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ウィルナの願い星  作者: 更科 梓華
第一章 ~ 礎 ~
2/8

安寧 弐

家を出て、お父さんとはすぐに別れた。


タオルを左手に持ち、竹を利用して作られた水筒の紐を、

右肩に掛けて歩いてゆく。


これから向かう先は、村の中央から少し外れたそこそこ大きな広場だ。


家の正面から延びる畦道を進んですぐ、

隣に住んでいるヨル爺様とアサ婆様に気が付いた。


村にある六つの小さな畑の内、四つで耕作し、

残り二つは休耕地とし、土を休ませるため、季節ごとに循環させている。


今老夫妻がいるのは、家から見て右手側に位置する二つの畑で、現在は休耕田だ。

二人は育ってきている雑草の処理など、畑の手入れをしているようだ。


ウィルナに気が付いた老夫妻は、腰に手を当て上体を起こし手を振る。


ウィルナもなぜだかうれしくて、思いっきり腕を伸ばし大きく手を振り返した。


それから少し歩いた先で後ろから快活な声が飛んできた。


「おはよっ、ウィル兄」


歩みは止めず、振り返る形で声の主へと顔を向け、

ミントグリーンの瞳に視線を送る。


「おはよう、ルルイア」


小走りで追いつき、僕を追い越したルルイアは、

正面を向いた僕の横で、歩調を合わせつつ歩き出している。


赤色の強いレッドブラウンのストレートヘアは肩を裕に超え、

背中の中央部まで達し、自身の歩調と風に流され揺れ動いている。


前髪は眉の上で真っ直ぐ切り揃えられており、

綺麗な瞳と丸みを帯びた幼いルルイアの顔に良く似合っている。


「もうすぐお誕生日会だよ。たのしみだね」

不意を突かれたお誕生日会という言葉に、

約三ヶ月前に行われた、ルルイア八歳のお誕生日会の記憶が呼び起こされる。


果実水と果実酒を間違えて豪快に飲んでしまった時の事だ。


顔は熱くなり、喉と舌は痺れるような焼けるような変な感じでイガイガした。

たまらず顔をしかめ、口を開いて舌を出した。

涙目ですごく変な顔してたと自分でも思う。


それを見ていた一部の人が大爆笑。更に気が付いた他の皆まで大爆笑。

お父さんまでおなかを抱え、笑いながら水を持ってくる有様だった。


次いで様々な言葉が飛んできた。


「まだ水はいるかい?」

「あと数年もしたら酒も水になる」

「お酒なんて飲めなくても不自由はしないさね」

「もう少しやるか?」


意味不明な言葉なども含め、笑い声の混ざった集中砲火だったと思う。

爆笑と談笑の中心に置かれた僕は凄く恥ずかしくて小さくなっていた。


今思い出しても少し恥ずかしく、苦笑いがこみ上げてくる。

けど、それもいい思い出だ。


誕生日会の日は昼まで休み、

午後から村の中央広場にある集会所兼倉庫前で準備を始め、

夕方近くから焚き火と設置されたテーブルに並べられた料理を囲み、

ただ祝い楽しむ。


同じ村に住む誰かの誕生日を祝う事が、この村唯一の娯楽なのだから。

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