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ゲームマスター・アニセト編

◆理想と現実

1月13日。アニュラスデッキは、2年目の初戦を迎えていた。相手は、11年目の「ニグルムデッキ」。この日の第3戦目に組まれたその戦いの前に、アニュラスデッキは控室にて、静かに時を過ごしていた。対戦が近づいてきたその時、ソラナが呟くように言った。

「円陣、組もうか?」

ひとり、またひとりと右手を差し出し、

「アニュラス!!」

と、掛け声を掛け合った。その後、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、円陣を組んだ後の右手首をそれぞれ見つめ、緊張感溢れる表情をした。これから、このデッキバングルに、ソラナの命が入って来る。出来れば受け取りたくない。しかし、それがなければソラナをこの死のゲームから救い出す事が出来ない。そんな共通の思いが、4人の心を支配していた。

そうしているうちに、マトゥーレイン授与の時間が来てしまった。ソラナは、いつも通り、ジョーカープラス用の椅子に座り、マトゥーレインをスートに与える準備をする。しかし、スート4人はソラナの所に来ない。ソラナは首を傾げた。

「どうしたの?みんな?」

刹那の沈黙。ルシアがそれを見て、こう言った。

「もしかして、あんたら『怖じ気づいた』?」

ソラナは、スート4人を見渡し、こう言った。

「やっぱり、忘れられないよね?私もだよ。でも、私は大丈夫、大丈夫だから。来て?みんな。」

ソラナは両腕を広げ、精一杯の笑顔を見せた。意を決して4人は、マトゥーレインをソラナから受け取った。バングルにある白かった4つのスートマークはスペードとクラブは黒に染まり、ハートとダイヤは赤に染まった。いつもより薄いような気がしたが、4人は、リングへと向かって行った。

4人は思った、ソラナは恐ろしかっただろうと。しかし、そんな中ソラナは笑顔を向けてくれた。では、自分も笑顔でいなければ。エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンの限界まで引き出した笑顔を、対戦相手は見る事になった。

そして、対戦が始まる。


◆クラブのおそれ

ラモンの相手は、言った。

「武器を我が手に!クラブカドル!!」

ラモンは、それを見て、こう言った。

「羨ましな。俺は、力を使わんに。」

「ん?何言っでんだぁ?」

相手の困惑の声が響く。ラモンは返した。

「わがんねぇよなぁ?説明も出来ねぇ事に関係ねぇおめを、付き合わせるわげいがねぇな。」

「おめ、わげわがんねぇど?」

「わりぃ。知識の森から、サーバント・フェアリー召喚。サジタリウス。」

「やっど戦う気になっだようだな?」

「んだ。早ぐ決着つけっぺ。」

ラモンのサジタリウスは、矢を放ち始める。いつものように飛んで行く矢。しかし、相手の棍棒からの炎に焼き尽くされ、全くダメージを与える事が出来なかった。ラモンは動揺した。

「んだぁ?何でだぁ?」

「おめ、弱えぇなぁ!」

ラモンは、武器を出そうとしたが、それより先に、相手がこう唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚。レオ。」

相手のレオの咆哮で、ラモンの全身は痺れ、武器を出せなかった。すると、相手は矢継ぎ早にこう言った。

「ファイアー・ストライク!」

「やめてけろっ!!」

ラモンは、敗者となった。


◆ダイヤのおそれ

テオは言った。

「どないしよう?武器か?サーバント・フェアリーか?」

「何や?どっちも使えばええやろ?」

相手は、首を傾げつつ、こう言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

「あかん、あかんなぁ。価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!カプリコーン!!」

「そういうつもりなら、こっちもこれや!価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!タウルス!!」

相手のタウルスは、狂ったようにテオの方向に向かって来る。また、相手は銃を撃ち始める。しかし、テオのカプリコーンがそのすべてのダメージを草に変え、吸い込む。

「おおきに、カプリコーン。」

テオがそう言った瞬間だった。早くもテオのカプリコーンは限界を迎え、消滅。相手のタウルスの猛攻をテオは受け始める。武器を手にする暇はなかった。

「な、なんでや?」

テオが動揺。相手はそれを見逃さなかった。

「畳み掛けるで!グラビティ・ドロップ!!」

「負けて、負けてまう!!」

テオは、敗者となった。


◆ハートのおそれ

フェリクスの相手は、こう唱えた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。スコーピオ。」

フェリクスは、こう反応した。

「まずいですね、非常に。」

相手のスコーピオは、フェリクスに毒を与える為に、近寄って来る。フェリクスは、それを避ける為、リング上を右往左往する。相手は疑問の目線をフェリクスに注ぐ。そして、こう言った。

「スコーピオから、最後まで逃げられると思っているんですか?そんな事はあり得ないとわかっているでしょう?」

「わかってますよ。しかし、毒を受ける事は避けたいです。」

「理解できます。それは、当たり前の事ですからね。」

フェリクスは決断した。

「武器を我が手に、ハートグレイル。」

そして、間髪入れずにこう言った。

「ウォーター・スチール!」

フェリクスの水の龍は、相手の力を吸収し始めるが、あと一歩の所で消滅。フェリクスはその様子に立ち竦んだ。

「なんですって?」

その隙を相手のスコーピオは許さなかった。注ぎ込まれる毒。フェリクスは鈍い声を上げる。そして、まだ力の残る相手はこう言った。

「ウォーター・スチール!」

「それは、いけません。」

フェリクスは、敗者となった。


◆スペードのおそれ

エルネストは、こう言った。

「武器を我が手に、スペードソード。」

相手も、武器を取る。そして、エルネストはそれを認めると、相手の元へと向かって行った。剣を交えるが、相手がわずかな心配を込めた声でこう言った。

「このような弱い風を今まで受けたことはない。大丈夫なのか?」

「え?」

エルネストの短い声が響く。しかし、相手は気持ちを切り替え、こう言った。

「まぁ、いい。仕留めるだけだ。」

相手からの「普通」の強さの風を受け、エルネストは呟く。

「僕は、いたって普通だ。そのつもりだ。」

しばらく剣を交える2人だったが、相手がこう言う。

「つまらん。このような弱い剣は。死の城より、サーバント・フェアリー召喚。ジェミニ。私の分身にでも、攻撃するがいい。」

ジェミニで増えた相手2人のみがエルネストの所で攻撃し始めた。相手本人はというと、エルネストの所へ行かず、見物というスタンスを取った。エルネストは、自分が苦戦している事はわかっていたが、サーバント・フェアリーで反撃する気が起きなかった。その様子を見た相手は、苛立った。

「こんな相手が今シーズンの初戦の相手だとは思わなかった。」

「すまない。」

「恥を知れ!ウィンド・スプリット!!」

「駄目だね、僕は。」

エルネストは、敗者となった。


◆完全敗北

「何やってんのよ?」

戻ってきたスートたちにルシアの怒鳴り声に近い声がかけられた。ソラナは、何と声をかけていいかわからず、スート4人の顔を見渡すだけだった。

0勝4敗。完全敗北を喫したアニュラスデッキ。ラモンが口を開く。

「武器まで使わんにかった。」

テオが返す。

「せやな。俺もそうや。」

フェリクスがこう言う。

「私は、サーバント・フェアリーを喚べませんでした。」

エルネストが返す。

「奇遇だね。僕もだよ。」

対戦中、ずっと思っていた事。それを口々にスート4人は言った。「武器やサーバント・フェアリーとしてソラナの命が消えていくのを見ていられる自信がなかった。しかし、戦うためにどちらかは使ったが、何の制約もない相手には負けるしかなかった。」と。

ソラナはこう返した。

「楽しめないみたいだね。」

それ以降、アニュラスデッキには、沈黙が流れた。


◆犠牲への罪悪感

それから、ジョーカー寮、スート寮に別れたアニュラスデッキは、言葉少なく夜を迎え、途切れ途切れの睡眠をとった。

翌朝、ソラナは一応朝食を摂ろうと共用キッチンへと足を運んだ。そこで、ソラナは思い出してしまう。そう、ここで一度きりだったが交流を持ったセシリアの事を。

「セシリアさんっ。」

あの、朗らかな朝を思い出したら、ルシアに浄化してもらった「自分への憎しみ」が再燃しそうになる。

「ここには、いられない。」

逃げるようにソラナは共用キッチンを後にした。そして、305号室へと戻る。ルシアはいなかった。きっと、レストランだろう。

「ルシア。」

今だけはいて欲しかった人の名前を呼ぶ。

「私、凄く嫌な気持ちになってる。ルシア、ルシアの顔を見たら、止められそうなのに。」

セシリアは、確かにアニセトのコアの試験に合格し、その命を散らした。しかし、それは自分というアニセトの復讐の標的がいたから起こった事。自分がセシリアを殺したようなものだ。そんな自分は、ゲームを楽しもうとしている。自分は、やっぱり間違っている。ルシアは決死の覚悟で自分が持っていた自分への憎しみを浄化してくれたが、別の負の感情、「罪悪感」がソラナの心に広がっていく。

「止まらない、止まらないよ。」

自らの髪の毛を両手で掴むようにして、頭を抱えたソラナ。その右手首のバングルには、黒い星が鎮座していた。

「ルシア、助けて。」

次第に頭から手を外すソラナ。黒い星を見た。すると、ルシアが自分を浄化してくれた時の惨状を思い出す。

「ううん、駄目。ルシアに『仕事』は、させられないよ。」

その一言を受けたのか、星は、赤みを取り戻す。

「ああ、よかった。」


◆方針転換への渇望

一方、スート寮の305号室では、朝食を済ましたスート4人が集まっていた。

ラモンが言った。

「次は、ちゃんと俺やれっぺか?」

フェリクスがそれに返した。

「やらねばなりませんよ。これは、私自身への戒めの言葉でもありますが。」

エルネストが頷きながら言った。

「うん、僕らが提言した物なんだからね。」

テオがそれに返した。

「せやけど、想像以上やった。ソラナの命の重さは。」

すると、4人の脳裏に昨日自らが放った「ソラナの命」の光景が鮮明によみがえってくる。

「サジタリウス、あれはソラナの命の何日分だったんだべ?」

「そんな事言うなや。俺のカプリコーンも何日分?とか考えてまうわ!」

「しかし、事実でしょう?私の武器も、確実にソラナの命を削りました。」

「そうだね。それなのに、負けた。犠牲があったと言うのに。情けない剣だった。」

4人は、敗北の罪を噛み締める。そして、急速に殿堂入りへの自信が失われていく。きっと、これからも慣れることはないだろう。この、「命の重さ」に。4人は、思った。「方針転換が許されるのなら、してしまいたい。」と。しかし、そう思っているのは、自分だけかもしれない。また、「方針転換」と言っても具体的な考えが浮かばない状況でこの事を口にしても混乱を生むだけだと口を噤んだ。


◆棚上げ

1月18日。アニュラスデッキは、トレーニングの為にトレーニングルームへ集まった。

スート4人はトレーニングを始めるが、ソラナは首を傾げた。そして、休憩時間になり、ソラナとルシアの元に集まる4人。すると、ソラナは言った。

「なんだか、みんなおかしい気がする。」

エルネストは尋ねた。

「どんな事をソラナは僕らに感じてるんだい?」

「力が入ってないような?」

フェリクスは返した。

「見抜かれてしまいましたか。確かに、気持ちが入ってませんよ。」

「そんな。どうしたの?」

テオが答えた。

「入るわけないやろ?俺は気づいてしもた。これは、ソラナ、お前さんを『殺す練習』やって。」

「い、今は大丈夫だよ。アニセトさんも、今年私は死なないって、20歳までは生きられるって。」

ラモンが言った。

「んだなぃ。だけんちょも、問題はそこでねぇ。ソラナ、おめ、わがってっぺ?それに、おめも相当様子おかしいど?」

「えっ。」

そのやり取りにルシアが入って来る。

「わかった?ソラナもおかしいんだよ。なんか変。バングルの星を見たら、穢れてはないんだけど、やっぱあんたらが見てもおかしいでしょ?」

「え?」

ソラナは動揺した様子を見せる。スート4人は頷いた。ソラナは、その光景に観念したように話し始める。

「私、やっぱりゲームを楽しんじゃいけないって思うようになったの。セシリアさんの事を考えると、どうしてもね。」

重い雰囲気がトレーニングルームに流れる。ルシアがそれを振り切るように言った。

「あんたら、去年と言ってること全然違うじゃん!」

エルネストは返した。

「『ニグルムデッキ』との戦いで、僕らが去年考えた事が、机上の空論だったってわかったんだ。」

フェリクスがそれに続く。

「出来ることなら、対戦中だけ心を無くしたいです。ソラナの命を考えてしまう心を。」

テオも続く。

「せやけど、捨てられへん。」

ラモンが締め括る。

「情けねぇけんちょも、おっかねぇ。おっかなくて、戦わんに。」

ルシアは言った。

「あー、そのあんたらの後ろ向きな心!浄化してやりたいわ。でも、あたしの『浄化』は、ソラナ向け。どうしようもないわ。」

ソラナはそれを聞き、こう言った。

「そうだね。浄化される感覚を、みんなに感じてもらいたい。でも、無理だよね。」

ソラナはうなだれたが、言葉を続けた。

「また、どうしたらいいか考えよう?今度は、6人で。」

エルネストは言った。

「そうだね。言わば『去年の案』は僕らが勝手に決めてしまったことだから。」

フェリクスは言った。

「2人の意見が加われば、違う力を得ることができるかもしれませんね。」

テオが言う。

「それはいいんやけど、いつまで決めるん?」

ラモンは返した。

「なるべく早く、だっぺね。」


◆悩みの中で

迷走する思考の中、容赦なく対戦は組まれる。方針が決まらないまま、1月24日の1戦目に12年目の「ラータデッキ」とミックススタイルで戦う事になった。そして、当日。控室でアニュラスデッキは、会場の様子を小型モニターで見守っていた。

すると、いつもと変わらないアニセトが挨拶していた。

「観客席の皆様、そして、生中継をご覧になっている方、当ゲームをお引き立ていただきまして、ありがとうございます。ゲームマスター、アニセト・デフォルジュです。本日のリアルトランプゲームは、『ミックススタイル』です。ごゆるりとお楽しみください。」

その後、アニュラスデッキは競技場に入場した。そして、ソラナはスート4人にマトゥーレインを授与。迷いの心でシンクロしたソラナとスート4人。この年の初戦より多くのマトゥーレインを与える事が出来た。

エルネストの相手は、スートレベル2のダイヤスートであった。エルネストは、相手にこう言い、戦いを始めた。

「君には、何ら罪はないけれど、今日は卑劣な戦いをさせてもらうよ!!」

フェリクスの相手は、スートレベルエースのスペードスートであった。フェリクスは、相手にこう言い、戦いを始めた。

「申し訳ありません。少し鬱憤がたまっていまして、関係のないあなたですが、あなたをスートレベル2にして差し上げることは出来ません。」

テオの相手は、スートレベル2のクラブスートであった。テオは、相手にこう言い、戦いを始めた。

「レベルは上やけど、身分は下やね。悪いけど、倒させてもらうで!なんや、イラついてしゃあないねん。」

ラモンの相手は、スートレベルエースのハートスートであった。ラモンは、相手にこう言い、戦いを始めた。

「おめ、優しそうだな?今日も負けてくんにか?」

今朝まで無かった気持ちがスート4人の心を支配してしまった。自らたちは、こんなに悩んでいるというのに、その原因であるアニセトは変わらない。そんなアニセトが腹立たしく、攻撃したくなったのだ。しかし、本人に攻撃は出来ないことを去年身に染みてわかっている。その身代わりを、アニュラスデッキのスートたちは、ラータデッキのスートに求めた。

エルネストは、アクエリアスを使い、ウィンド・スプリットにて相手を倒した。

「もともと無いようなものだけれど、貴族の名がすたるね。こんな戦い。」

フェリクスは、ピスケスを使い、ウォーター・スチールにて相手を倒した。

「お許しください。ヤファリラ様。いいえ、前言撤回しましょう。お許しは必要ありません。」

テオは、タウルスを使い、グラビティ・ドロップにて相手を倒した。

「ああ、俺の今日の戦いは、きしょい。」

ラモンは、サジタリウスを使い、ファイアー・ストライクにて相手を倒した。

「なーにやっでんだっぺね。汚ねぇ戦いしで。」

4人はソラナとルシアの所に戻る。ソラナは微笑みながらこう言った。

「今日は勝てたね。」

ルシアはすかさずこう言う。

「まずは、おめでと。けど、本気であんたら浄化してやろうか?」

喜びのない完全勝利だった。


◆新たな浄化

ルシアは、寮の部屋へと戻った。そして、呟く。

「あたし、役立たずだよな。」

ソラナは不安定なようだけれど、なんとか穢れずに過ごせているようだ。代わりにスート4人が穢れている印象だが、そちらの浄化は出来そうもない。ルシアは、自らのバングルを見つめた。

「そう言えば、この星も魔法石なのかな?」

ルシアは試しにスパナの形をした魔法調整師の資格証を左手で持ちかざしてみた。すると、設計図が出現した。

「おっ!」

その設計図には、浄化のプロセス等が書いてあったが、そこに、対象者が書かれていた。

「今は、ソラナのジョーカープラスだけ。でも、書き加える余地はあるな。左手でうまく加えられるか?あいつらを。」

多少、やりづらさはあったが、ルシアは自らのデッキバングルの魔法石の仕様変更を完了させた。

「ついでに、遠隔でも浄化出来るようにしてやった。今度変な対戦したら、やってやるわ。」

1月27日。惰性でトレーニングルームにアニュラスデッキは集まった。そして、形だけのトレーニングをスート4人は始める。ルシアはたまらず怒鳴る。

「いい加減にして!」

スート4人が驚きで動きを止める。そして、隣に座るソラナも驚く。そして、口々に「ルシア?」と5人は声をかける。それにルシアは返す。

「こんなトレーニングなんてやる意味あんの?どうせ、あんたら負けるか変な勝ち方しか出来ない癖に!!」

5人は、返す言葉を失う。

「返事もしないの?エルネスト!フェリクス!テオ!ラモン!あんたらのデッキバングルがソラナのと同じなら、今頃真っ黒だろうね!!」

その言葉に、4人は否定出来なかった。

「実はね?あたしあんたらの浄化も出来るようにしたんだ。あたしの職権乱用だけど。いい加減、腹立ったから、あんたらの意思を無視して浄化するわ!しゃきっとしろ!!」

ルシアは、右手をスート4人の方向に伸ばす。すると、バングルにある白いルシアの星が黒に染まる。

「あー、ソラナとも違う辛さだねぇ。」

ルシアは涙こそ流さなかったが、苦しそうにうずくまる。横のソラナが慌ててルシアを包む。

「ルシア!」

「ソラナ、あんた余計な事すんじゃないよ。あたしは、今あたし自身の怒りと、あいつらの怒りで何するかわかんないんだから!!」

自らの怒りの感情が無くなったスート4人の前で、ソラナを突き飛ばすルシア。

「きゃあ!!」

慌ててエルネストとフェリクスがソラナを受け止めに行き、テオとラモンが暴れ始めるルシアを抑えに行く。

「ルシア、ごめん。」

ソラナは呟いた。トレーニングルーム中にルシアの言葉にならない叫び声が強く響く。

ルシアは戦う。スート4人が抱えていた怒りと。

ソラナを復讐の標的にしたアニセトへの怒り。

見込みの甘い計画を立てた去年の自分への怒り。

いい対戦の出来ない自分への怒り。

そして、自分自身に負ける弱い自分への怒り。

「壊れそう。」

ルシアは、急に脱力した。

「ルシア!」

5人は一斉に叫んだ。そして、ルシアの周りに集まった。ルシアは言った。

「勝手にあたしがやった事だけど、辛かったわ。」

そう言ったルシアのバングルにある星は、白に戻った。

ラモンが言った。

「すまねぇ、ルシア。」

テオが言った。

「ルシア、おおきに。」

フェリクスが言った。

「申し訳ありません。ルシア。」

エルネストが言った。

「ルシア、ありがとう。」

ソラナが言った。

「苦しい思い、させちゃったね?ルシア。」

ルシアは、それに返した。

「ほんっとそう!!」


◆輪と輝き

2月に入った。アニュラスデッキは、このシーズン3回目の対戦を迎えた。ルシアの浄化を受けた事から、多少の緊張感はあったもののスート4人は清々しい気持ちで対戦に臨む事ができ、完全勝利を収めた。

控室に戻ったアニュラスデッキの面々。そこに、訪ねて来た5人組がいた。それは、セシリアがいたルチルデッキのメンバーだった。ジョーカーマイナスを務めていた女性が、こう言った。

「こう話すのは、はじめてね。私、レイナ・ラクール。完全勝利、おめでとう。」

ソラナは、こう返した。

「ありがとうございます。」

アニュラスデッキの他の5人も頭を軽く下げた。その後、ルシアが尋ねた。

「どうして?今日は?」

レイナは答えた。

「セシリアの、面影を見たくなってね。」

ソラナは、下を向き、呟いた。

「セシリアさん。」

すると、レイナの右手首にブレスレットが輝いているのに気づく。

「ブレスレット。」

レイナは、その場にいる全員に見えるように右手を上げた。そこには、白と赤の星が1つずつあしらわれていた。

「これね?私とセシリアって事になるのかな?ルチルのみんなもつけてるわ。」

スペードスートを務めていたファウスト・ベルクールは、黒のスペードがあしらわれているブレスレットを見せ、言った。

「やはり、セシリアを忘れたくないからな。」

ハートスートを務めていたルフィノ・マリトーも、赤のハートがあしらわれているブレスレットを見せ、言った。

「これをつけていると、セシリアがそばにいる気がしますからね。」

ダイヤスートを務めていたレオン・カルリエも、赤のダイヤがあしらわれているブレスレットを見せ、言った。

「せやな。セシリアをどっかに残したくて俺がやらへんか?って言ってオデスネゴウムの宝石商に特注で作ってもらったんや!」

クラブスートを務めていたクレト・コンスタンも、黒のクラブがあしらわれているブレスレットを見せ、言った。

「これは、嬉しかったど。セシリアが戻って来だみでぇでよ。」


◆面影と共に

ラモンは返した。

「いがったな。」

テオは返した。

「粋なことするやん。」

フェリクスは返した。

「素晴らしい試みですね。」

エルネストは返した。

「仲間を大事にする気持ち、理解できるよ。」

レイナは、その赤の星を撫でながらこう言った。

「ありがとう。私に、全然浄化をさせてくれなかったセシリアだけど、大事だったよ。」

ルシアがそれに返す。

「アニュラスのジョーカープラスとは違うわ。」

ソラナは苦笑いしながらこう言った。

「そうだね、ルシア。」

レイナの顔が曇る。

「でも、何でルチルのジョーカープラスのセシリアは、死んじゃったんだろうね?」

ソラナは、その言葉を受け、急速に表情を固くした。それに気づかない様子で、ファウストは言った。

「『不運な事故』とされていたが、私が集めた1人の仲間が『事故』に遭ったとは思いたくなくてな。どうしても納得がいかなかった。だから、我々は、独自に調査をし始めた。」

ルフィノが続けた。

「しかし、満足な答えは手に入ってません。これからも、仲間とそれを追及していくつもりですが。」

レオンがそれに続ける。

「そらー、このゲームの関係者から、果ては国の人まで訊けそうな人らには片っ端から訊き回ったで。」

クレトが続けた。

「だけんちょも、半年ぐれぇ続けたら、疲れちまって、今日は、休んでんだぁ。」

レイナがこう締め括った。

「休みにしたら、偶然私たちが最後に対戦したあなたたちが出るって知ったから、みんなであなたたちを応援しに来たのよ。セシリアの面影が、見れるような気がしてね?」

アニュラスデッキの面々は、ルチルデッキの面々の疑問への「答えを持っている」と、思った。そして、「それ」を伝えねばとも思った。


◆伝える答え

ソラナは言った。

「私たち、いいえ、私には、あなたたちに応援してもらう資格は、ないです。」

エルネストがそれに続いた。

「少し、語弊があるけれど、そうだね。」

その言葉に、ルチルデッキの面々は、注目してきた。それを見つつ、フェリクスが言った。

「私たちは、ある意味あなた方の仇となるかもしれません。」

テオがそれに反応する。

「そらー、違うやろ。せやけど、そうとられても、文句は言えへんような気ぃするな。」

ラモンが言う。

「『どっち』になっかわがんねぇけんども、話してやっけ?」

ルシアがそれに反応する。

「ここまで話して、話さない選択肢、あんの?」

ソラナがそれに返す。

「そんな選択肢、ないよ。」

ソラナが意を決した様子で、こう続けた。

「私が話すね?」

レイナが返した。

「お願い。」

ソラナは話し始めた。

「どこから話していいか、わからない。けど、最初に言います。セシリアさんと私にアニセトさんがくれたコアは、一緒のものだって。」

レイナは驚いた。

「え?じゃああなたも危ないんじゃない?」

そして、ファウストが続く。

「確か、あなたはコアの『点検拒否』をしたと聞いてるが?」

ソラナはそれに返した。

「私のコアは点検の対象外なんです。なんでかって、私をアニセトさんは殺したがっていて、命を削るコアを考えて埋め込んだから。」

ルフィノがそれに反応した。

「なんというおぞましい事を。」

レオンが首を傾げた。

「せやけど、じゃあなんでセシリアは「それ」と同じコアを埋められなあかんかったんや?」

ソラナはこう答えた。

「アニセトさんは、本当に私のコアが人を殺せるか試したかったんです。それに選ばれたのが、セシリアさんだった。」

クレトが言った。

「なんだってそんな。信じらんに。」

ソラナは返した。

「これは、本当の話です。ちょうど、コアを作った時にルーキーデッキとして入って来たから、選ばれてしまったんです。だから。」

ソラナは、頭を目一杯下げ、言葉を続ける。

「だから、セシリアさんを殺したのは、私なんです。私がいなければ、セシリアさんは今でも生きていた。ごめんなさい。」

エルネストがそれを見つめつつ、話し始める。

「少し、僕からソラナを擁護させてもらうよ。確かに、言ってみればソラナの存在が、セシリア・フェレールを殺したのは間違いないよ。けれど、僕らは、ソラナには罪はないと思っている。」

ソラナは首を横に振る。それを見て、フェリクスが言う。

「アニセト・デフォルジュは、ソラナが何かをしたから、ソラナを殺そうとしたわけではありませんしね。」

ルチルデッキの面々の疑問の視線を浴びつつ、テオが続ける。

「ソラナの身内の問題なんや。ソラナの身内がアニセトに酷い仕打ちをしたらしいねん。せやから、ソラナを殺そうと考えとる。」

ルチルデッキの視線が、ソラナに注がれる。それをラモンは見つつ、こう言った。

「ソラナのじい様ばあ様をアニセトの野郎は憎んでんだけんども、みーんな『復讐』する前に死んじまったからなぁ。その身代わりなんだ。ソラナは。」


◆輝きの混乱

ソラナは、言った。

「みんな、ありがとう。ルチルデッキの皆さん、これが、セシリアさんの死の真相です。」

レイナは言った。

「そんな、そんな事でセシリアは死んだの?」

ルフィノは言った。

「なんという、複雑な話なんでしょう。」

レオンは言った。

「ホンマの事知ったけど、また、わからん事が出来たわ。俺らにとってアニュラスデッキが敵なのか味方なのか。」

クレトは言った。

「俺もわがらなぐなっだ。」

ファウストは言った。

「なんにせよ、真相の開示に感謝する。不利な情報もあった中、その勇気を称えよう。」

ソラナは申し訳なさで言葉を返せなかったが、頭を下げた。それを見届けた後、クレトが言った。

「そっちのジョーカープラスにも、思うところはあっけんども、俺は、アニセト・デフォルジュが許せね。」

レオンがそれを受け、多少考えた後、こう返した。

「せや!敵討ちせぇへん?」

ルフィノが眉間に皺を寄せつつこう言った。

「理想としては、そのような事はするべきではありませんが、なんでしょう?この気持ちは。」

ファウストがそれに続ける。

「私も、それを支持する。セシリアの敵討ちを、5人で実行しよう。」


◆輪の制止とプラスの覚悟

エルネストが少し強い声色で返した。

「止めるんだ!」

テオもそれに続いた。

「アニセトに、『生身』で挑むんは、危険や!!」

ラモンも慌てた様子でこう言う。

「アニセトの野郎は、人間でねぇ!本人が言っでだ。細胞ひとつひとつが、マトゥーレインの人工生命体だっで。」

フェリクスがそれに続ける。

「私たちアニュラスデッキのスートは、その力を身をもって体験しました。危険です。あの男に敵対するのは。」

レイナが震える声で返した。

「じゃあ、私たちはセシリアの為に何も、何も出来ないの?」

ルシアがそれに返す。

「あんたらは、自分たちのジョーカープラスの死の真相を半年もかけて調べたんでしよ?それでいいじゃん?きっと、それで十分って思ってくれるよ。」

ルチルデッキの面々は、それに納得いってない表情を浮かべる。それを受け、ソラナは言った。

「戦いの為のマトゥーレインをまだ使える私が、あなたたちの代わりにアニセトさんを討ちます。」

ソラナに10人分の驚きの視線が注がれる。レイナは言った。

「お願い、していいの?」

「私のせいでこうなったので、やります。」

アニュラスデッキの面々は慌て、ルシアが代表して言った。

「ちょっと!ソラナ!!それって。」

「ルシア。」

ソラナは、視線にてルシアのその後の言葉を奪った。それと同時に、ルチルデッキのスート4人は次々とソラナに声をかけた。

「我々への配慮と大きな決意に感謝する。」

「ありがたい施しです。」

「恩に着るで。よろしく頼むわ。」

「俺らの代わりに、敵討ちしてくんちぇ。」

それを聞き届けた後、レイナが言った。

「今日は、色々とありがとう。」

そして、ルチルデッキの面々は、控室から出ていった。


◆輪の決意

それから、間もなくの事だった。テオが声を荒らげた。

「『代わりに敵討ち』?何を言うてんねん!!ソラナ!!」

フェリクスが続いた。

「慈悲深いのは、素敵な姿勢ですが、その考えは受け入れられません。」

ソラナは、こう返した。

「アニセトさんをあのままにしていいの?セシリアさんを殺した張本人が、あのままで?」

ルシアはそれに返した。

「確かに、口先だけの『謝罪』は何度もしてるけど、セシリアって人の事、なんとも思ってなさそうだけどね。」

そう言い終わったルシアは、ソラナの両肩を掴み、言葉を続けた。

「でも、あんたの命をかけてやること?」

「それが、私のセシリアさんへの償いだよ。」

ラモンが言った。

「んだな。ソラナは大事な仲間だけんちょも、あっちのジョーカープラスが死んじまってるのに、こっちのジョーカープラスは、傷つけないでくんちぇって言うのもなぁ。」

エルネストが言った。

「その敵討ちは、君1人ではやらせない。僕も加わる。やってもいいよ、ソラナ。けれど、それが条件だ。」

「エルネスト、駄目。これ以上みんなを巻き込みたくない。」

エルネストの厳しい視線がソラナに注がれる。それにソラナは屈した。

「ごめん。わかった。エルネスト、お願い。」

ソラナがそう返し、エルネストの表情が柔らかい物になると、フェリクス、テオ、ラモン、ルシアがエルネストに続いて、「敵討ち」への参加を申し出た。そして、アニュラスデッキは、全員でアニセトを討つ事を決めた。


◆寮に戻り

ソラナとルシアは、寮に戻った。

「ソラナ、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

「どう考えても、あんたアニセトに対抗出来るマトゥーレインを作ったら、死ぬよ?」

「うん。そうだね。でも、私の夢は、『生きる事』なんだけど、いつまで生きるか決めてなかったんだ。だから、明日まででも別にいいんだよ。」

「ソラナ。」

一方、スート4人は、寮の部屋で話し始める。エルネストが口火を切る。

「どうして僕に同調したんだい?」

フェリクスが返した。

「あなたがやると言うのに、私が逃げる手はありませんよ。」

テオが返した。

「よう考えたら、アニセトに攻撃出来るチャンスやん。やっぱり、俺、あいつ許せへんねん。」

ラモンが返した。

「ソラナが大きい事やっからな。そばにいてやりてぇ。」

エルネストは、短くため息をつく。そして、反論する。

「僕は、『貴族』なんて名前だけの物なんだ。だから、貴族界から追放されても構わない。けれど、君らは違うだろ?」

再びフェリクスから返す。

「私だって、中途半端な導師ですからね。いてもいなくても変わりありませんよ。しかし、お2人は、今すぐ降りてください。『店長』や『跡取り』の名に傷がつきますよ。」

テオが返す。

「ええねん。『グリッター』を欲しいって思っとる奴、1人おるからな。素直にそいつのもんにするわ。」

ラモンも返す。

「親父やお袋には悪いけんちょも、家の畑は誰かに将来やっでもらうべぇ。」

そして、スート4人は団結し、ソラナの為にアニセトを討つ覚悟を決めた。


◆ジョーカーの試練

アニセトを討つ為には、マトゥーレインをソラナは作らねばならない。しかし、アニセトへの攻撃を考えると、すぐにバングルの星が黒くなった。星が黒くなるという事は、マトゥーレインを作れなくなるという事。

「駄目。これじゃ、セシリアさんの敵討ちが出来ない。」


◆スートの試練

スート4人は、最強の存在と言われるキングに全員変身するのがアニセトに勝利する道と考えた。それには、現在のスートレベルを3からトランスフォーメーション・ステージの入り口である10に上げなければならない。ここから、完全勝利を7回連続で実現する事を課せられた。

トレーニングに熱を注ぐエルネスト、フェリクス、テオ、ラモン。それを、ソラナとルシアは見守った。


◆スートレベル10

結局、それからアニュラスデッキは、完全敗北を2度してしまい、11戦かかってしまったが、全員のスートレベル10を実現し、フォーティーフラッグを手にした。

7月25日の出来事だった。


◆作戦会議

アニュラスデッキは、アニセトを討つ準備が出来た。フォーティーフラッグを手にしたまま、控室で話し合いを設けた。

ソラナが切り出した。

「アニセトさんを討つ為のマトゥーレインは、作れそうだよ。」

エルネストが返した。

「そうかい。なら、大丈夫そうだね。」

ラモンが言う。

「なら、明日の対戦終わっだ後にやっけ?」

テオがそれに返す。

「せやな。ルチルの5人も待ってはると思うしな。」

フェリクスが言った。

「ソラナ、ソラナに万が一の事があったら、私は、私たちは正常な心理状態ではいられなくなりそうです。その時は、ルシア、私たちの浄化をお願いしますよ。」

ルシアは返した。

「りょーかい。なるべくだったら、泣きたくないんだけど。まぁいいよ。」


◆別離

その夜、スート寮、305号室では、それぞれのスートがそれぞれのスマートアニマルにて、必要な連絡を取った。

エルネストは、ノスリにて両親に告げた。

「父上、母上、僕と親子の縁を切っていただきたい。」

フェリクスは、シャルトリューにてノーブル大教堂に連絡した。

「大導師フランマ様、私を今日をもって破門としてください。」

テオは、シェパードにてグリッターに連絡した。

「クストー、あんな?グリッター、永久にお前さんのもんにしてええわ。俺、帰らへんから。」

ラモンは、ハタリスにて両親に告げた。

「親父、お袋、俺、帰らんにくなった。」

そして、ジョーカー寮の305号室では、ソラナがアマガエルにてラウラと連絡を取っていた。

「お母さん、私、死ぬことにした。」

「どうして?」

「やっぱり、アニセトさんをあのままにしておきたくない。それに、私のせいで死んじゃったセシリアさんへの罪滅ぼしをしたいの。」

「そこまでソラナがやる必要はないと思うわ!止めなさい!!」

「それでも、やらせて。私、明日アニセトさんとエデンに行く。」

「行って欲しくない!私は、行って欲しくない!!駄目!止めなさい!!」

「お母さん。」

その後のラウラとの通話は、平行線を辿った。ソラナは、無理矢理通話を切る事にした。こう告げる事で。

「お母さん、今まで育ててくれてありがとう。これからは、もう、私を『娘』だって思わなくていいよ。」

「ソラナ!待ちなさい!!」

「ごめん。ごめんなさい。ラウラおばさん。」

「ソラナ!!」

ラウラとの最期の通話を切った後、ソラナのアマガエルは機械音声でこう言った。

「機能維持ゲージが、1パーセントです。魔法石にて、機能維持をしてください。」

ソラナは魔法石を与えない。そうしているうちに、機械音声はこう告げる。

「機能維持ゲージ、0パーセント。契約解除。」

ソラナは、アマガエルを逃がしてやろうと思ったが、10年以上と長く使ってきた為、そこでアマガエルは寿命を迎え、息絶えた。

「カエルちゃん。そっか。」

ソラナは涙を浮かべながら続けた。

「すぐ、追いかけるからね?エデンでまたスマートアニマルになってくれる?」

翌朝、ソラナは寮の庭にアマガエルを埋葬した。


◆殺人者との対峙

7月26日。アニュラスデッキの6人は、サクセスコロシアムに行った。この日の全対戦が終わった頃を見計らってアニセトの部屋の前に移動。程なくして、アニセトが部屋から出てきた。

「アニュラスデッキではないか?何の用だ?」

ソラナは、言った。

「話が、あるの。競技場まで、一緒に来て?」

アニセトは、何かを感じた。

「私に、何かをするつもりだな?」

「いいから、面貸しな。」

ルシアの挑発に乗り、アニセトは競技場に行く事にした。7人で、誰もいなくなった競技場の真ん中まで行く。そして、ソラナは話し始めた。

「アニセトさん、私とアニセトさんの話だよ。」

「何の話だと言うのだ?」

「私のコアの『真実』を知ってから、色々考えたんだ。私は、あなたに私を『許して』って言う資格はないって。でも、これだけは言いたい。私の為に関係のないセシリアさんの命を奪ったあなたは許せない。」

ソラナのバングルの星が黒く染まる。アニセトは笑いながら言う。

「だから、ここで私をお前が倒すと言うのか?」

「そうだよ。あなたはここで命をもってその罪を償うの。私も、その原因の1人としてセシリアさんの命に対して償うよ。勿論、私の命をもって、ね。そして、エデンには、おじいちゃん、おばあちゃんがいる。一緒に会いに行こう?そして、あなたに『謝って』って説得するから、それで、終わりにしよう?ね?アニセトさん?」

すると、黒く染まったばかりの星が赤に戻る。

「お前には、戦闘能力を与えていない!どうやって私をエデン送りにするのだと言うのだ?」

エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンが立ちはだかる。

「私の仲間が、私の命と共にあなたと戦うから。」

アニセトは奇声にも似た笑い声を上げながら言った。

「アニュラスデッキのスートたちよ!そんな事をしたら、どうなるかわかっているのか?」

エルネストは答えた。

「もう、僕には失う物はないよ?僕は、貴族界から退いたんだから。」

フェリクスは答えた。

「私は、今日から導師ではありません。殺生も出来ましょう。」

テオは答えた。

「昨日でそれは失ってきたわ!店捨てて俺は無敵やで?」

ラモンは答えた。

「家さけぇらねぇって決めだかんな。大丈夫だぁ。」

アニセトは、地の底に轟くような声で言った。

「よかろう。受けて立とう!!」

それを受け、スート4人は声を揃えて「ソラナ!!」と言った。ソラナはそれを聞き届けると、こう叫んだ。

「私の中のすべての命よ!スートのマトゥーレインとなれ!」

ソラナは強い光に包まれ、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンにマトゥーレインを授与した。アニセト討伐という目的で繋がった心は、4人をキングへと変身させた。目映い程の光をまとったキングローブが出現。そのローブの襟には、それぞれのスートマークが細かくあしらわれていて、4人を包んだ。それが終わると、王冠が出現する。こちらもそれぞれのスートマークがあしらわれている王冠にてエルネスト、フェリクス、テオ、ラモンの決意の戴冠が繰り広げられる。

一方、ソラナの全身を包んでいた強い光は消え、崩れるようにソラナは倒れた。ルシアがそれを抱き止める。

「ありがとう、ルシア。」

細いソラナの声。ルシアは返した。

「よく、よくやったわ。」

ルシアはソラナにそう返す。それを振り返ったスート4人。総じて歯を食いしばる。そして、アニセトに向かって行った。それを見届け、ソラナは最期の言葉を絞り出した。

「エデンで、先に待ってるね。アニセトさん。」

そして、ソラナは息を引き取った。18歳の命が散った瞬間だった。ルシアは、涙を浮かべ、こう叫んだ。

「エルネスト!フェリクス!テオ!ラモン!負けたら許さないんだからね!!ソラナの為に、勝ちなさいよ!!」

スートの4人も、涙を浮かべ、それぞれ「負けない」事を宣言した。


◆王たちの討伐

ルシアは、かなしみの中、スート4人のかなしみを浄化し始める。

「苦しいっ!!」

エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、一旦かなしみを脱し、ルシアに感謝を述べつつ、アニセトに向かって行った。

「武器を我が手に、スペードソード。」

「武器を我が手に、ハートグレイル。」

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

「武器を我が手に!クラブカドル!!」

アニセトは、言った。

「標的が、自殺か。もはや私に戦う意味などない!」

アニセトは、一撃でスート4人を倒し、この場から離脱しようとはじめから強い力を放出。しかし、スート4人の力は、通常のキングより強く、それをものともしない。

「な、何っ?」

ラモンが言った。

「ソラナの命が、全部の命がここにある!そんなもんで倒せるわけねぇべぇ!!」

そして、こう唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚!サジタリウス!!レオ!!アリエス!!」

レオは痺れで、アリエスは重さで、アニセトの動きを止め、サジタリウスは大量の矢をアニセトに浴びせる。そして、ラモンは棍棒からの炎もアニセトに浴びせかける。

「このような物!跳ね返してやる!!」

すかさずテオがこう言った。

「やめてくれへんか?ソラナの命、素直に受けろや!!」

そして、こう唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!ヴィルゴ!!カプリコーン!!タウルス!!」

戻って来てしまった矢や炎をカプリコーンは草に変え、吸い込む。そして、それと共に来たアニセト自身の力の盾にヴィルゴはなった。それと同時にタウルスはアニセトに猛攻を仕掛ける。テオはひたすら銃をアニセトに撃ち込む。

「仕方がない、受け入れてやろう。だが、私は耐えるぞ!!」

それにフェリクスが反応する。

「ソラナの大いなる命の攻撃に、どこまで耐えられるか、試してみますか?」

そして、こう唱えた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。スコーピオ。ピスケス。キャンサー。」

アニセトは、3体のサーバント・フェアリーに対抗する力を放出。それは、聖杯により歪む。そんな中、スコーピオがアニセトに毒を注ぎ込み、キャンサーは切りつける。その合間にピスケスの体当たりが待っていた。

「ぬぅ、やはり、すべて吹き飛ばしてやろう!!」

エルネストがこう言った。

「君の吹き飛ばしと、ソラナの命の風、どちらが強いかな?そして、的は絞らせない。僕らを傷つけさせはしない!」

そして、こう唱えた。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。ジェミニ。リブラ。アクエリアス。」

ジェミニで3人分に増えた剣からの強風をアニセトはもろに受けたが、それを振り切るように再び力を放出。しかし、リブラの皿に保管される。また、剣からの力も、次第に皿に保管されて行く。そして、皿は、エルネストとアニセトにダメージを与え始めるが、アクエリアスがエルネストの分を保管し始める。そして、それをアニセトに向けて放出した。

「ぐうぅうっ!!」

遂に、アニセトは唸るような悲鳴を上げる。

それを見たルシアは、冷たくなり始めたソラナの手を握り、こう言った。

「あいつら、勝ちそうだよ、ソラナ。いや、絶対勝つ!!」

ルシアがそう言った瞬間だった。エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは声を揃えて唱えた。

「デッキ・ボンズ・フォー・マトゥーレイン!!」

強い風や長い水龍に乗り、大きなコインや灼熱の炎がアニセトに向かって飛んでいく。アニセトも残る力をすべて放出し、ちょうど真ん中にてそれは拮抗する。エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、こう叫んだ。

「ソラナに!ソラナの命に勝利を!!」

アニュラスデッキの力はアニセトの力を凌駕していく。そして、それはアニセトに直撃した。

「ぬぅおおおおっ!!」

その瞬間だった。

エルネストの心にソラナの声が響き渡った。

「エルネスト、ありがとう。お馬さん遊び、楽しかったよ。ありがとう。」

「ソラナ!!」

フェリクスの心にソラナの声が響き渡った。

「フェリクス、ありがとう。私の家族を弔ってくれて嬉しかった。ありがとう。」

「ソラナ!!」

テオの心にソラナの声が響き渡った。

『テオ、ありがとう。働かせてくれて、やりがいがあったよ。ありがとう。』

「ソラナ!!」

ラモンの心にソラナの声が響き渡った。

「ラモン、ありがとう。寒い時にコート貸してくれたね。暖かかった。ありがとう。」

「ソラナ!!」

4人の目に、光のソラナが見えたような気がした。

その視線の先には、体が崩壊していくアニセト・デフォルジュ。

エルネストは言った。

「勝ったよ、ソラナ。」

フェリクスは言った。

「勝ちましたよ、ソラナ。」

テオは言った。

「勝ったで、ソラナ。」

ラモンは言った。

「勝ったど、ソラナ。」

アニセトは、崩壊した体が消滅していく中、最期の声を絞り出した。

「負けない筈の、復讐に、負けが存在するなど、認めん。しかし、無垢なる殺意が、私を倒すとは。」

アニセトは、派手な仮面を遺し、完全に消滅した。

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