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5日目

「かほちゃーん!」


 ずきずきする頭に響くから、やめてお母さん。

 なんて、言えない。


 どれだけ心配をさせてしまったんだろう。


 賢也は?深月は?聞きたいけど、また後でいいか。

 今は瞼が重くて、目を開けるのすら無理。




 ◇◇◇




 二人は昨日、退院していた。

 よかった。みんな無事で。


 私たち三人の交通事故は全国ニュースで放送され、道路の拡張工事の声が上がっているとお母さんから聞いた。


 個人的には、来週に控えてる陸上大会の方が重大なんだけど、走らせてもらえるかな。

 種目は違うけど、陸上部に入ったのは賢也と同じ部活がよかったから。

 私は昔から賢也が大好き。恋をしている。


「果穂ちゃん、行けそう?」


 お母さんが会計を済ませてきてくれた。


「うん、早く帰りたい!」


 賢也の顔が見たいな。

 ノリが軽くて、ちゃらちゃらした印象を持つ女子も多いけど、賢也のあれは「素」だ。別に悪気無く「可愛い」とか平気で言ってくる。そういうのは好きな子にだけにした方がいいって何度も言ったんだけど……私もよく言われるから、その時はぶっちゃけ嬉しい。


「深月を預かってもらってるから、先に櫻木さんちに寄りましょう」

「うん」


 私がインターホンを押した。


「果穂!」


 賢也が飛び出してきてくれた。


 そうそう、これこれ。この喜びを全面に出してくれるところがたまらないっ!


「賢也、大丈夫だった?」

「ああ。まあな」


 なんかちょっと暗い?

 ま、交通事故にあって気分が落ち込まない人なんていないよな。


「お姉ちゃん、お帰り」

「深月!会いたかったよ~」

「ちょっと、そういうのは……」

「反抗期か?」


 私たちは賢也のお母さんにお礼を言って家に帰った。

 ほんの数日、空けてただけなのに、すごく懐かしく感じる。

 窓を開けたら、正面の賢也の部屋から「ちょいちょい」と手招きをされた。


「どうしたの?」

「ちょっと、暇?」

「別に、やることないけど」

「こっち来てくれない?」


 帰ってきたばっかりだけど、賢也の部屋に行くことになった。


「あのさ、手伝って欲しいんだけど」


 驚くくらい散らかっている。


「片づけを?」

「いや。作るのを」

「何を?」


 よく見たら、きらきらのふりふりが何種類もあって、いろんな色のシールとか、画用紙とかペンとか……


「団扇か!」

「正解!」


 賢也は来週の大会に団扇を持って応援に来てくれるらしいんだけど、どうやら私以外の部員のも作る気らしい。


「果穂は出られそうなのか?」

「分かんない、明日、顧問の先生に聞いてみる」

「無理すんなよ」

「そんなこと言って、私の団扇作るのメンドクサイとか思ってない?」

「ない、ない。果穂のはもう出来てるよ。一番最初に作ったんだ」

「どこ?」

「内緒。当日のお楽しみだよ」


 もうっ!賢也のたらし!


 作るのは構わないけどさ、一体誰が振るのさ?ってくらいたくさんの団扇をデコった。


 最後に、白い横断幕のような布が出てきた。


「それも作るの?」

「深月の」

「そっか」


 賢也は大きな布に「田所深月」と、驚くくらい上手に書いた。


「達筆だったんだね」

「そうか?」

「団扇じゃなくていいの?」

「あいつは、そういうの嫌がるだろ?」

「だね」


 夕飯の支度が出来たと呼ばれて、帰ることになった。


「ほんと、助かった。ありがとな、果穂」

「どういたしまして。みんな喜ぶと思うよ」

「あのさ、果穂」

「ん?」

「事故で意識無くなった時って、なんか夢とか見た?」

「んー。どだろ。覚えてない」

「そっか、じゃ、気を付けて帰れよ」

「隣だよ!」

「「あはは」」




 ◇◇◇




「お姉ちゃん、ちょっといい?」


 夕飯食べて、部屋でゴロゴロしてたら、深月が来た。


「いいよ。なーに?」

「賢兄のところ行ってたの?」

「そだよ」

「何してたの?」

「内緒」

「……」


 あんたのそういうとこ嫌い。


「お姉ちゃん、大会出るの?」

「明日、聞いてみないと分かんない。深月は?」

「今日、先生に聞いたら、構わないって」

「そ、よかったね」


 ずっと突っ立って、イライラする。


「ごめん。疲れてるから、もう寝る」

「あ、そうだよね」


 大人しく出て行こうとする妹に腹が立つ。


「何が言いたいの?」

「え……」

「なに聞きに来たのか聞いてるの!」

「あ……」

「どうせ、賢也のことでしょ?」

「うん。どうしてたかなって……」

「そんなの自分で見て来ればいいでしょ!」


 手元にあったクッションを思い切り投げた。


 バフッ


 もうっ!なんなのよ!

 泣きそうな顔で私のことを見下ろしてこないでよ!

 これじゃ、これじゃ、まるで、私が嫌な女みたいじゃん!


「ごめん」

「謝るんなら、最初から来ないでよ!」


 パタン


 妹はいつもこうだ。

 深月が賢也のことを好きなのは知ってる。

 だけど、賢也は歳の離れた深月を女性として扱っていない。

 いつだって隣にいるのは、1つ年下の私。


 だけど……


 だけど……


 私は深月に嫉妬してる。


 賢也は誰にでも優しい。


 女の子には同じように。


 私にも、同じようにだ。


 深月だけが例外なんだ。


 深月だけが特別なんだ。


 気のせいではなさそう。


 私の中で「賢也を取られるぞ」って警報が鳴りまくってる。

 学年差は埋まるものではないけど、高校生になった深月……成人すれば、歳の差は子どもの頃ほど感じなくなってくる。


「やだな」


 深月に賢也を取られたくない。




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お読みいただき、どうもありがとうございました!

あお

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