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瀬能杏子 今朝の三枚おろし ドッペルゲンガー

瀬能「瀬能杏子、今朝の三枚おろし、トントン♪今週、まな板の上に乗っているのは『ドッペルゲンガー』です。」

しなびたアナ「はぁ。」

瀬能「ドッペルゲンガーって聞いた事ありますか?あれです。あれ。自分と瓜二つの人間です。昔から、自分と似た人間が三人はいると言われますが、落語などでは、そっくりな人間が死んでいて、お前、死んでいるのに何こんな所で油うっているんだ?なんて話がはじまる始末。有名な『粗忽長屋』です。でも西洋のそれは、ドッペルゲンガーを見た人間は死んでしまう、という話です。日本は、悠長な笑い話で済んでいますが、西洋諸国では、ドッペルゲンガーを見たら死んでしまうのですから、恐ろしい限りです。

自分自身と姿かたち全く同じ人間がいたら、驚くというよりも、不吉と思う人が、日本に限らず古今東西多いようです。同じ人間が二人いたら不気味以外のなにものでもありませんから。

このドッペルゲンガーというもの、ただ自分と姿かたちが同じというだけではありません。というのも、自分のあずかり知らない所で、自分の様に振舞うというのです。そして知人が、まったく関係ない土地で見かけた程度の話から、悪さをして、その濡れ衣を着せられ、理不尽に罵倒される事もあり、ドッペルゲンガーの方も自由気ままの様です。どちらにしても、自分の知らない所にもう一人の自分がいて、身に覚えのない話を聞かされたら、それは困惑するでしょう。私だったら腹が立って仕方がなく、捕まえて、正体を見たいと思ってしまいますが、どうなんでしょうか。

変わった話だと、オカルト小説で、恋人がドッペルゲンガーと一夜を共にし、普段と違う性癖だったと打ち明けられたものもあります。この場合、ドッペルゲンガーを怖いと思うのか、ドッペルゲンガーと寝た恋人を怖いと思うべきか、どう考えるのが良いのか、難しい限りです。」

しなびたアナ「私、昔、つきあっていた彼とケンカしてベランダから飛び降りて逃げ出した事がありますよ~」

瀬能「ドッペルゲンガーの話は本当に昔からよくある話で、エジプト文明、ローマ帝国、もっともっと古くから伝わっているようですから、人間が集団で暮らすようになった頃には既にドッペルゲンガーは現れていたようです。本当に何歳?というか、何者なのでしょうか。

しかし恐ろしいのが、このドッペルゲンガー。自分に会いに来ます。知らない所で好き勝手やってくれている間はいいのですが、会いにくるのは恐怖を感じます。

冷静に考えてみましょう。

自分が、自分の目の前に現れたら、どう思いますか?やはり怖いと思うものでしょう。というのも、人間は、自分の顔を見る事が、苦手だからです。

自分自身の顔が好きだと思っている人は、心理的に、自信家。いわゆるナルシストと言われています。多くの人は、仕事、勉強、恋愛、容姿、貧富、学歴、なんでもいいのですが、自分に自信がありません。ある人の方が少数派です。自信がないものだから、自分の顔を見たいと思わないのです。それは鏡を見るのも同じのようで、容姿を整える時は身だしなみですから仕方がないですが、改まって自分の顔を、容姿を見たい、と思う人は少ないのです。それほど、人間は、自分自身と向き合うのは苦手のようです。鏡超しですらそうなのですから、本物の自分が、目の前に現れたら、さぞ嫌悪感を感じる事でしょう。

ドッペルゲンガーの存在が、気持ち悪さと嫌悪感の塊だという事が理解できたと思います。」

しなびたアナ「あたしなんか、自分がもう一人いたら、一人が仕事、一人が恋愛、まぁ楽しい!ブホホホホホホねぇ杏子さん?」

瀬能「ドッペルゲンガーはさておいて、自分がもう一人いる。いえ、自分でなくても、そっくりな人間がいる確率は、計算できるようで、それは地球全体で一兆分の一より低い確率なのですが、これを低いと思うか高いと思うか、受け取る人次第だと思います。私は、ゼロではないと考えると、ばったり出会ってしまうのではないかと考えてしまいます。これには一つ、考え方があって、地球全体を母数にしている点です。アジア人であればアジア圏の人間の方が、そっくりな人間は多くいるし、白人もいわずもがな。確率がぐっと上がってしまうのです。要約すると、ドッペルゲンガーが存在する確率はゼロではない。そうです。もう一人の自分が、計算上、この地球上に存在しているという事なのです。出会う、出会わないは、運次第の確率ですが。

では、なぜドッペルゲンガーと会うと死んでしまうのでしょうか。

確率上、同じ人間が存在しているのが分かったのですから、ドッペルゲンガーと会えば死んでしまう訳です。自分と同じ人間に会えば不気味なのは理解できますが、死んでしまうとなると、穏やかな話ではありません。考えられる理由の一つに、先程、人間は自分に自信がなく、自分の顔や姿を見るのが好きではないという話をしました。それは、その話に付随するもので、自分に自信がないから、もう一人の自分と入れ替わってしまう事に殊更、恐怖を感じるのです。自分の立場、自分の利権、自分の居場所、自分自身というものんを奪われる恐怖です。これは、別に他の誰かでも成り立つものですが、瓜二つの自分の方が、周りの人間が気が付かない恐れ、焦燥感を感じ、より深い恐怖を感じるのです。入れ替わってしまった人間は別の人間なのに、どうして気が付かないのか、社会はそれに気づかず回り続けるのか、自分自身は本当は不必要な人間ではないのか、と疑心暗鬼に陥っていくからです。ドッペルゲンガーは自分の写し鏡なのです。こうなってしまっては、心の迷路からは抜け出せなくなるでしょう。

人間の精神は脆弱なのです。とても脆いものなのです。ドッペルゲンガーに殺される、というのは心の死。すなわち、自分自身に殺される、という事を意味しているのかも知れません。」

しなびたアナ「ドッペルゲンガーにうちの旦那をどうにかして欲しいと思いますけどね。」

瀬能「さて、ドッペルゲンガーですが、最近の科学だと、確実に実在するようなのです。そして、そのドッペルゲンガーに会ったら、精神で心が病むのではなく、確実に死ぬというのです。確実に死ぬ、という表現は正しくないですね。消滅する、消失すると言った方が正しいかも知れません。それは、量子の世界の話です。量子の世界では、時間と空間を問わず、まったく同じ量子が存在するというのです。

量子のドッペルゲンガーです。

いずれこの技術が発展すれば、映画バタフライで見たような科学的なテレポーテーションが可能になると言うのです。聞いた話だと、この宇宙自体、本体があって、そのドッペルゲンガーという可能性もあるという事です。宇宙のドッペルゲンガーってまったく意味が分かりません。量子の世界、物理の世界は、確実に私達の現実世界であるのは確かですが、理解の範疇を超えており、私にしてみたら現実なのか虚構なのか、それすらも分かりません。いつか人間がそれを理解できる日が来るのでしょうか。

量子のドッペルゲンガーは、観測を行った瞬間、存在が確定されます。そしてドッペルゲンガーが認識された瞬間、一人は本物、一人は消滅します。

ここの説明が難しいのですが、ドッペルゲンガーは存在ます。ですが同一人物が同じ瞬間には存在できません。片方が存在したら、片方は消えて無くなります。存在自体が消えてなくなります。これが量子のドッペルゲンガーなのです。

量子の世界で、ドッペルゲンガーを観測した瞬間、同じ空間、同じ時間に、同じ人間は存在できませんから、自分自身が世界から存在ごと消えてなくなります。

そして、量子のドッペルゲンガーが次の瞬間から、自分自身として存在することになるのです。ただ、悲しまないで下さい。量子の世界のドッペルゲンガーは、全て同じ人間です。自分自身です。記憶もクセも容姿も、というより、存在自体が同じなのですから、同一人物です。自分自身が消えても、もう一人の自分自身が、自分自身を受け継ぐので、何の問題もありません。存在が消えても、同じ存在が引き継ぐのですから、殺される、死ぬ、という概念ではないのかも知れません。

もしかしたらですよ?

この瞬間、私達は、ドッペルゲンガーに会い、存在が抹消され、ドッペルゲンガーに入れ替わっている可能性だってあるのです。

量子の世界の話なので、それに私達が気づく事が出来ないだけで。

別の観測者が、私を観測していたら、私が、入れ替わっていても、別に不思議な話ではないのです。

こういう量子の話になってしまったら、ドッペルゲンガーも、わびさびがなくなって面白味がない話になってしまいます。不気味で気色悪い、怪談話だからこそ面白い存在なのです。

そう言えば、私もドッペルゲンガーの被害にあった事がありました。ある日、突然、クレジットカード会社から電話があって、私が、七十五万円もするラブドールを買った、というのです。はぁ?私、カード会社に急いで決済を止めてもらいました。私のドッペルゲンガーなら、中国製のラブドールを買わずに、日本製のラブドールを買うべきです。安心安全、そして美人のラブドールを買うべきです。頭にくるドッペルゲンガーです。・・・買っても、家に置いておく所が無いので、すぐにお嫁に出してしまう事になりそうですが。

皆さまもドッペルゲンガーの被害にはお気をつけ下さい。

今朝の三枚おろし、トントン♪、ラブドールのお話でした。

いや、ちがいます。ドッペルゲンガーの話ですよ?」


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