俺しか乗っていない電車に乗ってたら車両販売の少女が現れた
新幹線アイスって食べたいなーと思いつつなかなか手が出ませんよね
1人だけの電車で寝てたら車両販売がいる話
「…せーん」
誰かに話しかけられる
うるさい
「あの…て…ます?」
眠たい
疲れたからまだ寝てたい
目を閉じていたい
「あのー!」
うるさい
「…てる…」
面倒だけど声は出る
「え?もしもーし!」
うるさい
聞こえてないのか
大きく言わないと
「聞こえてる!」
「うわっ!」
目を開ける
そこには驚いた表情で尻もちを着いた少女がいた
「あ?」
「いたた いきなり大声出さないでください」
「あー すまん」
席を立って少女に手を差し伸べる
「全く酷いですよ」
「悪い悪い 最近寝不足でな」
「それと大声は関係ないですよね?」
少女は手を取って起き上がる
少女の背丈は150cmほどで小柄な印象を受ける
目鼻立ちは整っていてそこそこの美人だった
尻もちをついてクシャクシャに乱れた長い黒髪を整えている
「それでどうしたチビッコ」
「は?私ですか?」
ムッとした顔で怒気を孕んだ声で言う
「ああ こんな夜中にコスプレか?」
少女は青色の鉄道会社の制服と帽子を着ていた
手は萌え袖のように隠れていて
少しブカブカなように見える
学生のコスプレイヤーが深夜の電車でままごとをしてるようにしか見えなかった
「失礼ですねあなた」
「寝ている人に対して大声で呼びかけてくるのも失礼だと思うがな」
「うっ あなたは嫌味ったらしいです」
嫌味を返すと一瞬苦い顔を見せる
そしてガサゴソとポケットをまさぐる
「えーと あれ?」
しばらくポケットを探る
次第に目を見開き少し涙目になり
焦ったような顔になる
「大丈夫か?」
「いえ えっと あった!」
少女は胸ポケットから社員証を取り出し見せつける
「ほら 私はれっきとした職員です 車両販売に来たんですよ」
「は?車両販売?」
社員証を見るとたしかに顔写真と名前が乗っていた
しかし信じられない
車両販売?
こんな寂れた電車に?
「冗談もたいがいにしとけ」
「本当ですって!」
数歩離れて色々な商品が乗ったゴンドラを持ってくる
「ほら!買ってください!」
「いらない」
スマホを取りだし視線を向ける
ゲームのログインがまだ終わっていない
「なっ せめて見て!意外に安いですから!」
「…」
眠気と疲れと面倒くささが勝つ
しばらく放置すればどこかに行くだろう
そう考えゲームのログインをする
しかし少女は諦めず俺の前で商品を取り出す
「最近お菓子高くなってきたでしょ!これとかほら!80円!」
「80円?」
思わず顔を上げる
最近の物価だと安くて120円くらいは取られる
目の前に掲げられるポテトチップス
「なっつ」
そのポテトチップスは子供の頃によく食べていた
最近の食生活はコンビニ飯ばっかり
お菓子は見向きもしなくなった
「お!食いつきましたね!」
俺の横にポテトチップスを置いて別のお菓子を手に取る
「これとか懐かしくないです?」
ゴンドラから今度は混ぜると膨らむ知育菓子を取り出す
「懐かしいなこれ よく食べてたよ」
「ですよね 私も好きでたまに食べるんですよ」
「あれない?ゼリーがチューブに入ってる」
「ありますあります」
ゴンドラと少女を見つつスマホをポケットにしまう
関心はすっかり向いて前のめりになる
少女の出すお菓子は最近の物もある
しかし多くは古く懐かしいお菓子
子供の時の遠足や駄菓子屋で買ったような
そんな懐かしさを覚えるようなお菓子
ひとつのお菓子を見つけて自分が子供の時の記憶が蘇る
「あったなぁこれ美味しいんだよ」
「なんですか?これ」
「これはチューブの端っこを噛み切って食べんだよ」
「あー 他の男子がやってたかもです」
「せっかくだし少し買うか」
財布を取りだして札束を取り出す
「とりあえず1000円分買うか」
「いいんですか!?」
少女は驚いたような顔をする
「いいよ ってかなんで驚いてるのさ」
1000円を少女に渡してゴンドラの中を漁る
ゴンドラには雑多にお菓子が入っている
ある程度種類は分けられてるが大雑把
下の方にはチョコや飴など小さいお菓子が潜り込んでいた
「というか他の人にも販売しに行かなくていいの?」
「この路線過疎すぎてお兄さん以外いませんでした」
「まじか」
過疎だとは思っていた
しかしまさか俺以外に乗客がいないとは思わなかった
「まぁなんで売らないとなーと思ってお兄さんを起こしたわけで」
「なるほどね」
適当に菓子を取って計算する
「一旦500円分くらいは貰うか」
「えぇ 計算しますね」
少女はスマホにお菓子をメモをしていく
まだ降りる駅まで30分くらいは着かない
俺と少女しかいない電車の中でポテチの袋を開ける
「久々に食うな」
「お菓子とか食べないんですか?」
「最近全然食べなくなった」
ポテチを1枚つまんで食べる
「うま」
「美味しいですよねこれ」
少女も一枚つまんで食べる
「俺のだけど」
「いいじゃないですかモテませんよ?」
「うっさい」
もぐもぐと食べつつ少女は俺の隣に座る
そしてゼリーの入ったチューブのお菓子をゴンドラから取る
「これ本当に口で噛み切るんですか?」
そして疑うような目線を俺に向ける
「本当だよ 端っこを噛み切るんだ」
「本当に?」
「ほら」
同じゼリーの入ったチューブのお菓子をゴンドラから取る
そしてチューブの端を口で噛み切りゼリーを吸う
駄菓子特有のチープな味が口の中に広がり
どこか懐かしい感覚に陥る
「美味いなやっぱり」
「うえぇ 本当に口で噛み切るんですね」
少女は若干引きつつもチューブの端を噛む
「んぐぐぐぐぐぐ」
そして必死に噛み切ろうとチューブを引っ張る
しかしなかなか噛みきれない
次第に手に力が入り顔も必死の形相になる
「少し回すようにすると開きやすいぞ」
「ほんろへふか」
返事をした後に少女はチューブを思いっきりねじる
「ふわぁ!」
「うっわ!」
少女はチューブを引っ張ったまま端を噛み切る
強くチューブを握ったまま
ねじって噛み切ることは出来たがゼリーを押し出してしまう
その結果ゼリーは飛散し少女の顔や服に飛び散る
「あーあやらかしおった」
「ちょっと 最悪なんですけど」
チューブを見ると全てゼリーは飛び出していた
じとっと睨みつけるように少女は俺を見てくる
「いや 慣れてないガキンチョは通る道だ」
幼い頃は俺もミスって服をベタベタにしていた
「制服ベッタベタなんですけど」
「これ使いな」
ポケットからティッシュを取り出し渡す
「ありがとうございます」
受け取って制服や帽子に着いたゼリーを少女は取る
「まぁしゃーない」
「これ洗濯大変なんですからね」
「クリーニングなんてこの辺ないもんな」
「意味わかんないですよ 田舎すぎません?」
俺の住んでいる地域は過疎地域だ
駅の近くにしかコンビニは無いし生活するのに車は必需品になる
ため息をつきつつ再び少女はポテチを摘む
「軽口を叩きつつも菓子は食べるんだな」
「じゃないとやってられないので」
次は東雲 東雲 お出口は右側です
「お 着いた」
カバンを持って立ち上がる
ポテチは少し残っているのでそのまま置いていく
「東雲で降りるんですか?」
「そうそう」
扉の前に立ち少女を見るとまだポテチを食べていた
「とりあえず次はハサミ持ってくるので」
「そうかい 次はいつ会えるのやら」
手をヒラヒラと振りつつ降りる
扉が閉まります 扉から離れてお待ちください
「ちょ!お菓子は!」
扉が閉まる直前に少女は叫ぶ
「あー」
忘れてた
とりあえずなんか言わなきゃ
「ツケで」
「は!?」
扉が閉まる
少女は空いたポテチの袋やゼリーを手に持って焦ったように何かを言っている
何かを言う少女を放置して電車は発進する
「ふぅ 疲れた」
いつも電車の中では一人で眠るかスマホをいじる
しかし今日は電車の中で少女と楽しく盛り上がった
少しの楽しさと懐かしさを感じつつも家に帰る
口の中にはまだゼリーの味が残っていた