表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/6

1日目

「おはよう、賢也!」


 すらりとした女性が隣の家から現れた。


「おはよう、果穂。今日は朝練中止だな」

「うん。大会近いからやりたいんだけどねぇ」


 5月なのに、じんめりとした朝だった。


「げ、深月、おはよう」

「げって何?」

「いやぁ、お前、高等部に上がったばかりだよな……」

「そうだけど」


 二人は隣の家に住む、幼馴染だ。


「なんか、果穂より背高くないか?」

「そうなんだよ~聞いてよ。私だって小さい方じゃないよ?だけど、深月ってば身体測定で170cm越えてたって言うんだよ~」

「ひゃ、ひゃくななじゅう?俺と5cmしか変わんないじゃんか!」


 俺たちは同じ中高一貫校に通っていた。


 ……いた。


 そう。


 俺はこの春から大学生になったのだ。


 そして俺たちは、陸上部だった。


 俺と深月はハイジャンプ、果穂は200m走の選手である。


「俺の在学中にお前が来なくて、良かったよ」

「なにそれ。部内記録持ってるくせに、嫌味?」

「まさか。一年生の有望株が来たら、俺が霞んじゃうかもってだけの話」


 駅に向かって三人で並んで歩く。

 霧雨は風に煽られて、傘をさしてても前面からしっとりと濡れてくる。

 いつもの見通しの悪い交差点、ここからは道幅が狭くなるから一列になって歩く。


「ねえ、今度の大会、見に来るでしょ?」

「おう、応援するからな。果穂の団扇作って行こうかな、ほら、ピカピカのフリフリ付けてさ」

「あははっ、いいねぇ!是非、お願いするよ」


 その瞬間、時間が止まった。


 ように思った。


 キキッーッ


 トラックが止まった。


 ように思った。


 ガッシャーンッ


 荷台に押しつぶされた。


 ように思った。


 ピーポーピーポー




 ◇◇◇




 なんて気持ちがいいんだろう。


 ゆらゆら


 ふわふわ


 浮いてるみたいな。


 少し頭がぼぅっとするな……


 暑くもなく、


 寒くもなく、


 体が軽くて良い気分だ。


 きらきらと動く世界。


 なんとも美しい。


 俺のヒレは綺麗な青だな。


 俺の……


 ヒレ?


 あれ?


 魚になってないか?


 まさか、だよな。


 ちょっと泳いでみた。


 めっちゃ、いい感じ。


 ええ?!


 いやぁ、今は嫌だよ。


 せっかく大学生になったのに。


 俺、まあまあモテるし。


 もっと人間を堪能したいよ。


 あー、もったいない。


 あー、もったいないよ。


 その時、俺の近くを大きくて白いテカテカしたものが「ズワア~ァン」と通り過ぎた。


 く、くじらかな……


 長いあごひげを垂らした魚が近付いて来た。


 こいつも色が綺麗だな。


 俺のことをちらっと見て「ぷいっ」だって。


 あんまり「ぷいっ」ってされたことないんだけど。


 ショックなんですけど。


 凹んでたら、赤い尾ひれをユタユタさせながら、一匹の魚が泳いできた。


「やあ、青いグッピー」


 え?


 俺、グッピー?


「や、やあ、赤い……金魚?」


 不機嫌そうに行ってしまった。


 マズったかな。


 それにしても……


 グッピーかよ……


 色のついたメダカだろ?


 あー、マジで勘弁してほしい。


 だけど、なんて気持ちがいいんだ。


 魚も悪くないかもな。


 いや、人間が一番だけど。


 魚は二番目にいいかも。


 また、大きくて白いテカテカしたものが「ズワア~ァン」と近くを通った。


 俺も、グッピーじゃなくて鯨がよかったな。


 ん?


 たぶん、


 鯨じゃないな。


 俺がグッピーなら、鯨はもっともっと大きいはずだもんな。


 同じグッピーらしい仲間を見付けた。


「あの、綺麗な色のグッピーさん」

「ネオンテトラよ。見て分かんないの?」

「すみません。ちょっと、頭がボーっとしてて」

「ネオンテトラさん、ここはどこですか?」

「水の中よ」

「ですよね」


 ネオンテトラ、ネオンテトラ……


 ちゃんと覚えておかないと。


「あの、ネオンテトラさん、あの白くて大きいのは……」

「アロワナさんのこと?」

「そう!アロワナさんのこと」

「それが?」

「綺麗ですよね」

「ふんっ」


 ネオンテトラさんも怒らせてしまったみたいだ。


 参ったな。


 ちっとも友達が出来ないや。


 俺は、のんびり泳いだ。


 ここはどこの海だろう。


 綺麗な石が敷いてあって、


 綺麗な藻草が生えていて、


 綺麗な熱帯魚がたくさん。


 天国なのかな。


 俺、やっぱり死んだのかな。


 トラックにはねられたんだよな。


 家に帰りたいな。




ブックマークと【☆☆☆☆☆】にマークを付けていただけますようお願いします。


お読みいただき、どうもありがとうございました!

あお

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ