こえ、


「あぁ大丈夫、心配ないよ。二人とも怪我は?」

ウィルナは気力を振り絞り、歯を食いしばり苦痛に堪えて立ち上がる。


「大丈夫っ」「怪我はしてないよ」

と答える二人の顔は曇り、かなりウィルナを心配している。


行く先に当てもなく目的もなく一歩、そしてまた一歩とウィルナは歩を進め、

三歩目で盛大に地面に倒れ込み、右膝と両手を地面につけた。


右膝に違和感を覚え、座り直して

ズボンの裾を上げ、膝を確認すると擦り傷があり出血している。


他にも全身に打撲裂傷擦過傷があり、右肩、左腹部の裂傷は酷く出血しているが

一番の痛みは膝の鋭い痛みでウィルナは思わず俯いて涙を零した。


「大丈夫?兄さん、早く手当てを」「ちょ、何、何処が痛いのウィルにぃ」

混乱し慌てる二人の声で更に肩を震わせ、ウィルナは涙が止まらない。


ウィルナ含め三人は物心ついた時から訓練を開始しており、

毎日の訓練により多少の痛みに耐性を持っている、慣れている。


しかし三人は走った先で転んでも、体を何処かにぶつけても出血を、

怪我自体を負った事が無かった。

自分の血を見たのは乳歯を抜いた時くらいだ。


今ウィルナを抉る痛みは、その事に。

物心つく以前から常に誰かの防御魔法を付与され保護され続けていた事。

そして最後に受けた保護はカーシャから受けた防御魔法という加護で、

先程光と共に消失していった魔法である事、その破壊音を初めて聞いた事。

更に付与された日から今日で四日目という驚異的な期間を経て、

効果を弱めながらも守り続けていた事実に辿り着いたウィルナは泣き続けた。

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