4日目
「けんちゃん!けんちゃん!」
耳元で大きな声がした。うるさい。俺はアロワナさんと一緒にずっとこうしていたいんだ……ん?けんちゃん?……俺のことをそう呼ぶのは、俺の母ちゃんくらいだ……けど……
「けんちゃん!」
「はっ」
目が覚めちまった。
くっそ。
「よかった。けんちゃん、目が覚めてよかった」
泣いてる母ちゃんに、今、とても申し訳ないことを思ってしまった。
ここは、病院か。
匂いで分かる。
体が重くて、だるくて、しゃべる気にもならない。
水槽の中の方が気持ちがよかったな……って、またしても。ごめん。母ちゃん。
「みっちゃんも動いた!」
隣のおばちゃんの声がした。
よくも、俺たちを風呂に入れようとしたな!あんなことして、ただで済むと思うな……よ?……みっちゃん……も……?
深月も倒れてたのか?
あぁ、だから、おばちゃんがエサやってくれたのか。マジで、センス無い。下手過ぎ。
「先生を呼んできましょう」
看護師さんが来て、それから先生が何人も来て、検査して、また検査して、重だるい体を引きずって、ようやく解放された。
俺と深月は同じ部屋で入院させられていた。
「深月、記憶あるか?」
「いや、あんまり」
「だよな」
俺は眠った。
◇◇◇
奇跡的に異常はなく、骨も折れてないし、俺たちは即日退院が決まった。
母ちゃんたちが荷物をまとめてくれて、タクシーに乗って4人で帰った。
果穂だけ、病院に残して……
「すみませんが、深月をお願いします」
おばちゃんは、果穂の着替えを持って、病院にとんぼ返りをした。
「ちょっと、部屋に戻ります」
深月がペコっと頭を下げた。
「俺も行っていいか?」
水槽が気になってしまった。
「なんで?」
「ほら、倒れるといけないから、俺もついてった方がいいよな?母ちゃん」
「そうね、すぐに戻って来てね」
深月の部屋は久しぶりに入る。
俺が中学生の頃までは、よく一緒に遊んだ。
と言うか、速く走る方法とか、かっこよく跳ぶ方法とかを一緒に研究した。
俺が高1になったら、中1になった深月と話が合わなくなってきたんだよな。
中高一貫校で校舎は違ったけど、陸上部の練習は合同だったのに……
まるで次元が違く感じて、深月はそれでもいい記録出してたけど……
なんか、俺、一緒に居ると自分がカッコ悪く見えちゃう気がして……
「ああっ!」
深月が大きな声を出した。
「どした?」
「死んでる」
青いグッピーが一匹、死んでた。
お腹のあたりの鱗に傷があった。
「ごめん」
俺は小さな声で謝った。
◇◇◇
青いグッピーは庭に埋葬して、俺んちに戻ったら、果穂の目が覚めたと連絡があった。
俺はちょっと不安になった。
実は、果穂のお腹には黒子がある。
アロワナさんと同じところなんだ。
アロワナさんは、死んでないよな。
果穂がアロワナさん……なわけないよな。
「深月、水槽の電気落としたか?」
「あ、忘れたかも」
「消しに行って来いよ」
一緒に行ってやるって言う勇気がなかった。
アロワナさんに万が一のことがあれば、俺はどうかしてしまう。
「どうだった?」
電気を消して帰ってきた深月に聞いた。
「どうって?」
「いや、何でもない」
異変がなくてホッとした。
おばちゃんは、果穂が退院するまで一緒にいる事になり、その日、深月は俺んちに泊まった。
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あお