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共通編:ゲーム

◆開幕式

E.E.233年1月15日は、雨が降っていた。サクセスコロシアムは、降雨用のドーム屋根が張られ、こうこうと照明がついていた。それは、1つも空いた席のない1万人程度を収容出来る観客席と競技場の広大な平らの床や端にある豪華な椅子、2脚ずつ計4脚を照らしていた。

やがて、定刻になり、女性の声で場内アナウンスが流れる。

「お待たせいたしました。本年の『リアルトランプゲーム』の『開幕式』を挙行いたします。始めに、ゲームマスター、アニセト・デフォルジュよりごあいさつです。」

競技場の真ん中に相も変わらず派手な模様の仮面で目元を隠したアニセトが現れた。その様子は、観客席の四方に設置されている大型モニターにも流れる。わずかに加工されているアニセトの声で挨拶が始まった。

「観客席の皆様、そして、生中継をご覧になっている方、今シーズンで、39年目となるこの『リアルトランプゲーム』をお引き立ていただきまして、ありがとうございます。ゲームマスター、アニセト・デフォルジュです。本年もありがたい事に『ルーキーデッキ』を迎える事ができました。これもひとえに応援していただいた方々のおかげです。では、これから『レベルリセット』と、『ルーキーデッキ』のご紹介を致します。ごゆるりとお楽しみください。」

アニセトは、一礼し、退場していった。

それを受け、アナウンスの女性は、こう言った。

「これより、『レベルリセット』を行います。デッキ、入場。」

そして、昨年まで活躍していて、今年も参加するデッキ、52デッキ、総計312名が平らな床部分に整列した。アナウンスは、「デッキ名」と「昨年のレベル」を紹介する。

「『ルチルデッキ』、昨年は、スペードスートはスートレベル8、ハートスートはスートレベル9、ダイヤスートはスートレベル7、クラブスートはスートレベル10でした。ただいまより、レベルリセット。スートレベルは、全員エースとなります。」

そして、運営の担当者が当該デッキのレベルをリセットしていく。それを52回繰り返した。アナウンスは、こう案内した。

「『レベルリセット』を終了しました。デッキ、退場。」

312人が次々にそこから退場していく。アナウンスは、全員の退場を確認すると、こう言った。

「続いては、『ルーキーデッキ』のご紹介です。デッキ、入場。」

その声を受け、ソラナ、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモン、ルシアの順で競技場に入場した。そして、先ほどアニセトが立っていた競技場の真ん中に、左からテオ、エルネスト、ソラナ、ルシア、フェリクス、ラモンの順で並んで立った。場内の大型モニターにも、6人の姿が映し出された。アナウンスは、それを確認すると、こう紹介を始めた。

「本年の『ルーキーデッキ』は、『アニュラスデッキ』でございます。メンバーをご紹介します。」

その言葉に、ソラナたちは、気を引きしめた。

「ジョーカープラス、ソラナ・アルシェ。」

大型モニターや、生中継のテレビ画面にソラナの笑顔が大きく映し出された。その様子を、ラウラは自宅にて近所の人々と共に見た。そして、間髪入れずに声を張り上げた。

「ソラナー!!」

それは、近所の人々も一緒で、口々に「ソラナちゃん!!」と声を上げた。

アナウンスは2人目を紹介。

「スペードスート、エルネスト・イベール。」

エルネストは、柔らかい表情を浮かべる。その様子を、「サクセスコロシアム」の貴賓席でエルネストの両親が見ていた。力強く頷くエンリケと小さく拍手をするビアンカ。声を揃えて、

「エルネスト。」

と呟いた。

アナウンスは、3人目を紹介。

「ハートスート、フェリクス・ジュアン。」

フェリクスは、気を引き締めた表情で映る。メリディサームの「ノーブル本教堂」でも、生中継を多数の導師が見ていた。フランマは、穏やかにこう言った。

「フルーメン、よき修行をするのですよ。」

他の導師も優しい拍手をフェリクスに贈った。

アナウンスは、4人目を紹介。

「ダイヤスート、テオ・ベルジェ。」

テオは、満面の笑顔を浮かべる。オデスネゴウムの「グリッター」では、特別に店全体を休憩時間にし、その生中継を全員で観ていた。店員たちのどよめきの中、セベリノが力強く言った。

「ベルジェや!気張りや!!」

その声が響く中、店員たちは笑顔を見せた。

アナウンスは、5人目を紹介。

「クラブスート、ラモン・ジスカール。」

ラモンは、緊張感溢れる表情で映る。オセルスティでも生中継は流れる。ホアキンがしみじみと言った。

「ラモン、俺の息子でねぇみてぇだぁ。」

「んだなぃ。」

ニルダの笑みもこぼれた。

アナウンスは、最後の紹介をした。

「ジョーカーマイナス、ルシア・セルトン。」

ルシアは、無表情に近い顔だった。テネブラフトの駅前にある複数の工房から、「あの工房の娘だ!」と驚く声が響いた。

アナウンスは、一旦こう締め括った。

「以上が『アニュラスデッキ』のメンバーでございます。」

観客席から惜しみない拍手を送られるアニュラスデッキ。そんな中、ソラナは観客席の方を見上げた。うろ覚えな為、実際いた場所は正確にわからなかったが、8歳の時に両親と座った座席付近を探し、胸のペンダントに触れた。

「パパ、ママ。」

紹介が終了すると、ルーキーデッキには、マトゥーレイン関連のアイテムが与えられる。アナウンスは、こう続けた。

「デッキバングル、ジョーカーコア、授与。ゲームマスターの入場です。」

すると、女性スタッフを伴ったアニセトが再び入場してくる。そして、アニュラスデッキの目の前に立ち、女性スタッフが持つトレーに置いてある金色に輝く幅の広いバングルを手にする。そして、こう言った。

「アルシェさん、右腕を。」

「はい。」

ソラナは、アニセトに右腕を差し出した。すると、アニセトの手からバングルが浮く。そして、ソラナの右手首に収まった。そのバングルには、星があしらわれていた。

それからアニセトは、エルネストにスペード、フェリクスにハート、テオにダイヤ、ラモンにクラブ、ルシアに星があしらわれているバングルを次々に授与していった。

最後に再びソラナの目の前に立つアニセト。その手には、無色透明の魔法石が。それもアニセトの手から浮き、ソラナの胸の中に溶け込んでいった。

「これは、『コア』です。」

「はい、ありがとうございます。」

それを認めると、アナウンスは、こう言った。

「ゲームマスター、並びに、ルーキーデッキ、退場。」

アニセトがアニュラスデッキを先導し、女性スタッフが後を追う形でソラナたちは競技場から退場していった。観客席からは惜しみない拍手が贈られた。

アニュラスデッキが退場すると、アニセトは言った。

「お疲れ様でした。この後のルール説明が終わったら、いよいよデビュー戦ですね。楽しみにしていますよ。」

ソラナは返した。

「はい!」

すると、アニセトはアニュラスデッキのもとを去っていった。

ソラナは、言った。

「みんな、頑張ってね!!」

スート4人は、頷いた。

一方、アニセトはサクセスコロシアムの自室に戻り、笑った。

「ソラナ・アルシェ、始まったな。『本格始動』だ。『終わり』の『始まり』だ。」

アニセトの高笑いが部屋中に響き渡った。

ひととおり笑った後、アニセトは、自らのスマートアニマルのハシボソガラスを右腕に乗せ、自室から出ていった。


◆ルール説明

競技場では、こんな女性のアナウンスが。

「これにて、『リアルトランプゲーム』、『開幕式』を終了いたします。引き続き、ルール説明へと移らせていただきます。」

そして、アナウンスは、男性の声に代わる。

「只今より、ルール説明を行います。ゲームマスター、入場。」

アニセトが再びハシボソガラスを手に入場する。そして、こう言った。

「本年最初の『ゲーム』の前に、ルールを確認するため、今からご説明を始めます。スマートアニマル!!」

そう言った後、アニセトは、ハシボソガラスを場内に放った。そのハシボソガラスは場内を飛び回り、機械音声にてルールを説明し始めた。大型モニターや、生中継の画面に「ルール説明」と表示される。

「毎年恒例!ルール説明の時間だよ!!」

そんな様子を、アニセトは見守る。観客の中には、ルール説明が必要ない者もいて、外に一旦休憩に出る姿もあったが、それでもルール説明はスマートアニマルから自動的に流れた。

「『リアルトランプゲーム』は、貴族のスペードスート、聖職者のハートスート、商人のダイヤスート、農民のクラブスートがマトゥーレインを駆使して戦うゲームだよ!」

画面には、それぞれのマークが2つずつ表示される。

「戦いの形式を紹介するよ!同じスート同士一対一で戦う『セイムスタイル』、違うスートと一対一で戦う『ミックススタイル』、スート4人で協力して戦う『フリースタイル』の3つがあるんだ!」

画面では、同じマークがぶつかったり、違うマークがぶつかったり、8つのマークが画面いっぱいに動き回ったりした。

「そんな戦いの力の源、ジョーカープラス!コアからのマトゥーレインを管理する立場だよ!!」

画面では、赤い星が出現。

「E.E.230年に掲げた『もっと高潔に、さらに団結を』をテーマに『ファーストジョーカー』から変わった『ジョーカープラス』の説明を詳しくするよ!以前のファーストジョーカーは、メインのマトゥーレイン管理者、という立場だったけれど、ジョーカープラスは違うよ!もっと高潔に、をテーマとし、綺麗な心を持たないとマトゥーレインを作れなくしたよ!汚いジョーカーからのマトゥーレインは、スート諸君も使いたくないよね?そして、さらに団結を、をテーマとし、スートとの心を繋げてもらうんだ!仲間を思う心が、より強い程ジョーカーのマトゥーレインをスートはもらえる!!素敵だよね?」

すると、画面の星が黒くなった。

「次に、『セカンドジョーカー』から変わった『ジョーカーマイナス』の説明を詳しくするよ!以前のセカンドジョーカーは、ファーストジョーカーのコアに何か不具合があった場合の補欠みたいなものだったけれど、ジョーカーマイナスは違う!ジョーカープラスが欲望とかの感情で穢れちゃった時に、その穢れを引き受けてジョーカープラスを綺麗にしてあげる役割を負っているんだ!!ジョーカープラスの代わりに穢れと戦って、浄化してあげる立場。辛いかもしれないね?でも、頑張って!!」

画面の黒い星に白い星が近づき、代わりに黒くなり、再び白くなる様子が映る。

「そんなマトゥーレインを使ったスートの戦い、勝ったらスートレベルが1上がる!負けたらスートレベルが1下がる!単純だよね?簡単だよね?でも、あれ?エースが負けたら?大丈夫!特例でエースのままでいられるよ!!頑張って次は勝って、スートレベル2を掴もう!!」

再びスートのマークが画面に出てきて、横に数字や「エース」と書かれる。

「戦うときは、それぞれの武器で戦ってね。スート1人につき3体宛がうサーバント・フェアリーに助けてもらってもいいよ!ただし、サーバント・フェアリーは、1戦でその中の1体しか使えないよ!よく考えて使ってね。それに、『セイムスタイル』の時は、相手と同じサーバント・フェアリーは使えない!レベルの高い方に優先選択権があるから、気をつけてね!!」

画面のスートのマークの周りに、12星座をイメージしたキャラクター的なマークが集まってくる。

「頑張って勝ってスートレベル10までいったスートは!何と!変身するよ!!名づけて『トランスフォーメーションステージ』!変身すると、サーバント・フェアリーは、3体同時に使えるよ!スートレベル10の力のままの『ジャック』、強くなるけど、女の子になっちゃう『クイーン』、そして!最強の存在、『キング』の3種類に変身できる!!どれに変身するかは、ジョーカープラスからもらえるマトゥーレインの量によって決まるよ!!『キング』に変身したいよね?スート諸君は、それまでにジョーカープラスと深く心を繋げよう!!」

画面では、スートマークの横に「J」、「Q」、「K」と出ては消えた。

「そして、最後に戦った名誉の証を説明するよ!年間で最も勝利数が多いデッキに贈られる『ビクトリーフラッグ』、スート4人全員がスートレベル10になると贈られる『フォーティーフラッグ』、スートが1人でも変身すると贈られる『トランスフォーメーションフラッグ』、年間の人気投票で1位に選ばれたデッキに贈られる『ポピュラリティーフラッグ』。この4種類を用意しているよ!そして!4種類のフラッグを手にしたデッキは、『殿堂入り』!このゲームの伝説となってゲームを見守ってもらうんだ。さびしい言い方だと、『引退』なんだけどね。後進に道を譲る立派な先輩デッキになってね!!」

画面に、旗が4本並び、消えて行く。

そうして、ハシボソガラスは、アニセトの右腕に戻って行った。アニセトは、こう言う。

「以上のルールにて、お楽しみいただきます。」

アナウンスがそれに続く。

「只今をもちまして、ルール説明を終わります。ゲームマスター、退場。」

そうして、アニセトは競技場から姿を消した。すると、場内では、アナウンスが再び響く。この「リアルトランプゲーム」のスポンサーや協賛企業の名前が読み上げられていく。スポンサーには、詳細な企業情報も添えられていた。

一方、控室兼トレーニングルームに戻っていたアニュラスデッキ。そこに設置されている小型モニターにてルール説明を聞き届けていた。

ラモンが呟いた。

「がんばっぺ。」

エルネストが呟いた。

「最善を尽くそう。」

テオが声を上げた。

「よっしゃ!やったるで!!」

フェリクスが呟いた。

「素晴らしい戦いをしなければ。」

それを受け、ルシアが言った。

「楽しみにしてるから。」

それを笑顔でソラナは見届け、頷いた。


◆デビュー

競技場内でのスポンサー、協賛企業の読み上げが終了した後、アナウンスはこう言った。

「本日、唯一の対戦に移ります。本年は、規定に従い、ルーキーデッキのお披露目となり、『セイムスタイル』での対戦になります。」

大型モニターには、「ルーキーデッキデビュー戦」と表示され、すぐにモニターが4分割された。それと同時に、4つの大きな円形のリングが床からせり上がる。そして、アナウンスは言った。

「デッキ、入場。」

競技場の端にある椅子の方面から、6人ずつ2組の「プレイヤー」が入場してくる。すると、円形のリングの上に、それぞれスペード、ハート、ダイヤ、クラブが向かい合わさるように2つずつ現れた。その様子は、4分割された大型モニターにも映し出される。

入場してきたデッキは、ソラナたちのアニュラスデッキ、そして、対戦相手は、「チェレリタスデッキ」、3年目のシーズンを迎えたデッキだった。

端にある椅子は、ジョーカープラス用の椅子とその一段下にジョーカーマイナス用の椅子があり、ソラナとルシアはそれに着席した。アナウンスは、こう案内した。

「マトゥーレイン、授与。」

エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、ソラナの周りに集まる。ソラナは呟いた。

「みんなに、力を。」

ソラナは光をまとい、その光は、等分され、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンに吸収されていった。バングルに目をやると、スペードやクラブは黒、ハートやダイヤは赤に染まっていた。

テオが言った。

「赤ぁなったわ。」

エルネストは言った。

「本当だね。僕のは黒だ。」

フェリクスが言った。

「先程までは、白だったのに。」

ラモンが言った。

「力が入ったって事だっぺな。」

4人は、ソラナを見る。ソラナはこう返した。

「私のは、白かったのが赤くなってる。みんなの力になってる証拠かな?」

ルシアが言った。

「だろうね。あたしのは、相変わらず白いままだけど。」

それを受けソラナは言った。

「嬉しい!みんな、頑張ってね!!」

それを聞き届けたエルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは自らのスートマークが表示されているリングへと向かっていった。そして、1人、また1人とリングへ上がる。対戦相手もリングに上がってくる。

エルネストは、ボウアンドスクレープにて、

フェリクスは、星の半合掌にて、

テオは、最敬礼にて、

ラモンは、軽い会釈にて、

対戦相手に敬意を表する。対戦相手も同じようにした。

場内アナウンスは、2組のデッキ名や「プレイヤー」の名前を読み上げる。それが終わると、こう案内を続けた。

「ゲームスタートまで、後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。ゲームスタート!!」

一斉にリングに上がったスートたちが一対一の戦いを始めた。


◆アニュラスのクラブ

「始まっちまった。どうすんべ。」

ラモンは、呟いた。すると、相手のクラブスートが、サーバント・フェアリーを早くも召喚した。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚。アリエス!」

羊型の妖精が出てくる。アリエスは、ひと鳴きする。すると、ラモンの体に異変が生じる。

「なんだっぺ、体が重ぐなっできだ。ぐっ。」

「初心者にはわがんねぇべね。」

「動けね。」

「んなら、すぐに倒せんな。おめのこど。」

「すぐに倒されでたまっか!」

先ほどの例にならって、ラモンは、サーバント・フェアリーを召喚することにした。

「口は動ぐ。知識の森から、サーバント・フェアリー召喚。サジタリウス!」

人型の妖精が出てくる。ラモンを守るように立ち、弓矢を構える。そして、相手に向かって矢を放った。3年目の経験から、相手は避け、こう言った。

「確がに、口は動ぐな。って言うが、おめ、ラモン・ジスカールっで言っだな。」

相も変わらず動きが封じられているラモンは苦しみつつ返答。

「ルーキーデッキでの紹介で聞いでだろ?間違ぇねぇけども。」

「おめ、フィステリスに餌やっでんだよな?余計な事しで、あいつらは、『悪』だ。放っといで餓死させっちめぇばいいのに。」

「何言っでんだ!『悪』だからこそ、手を差しのべでやんねぇど、他の地域さ行っで悪さすっぞ!おめ、オセルスティにあいつら来でもいいのけ?」

一瞬、相手はその言葉を受け返答に詰まった。ラモンは、畳み掛けた。

「フィステリスの奴らも『悪』だけんちょも、生ぎてる奴らに『餓死しっちめぇ』なんで言うおめも、『悪』だ!おめは、許さねぇ!倒す!!」

ラモンは、こう唱えた。

「武器を我が手に!クラブカドル!!」

すると、炎をまとった棍棒がラモンの手に現れた。

「行ぐど!!」

ラモンは、重い体を引きずりつつ、炎の棍棒を手にし、サジタリウスの矢の援護を受けつつ、相手に向かって行った。相手も炎の棍棒を繰り出し、アリエスにもうひと鳴きさせるが、ラモンを止める事は出来なかった。ラモンは、更に重くなる体から力を振り絞り、相手の棍棒と自らの棍棒を激突させた。そしてラモンは叫んだ。

「ファイアー・ストライク!!」

炎が相手を包む。

「ぐあっ!」

そして、相手は膝をつく。運営側のカウントが始まった。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

相手は、立てなかった。運営は、こう宣言。

「勝者、アニュラスデッキのクラブスート、ラモン・ジスカール。」

ラモンは呟いた。

「勝でた。」

それを受け、ソラナは言った。

「ラモン!勝った!やったね!!」

生中継を観ていたラモンの両親も喜びの声を上げた。ニルダが飛び上がった。

「ラモン!勝った!涙出できだ。」

ホアキンもそれに続いた。

「嘘みでえだなぁ!ラモン、よぐやっだ!!」


◆アニュラスのダイヤ

「いくで!」

テオは言った。そして、早速武器を手にするため、こう唱えた。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

すると、テオの手中に銃が。

「こんな物騒なもん、つこた事あらへんけど、やるで!!」

テオはとりもあえずも銃を使ってみた。すると、コイン型の弾丸が1枚ずつ発射される。しかし、相手に当たらない。相手は、テオを嘲り笑い、こう言った。

「下手やなー。流石ルーキーやな。」

そして、笑った顔のまま、相手はこう唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。ヴィルゴ。」

出現した妖精は、女性だった。テオは、思わずその女性に対して正直な感想を述べてしまった。

「えらいべっぴんさんやなぁ。」

そして、見とれてしまう。その間に、相手も武器を手にした。そして、テオに向かって撃ってきた。その弾丸は、テオに正確に2発当たる。

「な、なんや?これ?」

テオの戸惑う声が。相手は、未だに笑いながらこう返した。

「訊かんでええやろ?しょーもないルーキーやなぁ。勝ちはもらうで?」

テオの体には、強い重力がかかり、体感で体重が2倍になったような感覚に陥る。テオは、声を絞り出した。

「あかん、負けてまう。」

そこで、テオもサーバント・フェアリーを喚んだ。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。タウルス!!」

牛の妖精が出現。相手に突進していき、相手のヴィルゴや相手本人に狂ったようにぶつかっていく。一気に相手は不利になっていった。相手は、焦る。

「あかん、『的』が絞れへん。」

タウルスにぶつかられる度に、テオを狙う銃の照準がぶれる。テオはそれに返した。

「そら、災難やな。えらいすんません。」

テオにかけられたコインの効力が薄れ、余裕を取り戻すテオ。それと同時進行で相手のヴィルゴが消滅。相手は、こう言った。

「消えてもうた。」

「勝たせてもらってええか?」

「運のいいやっちゃな。そうやって、『グリッター』もでかくしたんか?」

「俺の店の事知っとったんかいな。『わからへん。』とでも言うておこか。企業秘密や。」

相手は、一旦テオのタウルスに銃を撃ち込み、一瞬の戦闘不能状態にすることに成功した。その後、テオと相手は、銃を向け合う。そして、テオは叫んだ。

「グラビティ・ドロップ!!」

相手も同じように叫んだ。2人の銃から、大きめのコインが発射される。すると、テオのタウルスが再び動きだし、テオを庇う。一方、相手は庇う者がいない事から、テオが発射したコインが直撃。相手は唸るように言った。

「お前、やっぱり運のいいやつやな。」

「せやから、『知らん』。」

テオがそう返すと、相手は一旦浮遊する。そして、糸が切れたように落とされた。

「ぐぅっ!!」

リングにへばりつくように倒れた相手は、起き上がろうともがいたが、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

相手は、起き上がれなかった。運営は、こう宣言。

「勝者、アニュラスデッキのダイヤスート、テオ・ベルジェ。」

テオは、声を張り上げた。

「よっしゃ!!」

それを受け、ソラナは言った。

「わあっ!テオ!勝った!!」

業務に戻っていた「グリッター」にも朗報は届いた。セベリノは、客もいたが、その客にも店主の勝利を伝えた。

「ベルジェが、テオ・ベルジェが勝ったで!」

その言葉に、店中が喜びに包まれた。


◆アニュラスのハート

「始まりましたね。」

フェリクスは呟いた。その声を聞いたかはわからなかったが、相手はこう言った。

「ルーキーのお手並み、拝見と行きましょうか。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

フェリクスはそう返す。すると、相手はこう提案してきた。

「どうぞ、お先にサーバント・フェアリーを喚んでいいですよ。」

「いいえ、『先輩』にその権利は譲りますよ。」

「では、お言葉に甘えて。慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。キャンサー。」

すると、蟹型の妖精が出現した。それを受け、フェリクスは身構え、呟いた。

「傷を覚悟しなければなりませんね。」

相手のキャンサーは、脚を使って飛び上がった。そして、フェリクスの元に着地するが、その落下の勢いを借りて、ハサミでフェリクスを縦に切りつけた。フェリクスの短い悲鳴が響く。

「くっ。」

「挨拶代わりです。」

「ご挨拶、ありがとうございます。」

フェリクスは、そんな言葉を返し、こう続けた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。ピスケス。」

魚型の妖精が出現。それを認めると、さらにフェリクスは唱えた。

「武器を我が手に。ハートグレイル。」

フェリクスの手には、小柄ながら厳かな聖杯が現れた。相手はそれに反応。

「サーバント・フェアリーと武器を同時に。まあ、それも禁止されているわけではありませんが、傷におそれをなしましたか。フルーメン。」

「いけませんか?」

「『禁止されているわけではない』、と申し上げたでしょう?『中途半端』な、ランクグリーンの導師。」

「高みに上りつつあるランクオレンジの導師には、わからないでしょうね。私の気持ちは。」

そうフェリクスが言うと、周囲に水のようなホログラムが現れる。そして、フェリクスのピスケスがその中を泳ぎ始める。そして、相手に何度も体当たりをする。相手は、それを受け、嘲笑ともとれる笑みを浮かべながら言った。

「わかりますよ。私にも上からも下からも4番目のランクグリーンの時代はありましたからね。しかし、私という上から2番目のランクオレンジの導師を目の前にしたら、劣等感にそのお心が支配されていることでしょう。」

相手は微笑みながら、聖杯を手にした。それを受け、フェリクスは言った。

「その『劣等感』を私は捨てたい。」

フェリクスは、相手のキャンサーに傷つけられながら、こう叫んだ。

「ウォーター・スチール!」

それは、フェリクスのピスケスに体当たりされている相手も同じだった。2人の聖杯から水が舞い上がる。それは、龍の形に変化し、交差した。相手の龍は、フェリクスを、フェリクスの龍は相手を取り囲み、サーバント・フェアリーを吸収する。更に、取り囲んだ者のマトゥーレインを吸い取り、巨大化していく。2人は、苦し気な悲鳴を上げるが、相手が先に膝をついた。相手は、潔く「この先」の事を受け入れる為に身動ぎひとつしない。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣言。

「勝者、アニュラスデッキのハートスート、フェリクス・ジュアン。」

フェリクスは、ため息まじりにこう言った。

「勝てましたね。」

それを見たソラナは笑顔で一言。

「フェリクス!やったー!!勝ったね!!」

その頃、「ノーブル大教堂」では、フェリクス勝利の報を聞いたフランマが微笑んだ。

「まずは、1勝。これからですよ、フルーメン。」


◆アニュラスのスペード

「いよいよ、だね。」

エルネストは、言った。相手は、こう返した。

「まさか、初日早々ルーキーデッキと当たるとは、予想してはいなかったが、お相手を頼もう。」

そして、相手は言った。

「武器を我が手に。スペードソード!」

エルネストは、それに倣い、言った。

「武器を我が手に。スペードソード。」

2人の手には剣が出現。それをひと振りすると、強い風圧が辺りを支配する。エルネストは、初の体験に、呟いた。

「くっ、強い。」

勿論、剣は風を起こすためだけの物ではない。相手はエルネストに向かってくる。エルネストに剣を振りかざす相手。エルネストもそれに応戦。強い風圧の中、しばらく剣が擦れ合う音が響いた。相手はこう言った。

「サーバント・フェアリーは、あくまで『補助的』な物。武器で攻撃するのが美徳だ。」

「同感だよ。」

エルネストはそう返した。すると、わずかに相手の表情が険悪になる。

「ふん。」

そんな一言を添えて。エルネストと相手の剣は、交わり続けるが、相手がこう言った。

「なかなか押しきれない。仕方ない。」

一旦相手はエルネストから離れ、こう唱える。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。ジェミニ。」

すると、目が眩む光がエルネストを襲う。エルネストは思わず目を瞑った。エルネストが次に目を開けると、相手は、3人に増えた。相手は言った。

「君は、なかなかの腕だ。しかし、『本物』を見抜く力はあるか?」

ジェミニは人型の妖精。使役する者の容姿をコピーし、どれが「本人」なのかわからなくなるもの。それに加え、個別に攻撃もしてくる。「3人」の相手に囲まれながらエルネストは、それに応戦せねばならない。エルネストは、こう言った。

「そちらがそうなら、こうさせてもらうよ。」

そして、こう唱える。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。アクエリアス。」

水瓶を持った人型の妖精が出現。すると、相手からの攻撃波が水になって見えるようになった。「3人」の相手からの攻撃は、エルネストに通らなくなる。なぜなら、変化した水が水瓶の中に入って行くのだから。

「これは。」

相手は呟き、一旦攻撃を止める。しかし、エルネストは攻撃を止めない。相手は応戦せざるを得ない。

「やるな。イベール家の跡取りは。」

「ほめてくれてありがとう。」

すると、エルネストのアクエリアスは水瓶をひっくり返した。溜まった攻撃波が一気に「3人」になった相手に襲いかかる。そして、相手のジェミニは消滅。相手本人だけが残った。相手は諦めずにエルネストへ攻撃を仕掛ける。そんな中、相手はエルネストにこう尋ねた。

「そう言えば、イベール家にまつわる『黒い噂』は、本当なのか?」

エルネストの目が血走り、極限まで見開かれる。その様子を認めた相手はすかさずこう言った。

「ウィンド・スプリット!!」

エルネストは、吹き飛ばされながら鋭い風圧に切り刻まれる。低いエルネストの悲鳴が響いた。そして、リングに仰向けになって倒れたエルネスト。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、勝者を宣言したあと、こう宣告。

「敗者、アニュラスデッキのスペードスート、エルネスト・イベール。」

エルネストは、荒い息を響かせながらこう言った。

「ああ。なんてことを。」

ソラナは、思わず絶句しそうだったが、こう言った。

「そんな、エルネスト。で、でも、途中まで強かったよ。」

会場の貴賓席にいたエルネストの父、エンリケは椅子の肘掛けをその拳で叩いた。

「まさかっ!!」

そう言いながら。それに続いて、母ビアンカがこう言った。

「ソラナ・アルシェ、この事は覚えておきなさい。息子に恥をかかせた罪は重いわ。」


◆勝敗と

アナウンスは結果を発表する。

「チェレリタスデッキ1勝、アニュラスデッキ3勝、よって、本対戦は、アニュラスデッキの勝利です。」

生中継を観ていたラウラや近所の人々は、一斉に歓声を上げた。そして、ラウラは言う。

「1敗は痛いけど、上々の滑り出しじゃない?ソラナ。」

一方、コロシアムの観客席からは、アニュラスデッキのデビューへの労いや、勝利への祝福、チェレリタスデッキへの叱咤激励の声とともに惜しみない拍手が贈られた。その音を背に、エルネスト、フェリクス、テオ、ラモンは、ソラナやルシアの元に戻ってきた。ソラナは、こう声をかけた。

「アニュラスデッキ、勝ったね!みんな頑張ったよ!!」

ルシアがそれに続いた。

「はーいはい、お疲れ様ー。『特等席』からいいもの見せてもらった。あー、楽しかった。」

スートの4人の中には、微妙な空気が流れる。ルシアがそれに声をかける。

「『貴族』が負けて驚いてる?あんたたち、わかってるでしょ?これが『リアルトランプゲーム』の『醍醐味』だって。」

負けた本人のエルネストがそれに返した。

「『そういった意味』では、ゲームに貢献したってことかな?僕は。」

ソラナがそれに反応した。

「うん!結果は残念だったけど、それでもエルネストは戦ったよ。」

すると、アナウンスがこう言った。

「デッキ、退場。」

その声に、ソラナたちは従い、競技場を後にした。その先に待っていたのは、男性スタッフ。

「スートの皆さん、お疲れさまでした。状態回復の魔法石を配布します。初回なので、使い方の説明書を添付してあります。こちらの説明書は、使い方を覚えるまで大切に保管してください。」

4人に薄緑色の魔法石が説明書とともに1個ずつ渡された。ラモンが呟いた。

「何が書いであんだぁ?」

テオがそれに返した。

「黙って読めへんのかいな。」

フェリクスがそれに反応する。

「まあ、とりあえず読みましょう。」

小さなメモのような説明書には、ゲームの対戦中、受けたダメージは、マトゥーレインが作ったもので、実際の身体には何ら害は無いとのこと。そのマトゥーレインが作ったダメージを解除するための魔法石がゲーム終了後に渡されると書いてあった。そして、その使い方を4人でやってみることにした。控室兼トレーニングルームに戻ったスート4人は、ソラナやルシアが見守る中、タイミングがずれながらも「ステータス・リカバリー。」と唱えた。すると、魔法石は霧のようになり、スート1人1人を包む。その光景を見たソラナは、

「わぁっ。」

と短い声を上げた。霧が消えるまでスートは動かないように指示されている。そんな様子をルシアは見て、こう言った。

「その魔法石、設計図どうなってんのか興味ある。けど、『資格証』持ってきてない。今度持って来ようかな。」

やがて霧はスートの身体に吸収されていく。エルネストは言った。

「傷が、消えた。」

テオが続く。

「体重かったんは、気のせいやなかったんやな。軽ぅなったわ。」

ラモンが続く。

「やけどみてぇになっでだの、全部消えた。」

フェリクスが最後に言った。

「力が、みなぎってきました。」

ソラナは、そんな「報告」を聞いて、安心したようにこう言った。

「よかったね!!」

その頃、アニセトは、コロシアム内の自室にて呟いた。

「ソラナ・アルシェ、今日お前は、1つ『大事な物』を失った。もう、止められない。そうして、失い続ければいい。」

その後、奇怪な笑い声を自室に響かせた。


◆ルースレス・ディトネイション

一方、アニュラスデッキ。ラモンが言った。

「勝っでいがった。けんちょも、やっぱりマトゥーレインは、おっかねぇ。」

ソラナは、首を傾げつつこう言った。

「そうなの?ラモンは?」

ソラナは、それ以降に言いたかった自らの言葉、「私にとっては辛い思い出だけど。」を飲み込んだ。それに、ルシアが反応。

「ソラナ、あんたマトゥーレインのこわさ、わからないでジョーカープラスになったの?」

思わずソラナはルシアに話を合わせてしまう。

「えっと、そうなんだ。小学校の後半から中学校の時、あんまり勉強できなくて。」

「あー、だから浪人してたの?いい機会だから、教えてやろうか?」

「う、うん。」

「ねぇ、あんたたち、話、長いから手伝ってよ。」

ラモンは言った。

「『言い出しっぺ』みてぇなもんになっちまったがら、やっか。」

エルネストがわずかなため息をつきながらこう返した。

「やはり、ルースレス・ディトネイションまで話を遡ることになりそうだね。」

ルシアがそれに反論。

「そこから?後過ぎる。もっと前、パックス・エラ、P.E.700年代から話さないと。」

テオが言う。

「せやな。」

フェリクスが心配そうにこう言った。

「ソラナ、これから話す事は、聞く人によってはおぞましい話です。大丈夫ですか?」

「み、みんなが話してくれるんだったら大丈夫だよ。」

ソラナが返答。すると、テオが話し始める。

「P.E.700年代言うても後半の話やで。元々エテルステラは、ちっこい国やったんや。」

ラモンが相づちを打ちつつ、話を続ける。

「んだなぃ。作物作ればいっづも豊作で、掘れば金銀財宝とか油が無限に出でぐる豊がな国だったんだぁ。」

フェリクスが続ける。

「今の、チェントーレが旧制エテルステラと言われていますね。」

エルネストが言った。

「そこに、資源を手に入れたい周辺の6国は、時期は一緒じゃなかったけど、エテルステラに攻め入ったんだ。」

ルシアが続ける。

「そうそう、でも、エテルステラは、軍事力にも恵まれてたんだってね。一対一での戦いでは、エテルステラは、1年未満でそいつら追い出したんだってさ。」

ソラナは、こう言った。

「そ、そこは大学受験で勉強し直したんだ。ごめん。その後、『六国同盟』が結ばれて、その国たちが、一緒に攻めて来たんだよね?そこまでは勉強した。で、ても、その先は、私、こわくて勉強進まなくて。」

ルシアが一旦首を傾げたが、こう返した。

「何がこわかったんだか。そうだね。それからエテルステラと『六国同盟』の戦争は、3年続いた。」

フェリクスが続ける。

「個別の防衛で、経験豊かだったエテルステラ軍は、勝利を手にする事が出来ましたね。犠牲はありましたが。今もその方々には、祈りを捧げなければ。」

簡易な半合掌をするフェリクスを見て、テオが言った。

「話は逸れるかもしれへんけど、その『半合掌』もその戦争が生み出したっちゅう話はホンマか?」

フェリクスが答えた。

「そうですよ。いつでも敵に抵抗出来るように、利き手は使いません。そして、いつでも敵を発見できるように、瞳は閉じません。しかし、それではヤファリラ様はじめ、エデンに行かれた御霊に無礼と思い、全身からの祈りを、という事で、『星の半合掌』が提唱されました。」

「おおきに。せやけどやっぱり、話逸れたな。」

エルネストがそれに返した。

「確かにね。そして、旧制エテルステラには、もうひとつ、『悩み』があった。『狂科学者』の存在。」

ルシアがそれに続いた。

「うん。人体実験とか、ヤバイ薬とか作り放題だったらしいじゃん?規制しても規制しても、研究を止めなかったっていう話もあったらしい。」

ソラナは、「科学者」という単語にピクリとしたが、そんな中で仲間の話に耳を傾けた。そんな様子を気づかず、仲間の話は止まらない。エルネストがルシアに続いた。

「そうだったね。その『狂科学者』が『マトゥーレイン』の鍵なんだ。」

フェリクスがそれに関して言う。

「旧制エテルステラは、軍事力ではない物を欲したんでしたね。」

ルシアが続ける。

「そう、そして、国は、『狂科学者』に今までの事を水に流すから、軍事力とは違う戦争の為の力を作れって命じたのよね。」

ラモンがそれに反応。

「今まで鼻つまみ者だった『狂科学者』たちは、その命令で舞い上がったんでねぇがって俺は思っでる。」

エルネストは、それに返した。

「それは、そうだと思うよ。そんな『軍事力とは違う力』を作る国家計画の開始を記念して、エテルステラは改元した。『平和の』パックス・エラは790年で終わり、翌年から『進化の』エボルショニス・エラ、E.E.にね。」

テオが続く。

「それから、15年くらいやったっけ?『魔法』が完成したんは。」

ラモンがわずかに反論した。

「14年だ。1年くれぇしか違わねぇけんども。そのE.E.14年に、『侵略を撃退する魔法』を意味する『マジック・トゥー・レペル・インベイジョンズ』、略して『マトゥーレイン』が完成したんだ。」

フェリクスは、言った。

「そして、『狂科学者』たちは、その功績を評価されて、呼称を『魔法科学者』と改められましたよね。」

ソラナがそれに反応した、

「『魔法科学者』。」

祖父母の職業だった。ルシアは、それに返す。

「そ。それから4年だったよね?『六国同盟』がまたエテルステラに攻めて来たのは。」

エルネストはそれに続けた。

「そして、その対抗措置に踏み切った。E.E.19年に旧制エテルステラは、既に完成していた周辺諸国への爆破用の魔法石を行使して、『ルースレス・ディトネイション』を引き起こした。」

フェリクスが言う。

「無慈悲な爆破でした。旧制エテルステラには、被害が及ばないように、『傘』を広げ、また、周辺の国からは逃げられないように、これもまた『傘』を広げて、爆破したという話でしたよね。」

ラモンが続けた。

「焦土と化しちまっだ国土に生ぎ残った奴らも確実にいたんだけんども、周辺6国は、壊滅状態になっで崩壊した。」

エルネストがそれに続く。

「そして、その焦土と化した6国を、『復興』の名の下、時間をかけて併合していってE.E.36年に今の現行エテルステラが建国されたんだ。まあ、それに従いたくないって言った人々を、フィステリスに追いやったという事実もあるけどね。」

テオが言った。

「せやな。扱い悪いから、あいつら犯罪三昧なんやよな。まぁ、建国の件は、誰が言うたか知らんけど、『エテルステラの花が咲いた』っちゅう話もある。現行エテルステラは、いびつやけど、東西南北に花びら広げてる花のようやもんな。」


◆貴族聖職者商人農民と

ソラナは、言った。

「その後、なんだよね?『貴聖商農』が生まれたのは。それは、なんとなく知ってる。」

エルネストが他人事のようにそれに返した。

「旧制エテルステラの国民の純血が『貴族』を名乗り始めたらしい。」

フェリクスがそれに続く。

「国の信仰統一を図ろうと、『正騎士教会ウヌス』が成立する宗教改革がありました。国は、それを重視してくれて、『聖職者』は、ありがたいことに『貴族』に次ぐ階級として認められました。」

テオがそれに続く。

「その後やな、金稼ぐ『商人』が大事に思われたんは。まあ、国はもうそん時大事にしとった『聖職者』に気ぃ使ってその『下』っちゅう立場に『商人』を据えたんや。」

ラモンが締め括った。

「食うもん作る『農民』も『大事な立場』に据えだんだけんども、3つの階級がもうあっだがら、オマケみでぇな扱いを受けでんだな、『農民』は。」

ルシアがそれに付け加えた。

「それで、魔法に関わる仕事してるあたしみたいな人は、特別枠で見てくれてんだよね。ま、その代わり『あんな歴史』があるから、外国には一生行けないけどね。『技術流出』がこわいから。」

ラモンが再び口を開く。

「そんな『貴聖商農』が集まっだ『リアルトランプゲーム』をアニセト・デフォルジュはよぐ考げぇだな。」

テオがそれに反応。

「ここまででかい『ゲーム』にした腕には、商売人として舌巻いとる。」

フェリクスがそれに続く。

「しかし、このゲームは、国の別の意図も感じますよね。」

エルネストは締め括る。

「そうだね。国は、マトゥーレインを『戦い』に使う形に着目して、早い段階で『国技』にした。まあ、これは、『隠れた軍事行為』だよ。『いつでもマトゥーレインは、攻撃に使える』と。『ルースレス・ディトネイション』から200年以上経ったエテルステラだけど、新たな隣国に脅しをかけてるよね。」

ソラナは、それを聞いてこう返した。

「色々、こわい事もあるけど、みんなを集めて私はよかった。みんなと出会えてよかった。」

そして、笑顔でこう続けた。

「みんな、今日はありがとう。そして、心配して損した。みんな、仲良く私に歴史、教えてくれた。みんなが喧嘩してないかな?って心配してたから。」

スート4人は、思い出したようにお互いを見て気まずい表情を浮かべた。


◆原因

その瞬間だった。控室兼トレーニングルームに入ってくる2人の姿が。エルネストの両親だ。驚く一同の前で、ビアンカが言った。

「ソラナ・アルシェ、あなたは何ということを息子にしてくれたの?」

エンリケがそれに続く。

「エルネストの敗戦は、見逃せない。」

ソラナの表情が固くなる。そして、こう返した。

「す、すみません。」

エルネストは厳しい表情でこう言った。

「ソラナは、悪くないよ。悪いのは、負けた僕だよ。」

そして、エルネストは、両親を部屋の外に連れ出す。

「『父上』、『母上』、今日の敗戦の原因は、あなた方に求めようと思います。おかえりください。」

エルネストの視線は、鋭いもので、エルネストの両親は、そこから撤退する事を余儀なくされた。一方、エルネストは部屋に戻り、ソラナに再び声をかけた。

「両親が失礼した。気にすることはないからね、ソラナ。」

「う、うん。」

そのエルネストの言葉にソラナは表情を緩め、こう続けた。

「帰ろうか。寮に。」

そして、長く特別な1日は、終わりを告げた。


◆寮の朝

様々な事があったデビューの日の翌朝。ソラナは、目覚めた。

「おはよう、カエルちゃん。」

スマートアニマルに声をかけると、洗面スペースに行き、身なりを整えた。すると、後ろからルシアが。

「おはよう、ソラナ。」

「ルシア!おはよう!!」

「朝から元気だね。なんだかあたし昨日何もしてないのに疲れ取れないんだけど。」

「き、緊張した?」

「あたしに限ってそんな事はないっ!」

「ごめん、ルシアー。」

「いや、本当の所、そうなのかも。」

「もぉ、どっち?」

ソラナは笑った。そして、こう続けた。

「朝ごはん、作ってこよう。ルシアの分も作る?」

「いいって、レストランで済ますから。」

「じゃあ、私は共用キッチンに行って来るね。」

「いってらっしゃーい。」

ルシアは、ソラナを見送った後、あくびをし、再びベッドへ行ってしまった。一方、ソラナは共用キッチンに着く。そして、冷蔵庫を覗いた。

「今日、何食べよう?」

目についた野菜で、スープを作ることにした。シンクやコンロ等が30組ほどあるキッチンは、半分空いていた。適当に使う場所を決めて、スープ作りを始めるソラナ。

「スートのみんなにも、朝ごはん、作ってあげたいなぁ。」

そんな独り言を言いながら、手際よく野菜を切っていく。すると、隣のキッチンスペースに、朝食を作りに来た別デッキの女性が来た。ソラナは、思わず声をかけた。

「おはようございます。」

「あら、おはよう。」

「あ、あの、私ソラナ・アルシェです。」

「昨日の『勝者』ね。私は、『ルチルデッキ』のジョーカープラスのセシリア・フェレールよ。よろしくね。」

「はい。」

セシリアの右手首にも赤い星のバングルがソラナと同じように輝いていた。

「あの、セシリアさんのデッキは確か、4年目?ですか?」

「そうよ。ちょうど『ジョーカー』の仕様が変わった年に『ルーキーデッキ』だったのよ。」

セシリアは、微笑みながらこう続けた。

「懐かしい。こっちのスペードスートの『募集』に『応募』して6人でここの門戸を叩いたの、思い出したわ。」

ソラナは、「やっぱり自分がここに来た事は珍しいんだ。」と心の中で呟いた。そして、セシリアに独り言のようにこう返した。

「私も、この『ルーキーデッキ』だった頃が『懐かしい』って言う日が来るのかな?」

「来るわよ。」

その後も、ソラナはセシリアと談笑しながら料理を進め、完成した。ソラナは、片付けを含め先に出来た為、セシリアにこう声をかけた。

「今日は、セシリアさんと話せて楽しかったです。」

「そう、私もよ。お互いに、ゲーム頑張ろうね?」

「はい!」

ソラナは、作った朝食と運営が用意したパンをトレーに乗せ自室に朝食を持って行った。

「ただいま。」

「んー、おかえりー。」

ベッドの上のルシアが迎えてくれた。

「ルシア、また寝ちゃったの?」

「いいじゃん。おっ、いい匂い。お腹空いてきた。レストラン行ってくるわ。」

「うん、いってらっしゃい。」

ソラナは、ルシアを見送り、ヤファリラへの挨拶をした後、朝食を食べた。

一方、スートたち。「朝寝坊」する者は居なかったが、相変わらず305号室は、お互いへの朝の挨拶のあと、静寂に包まれる。無言のまま、洗面スペースで交代交代身なりを整える。そして、めいめい特に言葉を交わさずに部屋を出ていく。

ここは、レストラン。テオが先に2人席のテーブルの席についていた。そこに、エルネストが。

「ご一緒していいかい?」

テオは、わずかな間を空けた後、こう返す。

「ええよ。」

「やっぱり他の2人の姿はないね。キッチンの方かな?」

「そうやろ、どう考えても。」

「僕らは、食事を『作る』2人と、『作らない』2人なのかな?」

「『貴族』のお前さんと一緒にせぇへんでくれへんかな?俺も一応『作れる』で。せやけど、『あえて』こういう所で食事するんや。『金が回る』からな。」

「なるほど、それも一理ある。僕だけか、『やれない』のは。」

「お前さんは、そのままでええ。『貴族』が料理とかきしょい。」

「そ、そうかい。」

そこで、注文したものが運ばれてきた。2人は、ヤファリラへの挨拶をした後、無言で朝食を食べた。

同じ頃の共用キッチン。ここには、シンクやコンロ等が50組ある。そこで、フェリクスとラモンは顔を合わせた。フェリクスが声をかける。

「やはり、『農民』の皆さんは、料理を作られるんですか?」

「一緒くたにしねぇでもらいてぇけんども、俺は『作る方』だ。おめも、『作る方』だっだのが?」

「他の導師のも含めて交代で食事は作ります。『修行』の一環ですよ。」

「そうけ。」

それ以降、2人は無言で食事を作り、部屋へと持っていく。そして、ヤファリラへの挨拶をした後、朝食を食べた。


◆トレーニング

朝食の後片付けを終え、一旦部屋に戻ったソラナ。散歩でもしようかと思っていたその時、立て続けに4通のメールがスマートアニマルのアマガエルに届いた。別々の人々からの物だったが、その内容は同じでソラナは笑った。

「行くよ。みんな。」

そのメールにそれぞれ返信するソラナ。

「トレーニングルームで待ってるね。」

返信のメールを送り終わると、ルシアが帰ってきた。出掛けようとするソラナと鉢合わせする。

「わぁっ!ルシア、ごめん。」

「いいって。何?出掛けんの?」

「うん、トレーニングルームに行くんだ。」

「今日、対戦無いでしょ?」

「『みんな』がトレーニングついでに私に会いたいんだって。」

「へー。」

「ルシアも、行く?」

「あたしだけ留守番も変だから、行くか。」

「うん!」

そして、サクセスコロシアム内のトレーニングルームにアニュラスデッキは集合した。ソラナは、挨拶そこそこにこう言った。

「みんなからのメール、嬉しかったけど、みんなが集まるなら、メール送るの、誰か1人でよかったんだよ?」

スート4人のなんとも言えない表情がソラナの目に映る。ルシアは、そんなソラナとスート4人を交互に見て、笑った。

「あんたら、『個別に』ソラナに会おうとして集まっちゃったって感じ?」

それを聞いたエルネストは、

「そうだよ。」

フェリクスは、

「間違いありません。」

テオは、

「そや。」

ラモンは、

「んだ。」

と同時に返した。ルシアは更に大きく笑った。

「もうあんたら仲良くなっちゃったんだ。つまんない。もっとギスギスしててよ。」

ソラナはそれを聞いて、

「え?よくわからない。頭が混乱してきた。」

と、呟いた。ルシアは、急に真面目くさった雰囲気でそれに返した。

「うん、ソラナはそれでいい。ほーら!あんたら、トレーニングするならさっさとやりなよ!!」

テオが頭をかきながらこう言った。

「せやな。」

エルネストがわずかに苦笑いしながらこう言った。

「そうだね。」

ラモンは目を泳がせながらこう言った。

「んだなぃ。」

フェリクスが伏し目がちにこう言った。

「承知しました。」

今度は、ソラナがルシアとスート4人を交互に見て戸惑ったが、すぐに気持ちを切り替え、こう言った。

「みんな、頑張って!」

その声を背に、4人はトレーニングに向かう。トレーニングルームには、魔法に依らない武器が3種類置いてある。その内訳は、剣、銃、木の棒。

何の変哲もない金属の剣をエルネストは手に取った。

「重い剣だね。かえっていい。」

誤って人に当たっても怪我をしないスポンジで出来た弾丸が込められている銃をテオは手に取った。

「これで、ぎょうさん練習して一発でも多く敵に弾当てなあかん。」

長さの違う数本の木の棒の中で中くらいの長さの棒をラモンは手に取る。

「これでよがんべぇ。」

一方、フェリクスは目線を下に集中した様子で佇んだ。

「私は、イメージトレーニングですね。」

フェリクスは、はじめに昨日の対戦を思い出し、同スートとの戦いをどうしたらいいかをイメージする。それに納得すると、今度は「仲間」のトレーニング風景を見て、違うスートとの戦いをイメージする。「ミックススタイル」への備えだ。

「なかなか、難しいですね。まだリング上で見ていないサーバント・フェアリーも沢山ありますから。」

ラモンは、はじめ適当に木の棒を振り回していたが、こう呟く。

「今は、何でもねぇ棒だけんちょも、実際の武器っちゃ熱いんだよなぁ。短い時間で相手さ倒すには、どうしたらよがんべ。」

テオは、はじめ銃を立った形で的に撃ち込んでいたが、ふと動きを止める。

「いざ戦いが始まると、こっちもあっちも動かへんでやっとる訳やないねん。追っかけんのに俺も動くし、逃げんのにあっちも動くし、サーバント・フェアリーがおることもあるし、ほんまえらい難しいな。」

エルネストは、剣を振り続けながらこう言った。

「今の形では、昨日感じたあの風への対応までトレーニング出来ない。剣をがむしゃらに振るうより、僕自身の体を鍛えた方がいいのかな?」

そんな様子をソラナは見ていたが、しばらくするとルシアにこう告げてトレーニングルームを出ていった。

「ちょっと、飲み物買ってくるね?」

ソラナは、サクセスコロシアム内にある自動販売機の前に立った。そして、お目当ての商品をディスプレイにて選択し、数量6と入力。すると、機械からこう要求される。

「お支払のため、虹彩認証します。」

センサーがソラナの目を探し、柔らかい光で照らす。

「認証しました。購入、ありがとうございました。」

缶の飲み物が6本出てくる。それをソラナは抱えトレーニングルームへと戻っていった。

「みんな、ちょっと休憩しない?」

「何?あたしにも買ってきてくれたの?」

「うん、ルシアも飲んで!」

スポーツドリンクが、ソラナからルシアやスートたちに渡された。

「みんなの口に合うかどうかわからないけど。」

特に、ソラナはエルネストを見つつこう言った。当のエルネストは、柔らかい表情で返した。

「君の僕への配慮が詰まったドリンクだ。大丈夫だよ。」

それに他の3人も続いた。フェリクスは微笑みつつ返す。

「ソラナの施しに異を唱えたら、罰が当たりますよ。」

テオは底無しの笑顔でこう返した。

「おおきに!俺は何でも飲めるでぇ!!」

ラモンは白い歯を見せつつ返した。

「文句言うわげねぇべぇ。こういうの、助かるど。」

6人は、座って輪になり、スポーツドリンクを飲みはじめた。ソラナは、一口飲むとこう言った。

「トレーニングルームが開いてる時は、こうやって集まろうよ。なんだか楽しい。みんなといると。」

ルシアが冗談とわかる口調でそれに反応する。

「えー?やだ。」

「嘘ー?ルシア!」

「冗談!ってわかるでしょ?ソラナ。」

「ルシアー。」

ソラナは、ルシアにじゃれつく。その様子をスート4人は笑顔で見る。そして、定期的な「集まり」は実行される事が決まった。


◆実況

それからと言うものの、アニュラスデッキは、トレーニングルームで数日おきに集まり、トレーニングを重ねていった。そして、初戦から2週間後の1月29日にアニュラスデッキの2戦目が組まれた。

当日、ラウラは、スマートアニマルにて生中継を始めから観始めた。

「ソラナ、今日も応援するからね。」

そんな生中継は、いつもの通り男性アナウンサーのこんな一言で始まる。

「全国の皆さん、こんにちは。『リアルトランプゲーム』の時間です。本日のラインナップをご紹介します。本日は『ミックススタイル』での対戦が組まれております。」

ラウラはそれに反応する。

「『ミックススタイル』かー。初めての形ね。大丈夫?アニュラスデッキ。」

そんなラウラの独り言の最中も、生中継のアナウンスは止まらない。そんな中で対戦カードが紹介されはじめる。

「第2戦は、ソリスデッキとアニュラスデッキの対戦です。ルーキーデッキであるアニュラスデッキの『ミックススタイル』での初戦になります。」

それから、最終第3戦目までの紹介が終わる。

「本日の解説には、3年前に殿堂入りを果たしましたボヌムデッキのダイヤスートでしたカリスト・サニエさんと、4年前に殿堂入りを果たしましたクレメンティアデッキのセカンドジョーカーでしたノエリア・リヴィエさんのお二人をお迎えしてお送りいたします。実況は私、フィデル・ジラールです。よろしくお願いします。」

解説の2人も、「よろしくお願いします。」と声を揃えて言った。フィデルははじめにこう言った。

「ゲームマスターの挨拶まで時間があります。リヴィエさん、ジョーカーの仕様が変更になってから4年目になりますが、セカンドジョーカーであった立場からここまでの事を振り返ってこの変更の事をどう見ていますか?」

ノエリアは、答える。

「私が殿堂入りをした次のシーズンから変更になりましたね。私の立場の『後継』になったジョーカーマイナスは、画期的な物だと思います。」

「と、言いますと?」

「実の所、私が現役の頃のファーストジョーカーには『不具合』はあまり無く、それによってセカンドジョーカーの私は出番がほとんどありませんでした。デッキにいても、何か疎外感を感じていたのも事実です。」

「なるほど。」

「ジョーカーマイナスには、明確に『浄化』という『役目』が任せられました。より、デッキに貢献していると実感出来るのではないでしょうか?ただ、ジョーカープラスの性格によっては、運営側の定義する『穢れ』という物が訪れず、私のような疎外感を抱くジョーカーマイナスも出ているのでは?という懸念もあります。」

「そうですか。そこを、どう乗り切るか、という課題もある見方なんですね?」

「はい。」

「ちょうど、ゲームマスターの挨拶が始まりました。ご覧ください。」

そして、アニセトが挨拶をする。

「観客席の皆様、そして、生中継をご覧になっている方、当ゲームをお引き立ていただきまして、ありがとうございます。ゲームマスター、アニセト・デフォルジュです。本日のリアルトランプゲームは、『ミックススタイル』です。ごゆるりとお楽しみください。」

フィデルは、それを受け、話を続ける。

「まもなく、本日の第1戦が始まります。」

そして、時は過ぎ、アニュラスデッキの戦いの時間となる。


◆続々と出る結果

「本日の第2戦、アニュラスデッキのミックススタイルのデビュー戦がまもなく始まります。前回の成績ですが、3勝1敗で勝利を収めました。各スートのスートレベルは、スペードスートがエース、ハート、ダイヤ、クラブの各スートが2となっています。」

フィデルがそう紹介した。そして、こう続ける。

「サニエさんにお訊きします。前回の対戦の様子から見て、今回のアニュラスデッキの戦いは、どうなると予想されますか?」

カリストは、答え始める。

「前回のスペードスート同士の戦いでは、急な情勢変化はありましたが、スート全員の戦いで言ったらデビュー戦にしては上々の戦いでした。その勢いそのままで行けば、3勝1敗の勝利か、2勝2敗の引き分け程度の成績を収められるとは思います。」

「勢い、大事ですね。」

「ただ、前回は相手デッキはルーキーに近いデッキでしたが、今回は、6年目とゲームに慣れつつあるデッキですし、身分の違う相手、という事なので各スートが感情をコントロール出来るかが勝利の鍵になると思います。個人的な見方では、今回はスペードスートは勝つのでは?と、見ています。」

「相手はクラブスート、農民ですからね。」

フィデルがそう言うと、アニュラスデッキとソリスデッキが入場してくる。フィデルは続ける。

「本日の第2戦、始まります。」

その後のフィデルの実況は、こんな物だった。

エルネストに対してはこんな言葉で締め括る。

「アニュラスデッキのスペードスート、エルネスト・イベール、見事クラブスートを撃破し初勝利を収めました!スートレベルは2に上がります!!」

フェリクスに対してはこんな言葉で締め括る。

「アニュラスデッキのハートスート、フェリクス・ジュアン、残念ながらスペードスートを倒すことが出来ませんでした。スートレベルはエースに下がります。」

テオに対してはこんな言葉で締め括る。

「アニュラスデッキのダイヤスート、テオ・ベルジェ、ハートスートに力を奪われ尽くし苦しい1敗です。スートレベルはエースに下がります。」

ラモンに対してはこんな言葉で締め括る。

「アニュラスデッキのクラブスート、ラモン・ジスカール、ダイヤスートに完膚なきまでに叩き潰されました。スートレベルはエースに下がります。」

そして、アニュラスデッキに対してはこんな言葉で締め括った。

「1勝3敗の成績で、アニュラスデッキ、初の敗北となります。」


◆敗北の後

アニュラスデッキは、控室に戻ってきた。スートたちは状態回復をする。それが終わると、ソラナはスートに声をかけた。

「エルネスト、初めて勝ったね。おめでとう。で、でも、アニュラスデッキ、負けちゃったね。」

それに、言葉を返せるスートはいなかった。ソラナは、言葉を続けた。

「わ、私の、力が足りなかったのかも。ごめん、ごめんなさい。フェリクス、テオ、ラモン。」

ソラナの涙が流れ始める。

「や、やだ。私、泣く資格なんかないのに。」

ルシアがそれに返す。

「本当だよ。でも、泣いちゃったんだったら仕方ない。」

その言葉にソラナはたまらなくなり、ルシアに抱きつきながら本格的に泣き始める。ルシアは、多少の驚きの表情を浮かべながら、ソラナを素直に受け入れた。スートたちは押し黙る。しかし、その表情は、驚きの物と変わった。ルシアは、それに気づく。

「ん?あんたたち、何?」

スートたちが一斉にソラナの右手首を差す。

「何?何?ソラナ、あんた何かあった?」

ルシアは、ソラナを一旦引き剥がす。そして、その右手首のバングルをソラナ本人と見た。すると、いつも赤かった星が真っ黒に染まっていた。

「え?これ、『穢れた』ってこと?」

ルシアは涙が未だに止まらないソラナの目の前でため息をつく。

「あたし、ここで『仕事』する気、全くなかったんだけど?」

ルシアは、自らのバングルをソラナのバングルに近づける。すると、ソラナの星は、赤い物に戻り、代わりにルシアのバングルにある白かった星が真っ黒に染まる。

「き、気持ちが、楽になった。」

涙が止まったソラナが呟く中、ルシアの中に、今までソラナが抱えていた感情が流れてくる。そして、ルシアは呻くようにこう言った。

「ソラナ、あ、あんた、自分、憎んでんじゃないよ。」

自分の感情ではない物にルシアは涙を流し始める。

「負けた、3人が悪いんじゃん。『無力な自分』なんて思っちゃって。ああ、どこまで『いい子』なんだか。」

嗚咽の合間に絞り出すようにルシアは言う。ソラナは、慌てたように返した。

「ルシア、ご、ごめん。」

すると、ルシアの「浄化」が終わり、ルシアも涙が止まる。バングルの星が再び白になった事を確認すると、ルシアは言った。

「あー、もう、二度と『仕事』したくないっ!ソラナ、覚えてなさい!!」

「う、うん。が、頑張る。」

ようやくスートたちも声をかけはじめた。

テオが先陣を切った。

「すまんな、ソラナ、と、ルシア。」

フェリクスがそれに続く。

「次は、負けないようにします。許していただけますか?」

それに返してソラナは頷き、ルシアはふいっと目を反らした。それを見届けた後、ラモンが続いた。

「おめらに、負担さかけだ。すまねぇ。」

残るエルネストは、それを静かに見つめていた。

一同は、コロシアムを後にし、寮へと戻った。戻るなり、ソラナのアマガエルがこう言う。

「ラウラ・エストレから通話。」

ソラナはすぐに通話を繋げた。

「通話、クローズサウンドで繋げて。ソラナだよ。」

「ソラナ、まずは2戦目、お疲れ様。負けちゃったわね。大丈夫かな?って思って連絡したんだけど。」

「『大丈夫』じゃなかった。ルシアに迷惑かけちゃった。」

「えー?」

「悔しくて、泣いちゃって、ルシアに『浄化』してもらっちゃった。」

「あらら。ルシアちゃん、近くにいる?」

「うん。」

「話、出来るかしら?」

「ちょっと待って。」

ソラナは、ルシアに声をかける。

「ルシア、お母さんがルシアと話したいって。」

「え?まぁ、いいけど。」

ソラナは、アマガエルにこう指示した。

「通話、オープンサウンドに切り替えて。」

そして、ルシアが話し始めた。

「えっと、ソラナのお母さん?ルシアです。」

「ルシアちゃん?今日は『娘』がごめんなさいね。大変だったでしょ?」

「あー、いいえ、その、『仕事』、ですから。」

「色々また、迷惑かけるかも知れないけれど、よろしくね?ソラナのこと。」

「はい。」

「うん。ソラナ?あんまり仲間に迷惑かけちゃ駄目よ。じゃあ、これからも頑張んなさいよ。」

「わかった。ありがとう、お母さん。」

そして、通話は切れた。ソラナは、ルシアに頭を下げ、こう言った。

「改めて、ルシア、今日は、ごめん。」

「まぁ、あんたのお母さんの顔に免じてこれからも『迷惑』かけられますか。」

ソラナはそれを受け、こう言った。

「ありがとう!」


◆とある決意

一方、スート寮に戻った4人は、再び沈黙の時を過ごす。その中で、エルネストが何かを思案している表情を浮かべていた。そして、他の3人が寝静まった頃、1人エルネストは呟いた。

「聞き入れてくれればいいけど。」

翌朝、「いつもの光景」がスート寮の305号室に流れるが、朝の一連の流れが終わった頃、エルネストは他の3人に、声をかけた。

「少し、話、いいかな?みんな。」

3人は、頷く事でそれを受け入れる。すると、エルネストは自らのスマートアニマルのノスリにこう指示。

「通話モード。」

「エルネスト?ソラナだよ?」

「ソラナ、近くにルシアはいるかい?」

「うん。」

「オープンサウンドかい?」

「そうだよ。」

「今から、話があるんだ。いいかい?」

「あたしも聞いてるよー。」

「私も、大丈夫。」

それを受け、エルネストは本題を単刀直入に話した。

「こんな事は、あまり例がないから、運営もやってくれるかわからないけど、僕のスートレベルを下げたい。エースに戻したい。」

通話の音声からは、ソラナとルシアの「えっ!」という言葉が大きく響く。そして、スート寮の305号室もそれは同様だった。エルネストは言葉を続ける。

「初戦でも負けて、昨日は勝ってしまった僕が一番悪いんだけど、なんだか、孤独を感じてしまってね。僕のレベルだけが違うことにさ。」

ラモンがそれに反応。

「おめ、そんな事。昨日おめに負げだ相手の気持ちさ考げぇてんのが?」

「後で非難される覚悟は出来てる。『同じ』クラブスートの君がそう言う反応なら、『そう』なる可能性が高いって事だね。改めて覚悟を決めるよ。」

フェリクスが言った。

「一時的な感情に振り回されていませんか?」

「確かに、そうかも知れないね。けれど、無性にそうしたくなった。」

テオが言う。

「お前さんが、そうしたいっちゅうなら、そうしたらよろし。『責任』をすべて持つ覚悟はあるようやからな。」

「ありがとう。勿論、君らに『責任』を持ってもらうつもりは一切ないよ。」

通話のルシアがこう言った。

「なんだか、おおごとみたいに言ってるけど、別にあたしは止めないよ。ご自由に。」

「助かるよ。その尊重の気持ち、嬉しいよ。」

通話のソラナが言う。

「エルネストに何かあったら、私、何も出来ないかも。それでもいいの?」

「大丈夫、ソラナ。ソラナ、正直な気持ちを言うよ。君の集めたルシアとスートの皆と『真の仲間』になりたくなったんだ。だから、ある程度の事は受けて立つよ。」

ソラナは、少し間を空け、こう返す。

「わかったよ、エルネスト。エースからやり直し、だね。」

「うん。話を聞いてくれてありがとう。ソラナ、ルシア、そして、スートの皆。」

そして、ノスリの通話は切れた。その後、エルネストは運営の窓口に連絡した。

その前列のない申し出は、アニセトの元に届く。アニセトは、二つ返事でこう言った。

「許可しよう。ちょうどエースにする、という事だから『レベルリセット』で事足りるだろう。」

その『許可』の報は、程なくしてエルネストの元に届く。

「ありがとうございます。」

そして、「レベルリセット」にエルネストは向かった。305号室に残された3人は、呟くように自らの思いを交換した。

フェリクスはこう呟く。

「私には、出来ない事かもしれません。導師ランクを1下げるような覚悟。ランクブルーに戻るなんて。」

テオはこう呟く。

「『覚悟』、『責任』か。貴族の『それ』と俺の『それ』はちゃうんやろうな。」

ラモンは呟く。

「貴族様の考げぇる事は違げぇなぁ。」

一方、エルネストは、アニセトとの面会を果たしていた。アニセトはこう声をかけた。

「突然の申し出に驚いていますよ。本当にいいんですか?エルネスト・イベール?」

「はい、お願いします。」

「わかりました。」

アニセトは、男性スタッフに目配せした。スタッフは、「レベルリセット」をエルネストに実行。アニセトは、宣言した。

「アニュラスデッキのスペードスート、スートレベル、エース。」

「ありがとうございました。」

そうして、エルネストはアニセトの元から立ち去った。寮に戻る途中、再びソラナに通話をする。

「ソラナ、今エースに戻ったよ。」

「エルネスト、これから、頑張ろうね。」

エルネストの微笑みが溢れた。程なくして、スート寮の305号室の3人は、スートレベルエースのスペードスートを受け入れる。

「おかえりなさい、お疲れ様でした。」

「ようやってきたな。」

「がんばっぺな。みんなで。」


◆対照的な305号室

翌日、ジョーカー寮の305号室にて朝食を摂りながら、ソラナはテレビを見ていた。テレビの女性アナウンサーは、こう言った。

「次は、スポーツです。リアルトランプゲームに、珍しい事があったそうですね?」

そのコーナー担当の男性アナウンサーがそれに返した。

「はい。ルーキーデッキであるアニュラスデッキに動きがありました。スペードスートのエルネスト・イベールが自身の申し出により、スートレベルを2からエースに下げました。」

「本当に珍しいですね?」

「はい、リアルトランプゲーム、始まって以来の事ではないかと思われます。」

ソラナは呟く。

「エルネスト。」

昨日、顔を全く見ないで「その事」を後押しした。

「エルネスト、会いたい。スートのみんなに会いたい。」

いてもたってもいられず、ソラナはルシアにこう言った。

「ねぇ、今から全員で集まらない?」

「え?やだ。」

「駄目?」

「面倒。」

「ルシア。」

「って言うか、明日じゃん?みんなで集まる予定の日さ。明日でいいじゃん。」

「そ、そうだね。うん、明日にする。」

ソラナは、一旦自分の気持ちを落ち着かせた。しかし、高ぶる気持ちが抑えきれず、何かしなければと、部屋を出ていった。

「でも、何ができる?」

すると、共用キッチンの前を通る。

「何か、明日持って行ける物、作ろうかな?」

そこにある材料を見て、思いつく。

「クッキー。」

しかし、そこにはトースターしかない。少し難しくなりそうだったが、チャレンジした。

「みんなの分、作ろう。」

そこからソラナは、自分の分も含めて6人分のクッキーを作り始める。明日、渡せるように。やがて、ソラナはこう言う。

「出来た。」

ひとつ味見をした。

「ど、どうなんだろう?」

自信が持てなかった事から、後片付けが終わった足で部屋に戻るなりソラナはルシアにこう言った。

「これ、ひとつ食べてみて?」

「んー?」

ルシアは口にしてくれた。

「うまっ。」

「よかった!」

「何?」

「これ、明日スートの。」

ソラナの言葉の途中でルシアは返した。

「毒味、か。」

「ち、違うよ!ルシアの分もあるんだけど、自信なかったから、一足先に、ね?」

「あ、そ。」

「ありがとう。明日、『本当の』ルシアの分は、渡すね?」

「お待ちしてまーす。」

一方、スート寮の方では、一触即発の事態が起こっていた。305号室にソリスデッキのスペードスート、テルセロ・オラールと、クラブスート、パウリノ・カンテが乗り込んで来たのだ。

テルセロが先陣を切った。

「エルネスト・イベール、君は、我がデッキのクラブスートに恥をかかせたかったのか?」

エルネストは、それに返した。

「そんな意図はないよ。」

「ふん、下級貴族風情が。」

更に、パウリノが食ってかかる。

「おめぇ、あの戦いを何だど思っでんだ!!」

「怒りの気持ちは、わかるよ。」

「ふざけてんでねぇ!!」

パウリノの拳が握られる。それを認めたエルネストは、こう言った。

「僕には、殴られる資格がある。いいよ。」

その間に入る影が。ラモンだ。

「落ち着げ。おめ、『ゲーム』以外で人殴っだら、駄目だっぺ。しかも、相手は貴族だど?ただじゃ済まねぇべぇ。」

そのラモンの言葉に、テルセロが反応した。

「そこの下級貴族の訴えなど、上級貴族の私が握り潰してやる。」

ラモンは、それに答えた。

「そうけ。俺にはわがんねぇ話だな。」

エルネストがラモンの肩を叩き、こう言った。

「同じ農民として、僕の前に立ってくれてありがとう。危ないから、下がって。」

「いいのけ?」

エルネストは頷いた。そして、話し始めた。

「少し、歪なような気がするけど、君らのような『仲間』に僕のデッキのみんなとなりたくてね。僕だけスートレベルが違うことに猛烈なさびしさを感じた。だからスートレベルを下げた。」

パウリノがそれに返す。

「そんな理由でぇ?」

「そうだよ。」

テルセロが続く。

「随分、感傷的なんだな。」

「恥ずかしいけれどね。」

その言葉を聞き、ソリスデッキの2人はこう言いながら退出して行った。

「ひ弱な貴族だな。つまらん、撤退するぞ。」

「今度当たっだ時は、覚えでろ。アニュラスデッキ。」

それを見届けると、エルネストは言った。

「ごめん、迷惑かけて。」

フェリクスがエルネストにこう声をかけた。

「私は、気にしません。よく、立ち向かいましたね。」

「ありがとう。」

一方、テオはラモンに声をかけた。

「俺も加勢したかったんやけど、農民の喧嘩も、貴族の喧嘩もわからへんから、お前さんに任せてもうた。」

「いいべぇ。おめが出だら、かえって角立っだかもしんねぇべし。」


◆出来つつある輪

翌日、予定どおりにアニュラスデッキはトレーニングルームに集まった。エルネストがソラナとルシアに昨日の事を報告する。

「昨日で、僕の『レベルリセット』に対する問題は、終わったよ。」

「あ、そ。お疲れー。」

「そうだったんだ。大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。」

それにテオが付け加える。

「『相手さん』が乗り込んで来よったけどな。」

ソラナは、テオとエルネストの顔を交互に見て、こう声を上げた。

「えっ!そんな、大変だったね。」

その反応に、フェリクスが声をかける。

「しかし、乱暴な事をされたわけではありませんし、『助け』も入りましたしね。」

フェリクスの視線は、ラモンに注がれる。その様子を見て、ソラナは「助け」に入ったスートがわかる。

「ラモン?」

「俺の事は、いいべぇ。まぁ、間に入った事は入ったけんちょも。」

「よかった。でも、やっぱり私、何も出来なかったな。」

それにルシアが反応した。

「別に、ソラナが気に病む事じゃないよ。元々は、貴族さんが突っ走った事から始まった事だし。」

「そ、そうかな?」

エルネストが少し笑いながらこう言った。

「それは、間違いないよ。ありがとう、2人共。」

ひととおり話が終わった事からソラナは話題を変えた。

「そうだ。昨日ね?私、クッキー焼いたの。みんなで食べて?」

6袋に分けられたクッキーがソラナの手からスート4人や、ルシア、ソラナ自身の手元に届く。5人は、口々に礼の言葉をソラナにかける。ルシアがこう言った。

「昨日、『毒味』したんだけど、これ、最高だから。」

「ルシアー、『毒味』ってー。」

ソラナは、苦笑いする。それを4人は微笑みながら見守りつつそれぞれ1個頬張った。フェリクスが言った。

「これは、私も作ってみたいですね。いつかメリディサームに戻った時、導師たちに同じ味を披露したいです。」

「後で作り方、メールするね?」

「是非。」

ラモンはこう言った。

「いい粉使っでんな。これ見分けだソラナはいい目、してるど。」

「え?ラモン、粉の事までわかるんだ!流石農家だね!!」

「そうけ?」

テオは言った。

「これ、売っとるもんよりうまいわ。どや?売ってみいひん?」

「いいかも!時間があったらやってみる!!」

「そん時は、俺も手伝うで。」

エルネストもこう言った。

「貴族のお茶会でも、こんな味のクッキーはなかなかお目にかかれないよ。いつか、僕がお茶会を主催する時に出してやりたいね。」

「本当に?ありがとう!その時は絶対やるよ!!」

「その時は、よろしくね。」

それからしばらくゆっくりした後、スートの4人は、トレーニングを始める。

更にしばらくした後、フェリクスがこんな事を言った。

「すみません、テオ?」

「な、なんや?びっくりしたわ。急に名前呼ぶから。」

「初めてかもしれませんね。驚かせてしまいました。あの、私と模擬戦闘、していただけないでしょうか?」

「おお、ええで?その、フェリクス。」

その様子をラモンは見ていたが、エルネストに声をかけられた。

「2人の真似をしてみようか?ラモン?」

「俺ど?」

「嫌かい?」

「わがっだ。いいべぇ。よろしぐな、エルネスト。」

2組の模擬戦闘が始まる。その様子を、ソラナとルシアは見て顔を見合せた。ソラナは笑顔を見せ、ルシアは何度も頷くようにして頭を振った。


◆再びの

それから1週間後、アニュラスデッキは再びミックススタイルでの対戦が組まれた。3戦目の相手は、「アルバスデッキ」、5年目のデッキだった。2月7日の3戦目にアニュラスデッキは登場する。

場内アナウンスが間もなくアニュラスデッキの入場を知らせるという時だった。ソラナがこう言った。

「今日は、みんなで勝った姿、見たい。頑張って!!」

エルネストは、こう返した。

「わかったよ。応援、ありがとう。」

フェリクスは、こう返した。

「承知しました。全力を尽くします。」

テオは、こう返した。

「それはもう、絶対にやってみせるで!!」

ラモンは、こう返した。

「俺、今日は負げね。何がなんでも勝づ。」

ソラナが笑顔で頷いた後、ルシアが言った。

「いやー、そうなったら壮観だろうね。楽しみにしてる。」

ルシアの言葉が終わった直後、場内アナウンスがこう言った。

「デッキ、入場。」

それを合図に、ソラナが声を上げる。

「行こう!みんな!!」

そして、アニュラスデッキは競技場へと向かった。

向かった先には2つのリングにスペードとダイヤ、もう2つのリングにハートとクラブが現れている光景が待っていた。


◆スペードの怒り

エルネストの相手は、スートレベル3のダイヤスートだった。エルネストは、こう呟く。

「レベル差は、2か。」

自嘲の笑みを浮かべる。それを相手は見てこう言った。

「何が可笑しいんや?」

「すまない。君の事で笑ってるんじゃない。僕の問題だ。」

相手は、不快な表情を浮かべながら、こう言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

「そのコインに当たるわけにはいかないね。」

そうして、エルネストはこう唱えた。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。リブラ。」

天秤を持った妖精が出現。それに相手は反応した。

「よりにもよって、リブラかい!!しゃあない。」

そして、相手は唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!タウルス!!」

「等分されるダメージを、より多くする作戦かい。なら、最初に出すべきだったこれを出さなきゃね。」

そう言ってエルネストは武器も取る。

「武器を我が手に、スペードソード。」

相手のタウルスが、エルネストに向かって来る。エルネストは、風の剣でそれに抵抗。更に相手はコインの銃を乱射する。しかし、エルネストと相手は全く傷つく事はない。ダメージが光となり、リブラの持っている天秤に寸分違わず等分され、保管されて行く。相手はこう言う。

「流石、成金のテオ・ベルジェの仲間となった貴族様の戦い方は、違うなぁ!狡猾や!!」

「成金?君の言っている事は、理解出来ないね。」

エルネストは、不随意に険しい表情になった。そして、こう言った。

「悪いけど、こうさせてもらうよ。ウィンド・スプリット!」

「それ、早いなぁ!なら、こっちもこうさせてもらうでぇ!グラビティ・ドロップ!!」

勿論、エルネストの風の切り裂きや、相手の重力操作のダメージも、天秤へと保管される。一方、相手のタウルスは、エルネストの風の切り裂きによって消滅。エルネストは、呟いた。

「レベル差で、負けてしまうかもしれない。けど、ソラナからの力を信じる!」

エルネストのリブラは、天秤の2つの皿のみを残し、消滅。その皿は1つずつエルネストと相手に近づき、強い光で2人を包んだ。今までお互いが受ける筈だったダメージが等分され、一気に2人に襲いかかる。2人は悲鳴を上げるが、その中でエルネストは叫んだ。

「絶対に、膝をつかない!勝つために!!」

一方、相手は崩れ落ちた。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのスペードスート、エルネスト・イベール。」

エルネストの呟きが響く。

「少し、いや、かなり感情的になってしまったかな?」

ソラナは、そんな光景を見て言った。

「エルネスト、2連勝だ!やった!!」


◆ハートの怒り

フェリクスの相手は、スートレベル2のクラブスートだった。フェリクスは、微笑みながらこう言った。

「お手柔らかにお願いしますよ。」

「なんだって『聖職者』っちゃどいつもこいつも冷てぇ印象なんだっぺねぇ?」

「私は、あなたに冷たくしているつもりはありませんよ?」

相手は、苛立った様子でこう唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚!サジタリウス!!」

早速矢がフェリクスに向かって飛んでくる。フェリクスはそれを避けるため、リングを駆け巡った。更に相手はこう言った。

「武器を我が手に!クラブカドル!!」

相手は、こう叫びながら、炎の棍棒を振り回し、フェリクスに向かって来る。

「おめ、逃げるだけが?」

「あなたに対して、どのような態度を取っていいかわかりません。『冷たい』と言われてしまったら、何も出来ませんよ。」

「慈悲深けぇって事が。気に入らね!」

感情的になった相手は、フェリクスを棍棒で殴る。フェリクスは、火傷からの痛みに短く悲鳴をあげる。

「くっ。」

「攻撃してこぉ!」

「決まったら、に、しますよ。」

「全ぐ、優しいっつーか、なんつーか、ラモン・ジスカールみてぇだなぁ!」

フェリクスは、首を傾げる。相手は言葉を続ける。

「フィステリスの奴らに、食いもん恵んでるつもりだろうけんど、あれは、フィステリスの奴らに力さ与えで犯罪増やしでるだけだ!」

「そうだったんですか。」

フェリクスは、なぜかはらわたが煮えくりかえるような感覚を抱く。

「すみません、その言葉は、受け入れられません。」

そう言うと、続けざまにこう唱えた。

「武器を我が手に、ハートグレイル。慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。スコーピオ。」

フェリクスは聖杯を手にし、その目の前には、サソリの妖精が出現。

「スコーピオ、お行きなさい。ウォーター・スチール。」

スコーピオは、相手にしっぽを刺し、毒を流し込む。相手が悲鳴を上げている最中に、水の龍も相手の所にたどり着く。そして、相手にまとわりつき、力を奪っていく。その証拠に、相手のサジタリウスが消滅。フェリクスは、相手をまっすぐ見てこう言った。

「申し訳ありません。このような仕打ちをして。そして、申し訳ありません、ソラナ。このような事にあなたの力を使ってしまって。」

それに返して相手は苦しみ紛れにこう叫んだ。

「ファイアー・ストライク!!」

しかし、その炎は、水の龍に阻まれフェリクスには届かず、そのうち、相手は力尽きた。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのハートスート、フェリクス・ジュアン。」

フェリクスは伏し目がちに言った。

「お許しください、ヤファリラ様。」

ソラナはそれを見て言った。

「勝ったね!フェリクス!!」


◆ダイヤの怒り

テオの相手は、スートレベル2のスペードスートだった。テオは、頭をかきながら言った。

「なんや俺、上の身分の奴としか当たってないような気ぃすんな。」

「何をごちゃごちゃ言っている?」

相手は眉間に皺を寄せながらこう言い、言葉を続けた。

「武器を我が手に、スペードソード。」

「いきなり、武器を出さんでくれへんかな?こわぁてしゃあないわぁ。」

「商人は、小心者なのか?」

「随分、きついこと言いまんなぁ。ま、そうかもしれへんな。」

テオは、そう言うと、こう唱える。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!カプリコーン!」

山羊型の妖精が出現する。相手はこう言った。

「『それ』か。まあ、いい。そのカプリコーンが、口に出来ない程の力を出してやろう。」

相手は、剣を何度も振りながらテオに向かって来る。テオは、剣からの風圧にはじめ後退りしたが、やがて風が弱まっていく。その風は、草となってテオのカプリコーンの元に降ってくる。カプリコーンは、それを吸い込むように食べはじめた。それを認めると、テオはこう言った。

「カプリコーンが食うてる間に、攻撃させてもらうで。」

「ふっ。」

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

銃が出てくるなり、テオは、それを早速撃ちはじめる。相手は、再び眉間に皺を寄せ、こう唱えた。

「死の城より、サーバント・フェアリー召喚。アクエリアス!」

「あ、あかん。」

テオの銃からのコインは、水に変わってしまう。そして、一直線に水瓶の中に。テオは、こう言った。

「お互いの力が通らへんようになったなぁ。まぁ、後で攻撃食らうの、俺だけみたいやけど。」

「そのようだな。その上で、こちらも受けてもらおう。」

「勘弁してぇな。」

相手は、自らのアクエリアスが水瓶をひっくり返したのと同時に、こう言った。

「ウィンド・スプリット!」

風の切り裂きと、ダメージの水が同時にテオに襲いかかる。しかし、テオのカプリコーンがそれを草に変え、再び吸い込む。

「助かったで。カプリコーン。」

「しかし、それもどこまで耐えられるか。」

その言葉通りにテオのカプリコーンは、限界を迎え、消滅した。相手は笑う。

「さあ、その銃で攻撃してくるのだ。だが、私は耐えるぞ。本物の貴族としてそれをやり遂げる!」

「なんや、偽もんの貴族がいるんかいな?」

「知らないのか。かわいそうと言ってやるか。エルネスト・イベールは、偽物の貴族だぞ?」

「は?『偽もん』?知らんわ、そんな事。」

「憐れだな。」

テオの心に、感じたことのない感情の嵐が。そして、こう言った。

「その真偽は知らんけど、他人の事『偽もん』言うなや!!」

テオは、相手を睨み付け、こう言った。

「グラビティ・ドロップ!!」

何度もテオは銃を乱射した。

「ソラナ!力を貸してくれや!!」

相手は、高いところまで宙に舞った。そして、落下する。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのダイヤスート、テオ・ベルジェ。」

テオは、荒い息の中、こう言った。

「なんなんや?この気持ち。」

それを見ていたソラナは言った。

「テオ!また勝てたね!!」


◆クラブの怒り

ラモンの相手は、スートレベル3のハートスートだった。ラモンは呟く。

「貴族でねくていがっだ。」

その呟きが聞こえたのか、相手は言った。

「そうですね。『聖職者』の私が優しくして差し上げましょう。」

「ありがとなぃ。」

相手は、笑みを浮かべながらこう返した。

「なら、苦しまないように、早めに倒して差し上げます。よろしいですね?」

「なんだっぺそんな事だったのけ!」

ラモンは慌ててこう言った。

「武器を我が手に!クラブ・カドル!!」

「慌てさせてしまい、申し訳ありません。さて、始めさせていただきますよ。」

相手は笑みを絶やさずにこう唱えた。

「慈愛の海より、サーバント・フェアリー召喚。ピスケス。」

ラモンの棍棒からほとばしる炎は、水のホログラムとなって目の前に広がり始める。そして、相手のピスケスは、ラモンに体当たりしてきた。ラモンは、たまらず炎をまとえなくなった棍棒を振り回しこう言った。

「や、止めてけろ。」

「すぐ、すぐですから。あなたを苦しめたくありませんから。武器を我が手に、ハートグレイル。」

「待ってけろ!俺は倒されたぐね。」

そして、ラモンは唱えた。

「知識の森から、サーバント・フェアリー召喚!レオ!!」

獅子型の妖精が出現。相手はこう言った。

「なんと無慈悲な。」

ラモンのレオは、リング中に咆哮の声を響かせる。

「くっ。しびれが。」

相手の苦しげな呟きが聞こえた。

「悪ぃな。今日は倒されたぐねぇがら。」

「苛つきますね。半端者のフルーメンの仲間。」

「『フルーメン』?誰だぁ?」

「知らないのですか?半端者だから、恥を隠すために仲間に導師名を言ってないんでしょうね?フェリクス・ジュアンは。」

「なんだ、本当の名前で言っでくれねぇとわがんねぇべぇ。」

ラモンは、奥歯を強く噛み締める。理由はわからなかったが。そして、こう言った。

「なんか、おめの顔見だぐなぐなって来だ。」

そして、両手の拳をきつく握り締め、こう続けた。

「ファイアー・ストライク!!」

相手もわずかに遅れてこう言った。

「あなたから怒りの感情を感じます。急ですね。何か怒らせましたか?私。それを出されてしまったら、仕方ありませんね。ウォーター・スチール。」

ラモンの強い炎は、ピスケスを焼き尽くし、相手を包む。一方、相手の水の龍は、ラモンのレオから力を奪い始め、ラモン本人からも力を奪う。力を奪われながらラモンは叫ぶ。

「奪われで行ぐな!ソラナからの力!!」

一方、相手はしびれと火傷の感覚にたまらず膝をつく。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのクラブスート、ラモン・ジスカール。」

ラモンは、ふらふらしつつ、呟いた。

「あー、頭ん中、ぐちゃぐちゃだ。おー、やだごど。」

それを見たソラナは言った。

「ラモン!よかった!勝ったね!!」


◆完全な

4勝0敗と、アニュラスデッキは、完膚なきまでにアルバスデッキを下した。ソラナのところまで戻ってきた4人をソラナは満面の笑顔で迎えた。

「みんな、勝ってくれて嬉しい!!ありがとう!!」

ソラナは、思わず全員に抱きつこうとするが、ルシアに制止された。

「はいはい、ソラナ、気持ちはわからないでもないけど、4人の状態見てやんなよ。」

「あ、ごめん。」

エルネストはこう返した。

「僕は構わないよ。」

フェリクスはこう返した。

「そのお気持ち、嬉しいですよ。」

テオはこう返した。

「俺はいいで?」

ラモンはこう返した。

「そんくらいだったら、いいべぇ。」

ルシアは、短くため息をつき言った。

「あんたら、ソラナに甘い!けど、完全勝利、おめでとう。」

そのルシアの言葉にも、

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「おおきに。」

「ありがとなぃ。」

と、口々にスート4人からの返事が返ってきた。

アニュラスデッキ、スート4人のスートレベル2。共にレベルが上がる初の体験は、和やかな空気をもたらした。


◆勝利の夜

ジョーカー寮に戻ったソラナ。完全勝利の余韻が冷めなかった。

「もうもう!みんな、勝ってよかった!!」

ルシアが苦笑いでそれに返す。

「さっきから、ソラナ、何度目?」

「ご、ごめん。でも、嬉しくて、嬉しくて!」

「わかる。わかるよ。」

「うん、でも静かにするね?」

「助かるわー。」

一方、スート寮。4人は、相変わらずの静寂を生んでいた。寝間着姿のスートたちは、自らのベッドで小さく呟いた。

「眠れない。何故だろう?」

「眠れませんね。何故でしょう?」

「なんや眠れへんな。何でやろ?」

「眠れね。何でだっぺな?」

奇しくも同じ内容だった。


◆輪の足音

それから、3日後だった。トレーニングのためアニュラスデッキは、集まった。個別にトレーニングする時間や、相手を変えながら模擬戦闘を繰り広げる時間等を過ごした。そして、その時間も終わり、寮に戻る前に6人は一休みすることにした。そんな中、ソラナは首を傾げながらこう言った。

「みんな、なんか疲れてない?」

スートたちは見抜かれてしまったというような表情になる。ソラナは再び尋ねる。

「どうしたの?」

その言葉に、テオが返答する。

「あ、あんな?アルバスデッキとやった時、妙なこと相手さんから言われてしもて、気になってあんまり寝られへんねん。」

「え?どんな?」

ソラナがそう反応すると、テオはエルネストの方をチラチラ見ながらこう返した。

「エルネストがな?『偽もんの貴族』って言われたんや。なんなんや?」


◆スペードの過去

エルネストは、目を丸くしたが、小さく鼻で笑い、話し始める。

「『偽物の貴族』、か。」

「話したくなかったら話さんでもええけど。」

「いや、君たちと真の仲間になりたいのに、僕の事を隠したままというのも、酷い話だ。話すよ。」

それを受け、5人はその話に耳を傾ける。

「単刀直入に言うと、僕は、貴族の血を引いてないんだ。」

5人の顔が驚きの色に染まる。エルネストは続ける。

「僕の両親は、2人共、跡継ぎを作れない体だった。でも、なんとしても跡継ぎをと考えたそうなんだ。そして、『父』に似た男性と、『母』に似た女性に子供を作る事を強要したそうだよ。そして、僕が産まれた。僕の『両親』は、僕を実子として表に出すため、口封じに僕の本当の父を僕が産まれた直後に、本当の母を僕が乳離れした時に、侍従たちに殺させた。」

エルネストは、淡々とそれを話す。徐々に自嘲の表情を見せ、更に続ける。

「15の成人誕生会の後、それを知らされて僕は今まで生きてきたけど、だんだん、僕は『両親』と『違う顔』になってきている。だから、今になって貴族たちは気づきはじめてきたんだろうね。僕が『貴族』でない事を。初戦でその事をはじめて突きつけられて対応出来ずに負けてしまった。そして、テオの相手も『そこ』を突いて来たんだね。すまない。心配をかけて。」

頭を下げるエルネスト。そして、こう締め括った。

「いや、許されないかな?『貴族』を偽ってスペードスートを名乗っていることは。」

ソラナがそれに返した。

「そんな、そんな事言わないで、エルネスト。『あの時』、エルネストは私にとっての『上級貴族』だって言ったよね?」

エルネストは微笑んだ。

「ありがとう。」

そう言った後、エルネストはテオを見る。テオは疑問の視線を返す。

「逆にね、テオ、僕は君の件について、『成金』と言われてしまったんだよ。僕は、それを君への蔑みととったんだけど、どうかな?」


◆ダイヤの過去

テオは、眉間に皺を寄せた。

「そう言われても仕方ない面もあるやろな。せやけど、エルネストみたいな重い話があるわけやないで。」

「それでも、よければ聞かせてくれないかい?」

「ええよ。お前さんが話したくもないこと話したんやから。俺もな。」

テオは上を見上げながらこう言った。

「俺がちっさい頃な?俺の親は、ギャンブル三昧だったんや。」

それを言い終わったテオは、驚く仲間の顔を見る。少し笑い、テオは続ける。

「そんな大それた話やない。ほんでな?俺が中学卒業する頃、遂に親が借金に手を出そうとしたんや。俺、それ止める為に『俺が働く』って言うたんや。」

合間に小声でテオは「懐かしな。」と呟き、更に続ける。

「ほんで、知らん人だったんやけど、その人の要らん家譲ってもらってそこで『グリッター』始めたんや。金稼がんとあかんから、高校通いながらも、そら、必死に店やったで。お客さん、そんな俺の店を気に入ってくれはった。そのおかげで、今のでっかい『グリッター』を手に入れたんや。」

過去の苦労に暗くなりかけた表情に自らで気づいたテオは、努めて明るい顔を見せ、こう締め括った。

「その俺のうっすい表面だけ見て『成金』言うたんやろな。ちゃうって。あ、ちなみに親は、俺の働きぶり見て、何か感じたんやろな。ギャンブルから足洗って今は『グリッター』やないけど、まっとうな仕事してるから心配すんなや?それに、親子仲は良好や!」

ソラナはそれに返した。

「『グリッター』って、そんなお店だったんだ。」

「せや。」

テオが頷く近くで、ラモンがフェリクスの顔を頻繁にチラチラ見ていた。その視線に、フェリクスが気づく。

「ラモン?どうしました?」

「すまね。俺もあの時の戦いでフェリクス、おめが『恥ずかしい半端者』みてぇな事言われたんだ。確か、寮に入ったばかりの頃、おめ自身も『中途半端』って言っでだがら、引っかかっててな。」


◆ハートの過去

フェリクスは、伏し目がちにこう言った。

「『半端者』。言われてしまいましたね。」

「悪りぃな。変な事言っで。」

「この機会です。私の親の事も含めて私の事をお話ししましょう。」

フェリクスは、半合掌をしながら話し始める。

「正騎士教会ウヌスの導師となった者は、特定の1人の人を愛することは禁じられています。私たちは、万人を分け隔てなく愛さねばならない立場ですから。しかし、共に導師だった私の両親は、その規律を破ってしまい、破門となりました。」

5人は、頷いた。

「そのまま両親は結婚し、私をこの世に誕生させてくれました。それからというものの、両親は導師だった頃の話を度々してくれました。私はいつしか導師にあこがれて、成人を機に『ノーブル大教堂』の門戸を叩きました。」

フェリクスは、急に苦笑いをする。

「しかし、『あこがれ』だけでは務まりませんよね。なかなか出世欲みたいな物が捨てきれず、両親が私の歳の頃に手に入れていた導師ランク、ランクイエローまで今の今まで辿り着けずに未だランクグリーンです。」

更に、フェリクスは自らに呆れた表情を浮かべ、話をこう締め括った。

「私は、両親の分も含めてこれからも修行していきます。そして、いつか『中途半端』から名実ともに抜け出してみせます。」

ソラナはそれに反応した。

「フェリクス、応援するよ。」

「ありがとうございます。」

フェリクスは、丁寧に頭を下げると、再びラモンに向き合う。

「私も、実は、ラモンの事について、あることを言われたんですよ。フィステリスにあなたが食べ物を提供して、犯罪を助長していると。私は、そうは思えなくて。どのような事をしていたんですか?」


◆クラブの過去

ラモンは、戸惑ったような、複雑な顔をした。

「なんだか、おめらのすげぇ話の後に話すのは、平凡過ぎて恥ずかしな。」

「気負わず、お話ししてください。」

「そうけ?いや、おめの話さ聞かせてもらっだがら、話すど。」

恥ずかしそうにラモンは顔をわずかに伏せながら、話し始めた。

「俺の両親は、特に何でもねぇ農家だ。野菜から果物まで、色んな物を試しに作っちゃ、いがった物を選んで作っでんだ。俺も、子供の頃から手伝っでた。そっから自然に俺は跡取りになったんだな。」

ラモンは顔を上げ、頭をかきながらこう続ける。

「まぁ、特別な事っで言っだら、そのフィステリスまわりの事だな。昔、親父が若い頃に何人かの仲間に声さかけでフィステリスに売りもんになんねぇ野菜さ売りに行ぎ始めたんだ。だけんちょも、やーっぱ、おっかねぇって言っで仲間がいなぐなっで親父1人でやっでたからよ、心配になって俺も行ぐようになっだんだ。それで、親父も年取ってきだがら、今度は俺1人でやるようになったんだ。」

5人は、穏やかな表情でそれを見守っていた。それを見て、ラモンはこう締め括った。

「その、昔の事みんな忘れっちまったんだっぺ。だがら、人によっては、変な事してるっで見えて、言ってくんだっぺな。俺がやっでる事、『余計な事』とか、『犯罪助けてる』って。まぁ、そんな話だ。」

ソラナは、それを受け、こう言った。

「私は、凄いことだって思うよ。」

「そうけ。」

すると、ルシアが少し居心地が悪そうにし始める。そして、こう言った。

「みんなでそんな話したら、あたしまで話さなきゃ駄目っぽくなるじゃん。」

ソラナがそれに返す。

「無理しなくていいよ。けど、ちょっとだけ、聞きたいな。ルシアの話。」


◆マイナスの過去

ルシアは、自らの鼻をひとかきした。そしてこう言う。

「ラモンが平凡だって言ったら、あたしの話は、なんだろね。」

「凄く平和だったの?」

「正解。」

簡単な一言を返した後、ルシアは5人を見渡し話し始めた。

「人も殺してなければ、ギャンブルにはまってもない、破門とかもされてなければ、慈善活動?っていうのかな?そんなこともしてないどこにでもいる夫婦の1人娘なんだ。あたしは。」

表情を変えずに話を続けるルシア。

「普通過ぎてなんだかつまらなくなっちゃったんだよね。あたし。それで、刺激を求めてあえて『国外旅行禁止』とかいう縛りのある職業に就いたのよ。まぁ、1人の工房だけど、工房仲間が揃いも揃って男共っていう楽しい状況だったけどね。」

ルシアは、ソラナを見てこう締め括った。

「以上!」

「『普通』って事なんだね。そうだったんだ。」

「つまんないでしょ?」

ソラナは、首を横に振った。そして、こう言った。

「じゃあ、みんなが話してくれたから、私も家族のこと、話そうかな。」


◆プラスの過去

「フェリクスは、全部知ってると思うけど、私のパパとママは、もう死んじゃってるんだ。」

「確かに、弔わせていただきました。」

フェリクスは答えた。一方、ルシアや他のスートは驚いた顔をした。そんな中でも特にエルネストは、目を丸くする。ソラナはかなしげな微笑みを見せ、話を続ける。

「何で死んじゃったかちょっとだけ言うね?私のおじいちゃん、おばあちゃんは、魔法科学者だったんだ。」

「へぇ。あんたも魔法の関係者だったのね。」

ルシアが言うと、ソラナは返した。

「そうだね。それで、おじいちゃんとおばあちゃんは、やっちゃ駄目な実験をしてたんだ。」

「そら、大変な事やないか。」

テオが反応すると、ソラナは頷きながら続けた。

「うん。私のパパとママ、そして、よくわからないけど、『EX1』って男の人?その人に酷い実験をしてたんだって。」

「非道な事をしたようだね?」

エルネストが声をかけると、ソラナは頷く。

「それは、そうみたい。でも、もっと酷いことをおじいちゃんとおばあちゃんはした。『EX1』って人を抵抗するからって言って殺しちゃったんだって。私が産まれる凄く前の話だけど。」

「本当にひでぇなぁ。」

ラモンの一言が響く。するとソラナはこう言った。

「私には優しかったから、大好きだったけどね、おじいちゃんとおばあちゃん。大好きと言えば、パパとママも『EX1』って人を『お兄ちゃん』って思ってて、大好きだったみたい。」

5人がその話に聞き入る。

「けど、私が11歳の時、『EX2』をおじいちゃんとおばちゃんが作るって言ったから、パパとママが怒っちゃって、研究所で一緒にみんな死んじゃったの。」

神妙な顔の5人にソラナはこう言った。

「ごめん。でも、今は大丈夫。私を引き取ってくれた『お母さん』が、みんなも1度会ったラウラおばさんが私をそれから育ててくれて、今は元気だよ!」

更にこう言い、話を締め括った。

「そして、みんなと会えた!今ね、とっても幸せなの。だから、これからもよろしくね!!」


◆完成する輪

エルネストは言った。

「勿論だよ。」

フェリクスは言った。

「承知しました。」

テオは言った。

「当たり前やん。」

ラモンは言った。

「任せろ。」

ルシアは言った。

「わかったよ。」

ソラナはそれに返した。

「ありがとう!みんな!!」

すると、エルネストが言った。

「僕が何故『あの戦い』から眠れないほど心を乱していたか、わかったよ。」

フェリクスがそれに反応。

「私も、わかりました。」

テオもそれに続く。

「俺もやで。」

ラモンも言った。

「んだ、俺もわがっだ。」

ルシアが首を傾げる。

「なんなんだかわからない。」

フェリクスがそれに返す。

「そうですか。ソラナですよ。」

テオが言う。

「せやな。ソラナが選んだ他のスートを、侮辱されたんが悔しかったんやて、気づいたわ。」

ラモンがそれに続く。

「おめもか。俺もだ。」

エルネストも続いた。

「だから、僕は、スートの皆を大事にしたい。そう思えるようになったよ。」

ソラナは目を丸くする。そして、言った。

「『アニュラス』の、『輪』が、出来た?」

ルシアが頷き、こう言った。

「そうなんじゃない?」

ソラナは満面の笑顔を浮かべ、こう言った。

「みんな!嬉しい!!」

そして、誰からともなく、右手首のバングルを見せ合うようにして円陣を組みはじめた。ソラナが続ける。

「これから、本当の『アニュラスデッキ』だね!」

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