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ジョーカーマイナス・ルシア編

◆初戦の前に

1月13日。アニュラスデッキは、2年目の初戦を迎えていた。相手は、6年目の「ベーネデッキ」。

アニュラスデッキのスートたちは、控室にて昨年の8月まで、どう戦っていたかを思い出すために静かにしていた。その様子を、ソラナとルシアも静かに見守っていた。しばらくすると、ひとり、またひとり、右手を出しながら、円陣の準備をし始める。そして、6人分の右手が集まった瞬間、控室にいつもの掛け声が響いた。

「アニュラス!!」

この日の1戦目がソラナたちの出番。6人は、競技場へと歩を進めて行った。


◆見送る

そして、両デッキに、「マトゥーレイン授与」の時間が訪れる。ルシアは、「真実」を知ってから初めての「ソラナの命削り」を見届ける事にした。

「ソラナ。」

ルシアの小さな呟きが誰にも届かず消えていった。そのルシアの目線の先には、光に包まれたソラナ。ルシアは心の中で言った。「浄化してよかった。綺麗な光だ。」

ソラナは言った。

「みんな、頑張って来てね!」

その言葉に、4人は、「頑張る」という主旨の返答をそれぞれ返した。しかし、多少の緊張感がその表情に浮かんでいた。

ソラナとルシアは、リングに向かって行ったスート4人の背中を見送りつつ、言葉を交わした。

「ソラナ、あんた大丈夫?」

「え?大丈夫だよ?変わりない。」

「そう。でも、あいつらは違うみたい。」

「そうだよね。『あの事』は、私ひとりで聞けばよかったかな?」

「そんな事はないと思う。知らないであんたを殺したら、一生後悔しそうだもん。」

「そう?ありがとう。」


◆受け取った者

一方、ベーネデッキの同スートと対面していたアニュラスデッキの4人は、同じ事をしていた。バングルのスペード、ハート、ダイヤ、クラブを見つめる。

エルネストは呟く。

「ここに、ソラナの命が。」

フェリクスは呟く。

「重い、この赤が、重いですね。」

テオは呟く。

「大事にせんと。」

ラモンは呟く。

「勝たなきゃなんねぇべな。」

やがて、ゲームが始まった。


◆ためらいのスペード

エルネストは、こう言った。

「武器を我が手に。スペードソード。」

それは、相手も同じだった。剣を交えるスペードスートの2人。そんな中、エルネストは自らの剣を見つめ、こう言った。

「今日は、サーバント・フェアリーを使わない。」

それが聞こえた相手はこう言った。

「妄言だな。死の城より、サーバント・フェアリー召喚。アクエリアス。」

「くっ。無理なようだね。」

とは言ったものの、サーバント・フェアリーを喚ばないエルネスト。アクエリアスの水瓶に攻撃を吸い込まれ、自らは、相手の風をもろに受ける。

「頃合いだ。」

相手は、アクエリアスの水瓶がひっくり返されたと同時に叫んだ。

「ウィンド・スプリット!!」

すかさず、エルネストは叫ぶ。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚!リブラ!!」

リブラの天秤に、エルネストが受けるはずだったダメージが等分、保管された。そして、すぐに2つの皿となり、2人にダメージを与えはじめる。それを耐えつつエルネストは更に叫ぶ。

「ウィンド・スプリット!!」

更にダメージを相手に与える事が出来、エルネストは勝利した。

「ああ、不本意だ。」


◆ためらいのハート

フェリクスの相手は、こう唱えた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。ピスケス。」

フェリクスは、言った。

「最初から、サーバント・フェアリーですか。」

魚型の妖精は、フェリクスに体当たりする為に、突進してくる。フェリクスは、マトゥーレインを用いず、相手のピスケスを避ける。相手はその様子を見て尋ねた。

「何をしているんです?」

「子細は、言えません。」

フェリクスは、そう返すと、一瞬バングルを見る。そして、心の中で言った。「この赤を、赤のままにしたい。」と。相手は、首を傾げながら佇み、こう返した。

「私に攻撃をしないとは、負ける気なんですね?」

「いいえ、勝ちたいです。」

次第に、息が切れてくるフェリクス。このままピスケスに体当たりされ、相手に「ウォーター・スチール」をやられたら、あっという間に負けてしまう。

「やはり、『生身』は、駄目そうですね。」

諦めたように、フェリクスはこう唱えた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。キャンサー。」

「やっと勝負する気になりましたか。それにしても、あなたの行動は解せません。」

フェリクスは、それに言葉を返せなかった。すると、2人は同時に言った。

「武器を我が手に、ハートグレイル。」

フェリクスは、この状況を鑑み、先手必勝と続けて言った。

「ウォーター・スチール。」

フェリクスの水の龍が相手に向かって行く。それを見届ける事なく、フェリクスは、リング上を忙しなく動いた。相手は、力を奪われながらこう言った。

「私の龍に的を絞らせない気ですね?受けて立ちましょう。ウォーター・スチール。」

サーバント・フェアリーの消えたリング上でフェリクスは、ひたすら相手の水の龍から逃げた。しかし、捕まる。

「だ、駄目です。」

幸い、先ほどの「先手必勝」が功を奏し、フェリクスは、紙一重のところで勝利を掴んだ。

「逃げてばかりの戦い。これは正しいのでしょうか?」


◆ためらいのダイヤ

テオは言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

相手は、こう唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!カプリコーン!!」

「こんな時に、攻撃通らへんもん出されてもうたわ。」

「『こんな時』?どんな時や?」

「それは、答えられへん。」

「わけわからんやっちゃなー。その銃は、飾りか?」

「飾りでええわ!!これ、撃たへん。」

「代わりにこっちが撃ってやろか?ん?武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

テオは、苦い顔をする。

「しゃーない。これや。価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。ヴィルゴ。」

「ちょっと待ちぃや!女の子盾にするとかずるいわぁ。」

「あー、ここまでやってもうたから、やるか。」

テオは、銃からコインを放出し始める。勿論、相手のカプリコーンに草として吸い込まれていく。相手も、銃を撃ち始める。テオは、こう言った。

「当たりたくあらへん。負けるのは嫌や。」

そうして、自らのヴィルゴの後ろに移動する。相手は言う。

「ほんまに盾にするとは思わへんかったわ!」

「すまんな!ヴィルゴ!!」

そして、2人は同時に声を上げた。

「グラビティ・ドロップ!!」

その攻撃は、お互いのサーバント・フェアリーを消滅させた。テオは、意を決して、相手に肉薄する。

「もう一度やるで!グラビティ・ドロップ!!」

相手は至近距離で撃ち込まれたコインに、大きなダメージを受け、テオに勝利を献上した。

「あー、これ、いわゆる『泥仕合』っちゅうんやろな。やってもうた。こんなんで、人気デッキになれるわけあらへん。」


◆ためらいのクラブ

ラモンの相手は言った。

「どっちがいいべか。武器か?サーバント・フェアリーか?」

「おめの好ぎな方でやればいいべぇ。」

ラモンは答えながら、心の中でこう言った。「俺はどっちも使いたぐね。」と。そうしていると、相手は、決めたようで、こう唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚!レオ!!」

獅子型の妖精は、咆哮にてラモンを痺れさせる。

「あー、止めてくんちぇ。」

ラモンは呻く。そして、観念したように、こう唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚。アリエス。武器を我が手に、クラブカドル。」

「おめ、それか。」

相手も体の重さに顔を歪めた。そんな相手に、ラモンは体から痺れを振り切るように向かって行く。相手は叫ぶ。

「こっち来んな!武器を我が手に!クラブカドル!!」

炎の棍棒で打ち合いながら、ラモンは言う。

「わりぃな、勝だせでくんちぇ。」

「こっちも負げる訳いがねぇんだ!!」

ラモンが先に、遅れて相手がこう叫ぶ。

「ファイアー・ストライク!!」

体の重さで動けない相手は、炎が直撃。痺れているだけのラモンは、少し避ける事が出来、辛くも勝利を手にした。

「考げぇがまどまんねがったわ。」


◆ためらいの結果

アニュラスデッキは、4勝0敗と、完全勝利を収めた。ソラナは、戻ってきた4人に声をかけた。

「みんな!勝ったね!!」

しかし、その表情は固い。ルシアは、こう声をかけた。

「なんか、勝った気がしないんだけど?気のせい?」

4人の目が泳ぐ。それにソラナは返す。

「『仕方ない』よ。慣れて行こう!!」


◆続くためらい

それから、アニュラスデッキは勝利を何度か重ねる。しかし、昨年の戦いと比べたら精彩を欠くものであった。ある日のトレーニング中、ソラナはスート4人にこう言った。

「やっぱり、こわい?」

4人はビクッとなった。そして、ラモンがそれに返した。

「考げぇるのと、実際に戦うのは、違うっで事がわがっだ。」

エルネストは言う。

「あれだけ去年、大きな口を叩いたと言うのにね。」

フェリクスがそれに続いた。

「情けない、ただそれだけです。」

テオは、こう言った。

「去年の俺の頭に戻れたらええんやけど。」

それにルシアが返した。

「去年?あたしに笑顔の練習させようとしたあの時とか?言った本人が変な戦いしちゃ、あたしの『努力』が無駄になるじゃん?」

テオは罰が悪そうにする。その様子は、他の3人にも伝染する。ソラナは、ルシアに反論しようとして、こう声をかけた。

「ルシア、ちょっと。」

しかし、ルシアはその言葉を遮り話をし始める。

「ソラナ、あんたも相当頭おかしいからね?浄化した時、『死ぬのこわい』って感情、見えなかった。少しはこわがりなさいよ。」

「そう、かな?」

「あんたらとは『違う』所でイライラしてんだから、これ以上イライラさせないで。」

「『違う』?」

ソラナは首を傾げた。それにルシアはこう答えた。

「『人殺しの魔法石』なんて、『魔法調整師』としては許したくない。」

「ルシア。」

ソラナは、自らの胸に手を当てて言った。


◆魔法調整師として

それから、数日後の事であった。寮の部屋でルシアが呟く。

「とにかく、やってみるか。」

それが聞こえたソラナは、尋ねた。

「何をやるの?」

「『リアルトランプゲーム』での、『マトゥーレインの偽物』を作る。」

「えっ!!」

「そのための魔法石をあんたがゲームの時に持ってって、あたかもあんたからマトゥーレインが出たよ。って偽装するんだ。」

ソラナは考え込んだ。そして、こう返す。

「それが出来れば私の命は、大丈夫だし、スートのみんなの心配は要らなくなるけど、ルシアがそんな事したってアニセトさんが知ったら、ルシアが危ないよ。」

「危険?上等じゃん。こっちから『それ』を願いたいわ。あいつと喧嘩できるチャンスじゃん。それに、『特等席』で観るこのゲームがあたしにとって変な物なのが嫌だから。まあ、それよりも何よりも、ソラナの命をこれ以上削らせてたまるもんかって、思ってるから。」

「あ、ありがとう。」

そして、更に数日後、寮の部屋に大きな荷物が届く。ルシアは言った。

「無事に届いたわ。どっかでばれたらどうしよう、とか思ってたけど。」

「なに?これ。」

「マトゥーレインの原料。」

ソラナは、大きな目をした。

「は、初めて見る。こんなに大きかったんだ。」

「あ、そ。」

大きなカプセル状のタンクを目の前にソラナとルシアはそんなやり取りをした。


◆設計

「さて、設計図書くか。」

ルシアは、机に向かった。適当な紙に丸や三角等の図形を描き始め、そこにソラナが読んだ事のない文字を書き加える。やがてそれは幾何学模様的な絵画のような物になっていく。その様は、緻密かつ複雑なものだった。ソラナはそれを凝視しながら、幼少の頃セラフィナが描いていた建物の設計図を思い出す。勿論、その完成形の様子は全く違う物ではあったが。そして、ソラナは小声で呟いた。

「綺麗。」

ルシアは一瞬ソラナの方向を見たが、集中しているのか、設計図の方にまた向き合う。細かい所を書き終えたら、魔法調整師の資格証をその設計図にかざす。しばらく何も起こらなかった。しかし、ルシアは微動だにしない。その様子に、ソラナは、何らトラブルは起こって無さそうだと思った。その瞬間だった。スパナのような資格証が光り始める。そして、先ほどルシアが書いた設計図を映し出した。

「わあっ!!」

ソラナは声を上げた。ルシアは一旦頷くように首をコクンとした後、映し出されている方の設計図を拡大して、資格証のスキャンが正しいかを細かく確認した後、こうルシアは言った。

「100%確認終了、相違なし。」

一旦、資格証を紙の設計図の上に置き、ルシアはマトゥーレインの原料のタンクの上部にある葢を開ける。細かな白い粉を付属のスコップで外に出し、ボウルに入れる。再び資格証をルシアは手に取り、ボウルの上にかざす。すると、先ほどの設計図を映し出しながら、資格証はボウルの上に浮く。ルシアは、言った。

「魔法石、作成開始。」

資格証が、ボウルに向かって光線を放ち、原料を彩りながら固めていく。ただの白い粉が、大量の色が付いた塊に変化していく。

「凄い。」

ソラナが声を上げた瞬間、ボウルの中は魔法石だらけとなった。

「はい、終わり。」

出来上がったのは、極々小さい赤、白、黒の3色マーブルの魔法石だった。しかし、魔法石としての気配はなく、まるで宝石のようだった。

「綺麗な、石だね?」

「そりゃ、アクセサリーにしてソラナに着けてもらうんだから、綺麗じゃないと。」

「え?この大きさだと、指輪とか?」

「イヤリングにするよ。」

「これを?素敵!ありがとう!!」

ルシアは、マトゥーレインの原料と一緒に取り寄せていたイヤリングを取り出す。宝石部分を剥ぎ取り、魔法石を貼り付けた。

「はい、完成。」

そして、そのイヤリングはルシアの手からソラナの手に渡った。


◆提示

その後のトレーニングの日、ソラナはスートの4人に言った。

「実はね?ルシアが『偽物のマトゥーレイン』を作ってくれたの。」

エルネストは、驚いたように言った。

「それは、本当かい?」

「うん。」

ラモンがそれに反応した。

「すげぇなぁ。ルシア。」

ルシアがそれに返した。

「ありがと。」

それを聞いていたフェリクスがソラナとルシアを見ながら言った。

「それは、画期的ですね。」

テオがそれに続く。

「それで、心置きなく戦って、『殿堂入り』果たすで!」

そんな様子にルシアはこう言った。

「あー、喜んでる所悪いけど、1個だけ、いい?」

4人が頷くと、ルシアは続けた。

「それね、アクセサリーにするために小さくしなきゃいけなかったから、1回で消滅するんだ。だから、フリースタイルの時は、マトゥーレインを補充できないから。補充が必要になる戦い、するんじゃないよ。ソラナの事だから、『本物』使って補充しそうだから。」

ソラナはそれに返した。

「そうかもね?でも、本当にみんなが危ない時には、補充していいからね?」

フェリクスがそれに返した。

「それは、やりません。」

エルネストも同じような事を返す。

「やらないように、全力を尽くすよ。」

ラモンがこう言う。

「難しい戦いになりそうだなぁ。でも、やっぺな。」

テオが締め括った。

「計算してやればええねん。俺はやるで。」


◆偽物の力

その2日後、アニュラスデッキはミックススタイルでの対戦が組まれた。相手は、「アクイータースデッキ」。10年目のデッキだった。

第2戦に登場するアニュラスデッキは、控室に入った。そんなソラナの両耳には、ルシアの作ったイヤリングが。フェリクスが言った。

「素敵ですよ、ソラナ。」

「そう?ありがとう。」

テオも言う。

「もっとべっぴんさんになったで?ソラナ。」

「なんだか照れるな。」

ラモンが言う。

「照れるか?んでも、よーぐ似合っでる。」

「みんなからほめられるとね。照れちゃうよ。」

エルネストも続けた。

「僕も含めてみんなほめたくなるよ。君の事をね。」

「これも、ルシアのおかげだよ。」

ルシアはそれに返した。

「あ、そ。」

しかし、ルシアはそう言うとはっとした。

「ああ、なんか怪しまれそうだから、言っておくけど、運営とかにそのイヤリングの事訊かれたら、4人がプレゼントした物って事にしといてよ。」

ソラナはそれに返した。

「え?ルシアからじゃ駄目?」

「だって変でしょ?なんでもない時に女から女にプレゼントなんて。」

「そうだね、わかった。みんないい?」

4人は頷いた。

その後、時間になり、6人は競技場へと入場して行った。

「マトゥーレイン、授与。」

そんな場内アナウンスをきっかけに『初』のマトゥーレイン授与をソラナは行った。ルシアは、不自然にならないようにその様子を見て、心の中で言った。「まずは、第一関門突破だ。いつもの感じでマトゥーレイン授与が終わった。」

そんなルシアを一瞬見てソラナは微笑んだ。そして、こう言った。

「代わり映えしない言葉だけど、みんな、頑張って来てね!!」

スート4人は、力強く頷き、リングへと向かって行った。ソラナは、再び口を開いた。

「みんな。」

すると、次の瞬間、両耳の近くで小さく「パリン」という音がした。

「あ。砕けた。」

「設計どおりだね。後は、あいつらが戦えるか、だけどね。」

そんなやり取りをしていると、対戦が始まった。

その対戦は、ハートスートと戦ったエルネストとクラブスートと戦ったテオが勝ち、スペードスートと戦ったフェリクスとダイヤスートと戦ったラモンが負けるというアニュラスデッキ始まって以来の引き分け戦となった。

しかし、戻ってきた4人の顔は、どこか安心した様子だった。


◆新たな日常

引き分け戦の後、寮に戻ったソラナは魔法石の取り付け方をルシアに教えてもらい、次の対戦に備えることにした。

「ルシア、何もかもありがとう。私も、みんなも安心して対戦、出来るよ。」

「どういたしまして。」

すると、ルシアは再び魔法石の設計図を描き始めた。

「え?今度は何を描き始めたの?」

その言葉に、一旦手を止めルシアは答えた。

「秘密。」

「ええ?」

「『万が一の時』の準備だけど、きっと、『こっちの件』は、さすがにあんたに止められそうだからね。」

「そんな。」

「けど、最終的にソラナのためになるって信じてる。」

「ありがとう。見学していい?」

「いいよ。どうせ、設計図見ても何しようとしてるかわかんないだろうから。」

「うん、正直ね。でも、ルシアが私に『仕事』見学させてくれるの、嬉しい。『ブラウンさん』は、見学させてくれなかったから。」

その言葉に、ルシアは吹き出した。

「なっつかしい!『ブラウン』。」

ソラナもそれにつられ、笑い始めた。そして、ひととおりルシアは笑い終わると、設計図を再び描き始めた。

「ルシア?描きながら聞いて欲しいんだけど、ルシアの綺麗な設計図見たら、私も設計図を描く人になりたいって急に思っちゃった。ほら、ママもそうだったから。」

「へぇ、いいんじゃない?『こっちの設計図』でも、『そっちの設計図』でもいいから、『設計図描く人』になりなよ。」

ルシアは、手を止めずにそう言ったが、その手が一瞬止まる。

「それを実現するためには、むかつくアニセトから逃げなきゃだね。」

「うん。頑張る。」

再びルシアの手が動く。そして、口も。

「スートの男共には、ここから無敗で行ってもらいたいね。」


◆暴かれる偽り

それからというものの、「偽りのマトゥーレイン」を使用した対戦に幾度かアニュラスデッキは臨んだ。心の負担が無くなったスート4人の戦いは、たまに敗北する時もあったが、完全勝利を含む勝利をデッキに呼び込んでいた。

そんな中の4月初旬、アニセトは呟いた。

「ソラナ・アルシェのマトゥーレインの様子がおかしい。」

アニセトが「おかしさ」に気づき、そう呟いた次のアニュラスデッキの対戦の時だった。マトゥーレイン授与の際、ハシボソガラスがソラナの元に飛んできた。

「きゃあ!」

ソラナは驚き、ルシアやスートたちも身構えたが、すぐハシボソガラスは飛び去り、見えなくなった。そのハシボソガラスは、所有者の元に一直線に帰っていく。そこにはアニセトがいた。そして、そのアニセトはハシボソガラスからの情報を見て、言った。

「これは、何だ?何なのだ?この、マトゥーレインは?」

アニセトは、しばらく頭の中を整理した。そして、とある結論を導き出した。怒りの笑みを浮かべ、アニセトは言った。

「よくやったものだ。ルシア・セルトン。しかし、アニュラスデッキを追放するわけにもいかない。どうしたものか。」

そう言いながらアニセトはその日のアニュラスデッキの対戦を歯ぎしりをしながら観た。そして、こう言った。

「見事だ。武器、サーバント・フェアリー、どちらも寸分の狂いなく再現されている。しかし、これではソラナ・アルシェの命は、いつまで経っても削る事が出来ない。ルシア・セルトン、魔法調整師。無気力に見えたが、誤算だ。」


◆連行

その翌日の事だった。ジョーカー寮の305号室に女性スタッフが襲来。こう言った。

「アニュラスデッキのジョーカーマイナス、ルシア・セルトン。ゲームマスターの呼び出しです。」

「はいよ。」

ルシアは、素直にそれに従い、ソラナに小声でこう言いつつ、とある荷物を抱え部屋を出た。

「ばれたらしいね。」

「ルシア!」

ルシアは、女性スタッフに腕を引かれ、姿を消した。

「ルシア、どうしよう。」

慌ててソラナは、アマガエルに一斉メールを指示。相手は、スート4人だった。

「ルシアが連れて行かれちゃった!助けて!!」

それを送った後、ソラナは部屋から飛び出して行った。

一方、その知らせを受けたスート4人も、スート寮の305号室から次々に出て行った。

そして、ソラナとエルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、アニセトの部屋の前で合流した。

「行こう!」

5人は、アニセトの部屋に突入。そこにいたルシアが一言。

「なんで?あんたら来たの?呼ばれたのあたしだけじゃん?」

ソラナは返した。

「だって、ルシアが心配で!」

「あ、そ。あのさ、ゲームマスターさん?場所変えない?事情知りたいんだろうけど、ここでは話す気、起きない。」

「では、どこがいいのだ?」

「ちょうど、ゲーム終わったでしょ?サクセスコロシアムの真ん中で話そう。」

「いいだろう。」

アニセトは、アニュラスデッキの面々と、競技場に向かった。そして、誰もいない競技場の真ん中にたどり着くと、アニセトは言った。

「君にはやられたよ。ルシア・セルトン。まさか、ゲームの為のマトゥーレインを再現するとはな。」

「やっぱりね。」

「一度だけ言う。即刻その魔法石をすべて廃棄しろ。お前は、私の盾であれ。」

「やだよ。あたしはあんたの盾になるためにここに、アニュラスデッキに入った訳じゃない。あたしは、ソラナがジョーカーマイナスに選んでくれたから、ここにいるだけだ!ただそれだけなんだよ!!」

「では、仕方ない。ここで、ルシア・セルトンのみアニュラスデッキから退場してもらおう。」

ソラナは叫んだ。

「それは、嫌だよ!」

「ありがと、ソラナ。でも、あたしはそれでいいよ。」

ルシアは、ソラナに向き合い、そう言ったが、すぐにアニセトの方向を見て、続けた。

「あたしは、それに従ってここで『退場』するけど、その代わり、1個だけ。ソラナのコアにかけてるプロテクトの解除コードを教えな。」

「何?私がそれをここで言うと思うのか?」

「言えよ!!」

ルシアの怒鳴り声が競技場に響く。そして、その声色のまま、ルシアは今まで抱えてきた感情をアニセトにぶつけ始めた。

「確かに、マトゥーレインは、最初は人を、国土を攻撃する為に生まれたけど、今は、人を、国土を便利にするためにあるんだ!!それを先祖帰りするような、『命削りの魔法石』なんて、あたしは認めない!!さあ、教えなよ。でないと。」

ルシアは、荷物の中から、小さな緑の魔法石を6つ取り出し、ソラナやスートの4人に渡す。そして、ルシア自身もそれを左手に1つ持ち更に右手に重厚感溢れる紫の大きな魔法石を乗せた。そして、こう叫んだ。

「今、ここで、サクセスコロシアムを爆破する!セルフデストラクション、いや、ルースレス・ディトネーション級の爆破力でね!!」

アニセトは、舌打ちを一度し、こう言った。

「ソラナは・アルシェ。とんでもないジョーカーマイナスを選んで来たようだな。」

ソラナは、こう返した。

「そう、なのかもしれないね。」

アニセトは、観念したようにこう言った。

「まあ、『ここ』を失っても私は痛くも痒くもないが、『後処理』の方が面倒になりそうだ。わかった。ここで私の『復讐』は幕を下ろすとしようか。」

アニセトは、ルシアの望んだ物を伝える。ルシアは、緑と紫の魔法石を荷物の中に戻し、代わりに魔法調整師の資格証を取り出した。

「それが『本当』の情報だって信じるよ。」

ルシアはソラナの目の前に行き、資格証を胸にかざした。以前見たプロテクトがかかっている映像が浮かび上がる。ルシアは、アニセトから聞き出した解除コードを唱えた。映像は、「プロテクト解除」と示した。ルシアは、引き続き魔法石の設計図中の「命削りの部分」を綺麗にその指で削除しつつこう言った。

「感謝するよ。アニセト・デフォルジュ!」

そして、設計図は収納され、見事にソラナのコアは安全な物に生まれ変わった

「ソラナ、これであんたはゲームで死なない。」

「ありがとう!ルシア!!」

アニセトは、こう言い、その場を去った。

「はじめから、私がジョーカーマイナスとスートを用意すればよかった。アニュラスデッキ、引き続き、そのメンバーでゲームをしていくがいい。」


◆解放

アニュラスデッキは、アニセトを見送った。ソラナが深々と頭を下げた。

「ありがとう、みんな。それに、心配かけて、ごめんなさい。」

ラモンが罰が悪そうに言った。

「なんだが、俺ら何もやってねぇ気がすんだけんちょも、気のせいだっぺか?」

エルネストがそれに返した。

「間違いないよ、それは。」

テオが言った。

「なんや情けないなぁ、俺たち。」

フェリクスがそれに返した。

「同感です。しかし、よく頑張りましたね?ルシア。」

ルシアは軽く頷きながらこう返した。

「ほんっと!あんたら役立たず!!でも、『名誉挽回』してよ?それと、最高の対戦を見せてよ。それがあたしへの『慰労』だよ。」

ソラナは笑顔でこう言いながら、右手を出した。

「それは!絶対に最高のゲーム、ルシアに『特等席』で見てもらいたい!!頑張ろうね!みんな!!」

そこに、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモン、ルシアの順で右手が集まる。そして、こう言った。

「アニュラス!!」

ソラナは、その後ルシアと共に寮の部屋へと戻った。

「ルシア、本当にありがとう。」

「いいって。もうお礼とか。」

ルシアはいそいそと何かをし始める。

「どうしたの?ルシア。」

「爆破用の魔法石、『崩して』おかないと危ないから。それに、必要ない爆破防御用の魔法石もね。」

「防御用?この緑の?」

「そう。」

ルシアは、ソラナが持っていた緑の魔法石を回収。自らの爆破防御用の魔法石も一緒に手離す。

「あいつらに渡したのは、回収忘れたけど、ま、いいか。」

ルシアはそう言いながら緑の魔法石を紫の爆破用の魔法石と一緒にボウルに入れた。そして、資格証で設計図を浮かび上がらせる。石の数だけ浮かんだ設計図の、「還元実行」を表す所を次々に押していくと、魔法石は、白い粉になった。ソラナは驚きの声を上げる。

「凄い。」

「そう?さて、袋に入れておくか。」

「え?タンクには戻さないの?」

「不純物が入ってるからね。こういう原料使うと、質の悪い魔法石が出来ちゃうんだよね。まだ、不純物が入ってない物とは一緒に出来ないから。」

「そうだったんだ!」

そんなやり取りをした後の夜、ソラナはラウラに通話をした。

「お母さん、私ね、ゲームで死ななくなったんだ。ルシアがね?色々やってくれたの。」

「本当に?ソラナ。」

アマガエルから涙が流れる。

「お母さん。心配かけちゃってごめん。」

「ああ、よかった。ルシアちゃん、いる?」

「いるよ?隣に。そして、これ、聞いてる。」

「ルシアちゃん、ありがとう。娘の為に動いてくれて。何て言葉で感謝していいかわからないわ。」

「いいえ、どういたしまして。でも、お礼なんていいですよ。その、あたし、『魔法調整師』としての鬱憤を晴らしたかっただけですから。」

「それでも、あなたには一生感謝するわ。」

「あー、そうですか。恐縮でーす。」

「ソラナ?これだけやってもらったから、しっかりするのよ?」

「うん、私、犠牲になったセシリアさんの分までちゃんとゲームやって、いつかお母さんの所に帰るよ。」

「その日を待ってるわ。じゃあ、おやすみ。」

「おやすみなさい。ラウラさん。」

「おやすみ、お母さん。」


◆真のゲームの開始

4月20日、アニュラスデッキは、その日の2戦目にセイムスタイルでの対戦が組まれた。ソラナは、命と引き換えではないマトゥーレインをスートの4人に授与した。

「これが本当のリアルトランプゲームのマトゥーレイン。」

ソラナは呟き、笑顔を見せた。エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンも笑顔でそのマトゥーレインをしっかり受け止め、リングを目指して行った。ルシアはこう言い、一番の笑顔を浮かべた。

「お手並み拝見といこうか?エルネスト、フェリクス、テオ、ラモン。」

その対戦の結果は、アニュラスデッキの完全勝利で終わった。ルシアの安堵した声が響く。

「あたしへの『慰労』、おつりくるわ。」

「本当に?楽しんでくれたのね?ルシア。」

ソラナが返すと、満面の笑顔を見せながらスート4人が戻ってきた。

それからと言うものの、アニュラスデッキは勝利を重ね、7月には「フォーティーフラッグ」を手にすることが出来た。そう、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは共にスートレベル10となったのだ。

テオが言った。

「これを手にしたっちゅうことは、次は俺ら変身するんやな?」

フェリクスが言った。

「そうなりますね。」

ラモンが言った。

「どんな感じになるんだっぺなぁ。」

エルネストが言った。

「そうだね。でも、どんな形であれ、僕らは最善を尽くそう。」


◆王たちの戦い

8月3日。この日の最終3戦目にアニュラスデッキのフリースタイルでの対戦が組まれた。場内アナウンスは、こう案内した。

「マトゥーレイン、授与。なお、アニュラスデッキの4人のスートは、トランスフォーメーション・ステージとなります。」

ソラナは、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンにいつもの通りにマトゥーレインを授与した。繋がった心は、4人をキングへと変身させた。光をまとったキングローブが出現。そのローブの襟には、それぞれのスートマークが細かくあしらわれていて、4人を包んだ。それが終わると、王冠が出現する。こちらもそれぞれのスートマークがあしらわれている王冠で、それを見たソラナは、笑顔でこう言った。

「冠だ。」

エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンの笑顔の戴冠が繰り広げられる。こうして、スートレベルキングとなったアニュラスデッキのスート4人は、この日の対戦相手のアリスデッキのスートたちの元へと行った。

対峙したアリスデッキは、12年目のデッキ。いずれのスートもスートレベル9を手にしていた。

場内アナウンスは、こう言った。

「ゲームスタートまで、後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。ゲームスタート!!」

エルネストは言った。

「武器を我が手に、スペードソード。」

フェリクスは言った。

「武器を我が手に、ハートグレイル。」

テオは言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

ラモンは言った。

「武器を我が手に!クラブカドル!!」

相手も武器を取った。そして、エルネストとラモンは相手の所へ向かって行く。それは、相手のスペードスートとクラブスートも同じだった。

エルネストは、クラブスートに対峙した。相手はこう言った。

「初めてのトランスフォーメーション・ステージだっぺ?すげぇべぇ?」

「それは、確かに。大きな力を感じるよ!」

そう言いながら剣を振るうエルネスト。すると、通常の時とは比べ物にならない風圧が発生する。それは、相手の棍棒の炎を相手に押し返す程であった。相手はたまらず言った。

「あっづいなぁ。さすが、『キング』は違うなぁ。俺も12年目の力みせねぇどな。いくど!!」

「受けて立つよ!」

一方、ラモンは、スペードスートと対峙した。相手はこう言った。

「初のトランスフォーメーション・ステージでの変身にお祝い申し上げる。」

「ありがとなぃ。」

ラモンは礼と共に、棍棒を相手に振るう。その軌道に沿って炎があちこちに残る。いつもは見られないその光景にラモンは驚いた様子だった。それを見て相手は言った。

「初々しい反応だ。こちらも本気で向かって行くぞ。ご覚悟を!!」

「こえぇなぁ!けんちょも、よろしくなぃ!!」

テオは、相手のハートスートを狙って銃を撃ち始める。ひとつひとつの発射されるコインは、一際大きかった。それを受け、相手は言った。

「キングの力、とくと見させていただきましたよ!」

「おおきに!!」

テオがそう返すと、相手はこんな言葉をかけてきた。

「しかし、それを受け止めてやることは出来ません。避けさせていただきますよ!」

「なんでーな、当たってくれへんのかいな!せやけど、やるで!!」

一方、フェリクスは相手の銃のコインの嵐を受けていた。しかし、その弾道は、歪む。それを見て相手は言った。

「厄介やなー、そのキングの力!!やっぱり、計算し直しやな。」

「そうですか。お手数をおかけします。」

フェリクスの返答に、相手はこう返した。

「ご丁寧におおきに!当ててやるで!!」

「受けて立ちましょう!!」

やがて、アリスデッキは、ジェミニ、キャンサー、タウルス、サジタリウスを召喚した。それぞれのサーバント・フェアリーの攻撃を受け始めるアニュラスデッキ。それを合図としながら、一斉に右手を挙げる。マトゥーレインの補充だ。

ソラナはそれを受け、右手を伸ばし、マトゥーレインの光線を自らのスートたちに届けた。

「みんな!!使って!!」

それが届くと、4人は次々に唱え始めた。

エルネストが唱える。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。ジェミニ、リブラ、アクエリアス。」

フェリクスが唱える。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。キャンサー、スコーピオ、ピスケス。」

テオが唱える。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!タウルス!!ヴィルゴ!!カプリコーン!!」

ラモンが唱える。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚!アリエス!!レオ!!サジタリウス!!」

アニュラスデッキのサーバント・フェアリー12体は、それぞれの能力を遺憾なく発揮し、アリスデッキの動きを完全に止めた。そして、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは声を揃える。

「デッキ・ボンズ・フォー・マトゥーレイン!!」

相手も遅れて言うが、力及ばず、アニュラスデッキに勝利を献上した。


◆殿堂入りへの道

初のトランスフォーメーション・ステージにて、勝利を収めたアニュラスデッキ。勿論、「トランスフォーメーションフラッグ」を手にした。ソラナは、言った。

「みんなが私の命の為に考えてくれた『殿堂入り』だけど、なんだかそれが近くなってきたような気がするね!!」

ルシアをはじめ、スート4人も笑顔で頷いた。

一方、12月の人気投票発表に向けて、「好感を抱いたデッキ」への投票が9月から始まった。

それを受け、ラウラは近所の人々や、投資仲間に声をかけ、無理のない範囲での「アニュラスデッキ」への投票を呼び掛けた。

「えー!アニュラスデッキに投票してくれたの?ありがとう!!」

そんなラウラの声がラウラの自宅に響いた。

その動きは知らなかったが、アニュラスデッキはその絆を糧に、変身を伴った戦いを繰り広げ、それから無敗という輝かしい成績を収めて行くことになる。


◆決まる夢

ソラナは、10月のある日、自らの机に向かっていた。ルシアがそれに声をかけてくる。

「何やってんの?」

ソラナは、思わず「それ」を隠してしまう。

「なんでもないよ!!」

「あー、ちょっと見えた。絵、描いてたのね。邪魔したわ。」

「見られちゃった。あの、設計図描く為に、描き方、練習した方がいいかな?と思って。」

「『どっち』の設計図にするか決めた?」

「『建築』の方にしたいって思って。やっぱり、ママがやってたから。」

「ふーん。じゃあさ、あたしが作った建築用の魔法石とセットで売るってどう?その設計図。」

「それ!いい!ルシア!!」

「お、乗り気だねぇ。その前に、あんたのママのようにちゃんとした設計図描けるように勉強しなよ。」

「うん!頑張る!!」

それからと言うものの、ルシアとの「コラボ」の為にソラナは対戦やトレーニングの合間にアマガエルの力も借りながら勉強を重ねていった。


◆殿堂入り

12月、アニュラスデッキは、ビクトリーフラッグを手にした。更に、ポピュラリティーフラッグも同時に手にする。

アニセトは、アニュラスデッキを自室に呼び、言った。

「異例の早さで『殿堂入り』したな。アニュラスデッキは。」

その表情は、相変わらずの派手な仮面に阻まれ伺い知ることはできなかったが、どこか憑き物が落ちたような雰囲気を醸し出していた。ソラナは言った。

「アニセトさん、この2年、ううん、仲間みんなを探す期間を含めたら、3年、苦しい時もあったけど、楽しかったよ。」

「そうか。」

「アニセトさん、私、あなたと出会えてよかった!」

「わ、私と、か?」

「うん!楽しさっていう幸せをくれたよ!!だから、私、何もできないけど、アニセトさんがこれから幸せになれるように願うよ!!」

「『幸せ』か。私に訪れるか?」

「辛い思いをした人には、幸せが来て欲しい!!私はそう思うよ!!」

「そうか、『幸せ』、か。なんにせよ。」

アニセトは頭を下げた。

「『リアルトランプゲーム』にご参加いただき、ありがとうございました。」

エルネストは返した。

「こちらこそ、ありがとう。」

フェリクスは返した。

「ありがとうございました。」

テオは返した。

「おおきに!!」

ラモンは返した。

「どーもなぃ。」

ルシアは返した。

「どういたしまして。」

ソラナは返した。

「うん!ありがとう!!」

E.E.234年12月下旬、6人はジョーカー寮、スート寮の305号室を引き払った。そして、6人はサクセスコロシアムに向け、祈りを捧げた。自らたちの目の前で絶命したセシリアに向けて。


◆マイナスとの夢

寮を引き払った足で、ソラナの自宅にアニュラスデッキは集まった。ラウラもいる前でソラナは言った。

「みんな、3年間ありがとう。」

それに続けて、ラウラも言った。

「皆さんには、本当に感謝してます。娘の命を救ってくれて本当にありがとうございました!」

仲間は、お礼を返してくれた。それを受け、ソラナは言った。

「ルシアは知ってる事だけど、みんなが助けてくれたこの命を、家を作る事に使う事にしたの。今からちゃんとした勉強をはじめて、設計図を描けるようになりたい。こんな夢を見ることが出来た。みんなに会えて、本当によかった!!」

ルシアはそれに続けた。

「あたしの夢にもそれはなったよ。あたしの作った建築用の魔法石にソラナが描いた設計図をつけて出荷する。そんな日を、待つことにしたよ。」

テオがそれに食いつく。

「ほんまかいな?それ、絶対『グリッター』で売りたいわぁ。実現したら、必ず俺に声かけてな!!」

ソラナとルシアは同時に頷いた。それを見て、エルネストは言った。

「影ながら、応援するよ。」

フェリクスがそれに続いた。

「成功を祈ります。」

ラモンも言った。

「頑張ってな。」


◆設計図

E.E.236年5月。ソラナ・アルシェ20歳は、テネブラフトにいた。

「ルシアー?」

「はいよー!」

ルシアとはじめて出会ったあの工房にそんな声が響き渡る。ソラナの声が再び響く。

「はじめて、先生から認められた設計図が出来たの!!これ、使って!!」

「マジ?待ってたよ!!」

この年で22歳になるルシアは、急いでソラナが描いた設計図を見る。

「建築の方はわかんないけど、なんとなくわかる。いい設計図だよ。」

「ありがとう!!」

その後、ソラナとルシア2人がコラボした魔法石は出荷された。それ以降、人々の幸せを守る建物を数多くエテルステラの大地に建てる事が出来た。ソラナとルシアが天命を全うするまで。

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