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ダイヤスート・テオ編

◆見つめられた者

1月13日。アニュラスデッキは、2年目の初戦を迎えていた。相手は、7年目の「カエルムデッキ」。

この日の第2戦に出るアニュラスデッキの6人は、控室にて、緊張感の中「いつも通り」を目指し、それぞれの時間を過ごしていた。

時間を見ればまもなく競技場へ移動する時が迫って来ていた。ソラナは、この時出来る精一杯の笑顔でこう言った。

「ねえ!円陣、しよ?」

エルネスト、フェリクス、テオ、ラモン、ルシアの右手が次々にソラナの所に集まる。そして、控室に響くいつもの掛け声。

「アニュラス!!」

そのソラナの笑顔は、それ以降も崩れることはなかった。その笑顔に釘付けになる1人のスートがいた。テオだ。ソラナは、それに気づく事なく、他のメンバーと共に控室から退出していった。

その後、サクセスコロシアムの競技場に、アニュラスデッキが入場。

アナウンスに従って、マトゥーレイン授与が行われる。ソラナは、自らの命が今からスートたちの力になるという事実を噛みしめ、こう言った。

「みんなに、力を。」

スート4人のデッキバングルのスートマークが、色を濃くした。それを確認すると、4人は指定されたリングへと歩みを進めた。

その4人の背中を見たソラナは、こう願った。

「私の命が、みんなの『勝ち』に繋がりますように。」

前の席に座っていたルシアも、「思いは同じ」という事を示すようにゆっくり頷いた。


◆相手の盾は

ゲームは始まった。テオは気合いを入れるために声を大にして叫んだ。

「よっしゃ!!やるで!!」

相手のダイヤスートは、その声に驚く。

「気持ちはわからんでもないけど、びっくりさせへんでくれへん?」

「ああ、すまん、すまん。」

テオは、軽く頭を下げつつこう言った。それを聞きつつ、相手は言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

そして、間髪入れずに銃を乱射してきた。テオはたまらずこう言う。

「そっちこそ、手加減してくれへんかな?」

「『手加減』?するわけないやろ?これは真剣勝負なんやで?」

「せやな。えらいすんません。」

相手の銃からのコインの軌跡を見極め、テオはそれに当たらないよう逃げるが、ひとつのコインが直撃。

「おっも。やっぱりこれは重いなぁ。」

「当たり前やろ?」

これ以降の「逃走」は不可と判断したテオはこう唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!カプリコーン!!」

「あー、それかいな。」

相手の銃からのコインが草になり、カプリコーンの「餌」となっていく。それを認めたテオは間髪入れずにこう言った。

「武器を我が手に!ダイヤコイン!!」

そして、「手加減なく」銃を撃ち始める。相手は頭をかきながら言う。

「さっき、手加減せえってゆうたの、誰やったっけ?」

「知らんなぁ。」

余裕の出来始めたテオはこう返した。その様子を見ながら、相手はこう唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!ヴィルゴ!!」

女性型の妖精が、出現した瞬間、テオは悲鳴のような声を上げた。

「ソラナっ?」

一気にテオの顔から「余裕」がなくなる。そして、こう続けた。

「なんでや?こんな所に来たら危ないやん。ソラナ。」

相手は、そのテオの言葉に首を傾げる。そして、こう言った。

「何をゆうてんねん?わけわからんわ。やってもしゃあないけど、やるか。」

相手は、銃を構え直し、こう言った。

「グラビティ・ドロップ!!」

勿論、テオのカプリコーンがそのダメージを食べ、テオを守る。相手は言った。

「守ってもろてええなぁ?せやけど、俺もなんやヴィルゴに守ってもろてるようやな?」

急に攻撃をしなくなったテオを指摘する言葉だった。その言葉がテオに届いた瞬間、テオのカプリコーンは、消滅した。それを見たテオは、ようやく再び声を出した。

「カプリコーン!あかん。やられてまう。」

テオの目に映るのは、相手を守るように立つソラナの姿。しかし、躊躇の念を振り切り、再び銃を撃ち始める。カプリコーンがいなくなった事から、相手の銃のコインもテオに届くようになる。

しばらく撃ち合いが続く戦況の中、テオの目には相手を庇い続けるソラナの姿が映り続ける。テオは、そんな中だんだん冷静になっていく。このソラナは、相手のヴィルゴだと。ようやく「真実」が見えたテオは、苦渋の判断をした。

「『ソラナ』を攻撃したくあらへんけど、こうするで!」

テオは、相手の銃からのコインから逃げつつ、相手のヴィルゴに集中的に銃を撃ち込んだ。こう叫びながら。

「こんなん嫌やー!」

その甲斐あって、相手のヴィルゴは消滅。そして、負けられないと、それと同時に言った。

「グラビティ・ドロップ!!」

相手は、リングに叩きつけられた。そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのダイヤスート、テオ・ベルジェ。」

テオは、こう言った。

「な、なんなんや?なんでなんや?ソラナ?」

それを見たソラナは自らの席で言った。

「テオ、途中、どうしたの?だけど、勝ったね。ひと安心だよ。」


◆見つめられる者

その後、エルネスト、フェリクス、ラモンも勝利を手にした、アニュラスデッキは完全勝利を背に控室へ戻る。

状態回復をし始めるスート4人。それをソラナは見守りながら、ルシアに話しかけた。

「なんか、今日のテオ、変じゃなかった?」

「うーん?まぁね。でもさ、察してやんなよ。」

「え?」

「他の3人もそうだけど、『初めて』あんたの命背負って戦ったんだからさ、その『重圧』っての?あいつ急に強く感じたんだよ。」

「そっか。みんなに負担かけてるね。私、しっかりする。」

ルシアが頷くと、スート4人の状態回復の霧が晴れる。ソラナは、ひとりひとりに声をかけに行った。

「エルネスト、今日も強かったよ。」

「ありがとう、ソラナ。」

「フェリクス、立派だったよ!」

「ありがとうございます、ソラナ。」

「ラモン、頑張ったね!」

「ありがとなぃ、ソラナ。」

そして、ソラナはテオを少し心配そうな視線で見てこう言った。

「テオ?今日は辛かった?でも、お疲れ様。」

「え?ああ、おおきに、ソラナ。」

明らかにテオは狼狽えていたが、誤魔化しの笑顔を浮かべ、いの一番に控室から出ていった。こう言いながら。

「なんや、俺、ホンマに疲れてるみたいやねん。先、寮に帰るわ。」

ソラナの視線は、心配の色を濃くし、テオの背中を見送った。


◆狼狽の夜

テオは、その晩眠れなかった。寮の自らのベッドに横たわりながらこう小声で言った。

「なんでや?なんでや?なんでや?」

何故急に相手のヴィルゴがソラナに見えたのかわからなかった。

「なんでや?去年までは、ただのべっぴんさんだったやないか。なんで?なんでや?」

そして、昼間自らがやった事が脳裏に浮かんだ。ダイヤコインに撃ち抜かれ続け、消えていった「ソラナ」が。

「嫌や。もう二度とあないな事したくあらへん。心が、心が痛とうてしゃあない。」

テオは、寝間着の胸元をかきむしった。


◆魔法への考え

一方、ソラナはその夜、寮の自室にて考えていた。

「考えすぎかな?」

その呟きは、ルシアに届いてしまった。

「何?」

「あ、ごめん。そうだ、ルシア、私の話聞いてくれる?」

「いいけど?勝手にどうぞ。」

「今日、私、スートのみんなに負担かけちゃったよね?特に、テオにだけど。」

ルシアは軽く頷いた。それを見つつ、ソラナは続けた。

「やっぱり、それっておじいちゃんとおばあちゃんが元々の原因だなって思ったの。」

「ふーん。まあ、そうなんじゃない?」

「私、魔法科学に向き合うべきだなって思った。」

「端から見れば、話、発展しすぎだと思うけど、あんたがそうしたかったら、そうすれば?あたしも、魔法調整師に好きでなったわけだし。」

「ありがとう、ルシア。私、頑張る。」

ルシアは、頷きながらあくびをした。

「どういたしましてー。眠い、寝る。」

「おやすみ、ルシア。」


◆問う朝

結局、一睡も出来なかったテオは、翌朝、起床した他の3人へこう尋ねた。

「3人に訊きたいんやけど、『ミックススタイル』で、ダイヤスートとあたった時、ヴィルゴと戦った事あるか?」

3人は「ある」と答えた。更にテオの問いは続いた。

「何に見える?相手のヴィルゴ。」

それに対して、3人はそれぞれ答える。

「見た目が麗しい女性に見えるよ。」

「素敵な女性に見えます。」

「めんこい女に見えるど?」

テオは、それに返した。

「そうなんか、おおきに。」


◆辛勝

それからというものの、アニュラスデッキは様々なデッキと対戦を続ける。

4月、テオはうなだれていた。

「もう、『セイムスタイル』で戦いたくあらへん。」

この頃になると、アニュラスデッキのダイヤスートのテオ・ベルジェと対戦する時は、サーバント・フェアリーのヴィルゴを喚べば勝負が「いいところ」までいくという認識が他のデッキのダイヤスートの共通の認識となっていた。

テオは、ヴィルゴが召喚される度に、「ソラナ」のヴィルゴを苦しみつつ倒した。

「嫌や、嫌や!嫌や!!」

そう言いながら、テオは激しい後悔の念がこもった勝利を手にしていた。それは、テオの表情に暗い影を落としていく。その度にソラナはテオに寄り添うが、それは、テオにとって「毒」だった。テオは、「グリッター」勤務時代の営業的な笑顔を繰り出し、ソラナに心配をかけまいと振る舞う事もあった。

「今日も、心配させてすまんな!俺の所に来てくれて、おおきに!!」


◆自覚

そんな中であった。5月16日の第1戦に、アニュラスデッキは4年目のデッキである「ムールスデッキ」とのセイムスタイルでの対戦が組まれた。

テオは、その日の朝、起床するなり呟いた。

「嫌な日やな。せやけど。」

テオは、とある決意を固めていた。

「今日の相手は、話しやすい相手やしな。」

そして、時は過ぎ、ゲームは始まった。テオは言う。

「久しぶりやな?オラシオ。オラシオ・メルセンヌ。元気しとったか?」

「おお!元気やぞ?対戦相手やのに、気遣ってくれておおきにな?テオ!」

「そら、親友やから、少しはええやろ?」

「せやなー、ホンマ久しぶりやな。」

テオとオラシオは話に花が咲きそうになるが、対戦中という事で、武器を手に取り、撃ち合いをし始める。そして、オラシオは、サーバント・フェアリーのタウルスにて牛の猛攻をテオに浴びせる。しかし、テオは、かえって安心し、オラシオのタウルスを自らの銃にて早くも消滅させた。

オラシオは唖然とする。

「テオ、強いなぁ。」

テオは、そのオラシオの言葉に返答せずにこう言った。

「オラシオ、ちょっとええか?手を止めてくれへん?」

「な、なんや?」

「今から俺が喚ぶサーバント・フェアリー、何に見える?正直に話してくれたら、勝ちはオラシオにやるで。」

「は?なんやそれ?まぁ、ええけど。」

「おおきに、オラシオ。」

そして、テオは唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。ヴィルゴ。」

それを受け、オラシオはこう返答した。

「それかいな。やめーや。俺、それ、嫌やねん。」

「何に、誰に見える?」

「クロエ、クロエ・シャルーや。正直に言うたで?テオ。」

テオの沈黙が場を支配する。そして、それはテオ自身で破った。

「お前さんの婚約者やな?オラシオ、今でもクロエの事、愛しとるか?」

「何訊いとんねん?テオ?愛しとるに決まってるやろ?」

「そら、ええ事や。色々、答えてくれておおきにな、オラシオ。ええで?俺を、負かしてくれや。」

「ええんかいな?」

「ええて言うてるやろ?」

「なら、やるで?」

オラシオは、銃を構え直し、言った。

「グラビティ・ドロップ!!」

テオは、リングに叩きつけられ、敗北を喫した。リングにしか届かない声でテオは言った。

「俺、ソラナを愛してしもたんやな。」


◆隠される敗北の理由

テオの敗北は、ソラナの心配をより強く煽った。状態回復をした後のテオにソラナは早速接触した。

「テオ、とっても辛そう。大丈夫?って、大丈夫じゃないよね?ごめん。」

そんなソラナを見るテオの目は、揺れるだけ揺れていた。テオは、何かを話そうと口を開いたが、それをやめた。そして、代わりにこう言いながら寮に戻って行ってしまった。

「気にせえへんよ、俺は。まあ、俺は負けたけど、3人は勝ってアニュラスデッキは勝利できたんやから、俺の事は、放っておいてくれや?」

「テオ?」

ソラナの不安な声が、テオの背中を追いかけた。更に、追いかけられなかった声も続く。

「放っておけるわけ、ないよ、テオ。」

その右手は、きつく胸に添えられた。そして、ソラナは、言った。

「なんだか、私、テオに避けられてるみたい?励ましてやりたいけど、やれないよ。ねぇ、エルネスト、フェリクス、ラモン?私の代わりにテオの事頼んでいい?」

3人は、「自分に出来る事はわからないが、やるだけやる。」と3人の言葉で返してくれた。それに対してソラナは言った。

「ありがとう、よろしくね?」


◆指で作る

エルネスト、フェリクス、ラモンは、寮に戻ると早速テオに代わる代わる声をかけるが、テオはこう返した。

「心配かけて、すまんな。」

平静を装うテオの笑顔を3人は見る事になった。

それから、数日テオは考えた。そして、自らのスマートアニマルであるシェパードにとあるメールを送らせた。

更に、その翌日。ソラナはサクセスコロシアム前の広場にいた。そこに近寄る影が。テオだ。

「すまんな、呼び出して。」

「大丈夫だよ。」

「そして、ソラナにはここ最近、心配かけとるよな?すまん。」

「ううん。私こそ、テオの力になれなくてごめん。」

「ええよ。」

そう言うと、テオは右手で銃のような形を作った。そして、それをソラナに向けた。

「こんなに俺の事心配してくれるお人には、ホンマの事言わんとな。」

「テオ?」

「あんな?今年に入ってからの俺の戦い、いつもこんな感じやねん。」

「え?」

「相手さんのヴィルゴがソラナに見えてしゃあないんや。」

ソラナの目が見開かれた。テオは、そこから矢継ぎ早に想いをソラナにぶつけた。

「偽もんってわかってるんやけど、こんなに嫌な事はないわ。今年の俺は、勝つために偽もんのソラナを何度も殺してもうた。こんな俺、嫌や。」

「そ、そんな。そうだったんだ。話してくれてありがとう。」

テオは、これ以上ないと言う程の切ない視線をソラナに向けた。

「こっちこそ、聞いてくれておおきにな。でな?最近負けた対戦で、わかった事があるんよ。」

「何?」

「ソラナ、お前さんを俺が愛してるって事をな。」

突然の告白だった。それにソラナはこう返すのが精一杯だった。

「え。」

「ヴィルゴは、見る奴の一番愛しとる女に見えるようやから、間違いない。」

「そ、そうなの。」

「せやけど、こんな情けない男、お前さんに不釣り合いやよな?」

「そんな!テオ、自分を悪く言わないで。」

「おおきに、ソラナ。」

そして、沈黙が流れた。しばらくその時間が続いた後、ソラナは突然、テオの背後に移動した。

「テオ?これからも私の『偽物』と戦う事になりそうだね?」

後ろから話しかけられる事態にテオは戸惑いながら、こう返した。

「せやな。」

「けど、『本物』の私はジョーカープラスの席にいるから大丈夫だよ。テオの後ろで、見守ってるから、安心して『偽物』と戦って?『本物』の私が許すよ、『偽物』の私を傷つけるの。だから、もう、辛い顔をしないで?テオ、私も辛いよ。」

「ソラナっ。」

テオは溢れる愛に、ソラナを抱き締めたくなった。その衝動に振り返ろうとした瞬間、ソラナがそのまま、後ろからテオを抱き締めた。

「辛かったら、思い出して?この感覚。私は、いつだってテオの後ろにいるから。だから、これから頑張って!」

「ソラナ、ソラナ!ソラナ!!愛しとるっ!!」

「ありがとう、テオ。私も、テオの事、好きだよ。これから、あなたを愛したい。だから、元気になって!」


◆愛の開示

それから、テオの戦い方は勢いを取り戻した。「偽物のソラナ」というヴィルゴにも臆することなく立ち向かい、勝利を収めていく。

それに呼応するように、仲間たちも勝ちを重ね、遂に、全員のスートレベルが10となる。8月、「フォーティーフラッグ」がアニュラスデッキに授与された。テオは言った。

「これから、『レベルリセット』やな?」

その申請は、運営に混乱をもたらした。スタッフからは、2年連続のレベルリセットは、受け入れられないと返答。それに、アニュラスデッキ側は、直接ゲームマスターのアニセトに依頼すると返した。それにスタッフは根負けし、アニセトにその話を上げた。アニセトは、1人になり、呟いた。

「何を考えているのかわからないが、何をされても、ソラナ・アルシェを殺す事は変えないぞ、アニュラスデッキ。」

そして、アニュラスデッキの6人とアニセトの面会が始まる。

「アニュラスデッキ、『レベルリセット』は受け入れるが、何を企んでいる?」

テオは返した。

「お前さんなら、そう訊かれて手の内明かすか?」

アニセトは、鼻で笑った。

「確かに、そうだな。」

アニセトは、スタッフを呼び出し、レベルリセットをさせた。

「アニュラスデッキのスート4人のスートレベル、エース。それを宣言する。」

そして、アニュラスデッキの面々は、アニセトの部屋から退出した。

ルシアは言った。

「こっから、どんな戦いが見れるのか、楽しみにしてるよ。」

エルネストは言った。

「ここからが正念場だよね?僕ら。」

フェリクスがそれに返した。

「気を引き締めていかねばなりませんね。」

それを聞き届けたラモンがこう尋ねた。

「それで、この先、誰が変身する事にすんだぁ?ここで決めておがねぇか?」

その言葉に、テオが右手を挙げた。

「俺にやらせてくれへん?」

他の5人は、同意の表情を見せた。すると、テオは言葉を続ける。

「俺に任せてくれておおきに。この場を借りてみんなに言うておくわ。俺な?ソラナの事、めっちゃ好きやねん。心から愛しとる。せやから、俺が変身して、ソラナを救いたい、そう思ったんや。」

エルネスト、フェリクス、ラモン、ルシアの驚く顔が並ぶ。それを見つつ、ソラナは言った。

「テオ、嬉しい。みんな、びっくりしちゃったね?私も、テオの事好きだから、キングになって欲しい。だから、みんなお願いね?」

それをアニュラスデッキの面々は受け入れた。


◆深まる愛と距離への懸念

アニュラスデッキの2年連続のレベルリセットは、世間の注目を浴びた。中には批判の声もあった。

ここは、オデスネゴウムの「グリッター」。その批判の声は、テオに代わり、店長を務めているセベリノの耳にも届く。セベリノは店員たちの前で言った。

「アニュラスデッキが批判されとるけど、ベルジェとアルシェはん、そして、その仲間を俺は信じたい。せやから、俺らは変わらずベルジェの、アルシェはんの、アニュラスデッキを応援せえへんか?」

店員たちの同意の声が店に溢れた。その後の9月から始まった、「好感を抱いたデッキ」への投票を受け、「グリッター」の面々は、全員アニュラスデッキに投票をした。

そんな中、テオはソラナはじめ、仲間にこう宣言。

「なあ、俺、戦う時ソラナからあんまマトゥーレインもらわんようにする。足りひん時だけ、ソラナ、よろしく頼むわ。」

「テオ?」

「そうすれば、ソラナの命の節約になるやろ?」

「ありがとう。」

その宣言通りに、テオの戦いは、マトゥーレインの出番を絞った物となっていく。低いスートレベルでマトゥーレイン使用の制限をかけた厳しい戦いであったが、テオは勝利を収めていく。

そんな様子は、誰もやった事がない事をやっていると、世間に衝撃を与え、一転アニュラスデッキのダイヤスートを支持する声が上がりはじめる。

また、それはソラナにも重大な心の変化をもたらす。

「テオ、力をもらいに来ないの、さびしいよ。」

自室にて流れる涙は、ソラナのテオへの確実な愛をソラナに自覚させた。

そんなある夜、ソラナはテオを広場に呼び出した。

「なんや?ソラナ。」

ソラナは、それへの返答をせずに、テオに抱きついた。

「これからも我慢するけど、テオに力を与えられないの、さびしくなっちゃったの。しばらく抱き締めさせて?」

「嬉しいなぁ。ええで?存分に俺を抱き締めてくれや?」

テオはソラナを優しく抱き締め返してくれた。ソラナは、テオの背中を愛おしそうに撫でながらこう言った。

「ずっと、ずっとこうしていたいよ。」

ソラナとテオの密着した時間はしばらく続いたが、やがて交わされた濃密なキスの後、2人は離れた。そして、ソラナはこう切り出した。

「この戦いが終わったら、テオはオデスネゴウムの『グリッター』に戻るんだよね?」

「せやな。クストーに店任せっきりもあかんやろし。」

「そっか。なら、私、やりたい事あったんだけど、それをやめて、テオがよければ『グリッター』でまた働こうかな?バイトでも、何でもいいから。」

「なんや?それ?『やりたい事』って何なんや?」

「魔法科学をやろうと思ってたの。おじいちゃんとおばあちゃんの過ち、アニセトさんに向き合おうって。それに、そんなアニセトさんに私のせいで命を奪われたセシリアさんの為にも何か出来ないかな?って、そんな事も考えてた。」

「立派な事やんけ。なんで諦めるんや?」

「おじいちゃんとおばあちゃんの事を忘れないようにしたいから、ルクセンティアの研究所の跡地に私の研究所を建てたいって思ってるの。でも、そしたらテオと距離が出来ちゃう。私は、テオの傍にいたい。」

「あかん。そんな理由で諦めちゃあかん。」

「駄目?」

テオは頷く。そして、少し考えた後、こう提案した。

「俺が『グリッター』で稼いだ金、ソラナの研究に使ってくれや。俺の代わりに『俺の稼いだ金』が傍におるっちゅう事にすればええねん。」

「テオ、そんな、いいの?」

「ええに決まっとるやろ?そんで、世の中のためのマトゥーレインがソラナの研究で出来たら、それを魔法石にしてもろて『グリッター』で売れば、俺の傍にソラナがおるって事にならへんか?」

「テオ、それ、いいかも。」

「よっしゃ!決まったな!!」

「テオ、そう言う意味で、会いに行く。絶対に、絶対に、会いに行くから、よろしくね?」

「おお!それを実現するためにも、殿堂入り、頑張るで!!」

「うん!!」


◆ダイヤの変身

12月10日。セイムスタイルでの戦いが組まれた。13年目のモーンスデッキがアニュラスデッキの相手だった。場内アナウンスは、こう案内した。

「マトゥーレイン、授与。なお、アニュラスデッキのダイヤスートは、トランスフォーメーション・ステージとなります。」

それを聞き届けると、いつものようにソラナからスート4人にマトゥーレインが授与される。

スートレベル7のエルネスト、スートレベル8のフェリクス、スートレベル9のラモンは、いつも通りの様子だった。

しかし、アナウンスで案内があった通り、スートレベル10のテオは違う様子を見せた。きらびやかな光をまとったキングローブが出現。そのローブの襟には、ダイヤのマークが細かくあしらわれていて、テオを包んだ。それが終わると、王冠が出現する。こちらもダイヤのマークがあしらわれている王冠で、それを見たソラナは、愛おしそうな目で言った。

「私たちの冠だね。」

テオの愛の戴冠が繰り広げられる。こうして、スートレベルキングとなったテオは、エルネスト、フェリクス、ラモンと共にこの日の対戦の舞台であるいつものリングへと向かった。


◆ダイヤの王

指定されたリングに上がったテオ。そんなテオの相手は、スートレベル8のダイヤスートだった。お互いに、綺麗な最敬礼で敬意を示した。その後、場内アナウンスは、こう言った。

「ゲームスタートまで、後10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。ゲームスタート!!」

テオは、言った。

「お前さんも、嫌やろうから、最初に出しておくわ。」

そして、相手の返答を聞かずに、テオは唱えた。

「価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。ヴィルゴ。」

相手の顔が歪む。

「お前さんの大切なお人か、べっぴんさんに見えとるよな?辛いやろ?早いとこ倒してええで?」

ようやく相手の第一声がリング上に響いた。

「なんや?その態度。まぁ、お言葉に甘えさせてもらうで?武器を我が手に、ダイヤコイン。」

「頼むで?こっちも行くで。武器を我が手に、ダイヤコイン。」

銃の撃ち合いが始まる。テオの銃から発射されるコインは、通常より大きい物だった。相手は、それを避けつつテオの提案通りにテオのヴィルゴへ集中的にコインを撃ち込む。テオは、感嘆の声を上げる。

「ほー、流石ベテランやなぁ。お前さん、避けるの上手いで!そして、正確にヴィルゴを撃って来るやないか!!」

「そら、百戦錬磨やぞ?13年目の実力舐めんなや?」

「それ見習っていつかやってみたい所やけど、無理やな。」

「は?来年やればええやん?」

テオは、微笑み、それに対する返答を控えた。すると、テオのヴィルゴは限界を迎え、消滅した。テオは言った。

「お疲れさん、ヴィルゴ。さあ!これからや!!戦いは!!」

「そうらしいな。」

相手は、今度はテオ本人に銃のコインを撃ち込む。テオは言った。

「キング、凄い力や。なんやコインに当たってもあんま体重くならへんわ。」

「それが、キングの力や。せやけど、数撃ち込まれたらヤバい事になるで?俺もキングに変身した事あるからなぁ、わかるで。」

「そうなんか。なら、あんまりそれに当たるわけいかへんな?」

「当たり前やろ?」

「教えてくれておおきにな。すまんけど、こうさせてもらうわ。価値の館から、サーバント・フェアリー召喚。カプリコーン、タウルス。」

「あー、残りを喚びよったな?もー、勘弁したってや!!」

テオのカプリコーンは、相手のコインを草に変えて吸い込み、攻撃を無効にする。そして、タウルスは、相手に突進していく。相手は、右往左往しつつ、テオのタウルスを避ける。そして、こう言った。

「こっちのサーバント・フェアリーも、早いとこ消させてもらうで?」

「出来たらの話やけど。」

「やるで!グラビティ・ドロップ!!」

その攻撃は、カプリコーンの限界を引き起こし、タウルスもろとも消滅させた。テオは思わず拍手をした。

「流石やな。せやけど、本格的にこっちの戦い、始めさせてもらうで!!」

テオは、再び銃を撃ち込み始めた。それは相手に当たる。相手は鈍い声を上げた。そして、こう言った。

「あー!キングのコインはホンマ重いわ!!それ以上撃ってくんなや?価値の館から、サーバント・フェアリー召喚!ヴィルゴ!!」

相手は、「盾」を出した。テオの顔は、序盤の相手のように歪んだ。テオはその視線の先にいる「人物」の名前を呟いた。

「あー、ソラナ。」

テオは銃を撃つ手を止めた。一方、相手は再び銃をテオに撃ち込み始める。必死な叫びと共に。

「あかん!あんま力残っとらん!!」

そんな相手と相手のヴィルゴの元にゆっくり歩を進め始めるテオ。相手は、そんな様子に戸惑った。

「何する気や?」

「いや、ちょっとな。」

相手も銃を撃つ手を思わず止めてしまった。そんな様子を見つつ、相手と相手のヴィルゴの元にたどり着くテオ。そして、テオは相手のヴィルゴを抱き締めた。相手は、驚愕の声を上げる。

「そ、そんなんやった奴おらん。何考えとるんや?」

「ただ、こうしたかったんや。」

そして、テオは愛おしそうに目を瞑る。更に相手のヴィルゴにささやくようにこう言った。

「ソラナが『ええ』って言うたけど、偽もんとは言うても、もう、『ソラナ』をこれ以上傷つけたくないねん。せやから、こうするんや。最初から、こうすれば良かったんやな。」

そして、目を開け、テオは相手に言った。

「ここらで倒させてもらうで!今日は世話になったな!!グラビティ・ドロップ!!」

至近距離でそれを撃ち込まれた相手は、宙に浮く。そして、糸が切れたようにリングに叩きつけられた。そして、2人の声がリング上に響く。

「ああ!!」

「すまんな。」

そんな中、運営のカウントが始まる。

「勝敗確定まで後5秒。4、3、2、1。」

運営は、こう宣告。

「勝者、アニュラスデッキのダイヤスート、テオ・ベルジェ。」

テオは、呟いた。

「ソラナ、やったで。久しぶりにぎょうさんもろた力、最高やったで?」

ソラナは、自らの席で言った。

「テオ、乗り越えたね。」


◆ダイヤたちとの殿堂入り

ほぼ同時に他の3人のスートたちも勝利を収めた。完全勝利がアニュラスデッキに訪れた。

競技後、「トランスフォーメーションフラッグ」が贈られる。

そして、4日後の12月14日。この年の「リアルトランプゲーム」は閉幕を迎えた。「ビクトリーフラッグ」と「ポピュラリティーフラッグ」もアニュラスデッキは手にする事が出来た。

翌日の15日。殿堂入りしたデッキとして、アニュラスデッキの6人は、アニセトと面会をしていた。

アニセトは、冷静な様子ではなかった。

「諸君の考えに早めに気づいていれば、殿堂入りを阻止出来た!口惜しい!!」

そして、アニセトは、その手に銃を繰り出す。テオはこの先何が起こるか察し、ソラナの前に立つ。そして、わかってる事とはいえ、こう尋ねた。

「ここでソラナを殺すんか?」

「いかにも!退け!!」

「やめーや。実はな?俺、人1人殺してもうたお人やけど、お前さんの事どっか商売人として尊敬しとんねん。『リアルトランプゲーム』、でかい商売やからな。せやから、もうあかんことせえへんでもらいたいねん。立派な俺の商売人としての目標として、お前さんにはこれから生きてもらいたい。そう思っとる。ええか?」

「何?」

一瞬、アニセトはたじろぐ。ソラナは、言った。

「テオ、少しアニセトさんに声をかけたい。」

「大丈夫か?」

ソラナは頷いた。テオは、ソラナの傍らに移動した。そして、ソラナはアニセトに声をかけ始めた。

「私のおじいちゃんとおばあちゃんは、魔法科学者としてアニセトさんをこの世に産み出した。何か『いいこと』をしたかったんだと思う。けど、アニセトさんは嫌な思いをした。だから、おじいちゃんとおばあちゃんは『間違った魔法科学者』だったんだと思う。私は、そんなおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだったから、悔しいけどね。でも、だからこそ私は決めたよ。『正しい魔法科学者』として残りの『命』を使うって。私は、大切な人からの応援と一緒に、それを成し遂げるよ。アニセトさんは、私が何か間違ったら、叱りに来て?だから、一緒に生きていこう?」

アニセトの銃口が震え、やがてその銃は床に落とされた。テオはそれを拾い上げた。アニセトの声が部屋に響く。

「生きる、か。」

ソラナとテオは、力強く頷く。その視線をアニセトから外さずに。アニセトは、うなだれ言った。

「わかった。ソラナ・アルシェ、一旦『復讐』は凍結しよう。その代わり、お前の魔法科学が道に少しでも外れた時、お前の命を私が奪う。」

「よろしくね?アニセトさん。」

ソラナは、微笑んだ。テオは、拾い上げた銃をアニセトの机上に戻してやり、再び力強い頷きをアニセトに見せた。そして、ソラナはテオや仲間と共にアニセトの部屋を退出していった。

フェリクスが言った。

「ソラナ、テオ、あなた方のアニセト・デフォルジュへの慈悲深い行動、感銘を受けました。」

エルネストが続ける。

「そうだね。けど、危ない時間だったね?」

ルシアが言った。

「まさか、銃出して来るとは思わなかったわ。」

ラモンが言った。

「けんども、無傷でいがったな?」

テオがそれに返した。

「せやな。」

ソラナは言った。

「テオとみんなのおかげだよ。」


◆ダイヤたちとの帰還

後日の事だった。アニュラスデッキだった6人は、寮から退去し、ソラナの自宅に一旦集まった。そこには、ラウラがいてこう言った。

「まさか、またソラナの顔を直接見れるとは、思わなかったわ。私、とても嬉しい。」

「お母さん、心配かけちゃってごめんね?」

「本当にそうよ。」

ラウラは、ソラナからアニュラスデッキの仲間の方に目線を移し、言った。

「色々、皆さんには尽力してもらったと思います。心から感謝します。ありがとうございました!」

5人は、穏やかな顔をし、それぞれの言葉で「どういたしまして。」とラウラに声をかけた。

その後、5人はそれぞれの住む場所へと帰る。

エルネストは、こう言って去った。

「これからは、君らと困難を乗り越えられた誇りを胸に生きていくよ。」

フェリクスは、こう言って去った。

「ソラナ、テオ、あなた方のこれからに、幸多からん事を祈ります。」

ラモンは、こう言って去った。

「家さけえっても、おめらとの思い出、一生忘れねぇ。元気でなぃ。」

ルシアは、こう言って去った。

「ソラナ、あんたが作り上げた『魔法』興味ある。いつかあたしに見せてよ?じゃあね。」

ソラナは、その度に「ありがとう!」と返し、その背中を見送った。

最後に、テオが言った。

「よっしゃ、俺も帰るわ。」

ソラナは、それを聞くと、テオの右手を両手で掴んだ。

「テオ、待って。」


◆ダイヤとの墓参

テオは、驚いた。

「なんや?」

「一緒に、一度だけルクセンティアに行ってもらう事、出来ない?」

「お、おお、ええで?」

そのやり取りを聞いたラウラは言った。

「やっと行けそうなのね?ソラナ。」

「うん。お母さんは大丈夫?明日、行きたいんだけど。」

「私は、ここにいるわ。2人でいってらっしゃい?」

「え、うん、わかった。」

「なんや知らんけど、2人で行くか。」

それから、テオはチェントーレに一泊し、翌日ソラナと共にルクセンティアへと旅立った。

そして、「ヴェルテックス魔法科学研究所」の跡地にたどり着く。ソラナは言った。

「ここで、いいマトゥーレイン、研究する。」

テオはその草原を見渡す。そして、こう返した。

「期待しとるで?」

「うん。頑張るね?」

「ありがたい事に、『リアルトランプゲーム』の賞金もたんまり入ったからな?俺とソラナ。ソラナの方に入った賞金で、ええ建物作れそうやな?」

「そうだね。」

そして、ソラナはテオと共に祖父母や両親の墓へと移動し始めた。その道中、こう言った。

「やっぱりさびしい。ねぇ?テオ、ここルクセンティアと、オデスネゴウムに住む所が別れても、おやすみの日とかに会おう?」

「せやな?俺がこっちに来るとか、ソラナがオデスネゴウムに来るとか、色々出来そうやな?」

「うん、後、チェントーレで。ちょうど真ん中だしね?こことオデスネゴウムの。」

「ええな?それ。」

そんなやり取りをしていると、墓地に着く。そして、6人分の墓を目の前に、2人とも簡易な半合掌をした。そして、ソラナは言った。

「おじいちゃん、おばあちゃん、私、魔法科学、やるよ。そして、パパ、ママ、ごめんね?きっと魔法科学は嫌だよね?でも、絶対に悪い事しないから許してね?」

テオはソラナの傍らで言った。

「俺、それを全力で支えるんで、見ててくれへん?きっとええ魔法、出来るやろうから。」

ソラナは、そんなテオを見つめ、微笑んだ。

「よろしくね?テオ。」


◆救命

E.E.240年3月。テオの姿はルクセンティアにあった。草原の中に立つ真新しい建物を一旦立ち止まり遠目で眺めた後、歩を進めた。

「ソラナー?」

そう声をかけつつテオが入館して行った建物には、「ブリス魔法科学研究所」と書いてあった。この研究所の所長、ソラナ・アルシェは建物の中をいそいそと移動し、たどり着いた先でこう言った。

「テオ!ようこそ!!」

ソラナは、その勢いそのままにテオに抱きついた。テオもおもいっきりソラナを抱き返した。そして、情熱的なキスを交わした後、テオが言った。

「立派な建物作ったなぁ。」

「ありがとう!」

テオはこの年の1月にこけら落としを済ませたこの研究所に「出資者」として「視察」に来たのだ。そんなテオだったが、くまなく見学した後、ソラナに声をかけた。

「なんや楽しみになって来たわぁ。いいマトゥーレイン、頼むで?ソラナ。」

「うん!『構想』はあるんだ!楽しみにしててね?」

「待っとるで?」

更に、それから何年経ったか。今度は、ソラナがオデスネゴウムの「グリッター」を訪れた。未だに副店長を務めているセベリノ・クストーが最初に声をかけた。

「アルシェはん!よう来たな?」

「クストーはん、元気やった?」

「それはもう!元気やで?ちょっと待っててや?ベルジェ呼んでくるわ!!」

「おおきに!」

そして、店長のテオが来る。

「ソラナ!よう来たな?」

店先という事で、お互いの手を握り合うだけだったが、愛おしそうな目でソラナとテオは見つめ合った。そして、ソラナは言った。

「また、繁盛しとるみたいやな?『グリッター』は。」

「ソラナのおかげでもあるで?お前さんが開発したマトゥーレインの魔法石、お客さんの為になっとる。」

「そら、よかった。」

そんな話をしていると、1人の男性客が話しかけて来た。

「あの、すんません、『救急救命用の魔法石』、どこでっか?」

テオは、微笑み、こうソラナに耳打ちした。

「ほらな?売れ筋やねん。」

「何年も頑張った甲斐あったわー。」

ソラナがこう返すと、テオは客を案内しに行った。

「来店おおきに!!こっちやで。」

ソラナはそんな背中を見て呟いた。

「『正しい魔法科学』、実現できた。テオ、みんな、ありがとう。」

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