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ウィルナの願い星  作者: 更科 梓華
第二章 ~ 蓄積 ~
19/26

琢磨 弐

大地の起伏は地面を基点に上がっても1メートル、下がっても1メートルと、

なだらかな大地が続き高低差はかなり緩やかで、群生する草や低木や樹木で

多少の視界は塞がれるが、かなり遠方まで視界は通る。


子供達三人は遭難した場合、安全な場所で動かず体力を温存し、

その場で救助を待つように教えられている。


だが、生い茂る草木や苔むした岩を横目に森の中を進む幼い彼らには

救助が無い事、誰も迎えに来ない事がなんとなく分かっていた。


道中、弱音を言う子は誰も無く、三人それぞれが持ち得る知識を活用し、

有益な発見を共有する為の言葉を、明るいやり取りで交わしていた。


体力がある間に、手持ちでは少ない食料や水を求め歩み続ける彼らは、

この森に敵がいると想定し、先に発見し対処する事を最重要課題とし、

三人で固まり、道中で槍として使えそうな木の棒数本を拾い集め採集も行い、

慎重に歩を進めた先で果実をつけた大きな果樹を前方に見つけた。


村に植樹されている一種だから確認出来たがイチジク(フィグ)が実っている。

道中では他にも収穫したベリーの木や緑色の小さなイガイガを付けた

(チェスナット)の木など、村に植樹されていた判別出来る木は確認できた。


洞窟を背に直線で約三時間、周囲を警戒し進むペースが遅かった事もあり、

身体強化魔法を使い、全力で走れば三十分も必要としない短い距離で、

これだけ発見出来た事は、他の食用植物の可能性を秘め大きな成果だと言える。


『食料は秋まで何とか持つかもしれない』


後は安全な場所と水、この付近に脅威が存在しないかの確認だが、

探索初日で根を詰めすぎるのも良くない。


ウィルナは周囲を見渡し巨大な樹木を見つけ、

その広大に広げる枝を確認し登れるかを判断する。


「あの木の上で昼まで休もう、拾った棒も槍に加工したいし、

 僕はイチジクを取って来るよ」


大樹を指さしたウィルナに二人も「おけー」とルルイアが、

続いて「うん」とロッシュベルも返事を返してくれた。


同意を得たウィルナは自身が拾い集めておいた分の木の棒を二人に渡し、

少し離れたイチジクの木まで走り、屈んで周囲を確認する。


周囲に踏まれた痕跡のある枝や葉、大地にも痕跡は無い、

地面に落ちている数個のイチジクにも果樹になっている実にも、

食べられた痕跡は確認されない。


洞窟を出てからそこまで探索していないが鳥や動物の痕跡が見当たらない。


「この周囲だけ動物がいないのか、鳥まで?」


独り言を呟きながら低い位置にある赤紫の果実を取れるだけ革鞄に詰め込み、

走って二人の待つ大樹へと移動する。


二人は既に登っており、地面から一本の太い棒が大樹へと立てかけられ、

それを足場に一番下の枝まで飛んで掴んだようだ。


八歳のルルイアでも身体強化魔法を使えば2メートルは軽く飛べる。

ウィルナも強化魔法を発動し、走って棒の先に跳躍し、踏み台にして

そのまま上の枝まで更に跳躍し、両手で太い枝を掴みぶら下がる。


「んっ」


ブラブラ体を揺らしているとルルイアが寄って来て手を引いてくれた。


「ありがとう、沢山採れたよ果物」


先に進み、さらに上に登るルルイアに声をかけ「おおぉお」と、

素直な喜びを返してくれた。「んひひひ」何故か変な笑い声が出た。


太い枝や別れた枝、大樹の幹などにしがみつき、ロッシュベルと合流し、

ある程度の高さまで登り、念のため隣の木にも移れる位置で、

幹の近くの安定した枝の密集した一部に三人で固まり、

肩から掛けていた革鞄から三個のイチジクを取り出し皆で分ける。


食べた果実は村の果実と変わらず、懐かしさを感じ甘く瑞々しかった。


さてと、ウィルナは三人で協力し、手渡しで此処まで運び上げた、

ロッシュベルの横に置かれている10本の木の棒に目を向け、

「ルルからロングダガーを借りて、先を研いで槍にして欲しいんだ。」と頼む。


「あたしがやるよー」というルルイアに「ルルにもやってほしい事があるんだ」

と伝えると「んー」と低音を響かせる返事で返し、

腰裏に差していた(シース)ごとロッシュベルに手渡す。


自衛の為、ルルイアに持たせておいた唯一の武器で大切な道具ともなり、

この森の中で生きていく為の頼みの綱ともいえる。


二人のどちらが槍に加工してくれても良いのだが、

明らかに切れ味の良さそうな刃物を、ルルイアに扱わせるのは不安で、

万が一怪我したらと考えロッシュベルになってしまった。


村に存在した最後の武器はダルナクから渡された革鞄に収められており、

銀と黒の二色の鞘には白銀色の両刃が納められ同じ色の(ヒルト)(ガード)には、

特徴的な紅玉がはめ込まれ、囲むように流れる蔦と葉の刻印が施されていた。


「頼んだロッシュ、急がなくて良いから」と怪我の心配をし、

「ルルはここで周囲の見張りを頼むよ」と、この場待機を何気なく伝え、

再度「ん~」と不満を漏らすルルイアに腰に差してある二本の木剣と、

肩に掛けたの革鞄、水筒二つを「頼んだよ」と(なだ)めながら渡し

「上まで登って周囲の地形を確認して来る」と、木に登った目的を二人に告げ、

高所から周囲の地形を確認するため、ウィルナは行ける所まで登り続けた。


木の高さは約15メートル、慎重に登り続け、今いる地点は約12メートル、

視界の先には高い木が散見されるが、その隙間から突き出た巨大な一枚岩が見え、

更に洞窟のあった断崖絶壁は、この地を囲む形で岩壁が遠方まで連なり、

この地はとてつもなく巨大な火山の火口部を思わせる地形の中にある森林だった。


「ん-・・・・」ウィルナは枝を掴み、取り合えず考えてみた。


星夜をくぐって辿り着いた聖域は、前にいた村と同じ気候、

確認していた栗のイガイガは緑でまだ小さい、あれは五月や六月と教わり、

イチジクも同じ時期、つまり間違い無くこの場所にも季節が有り、今は六月だ。

見上げた快晴の空や体で感じる気温や天気も転移前と同様に感じる。


案外村の近くに位置する場所かとも考えたが、

ここまで目立つ円形の穴の開いた、巨大で切り立つ外輪山や、

巨大な円形に陥没した大地とも言える地形は、誰からも教わらなかった。


木々の枝葉は初夏の風にそよぎ、体に感じる風もある事を確認する。

しかしそれだけで、やはり他の生物の鳴き声などが聞こえない。


襲撃してきた全身金属鎧(フルプレートアーマー)も入れるなら多人数で侵入して来る筈で、

そうなると洞窟から確実に追跡できる痕跡を発見出来る筈だ。

もしくはこの場所への出現位置がずれた可能性もあるが、

他の生物含め探索時間も範囲も少ない今は、まだ警戒した方が良いかもしれない。


「よしっ」

目的は果たし、水場かもしれない開けた空間を発見出来なかった事に悔やみながら

枝や幹を伝い木を降り始めたが、木に登る時は結構楽なのに、

降りる時はかなり難しく、ウィルナはかなり登った事を真下に見える地面で認識し

足の届かない枝を見下ろして後悔しつつ降り始める。


ウィルナはかなりの時間と様々なルートで足元を確認しながら慎重に降り、

漸く二人の下に辿り着き「うぃるにぃ、おひるにしようよ」とルルイアに言われ、

かなり驚いた、悪戦苦闘の末かなりの時間を過ごしていたようだった。


「そうだね、お昼にしよう」

と返事を返し、疲れた腕や手を振りながら、周囲一帯の事を伝え、

昼食にトマトと採集してあったベリーとイチジクをルルイアから受け取る。


後は水だけと質素な昼食だが、食べれる物があるだけで十分満足だった。


何より昨日を忘れた筈も無く、しかし昨日と違い二人も笑顔で接してくれている。


「さて、お昼からはどうしようか?」


ウィルナの質問に二人は「んー・・・」と、

同時に首を傾げ、声を合わせた二人を見てウィルナは微笑んだ。

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