大会当日
「おはよう!晴れてよかったな!それと、二人とも出られて本当によかったな!」
快晴の週末、まさに「五月晴れ」って感じの日。
「賢兄……なに、その荷物……」
「深月、そんな、変人を見るような目をしたらいけません!可愛くないですよ」
「はいはい。私、離れて歩くから」
大きな鞄をわっせわっせと運ぶ賢兄の後ろを付いて行く。
「私、手伝うよ」
「果穂~!さすがだな~!」
私たちは電車とバスを乗り継いで競技場へ向かった。
「いやぁ、いいよなぁ。競技場はテンション上がるよな~!」
「浮かれて迷子にならないでね」
「お呼び出しは、果穂ちゃんでいい?」
「うん。いい!」
「「あはは」」
「……」
二人のこのノリに、私は付いて行けない。
嫌いじゃないんだけど、お姉ちゃんのように振舞うことなんて、私には出来ない。
可愛くないことは分かってる。
「さ、思いっきり跳んで来いよ!」
賢兄が私の背中を叩いた。
「ありがとう」
賢兄の荷物の中身は、たくさんのデコレーションが付いた団扇だった。
両手で持っても2つが限界なのに、あんなに作ってどうやって応援するんだろう。
「忙しいんだよな。見逃せないプログラムが多くてさ。でも、深月のジャンプは絶対に見逃さないから。お前の跳躍、マジでかっこいいから」
「……なにそれ、恥ずかしいんですけど」
「深月?」
賢兄が私のおでこに手を当てた。
「な、なに?!」
「いや。いつもなら何も言わずに、冷ややかな視線を……体調悪いのか?」
「へ、平気!」
これは青いグッピーさんのおかげなんだ。
あまり人と話すのが得意ではない私に、一生懸命話しかけてくれて、大好きだったのに……
「ネオンタキシードさん」
「え?」
コールがかかったので、集合場所に移動した。
私は前の人の跳躍は見ない。
イメージはいつだって賢兄。
集中……集中……
タタタタ、ターンターンターンターンターン、タタン、ターン!
賢兄と研究したステップのイメージ。
できた!
「はいっ」
右手を大きく上げた。
助走、開始!
踏み切り!
跳ぶ!
うわっ!!
会場からどよめきが聞こえた。
ボスッ
マットに着地した。
よし!
体を起こすと、正面のスタンド席に賢兄がいた。
私の名前が書いてある、大きな布を持って……
「だから、そういうの恥ずかしいから」
嬉しくて笑っちゃうから、顔を隠して、ロングコートを羽織った。
「深月!すげー!『天女さん』かと思った!」
「え?」
賢兄が作ってきた団扇は、応援に来ていた知り合いに渡して、横断幕だけ持って私を応援してくれてた。
交通事故にあったことなんて、自分でも忘れるくらい良いパフォーマンスが出せて、私は2位入賞だった。高校生の部で、1年生がメダルを取れたのは快挙だったようだ。
知ってる人からも知らない人からも、たくさん話しかけられて、とても疲れた。
「深月、こっち来いよ」
賢兄が手招きしていた。
ベンチに座っている賢兄の前に立った。
いきなりロングコートを開かれた。
「ちょっ、なにっ!」
慌ててコートをかき寄せてお腹を隠した。
「やっぱり」
「やっぱり、何?」
「中等部はランニングだったから見たことなかったけど……セパレートだと……深月もお腹に黒子があるのな」
「え?そ?」
自分でお腹を開けて見た。
「ほんとだ」
「それがどうかした?」
「アロワナさん」
ドキッ
「え?」
「俺、アロワナさんのこと好きだったんだ」
「へぇ~」
なに?どうすればいいの?
「銀色にピカピカ光って、大きく優雅で、綺麗で美しいんだ」
「そう」
賢兄はいつもこうだ。
私以外のことは褒める。
お姉ちゃんには可愛いって言うけど、私には可愛くないって言う。
お姉ちゃんにはフリフリの団扇だけど、私には手書きの大きい布。
お姉ちゃんには……
「ねえ、賢兄、好きな人っている?」
「いるよ」
「どんな人?」
「色が白くて、大きくて、わき腹にセクシーな黒子がある」
「アロワナさんのこと、そんなに好きだった……の……?」
「深月、俺に今、なんて聞いたよ?」
「好きな人いる?って聞いた」
「そうだよ。俺が今、答えたのは、俺の好きな人だよ。魚じゃない。間違いなく、アロワナさんは俺の一番好きな熱帯魚だけど、人じゃない」
「そっか」
「深月だよ。俺が好きなのは、ずっと深月だよ」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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あお